IISD 2015年10月26日 POPRC11 概要
ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及び PFOA 関連物質を
ストックホルム条約の付属書 A, B 及び/又は C に含めることの提案


情報源:International Institute for Sustainable Development (IISD)
Summary of POPRC11, 26 October 2015
Proposal for the inclusion of PFOA, its salts and PFOA-related compounds
in Annexes A, B and/or C to the Convention
http://www.iisd.ca/vol15/enb15237e.html

訳:安間武 (化学物質問題市民研究会)
掲載:2015年11月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/IISD/IISD_COPs_POPRC11_Summary_PFOA.html

訳注):参考資料として経済産業省の資料 ”条約対象物質の追加の手続”を末尾に引用)

 火曜日(2015年10月20日)、 事務局はペルフルオロオクタン酸(PFOA)とその塩及び PFOA 関連物質をストックホルム条約の付属書 A, B 及び/又は C にリストすることの提案(UNEP/POPS/POPRC.11/5)、及びその提案が付属書 D で規定される情報を含んでいるかどうかの確認書(UNEP/POPS/POPRC.11/INF/9)を紹介した。

 カチンカ・バンデルヤグト(EU)は、提案を示し、それは PFOA の特性に焦点を当てていると説明したが、 PFOA に分解する関連化学物質を含めることが重要であると言及した。彼女は、PFOA は泡消火剤、湿潤剤、皮革、紙、織物及び衣服を含んで、様々な製品で広範に使用されていると報告した。残留性に関して、彼女は PFOA が土壌中及び水中で極めて残留性が高いこと、及び多くの分解テスト及び現地での監視が生物分解をしないこと示していることを報告した。生物蓄積性に関して、彼女は、PFOA は”通常ではなく(not the standard story)”、それは POPRC3 が目を向けた PFOS の生物蓄積性に類似していると述べた。PFOA は潜在的に肝臓及び血中でたんぱく質に結合するので、生物蓄積性の記述子として log Kow (訳注1)を使用するのは適切でないかもしれないと彼女は述べた。彼女は、栄養濃縮係数(Trophic Magnification Factor (TMF) )と生物濃縮係数(Biomagnification Factor (BMF))の高い値と人の血液と母乳中の PFOA の証拠を指摘した。 発光共鳴エネルギー移動(LRET (Luminescence Resonance Energy Transfer) )に関して、PFOA は北極で見つかっていると報告した。有害影響に関して、彼女が報告した証拠は、マウスにおける発達影響、母乳を通じての胎児への移動、及び腎臓と精巣がんの疫学データを含んでいた。彼女は、PFOA は付属書 D の基準に合致すると結論付けた。

 討議の間、何人かの POPRC メンバーはこの提案を支持した。ベラルーシは、 PFOA を含む製品の分析と管理措置の実施を支援するために、発展途上国及び移行経済国への情報提供の必要性を強調した。スウェーデンとアメリカからのオブザーバーは、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の下に実施されている PFOA を含む製品に関する作業に言及した。ノルウェーは、目録に関して PFOS のためになされた作業の上に構築することを提案した。

 ガボン、インドネシア、及びアメリカと日本からのオブザーバーは、関連化学物質を明確に特定する必要性を強調した。

 IPEN は、その毒性はわかっていたにもかかわらず、この化学物質が長期にわたり使用されてきたことを嘆き、アメリカにおける地域社会及び個人の PFOA への暴露に対して会社に責任を持たせるための数千の係争中の裁判に注意を向けた。

 PFOA、その塩及び PFOA 関連化学物質のリスクプロファイル作成段階への移行を支持すると言及しつつ、議長ガスタルデロ・モレイラは事務局に対して、ミッシェル・キビ(カナダ)議長に率いられるコンタクトグループによる検討のために、決議案を準備するよう要請した。コンタクトグループは火曜日(10月20日)と水曜日(10月21日)に会合を持ち、水曜日(10月22日)に決議案起草グループと会合した。

