欧州労連 etui ニュース 2012年11月21日
REACH:5年経過したが、成果は出ているか?

情報源:ETUI News, 21 November 2012
REACH: five years on, is it delivering?
http://www.etui.org/en/News/REACH-five-years-on-is-it-delivering

訳:安間武(化学物質問題市民研究会)
掲載日:2012年12月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/union/etui_news_121121_REACH_five_years_on.html


 ヨーロッパの化学物質規則REACHは、2007年6月に実施が開始された。5年経過して、欧州労連研究所(ETUI)の危険化学物質専門家であるトニー・ムスは、この野心的な改革を詳しく調べている。欧州化学物質庁(ECHA)管理委員会の前メンバーである彼は、ECHAの独立性と産業側ロビーイングの影響に関して彼の率直な見解を示し、またナノ物質や発がん性物質への曝露のようjな労働者の健康のためのその他の重要な問題について話した。


REACHが発効して5年が経過した。それは機能しているか?

 登録書類に関しては、各社はECHAにほどほどに提出している。数千の書類が届けられ、処理のためにECHによりコンピュータシステムに入力されている。したがって、技術的には、よく機能しており、期限も守られている。しかし、提出されている書類の品質は疑わしい。会社により開示されたデータを詳細に点検すると、提出書類は常にREACH規則の要求を満たしているわけではないことが分かる。データの品質は、職場で化学物質リスクを防ぐという観点らかREACHがその機能を果たすために重要である。


10月に発表されたNGOの報告書(訳注1)はECHAの産業側に対する中立性について疑問を提起した。それについてどのように考えるか?

 私そのことに同意する。例えば、私はECHA委員会の作業に関わっていたが、そこでは4つのフタル酸エステル類の複合使用を制限するというデンマーク政府の提案を評価しなくてはならなかった。物事がよい方向に進んでいるように見えたときに、委員会は突然、Uターンした。異なるいくつかの会合に出て、私は非常に奇妙なことが分かってきた。私は議論のあるものは理解することができるが、明らかに少しばかり外部の影響が働いているということが皆に見えた時に、その問題の議論は中断された。製造者にとって膨大な金額が危うくなり、ECHAとその組織は製造者から巨大な圧力を受けていた。非常に明白にある影響が働いていた。


ナノ物質についてNGOは、REACHは市場に出されようとしている電子顕微鏡でしか見ることができないこれらの小さなサイズの物質を含んでいる製品がもたらすリスクから消費者を守ることができないと主張しているが、どうか?

 欧州委員会が何を言おうと、REACHは市場に出ているかもしれないナノ物質への曝露に関連する潜在的なリスクをカバーすることはできないという意見を私は持ち続けている(訳注2)。ひとつの問題は、REACH登録のための年間1トンという閾値である。これは現在市場に出ている多くのナノ物質にとって適切ではない。欧州労連は、この欠陥を矯正する方法はREACHを修正することであると主張している。REACHはナノ物質の用途のかなりをカバーできる先端的な法令である。もちろんナノ物質だけを対象とする法令もまた可能であろうが、それはREACHを修正するよりもっと長い時間がかかるアプローチであると私は恐れている。そして既に膨大な数のナノ物質が市場に出ており、ノーデータ・ノーマーケット原則が明らかに無視されているのだから、時間を無駄にすることはできないと私は考えている。


REACHが労働者のためにしたひとつの大きな進展は、雇用主が職場の有害物質、特に発がん性物質を有害性の少ない物質に代替するよう推進していることである。そのことは2007年以来どのように進められているのか?

 REACHを担当する欧州委員会委員である Antonio Tajani(アントニオ・タヤーニ産業・起業促進担当)、Janez Potocnik(ジャネッツ・ポトクニック環境担当)は、2012年の末までに136物質を認可対象となる物質の”待合室”である候補リストに挙げるとする共同政策目標を掲げていた(訳注3)。この目標は現実的な前進であることを認めるが、私は全体の認可手続きが余りにも遅すぎると主張したい。もっと多くの物質が候補リストに入るべきである。紙の上の規則と実際との溝が大きすぎる。REACHは、発がん性は候補リストに入るのに十分であるということが公式に認められていることが明らかである。
 しかし、ECHAと加盟国は、それは十分ではないと決定している。暴露に関する情報も求められていたし、個々の潜在的な候補物質について他のリスク管理オプションが考慮されなくてはならなかったのに、それらはなされていない。その結果、候補リストに急いで載せることができた物質が載せられていない。多くの製造者といくつかの加盟国は、候補リストがある種の”ブラック・リスト”になることを懸念している。しかし、REACHでは、候補リストの物質は潜在的に認可リストに掲載されるということは非常に明白である。候補リストに掲載されているということは、消費者や労働者がそのような物質を含む製品について、もっと多くの情報を得ることを可能にするということであり、我々はそのことは極めて重要であると考えている。


REACHとともに労働者保護のためにもうひとつの重要なツールは、発がん性・変異原性指令(Carcinogens and Mutagens Directive)であり、それは2004年以来、レビューが行なわれている。何らかの進捗があると私は推測しているが?

 その通りである。労働組合、雇用者及び加盟国の代表は、もっと多くの発がん性物質についてヨーロッパ・レベルでの義務的な職業曝露制限値の採択を最近合意した。これらには、結晶シリカと木質ダスト(以前は堅木ダストだけであった)が含まれる。もし欧州委員会がこれを進めるなら、全ヨーロッパの数百万人の労働者が職業性のがんからよりよく保護されることになる。
 結晶シリカに関しては、どのような法的枠組みで−発がん性指令なのか又は化学物質指令(Chemical Agents Directive)なのか−制限が設定されるのかまだ決まっていない。労働組合は前者を望んでいるが、それは後者は少なくとも5年はかかるからであり、数百万の労働者が結晶シリカに、特に建設、採鉱、その他の産業で曝露しているのだから、待つことはできない。


発がん性・変異原性指令を生殖特性物質に拡大するというような、労働組合のその他の大きな要求はどうか?

 雇用者と労働組合はこの点について深い溝があり、加盟国の中も同様である。生殖毒性に拡大するという労働組合の要求は欧州議会と、フランス、オランダ、チェコ共和国、ドイツ、フィンランド、及びオーストリアを含む加盟国により支持されている。
 もし、歩み寄りが得られなければ、他のオプションとして指令を修正して、新たな制限を採択することから着手する段階的な実施を可能とするであろう。しかし新たな指令を採択するのは、EU法ではどのような修正でもそれが行なわれる前に、修正に関連するコスト便益評価の影響調査が実施されなくてはならないので、時間がかかる。生殖毒性への拡大によるコスト/便益の比率を見積もるための影響調査が最近欧州委員会に提出された。それらは現在レビュー中であり、ヨーロッパの労働組合も代表者を出している組織である”職場に於ける安全と健康に関する諮問委員会”が近々、それに関する意見を提出することになっている。(2012年11月16日のインタビュー)


訳注1
EEB/ClientEarth 共同声明 2012年10月28日 ECHAのREACH執行の怠りで化学物質の安全が損なわれる

訳注2
欧州労働組合連合(ETUC)2012年10月4日 労働者のナノからの保護は失われたのか? 欧州委員会のナノマテリアルに関する第二次規制レビューに対する欧州労連の見解

訳注3
ケムセック(ChemSec)2012年8月17日 RREACH 候補リストは2012年の目標値136物質を達成するかもしれない



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