The Intercept 2016年4月20日
テフロン有害補助剤の汚染が
世界中に広がっている

シャロン・ラーナー

情報源:The Intercept 20 April 2016
Teflon Toxin Contamination Has Spread Throughout the World
By Sharon Lerner
https://theintercept.com/2016/04/19/teflon-toxin-
contamination-has-spread-throughout-the-world/


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年4月30日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_16/
160419_Intercept_Teflon_Toxin_Contamination.html

 最近数か月、かつてテフロンを製造するために用いられていた過フッ素化学物質 PFOA が再びニュースとなっている。炭素分子8個からなるので C8 とも呼ばれる PFOA は、アメリカ全土の多くの場所で、とりわけニューヨーク州フージック・フォールズ、バーモント州ベニントン、ミシガン州フリント、そしてペンシルベニア州ウォリントンの飲料水中で見出されている。この化学物質はアメリカで開発され長らく製造されていたが、それはアメリカだけの問題ではない。PFOA は世界中に広がっている。

 アメリカと同様に PFOA はオランダのドルトレヒトや日本の清水市(訳注1)にある工場の近くの水中に漏れ出しているが、その工場は両方ともデュポン社により建設され操業されている。昨年、清水工場とドルトレヒト工場の一部はデュポン社から分社・独立した新会社ケマーズ社(Chemours)となった。EPA の文書及びデュポンの社内文書によれば、デュポン社はニュージャージー州及びウェストバージニア州で実施したように、長年、オランダと日本の工場労働者の PFOA 血中レベルを追跡していた。血中レベルの多くは高く、あるものは極めて高かった。ひとつの事例として、2008年に清水工場のある労働者の血中レベルは 8,370 ppb であった。2005年にドルトレヒトのある労働者は 11,387 ppb を記録した。一方、2004年のアメリカ国民の平均値は約 5 ppb であった。

 水汚染もまた両方の場所で問題となった。清水では、10 か所の井戸で PFOA が検出されたが、測定された最大汚染レベルは 1,540 ppb であった。アムステルダムの南、約1時間の場所にあるドルトレヒトの地下水もまた、2014年に工場の近くのある地点で 1,374 ppb の PFOA 汚染を検出した。

 しかし、これら二つの場所での問題は、少なくとも最近、オランダで PFOA 汚染がニュースとなるまではほとんど議論されることがなかった。3月に、オランダ国立公衆衛生環境研究所(RIVM)は、水中の PFOA レベルは少なくとも2002年までは上昇していたこと、及びドルトレヒトの住民は長年、大気中の PFOA に暴露していたとする報告書を発表した。

 4月の上旬に、ウェストバージニア州及びオハイオ州の住民を代表する活動家グループ”、 Keep Your Promises DuPont ”(デュポンよ、約束を守れ) の代表団がオランダに出かけ、当地の政治家、科学者、ドルトレヒトの住民、及び工場労働者を代表する労働組合と会談した。

 ”彼らは怒っている ”と、オランダに出かけ、そこで疫学者らが PFOA を様々な疾病、とりわけ妊娠中毒症、潰瘍性大腸炎、及び二種類のがんと関連付けることを可能にした研究について、人々に話をしたウェストバージニア州のポール・ブルックスは述べた。”彼らは、病気との関連を全く知っていなかった”。

 しかし、オランダ人たちはすぐに理解を示した。4月17日にオランダの新聞 Algemeen Dagblad は PFOA の血中レベルが高い二人のドルトレヒトの住民の血液検査の結果を報道した。一人の元デュポンの労働者の血中 PFOA 得べるは 28.3 ppb であったが、彼の妻は工場で働いていなかったのに 83.6 ppb であった。対照的に、デュポンに対する最初の 3,500件の訴訟で160万ドル(約1億8,000万円)を得たオハイオ州の住民カーラ・バートレットの血中レベルは 2005年にわずか 19 ppb であった。

 Algemeen Dagblad 紙の調査報道記者イングリッド・デ・フロートによれば、現在、少なくとも1,000人のドルトレヒトの住民が検査を要求している。デ・フロートは、ドルトレヒトの川の対岸にある小さな町スリードレヒトの住民もまた、”風の90%はテフロン工場の方向から吹いてくるので”、大気中の C8 汚染について懸念していると述べた。

 デュポンから過フッ素化合物(PFC)ビジネスを継承したケマーズ社は、現在はもっと短鎖の分子を使用しているが、デュポン社はケマーズ社に関するドルトレヒトと清水についての疑問に言及した。ケマーズ社は、デュポン社と日本の会社である三井によって数十年前に建設された清水工場の周辺地域は、”高度に工業化されており、地下水は塩分を含むので飲料水源とはなっていない”と述べる声明を発表した。その声明はまた、PFOA は日本では多くの会社によって使用されてきたが、”ケマーズ社は PFOA をかつて使用したことがない”と述べた。

 ドルトレヒトに関してはケマーズ社は、”ドルトレヒト工場の周辺地域について飲料水を通じての周辺住民の PFOA 暴露は増加しておらず、同社はデュポン社がドルトレヒトで PFOA を使用した数年間、従業員と周辺地域住民の健康を優先しつつ、合理的にそして責任をもって行動したと確信している。我々は、デュポン社は従業員と隣人たちの健康と安全を守ることを目的として PFOA を管理するために、求められること以上、そして他の会社がしたこと以上のことをしたと信じている”と声明で述べた。同声明はまた、2010年までにデュポン社はドルトレヒト工場での PFOA 排出を2000年のレベルの90%以上削減しており、同社はその化学物質を2012年までに完全に廃止したことに言及した。

A SAMPLING OF GLOBAL PFC CONTAMINATION (世界の PFC 汚染調査 画像)

 環境活動家らは、政府が調査中のドイツ、カナダ、グリーンランド、スペイン、イタリア、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク領フェロー諸島、フランス、ベトナム、南アフリカ、インド、イギリス、そしてオーストラリアを含んで、世界中で検出されている PFOA と PFOS の使用を世界中で抑制するよう圧力をかけている。2014年、PFOSは、179か国(アメリカは含まれない)によって批准された国際条約であるストックホルム条約の下に廃止されるべき残留性有機汚染物質のひとつとしてリストされた(訳注2:2019年ではないのか?)。昨年、EUはPFOAを同条約に加えることを提案した(訳注3)。

 しかし、いくつかの国は PFOS と PFOA の製造を廃止したので、他の国は製造を強化している。多分、もっともよい例は中国であり、ストックホルム条約によって収集されたデータによれば、そこでは少なくとも 56社が過フッ素化合物(PFCs)を製造している。 PFOA と PFOS については飲料水基準がないか又はその使用の制限がなく、そこでは汚染が生じている。昨年発表された中国とヨーロッパの河川の比較は、Xiaoqing River の過フッ素化合物の汚染はデュポンのドルトレヒト工場近くの Scheur River の汚染レベルより 6,000倍以上高かった。最近の研究では、科学者らは中国の武漢地域の Tangxun Lake の漁民の血液を検査した。ある漁民は、かつて人間の血液中で検出されたことのない極めて高いPFOSの値 31,400 ppb を記録した。

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訳注1:デュポン清水工場
訳注2:PFOS とストックホルム条約
訳注3:PFOA とストックホルム条約
訳注:日本の有機フッ素化合物汚染に関する報告書の一例



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