EurActiv 2006年10月6日 更新
REACH:EU は有害な化学物質の撤廃に慎重

情報源:EurActiv, 6 October 2006 Updated
REACH - EU cautious in removing dangerous chemicals

http://www.euractiv.com/en/environment/reach-eu-cautious-
removing-dangerous-chemicals/article-158450


(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/euractiv/06_10_06_EU_cautious.html


概要:

 論争の的となっている REACH 規制案が最終段階に入っているが、議会と理事会は健康と安全の懸念を低レベルの化学的汚染とバランスをとることを求めている。
 関連記事:
 Chemicals Policy review (REACH)
 Interview - Parliament ready for REACH compromise

背景:

 欧州議会環境委員会は10月10日に、化学物質に関する REACH 規制案を採決する。2005年12月の理事会共通見解(Council's common position)は議会の第一読会で承認された430の修正項目のうち180項目を了承したが、それは主に新たな化学物質庁での化学物質の登録と評価に関するものである。

 議会の第一読会での見解に対する修正は、通常要求される単純過半数ではなく、本会議における特定過半数(367票)(訳注:各国の人口を基準にウエート付けした投票数)によってのみ合意される。

 いわゆる”妥協修正案(compromise amendments)”は、しばしば、本会議に先立ち欧州委員会を調停役(deal-maker)として議会と理事会の間で協議がなされる。もし全ての主要な政治党派によって支持されるなら、これらの修正案は特定過半数を得る機会が高まる。

 EurActivとのインタビューで、議会での REACH 報告者ギド・サッコーニは、理事会との差異を埋めるために”妥協修正案”のパッケージを協議中であると述べた。

論点:

 REACH の最終段階における議会と理事会の協議は、化学物質が、たとえ有害性が知られていても、認可され市場に出すことができる条件は何かということについて焦点が向けられている。

 昨年の第一読会において議会は、がんや生殖系の問題を引き起こすような有害な化学物質は、可能な場合には、より有害性の少ない代替によって置き換えられるべきであるとするいわゆる”代替原則”に関する野心的な姿勢を取り入れた。

 議会案では、そのような化学物質は次の条件が同時に全て満たされるなら、厳格な条件の下に認可されるかもしれないというものであった。
  1. 適切でより安全な代替が入手可能ではない
  2. その物質の社会的又は経済的便益がリスクに勝る、そして
  3. リスクは”適切に管理できる”
 理事会の立場は、適切な管理の原則を出発点としていることを除けばそれほど大きな相違はない。言い換えれば、もしその物質が適切に管理できるということが示されるなら、その物質を市場に出すことが許される。その後でのみ代替の可能性が考慮され、当該物質は第二の条件として次を満たせば認可される。
  1. その物質の社会的又は経済的便益がリスクに勝る、そして
  2. 適切でより安全な代替が入手可能ではない
訳注1:議会第一読会の妥協修正案と理事会共通見解における認可の相違)

 正確には、有害物質が”適切に管理される”とみなされることができる条件は、理事会合意案の下に後の段階で定義されることになっている。しかし議会での REACH 報告者ギド・サッコーニは、もしそれが採用されることになるのなら、第二読会において正確に定義される必要があると信じている。

立場:

 欧州化学工業協会(CEFIC)は、議会は有害化学物質をより安全な代替に置き換えようという”十分な意図”を持っている。”これは進歩的であるように響くが、我々は良くなるよりもむしろ悪くなることを懸念している。”

 CEFIC によれば、議会のアプローチの問題は、”たとえ代替が存在しなくても”当該物質を禁止することになるであろうということである。最悪の場合、強制的な代替は、単に古いリスクを新しいリスクで置き換えるだけであると、CEFIC は述べている。”代替が入手可能ではないということを証明するための法的要求のために、リソースが新たなリスクを管理するということから脇にそれて、代替に対してさらに代替を開発するということに向けられる。”

 ”今日、社会が必要とするものの多くは健康又は環境にリスクをもたらすということは遺憾な事実である”とEFIC述べている。

 さらに CEFIC は、消費者は輸入製品を通じて禁止された物質にやはり暴露すると述べている。そして、安全基準をもっと厳しくすることは、EU 域外からの不公平な競争を生み出してヨーロッパのビジネスを損なうだけであると述べている。

 全体として、CEFIC は、決定はケース・バイ・ケースでなされるという理事会の共通見解で述べられた”代替に対する哲学的言質”が望ましいと述べている。

 世界的な環境保護団体である WWF は、安全を最優先とし代替が第一選択となることを確実にすることが重要であるとして、議会の第一読会での代替に関する見解を支持している。

 WWF は、理事会の立場は、有害化学物質が”適切に管理”される場合には、その物質の継続使用を最優先としているので、規制の”抜け穴”となると述べている。WWF によれば、このことは、化学物質庁は”たとえより安全な代替が存在しても当該物質を認可することを求められ、がんを引き起こし生殖系にダメージを与え、又は環境中に蓄積する化学物質の継続的な使用を許すことを意味する。