 木曜日(22日)、キビは、決議案(UNEP/POPS/POPRC.11/CRP. 4)を紹介した。彼女は、決議案は、特に、スクリーニング基準は PFOA、その塩及び PFOA 関連物質について満たされていたことに POPRC は満足しているとする決議を報告し、事務局に対して、締約国とオブザーバーが PFOA、その塩及び PFOA 関連物質について CAS 番号の抜粋リスト(on-exhaustive list)を利用できるようにすることを求めた。

 インドは、log Kow は生物蓄積性基準に合致しないことを示しており、付属書 D の基準に従う”十分な証拠”がないのだから、この議題は次の段階に移ることはできないと述べた。フランスは、 log Kow に加えて、又はその代わりに生物蓄積性を評価するために POPRC が使用してきた尺度に関して POPRC-3 における委員会のガイダンスを参照した。

 インドネシアは、付属書 D の基準に合致する検討すべき PFOA 関連物質のさらなる検討を求めた。ノルウェーは、委員会が付属書 D スクリーニングから、もっと詳細な作業が実施されるであろう付属書 E リスクプロファイル段階に移るために十分な情報が存在すると強調した。

 生物蓄積性基準 c(ii) (他の生物種における高い生物蓄積性)に適合していると述べつつ、アメリカからのオブザーバーはリスクプロファイル段階に説明を加えることを提案した。IPEN は決議案を歓迎した。

 中国からのオブザーバーは、これらの化学物質の製造者と消費者を特定することは困難であることを強調しつつ、PFOA 関連物質に関してもっと多くの情報を与える締約国を指名するよう促した。

 スウェーデンは、コンタクトグループは付属書 D と付属書 E の相違を議論したと述べ、たとえ現状の知識がある化合物は生物蓄積性がないかもしれないことを示しても、現状においては決議案はどのような PFOA 関連物質をも除外しないであろうことを示した。

 フランスは事務局が CAS 番号のリストを利用可能にすることができるかどうか問うた。事務局は、締約国に対してこの会合の閉会後1週間以内に事務局に対して CAS 番号を提供するよう要請すると述べた。カナダは、リストは彼女の国が PFOA を国内で発表してから利用可能になると述べた。

 インドは、同じ族内の化学物質の特性が異なることがあり、もし特定の CAS 番号が基準を満たさなければ、その提案は前に進めるべきではないと述べた。彼はさらに生物蓄積性基準に合致するのかどうか疑問を呈した。

 議長ガスタルデロ・モレイラは、付属書 E 段階で POPRC は各関連物質を分析するために情報を収集し、もしある化学物質が基準に合致しなければ、それらはこの段階から先には行かないであろうと説明した。事務局は付属書 D の関連する三つのサブパラグラフを読み上げ、それらは、”又は”で結合されており、これに関して、それらは三項の基準のうち一つが生物蓄積性基準を満たす必要があることを意味すると彼女は述べた。

 議長ガスタルデロ・モレイラは、全ての関心を持つメンバーは、コンタクトグループに参集しこの問題を討議するよう提案した。コンタクトグループは木曜日(22日)に会合を持ち、起草グループに非公開とした。

 金曜日(23日)、キビは修正決議案(UNEP/POPS/POPRC.11/CRP.4/Rev.1)を提示した。彼女は決議及びその付属書の全体を通じて、”関連化学物質”への参照は削除され、メンバーは PFOA が付属書 D の基準を満たすことに同意したと述べていることを強調した。彼女は、PFOS 、その塩類及び PFOSF に関する情報は要求されないと記述するパラグラフは、同グループはすでに条約中にリストされた物質のための情報を受け取ることは望まないので、そのままの残すということに言及した。

   インドは、ストックホルム条約には北極や母乳に焦点を当てるというような”基本的な問題”があると述べた。彼は、母乳中に観察される濃度の変動は、”食習慣と狂牛病”のせいであろうと示唆した。

 議長ガスタルデロ・モレイラは締約国はリスクプロファイルと決議に焦点を合わせ続けるよう促した。

   インドネシアは、分子及びポリマーのどの枝が付属書 D の基準を示すのか不明確であると述べ、付属書 E 評価の検討のための情報を収集することを支持した。

 パキスタンは、PFOS 、その塩類及び PFOSF への参照を削除することを求めた。議長ガスタルデロ・モレイラは代わりの言い回しを提案し、メンバーは PFOS 、その塩類及び PFOSF は条約にリストされており、したがってこれらの化学物質に関する情報は提出の必要はないという言い方で明確にすることを議論した。

