IPEN 2016年9月
POPRC12 に関する
IPEN の見解へのクイックガイド


情報源:IPEN September 2016
Quick Guide to IPEN Views on POPRC12
http://ipen.org/sites/default/files/documents/
Quick%20IPEN%20Views%20POPRC12%2012%20Sept%202016.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2016年9月23日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/POPs/IPEN/
September_2016_Quick_Guide_to_IPEN_Views_on_POPRC12.html

ジコホル(有機塩素系農薬)

 ジコホル(訳注:日本では第一種特定化学物質)は、北極を含んで多くの湖や流域に見られる酸性環境下で残留性がある。外洋への及び遠隔地域への河川水流入を通じて移動するのに十分な残留性がある。6.06 までのオクタノール/水分配係数(logKow)が、実験データからの 10,000 までの生物濃縮係数によって支持されていることが報告されている(訳注1)。推定される空気中での半減期は 3.1〜4.7 日であり、ジコホルの長距離移動の能力を確認している。ジコホルはテクニカル DDT から製造され、現状の DDT 汚染の潜在的な汚染源である(訳注2)。ジコホル及び/又はその代謝物は、ミルク、粉ミルク、卵、果物野菜、人間の母乳、初乳、血液中で検出されている。 内分泌系、免疫系、及び生殖系への影響の証拠があり、がんについても限定された証拠がある。ジコホルは鳥類の生殖機能をかく乱する。
▼ ジコホルは附属書Eの基準に合致しており、付属書Fの評価に進められるべきである(訳注3)。

PFOA(ペルフルオロオクタン酸)

 PFOA は非常に残留性が高いので、環境的半減期を測定できない。PFOA は、水、雪、大気、底質、及び北極を含む遠隔地の生物相中に見いだされる。生物蓄積性の評価には、その特性の考慮が求められる。PFOA はオクタノールと水の表界面で乳化するので、 logKow 値は測定できないし推定することもできない。さらに、PFOS のように PFOA は、脂肪パーティショニングよりもむしろタンパク質結合蓄積メカニズムを通じて蓄積する。栄養生物濃縮を検証し人間を観察するデータは PFOA が生物蓄積することを示している。PFOA は、魚類の内分泌機能をかく乱し、げっ歯類の研究では様々な腫瘍を引き起こす。人間では、PFOA はコレストロールのレベルを高め、甲状腺機能をかく乱し、用量に関連して腎臓及び精巣がんを増加させ、胎盤を通じて胎児に、母乳を通じて乳児にに移行する。人間では、PFOA は高コレストロール、炎症性疾患、潰瘍性大腸炎、甲状腺障害、免疫系への影響、妊娠高血圧症候群、内分泌かく乱、神経発達及び生殖系発達の障害と関係がある。PFOA は、胎盤を通じて胎児に、母乳を通じて乳児にに移行する。PFOA 関連化合物は PFOA に分解することができ、環境汚染の原因となるので、PFOA 放出を取り除くよう設計された行動に含まれなくてはならない。PFOA 関連化合物には、フッ素テロマーアルコール、フッ素ポリマー、フッ素テロマーに基づくポリマーがある。
▼PFOA は、付属書Eの審査基準を満たしており、付属書F評価に進めるべきである(訳注3)。

SCCPs(短鎖塩素化パラフィン)

 POPRC11 において委員会は、長距離移動の結果、 SCCPs は世界的な行動が正当化されるような人間の健康と環境への著しく有害な影響をもたらすようであると結論付けた。SCCPs は主に、金属加工における潤滑剤及び冷却材として、また塩ビプラスチック中で難燃剤として使用されている。SCCPs が禁止されている国々における新製品の分析は、子ども用のおもちゃと衣類、スポーツウェア、育児用品、台所用品、電子機器、浴室用品の中に引き続き存在しており、あるものは高い濃度で許容レベルを超えるものがあることを発見した。全ての既知の用途で、技術的に実行可能であり、コスト効果があり、代替品が利用可能である。金属加工のための非化学的代替には、非塩素系であるキャノーラ(セイヨウアブラナ)、ひまわり、及び大豆からの油のような生物ベースの代替品がある。代替技術には、超臨界 CO2 、ドライ加工、極低温加工がある。難燃剤のための SCCPS の非化学的代替品には、本質的耐火性物質、着火バリア、製品再設計がある。最も効果のある管理措置は、付属書に例外条件なしに、そして締約国に他の CP 混合物中の SCCPs を制限し、条約の第2節の条項に従って輸出と輸入を行うことを求める追加的意見を付けて、 SCCPs を付属書にリストすることである。残念な代替となることを防ぐために、POPs 特性又はその他の有害特性を示す他の化学的代替物質はもちろん、 MCCPs と LCCPs は SCCPs への代替物質として考慮されるべきではない。
▼ SCCPs は、特定の例外なしに、付属書Aの注記(i)の中に他の CP 混合物中での SCCPs の制限を求める追加的意見を付けて、付属書Aにリストすることを勧告する(訳注3)。

DecaBDE(有機臭素系難燃剤:デカブロモジフェニルエーテル)

