IPEN POPRC12 プレスリリース 2016年9月23日
国連専門家委員会
テフロン化学物質(PFOA)の世界的な行動を正当化
他の3つの有害化学物質の世界的行動も勧告

情報源:IPEN POPRC12 Press Release, 23 September 2016 (Rome, Italy)
“Teflon Chemical” (PFOA) warrants global action
UN Expert Committee also recommends global action on 3 other hazardous chemicals
http://ipen.org/sites/default/files/documents/ipen_poprc_pr_23_sept_2016.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年9月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/IPEN/
160923_IPEN_Press_POPRC12_PFOA_warrants_global_action.html

【ローマ、イタリア 2016年9月23日】 国連の専門家委員会は、一般的に”テフロン化学物質”として知られている PFOA に対して、ストックホルム条約の下で世界的な行動を取ることには正当性があると決定した。同条約は、世界の最も有害な化学的汚染物質を禁止する国際条約である。

 総意決議の中で、残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)は、PFOAは、”人間の免疫系に有害であると推定され”、”高コレストロール、潰瘍性大腸炎、甲状腺障害、精巣がん、腎臓がん、及び妊娠高血圧症候群”に関連するということに合意した。専門家らは、PFOA は環境中で分解せず、長距離を移動し、動物中で生物濃縮して食物連鎖に脅威を与えると結論付けた。その結果として、専門家グループは最近の研究に言及しつつ、”環境中で安全濃度を確立することはできない(安全濃度などない)”と結論付けた。

 ” PFOA は、人の健康と環境、特に世界中の PFOA 汚染地域で暮らす地域社会にとって、明らかに脅威である”と IPEN 及び National Toxics Network の顧問であるマリアン・ロイド=スミス博士は述べた。”フッ素化合物産業と政府内にいる彼らの同調者らは、秘密の壁と虚偽をもってしても真実を隠すことはできない。今は、説明責任、浄化、及び補償が求められる時である”。

 PFOA は今後、条約に PFOA をリストすることについての委員会への公式勧告に加えて、代替物質とリスク管理オプションの調査を含む委員会による来年の長い評価段階に移る。

   ローマで9月19日から23日まで開催された POPRC 第12回会合でなされたその他の主要な決定は次の通りである。

有害難燃剤の世界的禁止のための勧告は支持されたが、提案を弱める多くの抜け穴がある

 昨年 POPRC は、電子機器中で広く使用され、電子廃棄物中に存在する有害難燃剤 DecaBDE の世界的な廃絶を勧告することに同意した。しかし本年、委員会は、ヨーロッパ及びカナダの自動車産業からの圧力に屈し、その製造と使用を継続するために、多くのあいまいな免除を含めた。さらにイギリスは軍用車両と航空機のための全面的な免除を提案したが、彼らは産業側ロビーイストと結託し、産業側のコメントをイギリス自身のものとして提出したことを IPEN が暴露(原注1)(訳注1)した後、イギリスはその提案を引っ込めた。

 ”ヨーロッパとカナダの自動車産業協会は、予備品を確認するためのテスト費用を払うことを望まなかったので、免除のロングリストだけを要求した”と、IPEN の上席政策技術顧問ジョー・ディガンギは述べた。”これは、特に代替物質が広く入手可能な場合には、条約の濫用である。我々は、製造と使用を完全に停止し、発展途上国に投棄される数百万トンの電子廃棄物の問題に取り組み、我々の消費者製品を汚染することになるであろう全ての抜け穴を塞ぐために、この物質の真の世界的禁止を必要としている”。

短鎖塩素化パラフィン類の世界的な禁止のための勧告

 長年の遅れの後、 POPRC はついに短鎖塩素化パラフィン類(SCCPs)の世界的な禁止を勧告した。他の POPs で SCCPs 程大量に製造されている化学物質はない。 SCCPs は金属切削で広く使用されている内分泌かく乱物質であり、おもちゃ、子ども用衣装、及びスッテカーのような多くの子ども用塩ビ製品中に驚くほど高いレベルで存在している。 SCCPs は人間にがんを引き起こすことが疑われており、また北極圏の先住民の伝統的な食物である動物から検出される。技術的に実行可能で、コスト効果のある代替が、多くの実行可能は非化学的な代替を含んで、全ての既知の用途で利用可能である。

