Civil Eats 2016年1月6日
FDA は食品容器中の 3 つのクラスの化学物質を禁止
これらは氷山の一角ではないのか?

エリザベス・グロスマン

情報源:Civil Eats, January 6, 2016
The FDA Just Banned These Chemicals in Food. Are They the Tip of the Iceberg?
By Elizabeth Grossman
http://civileats.com/2016/01/06/the-fda-just-banned-these-chemicals-in-food-
are-they-the-tip-of-the-iceberg-pfcs/

訳:安間 武 (
化学物質問題市民研究会
掲載日:2016年1月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/usa/articles/
160106_FDA_banned_three_toxic_food_packaging_chemicals.html

 米・食品医薬品局(FDA)は食品容器中で使用されている 3 つのクラスの有害化学物質の承認を取り下げる訳注1)であろうし、また食品香料中の 7 種類の発がん性物質の禁止を検討しているが、食品安全活動家らは、そのプロセスがシステムの欠陥を明らかにしていると述べている。

 月曜日(1月4日)、米・食品医薬品局(FDA)は、防汚、防油、防水の食品容器を作るために用いられる 3 種類の化学物質の承認を取り下げ、また”人工”及び”天然”両方の香料中で使用されている 7 種類の食品添加物の禁止を考慮していると、発表した。このニュースは、最初の休暇明けの平日の間に埋もれてしまうかもしれないが、注目に値する。そしてそれは、我々が食べるものの安全を最も管理する政府機関のひとつについてもっと大きな疑問を提起する。あなたが知る必要のあることをここに示す。

稀な対応

 2月に発効するこの禁止は、天然資源防衛協議会((NRDC)、環境活動グループ(EWG)、その他を含むいくつかの環境団体によってなされた FDA への請願に対応してもたらされたものである。何が重要であるかと言えば、”FDA が初めて、ひとつの請願に基づき化学物質の使用を実際に禁止し”、それを”安全情報に基づいて”実施した−という事実であると、NRDC の健康環境プログラムのディレクターであるエリック・オールソンは述べている。

 しかし、FDA のこの異例の対応にもかかわらず、禁止そのものは不十分で遅すぎるかもしれないとある環境活動家らは言う。

焦げ付かないが、安全は保障しない

 禁止された化学物質はすべて、ピザ用箱、菓子パンなどの包み、持ち帰り食品用容器、紙皿、焦げ付き防止料理用品のようなもののコーティングに使用される化学物質の一族である過フッ素化合物(PFCs)である。言い換えれば、それらは我々の大部分が知らずに摂取しているかもしれない種類の化学物質である。PFCs は、非常に長期間環境中に残留し、世界中で野生生物中と新生児を含む人間の体内、及び米・疾病管理防止センター(CDC)がテストした全てのアメリカ人に見いだされているので、環境と人間の健康の懸念が提起されている。

 実験室での研究で、PFCs はホルモン系、生殖系、発達系、神経系、及び免疫系への有害影響、及びあるがんに関連していた。昨年、38か国からの200人以上の科学者らのグループがこの種の化学物質についての懸念を表明し、それらの製造と使用を制限するための政策を求める声明を発表した(訳注2)。

 今週の発表で FDA は、食品接触の化学物質(FCSs)の使用について、”無害であるという合理的な確実性”があるとはもはや言うことができないという理由で、この措置をとっていると述べた。FDA はまた、この化学物質の発達及び生殖毒性についての情報はもとより、この化学物質の容器から食品そのものへの移動について適切な情報が不十分であったことを認めた。

 FDA の正直さにはある程度元気づけられるかもしれないが、それは”基本的なデータなしにこれらの使用について化学物質を承認してきたシステム全体に我々が持っている懸念を明らかにしている”とオールソンは述べている。

 それだけではない。EWG の代表ケン・クックが声明の中で述べているように、”人々の血液を汚染する産業化学物質には、明らかに食品容器の中に居場所はない。・・・しかしそのことを FDA が指摘されてから 10 年以上経過して、現在ではもはや製造すらされていない 3 種類の化学物質を FDA は禁止しようとしている”。

輸入食品にも同じ基準を適用

 実際に、禁止された化学物質は”C8”又は長鎖 PFCs として知られるもののうち3つのクラスだけであり、FDA が製造者らと協力して約5年前に自主的に製造を止めていたものである。アメリカの主要なプラスチック産業の業界団体であるプラスチック産業協会によれば、これらの物質は食品接触用途のためにはアメリカではもはや製造されていない。

 確かにこれら 3 種類の化学物質の製造は停止されたが、それらは中国とインドで製造されている。環境防衛基金(EDF)の化学物質政策ディレクターであるトム・ネルトナーは Civil Eats に次のように述べた。FDA の措置は”これらの添加物が将来”、そして毎年アメリカに輸入される数百万ポンド(数千トン)の食品の容器に使用されるのを防ぐ。今週の禁止がなければ、消費者はこれらの化学物質を食品容器から締め出すために、完全に自主的な措置に頼らなくてはならなかったであろう。

 そして、FDA は C8 に焦点を当てているが、代替として使用されているより鎖の短い化学物質が実際に安全であるかどうか明確でない。後者のものもまた、環境的に残留性があり、それらの毒性についての情報が欠如している。”明らかに厄介な問題なのは、多くの他の化合物があり、我々にはどれが使用されているのわからないということである”と、オールソンは述べている。

香料の後で

 FDA はこの禁止を発表すると同時に、FDAはまた同様な環境団体のグループからの、発がん性物質として分類されている 7 種類の食品香料化学物質の使用を禁止するよう求める請願を見直すことに同意した。その物質名の多くはあいまいである:ベンゾフェノン(benzophenone)、アクリル酸エチル(ethyl acrylate)、メチルオイゲノール(eugenyl methyl ether)、ミルセン(myrcene)、プレゴン(pulegone)、ピリジン(pyridine)、及びスチレン(styrene)。