 フルオロカウンシル(FluoroCouncil)は、PFOS は PFOA に分解することはできないが、 PFOS 製造過程では少量の PFOA を生成する。彼は委員会に対して PFOS に関連する作業の重複を回避するよう求めた。

 IPEN は、南半球における PFOA に関連する情報を提供し、オーストラリアは、血液及び母乳中で PFOA の濃度が最も高い場所にあると述べた。彼女は、もし委員会が PFOA が付属遺書 D 基準に合致することに同意しなければ市民社会組織の信用を失うことになると懸念を表明した。

 PFOA は確かに付属遺書 D 基準に合致しているという一般的合意に言及して、議長ガスタルデロ・モレイラは、”条約付属書 B にリストされている PFOS 、その塩類及び PFOSF を除いて、”どのような情報が求められているのかを規定するサブパラグラフを加えることを含めて、決議案に対する3つの変更を概説した。 POPRC は口頭で修正されたように決議を採択した。

最終決議:
 決議の中で(UNEP/POPS/POPRC.11/CRP.4/Rev.1)POPRCは:
  • PFOA(CAS No: 335-67-1, PFOA, ペルフルオロオクタン酸)はスクリーニング基準を満たしていることを決議し;
  • 提案をさらに見直すために、そして条約付属書 E に従いリスクプロファイル案を作成するために特別作業部会を設立することを決議し;
  • PFOA 及び PFOA の塩に分解する可能性のある PFOA 関連化合物を含めることに関連する問題はリスクプロファイル案を作成するときに検討することを決議し;
  • 締約国とオブザーバーに対し、PFOA 及び PFOA に分解する可能性のある構造要素のひとつとして分子式 C8F17- 又は C7F15-C を持つペルフルオロアルキル基を持つ物質について、但し条約の付属書 B にリストされている PFOS、その塩類及び PFOSF を除いて、 2015年12月11以前に付属書 E に規定されるべき情報を事務局に提出するよう要請し、
  • 情報収取を容易にする目的のために、事務局に対して、事務局が締約国とオブザーバーに付属書 E に規定される情報を提出するよう要請するときに、彼らが PFOA、その塩及び PFOA 関連物質について CAS 番号の抜粋リスト(on-exhaustive list)を利用できるようにすることを求める。


訳注1
物性化学:オクタノール/水 分配比率 logP, logKow

訳注:条約対象物質の追加の手続
「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)の概要/経済産業省

(1)スクリーニング段階
 締約国が、附属書D(情報の要件及び選別のための基準)に掲げられた情報を記載した物質追加提案書を提出すると、残留性有機汚染物質審査委員会(以後、審査委員会)が科学的観点からスクリーニングを行い、評価書を作成する。

(2)リスクプロファイル作成段階
 提案物質がPOPsに該当する可能性があると評価されると、条約事務局は物質追加提案書及び評価書を全ての締約国等に送付すると共に、附属書E(リスクプロファイルに関する情報の要件)に関する情報の提出を要求する。
 審査委員会は、締約国から提出された附属書Eに関する情報と技術的コメントに基づきリスクプロファイルを作成する。

(3)最終決定段階
 リスクプロファイルが完成すると、条約事務局は附属書F(社会経済上の検討に関する情報)に関する情報の提出を全ての締約国等に要求し、審査委員会はこの情報に基づきリスク管理評価を作成する。
 審査委員会はリスクプロファイルとリスク管理評価を締約国会議に勧告し、締約国会議はこれらに基づき、予防的な方法で、条約対象物質とするか否かを決定する。
 コンセンサスを目指すが、最終的には全締約国の3/4の多数により、附属書改正を最終決定。

(4)再検討の要請
 スクリーニング段階及びリスクプロファイル作成段階において、審査委員会が次の選定プロセスへの前進を却下した場合には、任意の締約国が審査委員会に対して再検討の要請を行うことができる。また、任意の締約国は締約国会議に異議申立てをし、判断を仰ぐことができる。



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