 ”SCCPs は人目に付かないが、世界中の人々の体を汚染している”とIPENの共同議長であり、有害物質アラスカ・コミュニティ・アクションのパム・ミラーは述べた。”今は、この危険な化学物質を例外なしに廃絶すべき時だ”。

ジコホルの世界的行動は当然

 ジコホルは、製造時に DDT を使用する農薬であり、ミルク、粉ミルク、卵、果物野菜、人間の母乳、初乳、血液中で検出されている。ジコホルは水生動物に対して非常に有毒であり、鳥類に生殖障害を引き起こす。それは内分泌かく乱物質であり、ヒト発がん性が疑われる。”ジコホルは、長距離環境移動の結果、著しい有害環境影響をもたらすようであり、世界的な行動が正当化されるような著しい有害健康影響を人にもたらすかもしれない”ということに POPRC は同意した。

 ”我々は、DDT のいとこであり、DDT で汚染されているこの時代遅れの有機塩素物質の世界的禁止に一歩、近づいた”と農薬行動ネットワーク(PAN)のメリエル・ワッツ博士は述べた。”重要な次のステップは、ジコホルの代替物質、特に持続可能な農業で安全に使用することができる非化学的代替を特定することである”。

ヘキサクロロブタジエン(HCBD)への条約の下での行動に関する勧告に失敗

ヘキサクロロブタジエン(HCBD)は、ある種の塩素化合物及びマグネシウムの製造及び焼却を含む産業プロセスから非意図的に形成され、排出される。2015年、中国はもっと情報が必要であるとして、HCBD を非意図的生成を扱う条約のある部分(訳注:付属書C)に加えることを阻止した。委員会は条約の下での行動を正当化する情報を収集したが、2015年に引き続く中国の圧力により、条約における行動を勧告することに失敗した。

   ”今回の決定は、彼ら(政府)の全ての報告書はこれらが HCBD のほとんど全ての排出を意味していることを示しているにもかかわらず、委員会は最早 HCBD の非意図的な排出は重要ではない考えているという印象を政府に与える”と、IPEN のジョー・ディガンギは述べた。”次回の締約国会議で、各国政府は非意図的排出に関する行動のために、条約に HCBD を追加するよう働き続けるべきである”。

産業界の影響

 最後に、今年の会合は、POPRC 委員と政府代表の立場及び決定への産業側の影響によって特徴付けられた。”会議から肯定的な結果も得られたが、産業側による免除の範囲拡大要求が政府代表によって進められ、擁護された”と IPEN 共同議長のパメラ・ウィラーは述べた。 ”人の健康と環境を守ることを主要な使命とする公の政府機関の共犯を見ることは不幸なことであり、そのことは、POPRC プロセスにおける産業側の不当な影響についての倫理的懸念を提起するものである”。

 残留性有機汚染物質検討委員会(POPRC)は、ストックホルム条約の従属組織であり、同条約へのリストを提案された化学物質を検討するために設立された。POPRC は、提案された化学物質のために検討プロセスを実施し、その化学物質が、長距離環境移動の結果として世界的な行動が正当化されるような人及び/又は環境に著しい有害影響をもたらしそうかどうかを決定する。もし世界的行動が正当化されれば、POPRC は、その化学物質についてより深く検討する。この検討に引き続き、POPRC は新たな化学物質をリストすることについて締約国会議に勧告する。 POPRC の委員は政府が指名した化学物質の評価と管理の専門家である。

原注1
 ・ENDS: UK submits industry lobbyist comments to Stockholm Convention expert committee


訳注1
 ・IPEN 2016年9月21 ENDS ニュース:イギリスは産業側ロビーイストのコメントをストックホルム条約専門家会議に提出

訳注:参考情報
 ・IPEN 2016年9月 POPRC12 に関する IPEN の見解へのクイックガイ



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