 これらは、しばしば”人工(artificial)”又は”天然(natural)”香料として分類されているので、食品中にリストされているのを見ることはない化合物である。しかしその全ては、米・国家毒性計画又は世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関(IARC)のどちらかによって発がん性があることを発見されている。そしてひとつを除いてすべてはカリフォルニア州のプロポジション 65 (訳注3)の下に発がん性物質としてリストされている。

 この国では、書類の上では発がん性食品添加物は違法である。しかし、EDF のネルトナーが説明するように、”振り返ることはなく、再評価はない”。実際に、FDA の報道官が Civil Eats に言ったように、”我々の専門家は科学的文献をモニターしており、必要に応じて措置をとっている”が、FDA は以前に承認した食品添加物又は食品接触化学物質を見直すための構造的プログラムを持っていない。

 NRDC のオールソンは、我々は FDA の新たな科学のための公式な見直しプロセスの欠如を指摘して ”FDA のドアを長年たたいてきた”と述べた。FDA が食品添加物を見直すのは、通常、公益団体からの請願に対応してであると、ネルトナーは言う。”私は、再評価のシステムが必要であると思う”と彼は言う。

 環境団体により提出された請願によれば、これらの化学物質は、アイスクリーム、キャンディ、焼き菓子、ゼリー、飲料水等に香気を添えるために使用されている。Civil Eats は、米国食品香料製造者協会(FEMA)のメンバーであるいくつかの主要な食品製造会社に問い合わせを行ったが、これらの物質の使用についての回答は得られなかった。

 しかし、FEMA 執行ディレクターであるジョーン・コックスは声明の中で、”これらの物質は FDA によりその使用が許可されており、FDA により発がん性物質として特定されたことはない”、そしてこれら 7 種の化学物質は WHO の食品添加物委員会により承認されていると述べた。コックスはまた、これらの化学物質は、”天然由来の物質であり”、果物、野菜、そして香辛料中で高いレベルで発見されている と、付け加えた。

 ネルトナーは、請願書の中の化学物質は天然由来であるかもしれないが、加工食品に添加される精製され製造された形状ではないと述べて、この主張に異議を唱えている。”産業側は、本当にスチレン(styrene)、ピリジン(pyridine)、及びベンゾフェノン(benzophenone)が天然香料であると主張しているのか? それでは彼らは何を”人工”香料と呼ぶのか不思議である”と、彼はe-メールに書いた。

   これらの化学物質の多くは、典型的には香水調合とよく似ている機密レシピーの特許香料ブレンドなので、あなたが消費者なら、それらを回避する方法はないと、NRDC のオールソンは言う。もちろんあなたは全ての”添加香料”のための成分リストを検証するために時間を費やしたくないだろうから。

 これらの化学物質の全て−香料添加物と食品容器添加物−についての懸念は、FDA におけるもっと大きな体系的な問題を明らかにしていると、ネルトナーとオールソンは述べている。食品会社は、使用されている数千の食品添加物と食品接触化学物質に関する巨大な既存の毒性データのギャップがあるにもかかわらず、FDA からの特定の許可がなくても膨大な数のこれら化学物質を自由に使用することができる。これらの 7 種の食品香料を例にとれば、ネルトナーが説明したように、FDA はこれらの物質を、それらが発がん性物質であるという証拠を得る前の1964年に承認したが、FDA はそれ以来、その決定を再評価することはなかった。

 ”FDA は限られた資源しかないので、たとえ姉妹機関である国家毒性計画がそれらは危害を引き起こすということを示しても、古い決定を見直すことはほとんどなかった”と、ネルトナーは指摘した。”FDA が見直すのは、通常、公益団体によって提出された請願の結果である”。

 FDA は、食品香料請願に関するパブリックコメントを2016年3月4日まで受け付けている。


訳注:関連情報
EcoWatch, January 5, 2016 FDA Bans Three Chemicals Linked to Cancer From Food Packaging

訳注1禁止される 3種類の食品接触物質
1. Diethanolamine salts of mono- and bis (1H,1H,2H,2H perfluoroalkyl) phosphates where the alkyl group is even-numbered in the range C8-C18 and the salts have a fluorine content of 52.4 percent to 54.4 percent as determined on a solids basis;

2. Pentanoic acid, 4,4-bis [(gamma-omega-perfluoro-C8-20-alkyl)thio] derivatives, compounds with diethanolamine (CAS Reg. No. 71608-61-2);

3. Perfluoroalkyl substituted phosphate ester acids, ammonium salts formed by the reaction of 2,2-bis[([gamma], [omega]-perfluoro C4-20 alkylthio) methyl]-1,3-propanediol, polyphosphoric acid and ammonium hydroxide.

訳注2 Green Science Policy Institute 2015年5月1日 ポリ−及びパーフルオロアルキル物質(PFASs)に関するマドリード声明

訳注3:プロポジション 65

正式名称:Proposition 65 Safe Drinking Water and Toxic Enforcement Act of 1986
http://www.oehha.ca.gov/prop65.html
 目的は、がん、先天性障害又は生殖障害を引き起こすと知られている化学物質からカリフォルニア州の市民と州の飲料水源を保護すること、及び市民にそのような化学物質の曝露について知らせることである。
 プロポジション 65 は州政府が少なくとも毎年、発がん性又は生殖毒性が知られている化学物質のリストを公表することを求めている。

参考情報  曇天に青空のチャンスはあるか? アメリカの化学物質政策の改革の予測 ダリル・ディッツ、国際環境法センター 2006年5月



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