 WWF は、”代替原則の効果的な実施は、REACH が真に現状のシステムの改善となるかどうかを評価する上で決定的である”と信じている。

 さらに WWF は、”適切な管理”の基本的な概念は、化学物質の低レベルでの長期的な暴露の健康影響に関連する”深刻な科学的疑問”を提起すると述べている。

 ”毒物学は進化しており、より低いそしてもっと低い用量の有害影響の検出は一貫した傾向である。”
 最近、WWF は、EU 中の様々なスパーマーケットで収集した食品サンプルについて実施した分析の結果を発表した(訳注2)。肉、魚、乳製品及びその他の食品 27サンプルが分析され、その全てが人工合成化学物質の存在を示した。

 食物連鎖中の汚染物質としての化学物質を調査している科学的ネットワークである CASCADE のジャンアケ・グスタフソン教授は次のように述べている。”食物連鎖の頂点に立つ人間は、特に食品中の化学物質に暴露している。これらの化学物質のあるものはホルモンのように作用するので、それらは我々の内分泌系をかく乱し、不妊とともに、肥満、がんの異なる形態、糖尿病のような疾病のリスク要素となるかもしれない。”

 ”WWF は、これらの食物を食べることによって人々が病気になると示唆しているのではない。しかし、WWF は、食物中の化学物質に対する長期的な低レベル暴露の、特に発達中の胎児、幼児、子どもへの潜在的な影響について深刻に懸念している。”

 しかし、この調査の解釈については CEFIC によって異議を唱えられている。”確かに我々の食物中には微量の化学物質がある。しかし、人々が環境化学物質を血液中や尿中に持っているということは必ずしも、その化学物質が病気を引き起こすということを意味しない。事実は、人々は化学によって提供される本質的な便益を通じてより長く、より安全により健康的に生きているということである。”

 ”WWF の報告書はまさしく、ある一面のスナップショットを我々に与えているだけであるが、しかし、もし我々が将来、我々の食物中の有害な化学物質の残渣を避けようとしているなら、それはもっと多くの研究と強い REACH が必要であることを明確に示している”と CASCADE のインゲマル・ポングラッツは述べている。

 ”消費者製品は多くの化学物質を含んでいる。我々が知っていることは我々が暴露しているということであり、我々がやろうとしていることはそれを確実性もって定量化することである”と欧州委員会共同研究センターのデモセネス・パパメレショウは述べている。

 しかし、彼は、暴露の組み合わせについてはほとんど知られておらず、その組み合わせと健康への影響は”多数”あると告白している。疑問のひとつはその影響が急性であるか又は長期的であるかということであると彼は述べている。”もしそれが長期的なら、その因果関係について解釈することは難しくなる”とパパメレショウは述べている。

 CEFIC によれば、低レベルの化学物質汚染の健康問題はどこか他所で取り組まれるべきである。”REACH は重要な段階にあるが、しかし、非常に長期間にわたる可能性ある多くの化学物質の組み合わについては目を向けない。なすべき大事なことは、リスクは何かということを理解するために現実的な行動をとることである。”
 (この件に関する更なる詳細については EurActiv の記事 Biomonitoring in health & environment policy-making を参照のこと。)

 CEFIC は、そのような情報を公衆に広く伝えることは”不適切であり誤解を与えるものである”とすら評している。

 情報が実際に広められるべきかどうかを尋ねられて、欧州委員会共同研究センターのパパメレショウはあいまいである。”これは政治的な議論であり、科学的ではない。”

今後の予定:
  • 2006年10月4日:議会内環境委員会での討議
  • 2006年10月10日:議会内環境委員会での採決
  • 2006年11月14日:本会議での採決
  • 2006年12月4日:(競争力)理事会での予想される採決及びREACHの最終的承認
リンク:

 訳注:REACH の議論に関連する EU 公式文書及び利害関係者(CEFIC、NGOs)の見解に関する多くの有用なリンクが示されているが省略。下記を参照ください。 http://www.euractiv.com/en/environment/reach-eu-cautious-removing-dangerous-chemicals/article-158450


訳注1:
議会第一読会の妥協修正案と理事会共通見解における認可の相違
(出典:The International Chemical Secretariat (ChemSec) ChemSec Press release 15 September 2006)


訳注2:
WWF ニュースルーム 2006年9月21日/ウェイター、私のスープにフタル酸エステルが! 新たな報告書 『汚染の連鎖:食物を通じて』 概要(当研究会訳)

訳注3:第二読会に関連する欧州NGOsの意見
EACH:欧州、環境・健康・消費者・女性団体による欧州議会第二読会への要求事項/2006年3月版(当研究会訳)

グリーンピース報告書2006年4月23日/REACH:リスクの影響閾値と”適切な管理” 認可に対する理事会意見の致命的な欠陥(当研究会訳)

WWF 2006年4月19日 REACH 第54条(f) 認可 概説 ”同等の懸念”ある化学物質をどのように認可に含めるかに関するWWFの見解(当研究会訳)

国際化学物質事務局(ChemSec) ニュース/2005年12月13日 EU閣僚理事会 REACH 取引で合意到達(当研究会訳)



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