 古い予備品のために自動車産業により提案された c-decaBDE の3つのグループの免除は、その必要の独立した根拠はなく、非常に多数の個別部品を含む。もっと問題なのは、自動車産業の免除要求の根拠は、彼らのテスト費用を削減することであり、実際の代替に対する障壁ではないということである。ストックホルム条約は、 POPs の製造と使用を許すための助成金を提供するために誤用されるべきではない。自動車産業は、 c-decaBDE を含まない一般的部品、とりわけワイヤー、ホース、ケーブル、パイプ、及び織布の部品を、新規追加導入して使用すべきである。もし5年間の特別免除が考慮されるなら、自動車産業は難燃性の必要性、代替の不可能性の証明、及び次の分類で特定の部品を市場から撤去する時間枠を示すべきである:動力伝達機構、排気マニホールドブッシング、フード断熱、燃料タンク、車体下燃料タンク。
 軍用の車両と航空機を含めるために c-decaBDE 製造と使用の免除を広げることを正当化するためのどの様な情報も委員会に示されていない。ボーイングは主要な民間用及び軍用航空機の製造者でりあり、航空機のための免除は必要ないことを示しつつ、 c-decaBDE を2018年までに廃止するとしている。もし、 POPRC がc-decaBDE のためのどの様な免除をも勧告するなら、POPRC はまた、締約国が第6条の要求を満たすために c-decaBDE を含有する廃棄物を特定することができるよう、 c-decaBDE を含有する新製品にラベル表示することを勧告すべきである。これは、HBCD (SC-6/13)をリストする時に合意されたことと同様である。
▼DecaBDE は特定の免除なしに付属書Aにリストするよう勧告されるべきである(訳注3)。

HCBD(ヘキサクロロブタジエン)

 HCBD は、ある種の有機塩素化合物の製造、マグネシウムの製造、及び焼却を含んで、産業プロセスから非意図的に形成され、排出される。様々な技術が、代替的製造プロセス、改善されたプロセス制御、排出管理措置を含んで、又は関連する塩化化合物の代替により、これらの排出を最小化し、なくすために用いることができる。付属書Cへのリストにより義務付けられる BAT/BEP 技術の適用は、 HCBD の排出を削減し、なくすことに役立つであろう。

PFOS (ペルフルオロオクタンスルホン酸)代替物質

 PFOS 代替物質に関するガイダンスは、締約国がコスト的に残念な代替を防止できるよう、代替物質に関する健康・安全情報を完全なものにするために、明確な勧告を伴うべきである。POP 特性を持つ代替物質はガイダンスに明確に示されるべきである。さらに、決議 POPRC-6/2 から PFOS リスク削減に関する POPRC 勧告を含めることは有用である。廃棄物の流れの中の製品に関する条項は、ストックホルム条約はバーゼル条約とは異なる目標と目的を持ち、廃棄物に関するその簡単な条項はこの文書の中で全く適切なので、廃棄物に関するオリジナルの文言を復元することから利益を得るであろう。ガイダンスは生きた文書であるべきであり、新たな情報が利用可能になれば、更新されるべきである。
▼ PFOS ガイダンスは締約国とオブザーバーの利用を可能にし、COP8 に提出されるべきである。

PBDE(ポリ臭化ジフェニルエーテル)の評価

 報告書草案は、締約国にとっては非常に重要な情報を提供する。BDE を含有する製品が多量に使用されている国々においては、制限又は禁止が適切である。しかし、 PBDE 廃絶の最大の課題は、特に発展途上国及び移行経済国において廃棄物とリサイクルの問題を必然的に伴うことである。 POPRC-6/2 で、委員会は締約国に、 PBDEs 廃絶に関連して、ポリ臭素化ジベンゾダイオキシン(PBDD)及びポリ臭素化ジベンゾフラン(PBDF)の排出に関する情報を生成し、収集するよう勧告した。この情報は、利用可能になった時に、事務局報告書に加えることは有用であろう。同じ決議が、保管、区分け、処理、リサイクル、回収、又は処分作業中の PBDEs 暴露の評価を勧告したが、この情報もまた、利用可能になった時に、事務局報告書に加えることは有用であろう。
▼臭化ジフェニルエーテルの評価とレビューのための報告書草案は、締約国に非常に有用な情報を提供する。 PBDD/PBDF の保管、区分け、処理、リサイクル、回収、又は処分作業中の排出と暴露に関する追加的情報による更新は、報告書が提起する問題に関して、政策決定者に強固な根拠を提供するであろう。


訳注1
 ・オクタノール/水分配係数と生物濃縮性(EICネット)

訳注2
 ・大気中の残留性有機汚染物質を測る/高澤 嘉一(国立環境研究所)
 ・・・最近発表された報告は,中国国内(特に南部の長江流域)で以前に散布されていた殺虫剤の一種であるジコホルに,不純物としてかなりの量のo,pユ-DDT(40〜160g/ジコホル1kg)が含まれていたことを指摘しています。

訳注3
 ・「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)の概要/経産省
 条約対象物質の追加の手続
 ・附属書A 意図的な製造及び使用を原則禁止。環境上適正な処理を行う等の場合を除き、輸出入を原則禁止。
 ・附属書B 意図的な製造及び使用を制限。環境上適正な処理を行う等の場合を除き、輸出入を原則禁止。
 ・附属書C 非意図的生成物の排出を削減
 ・附属書D (情報の要件及び選別のための基準)に掲げられた情報を記載した物質追加提案書を提出
 ・附属書E (リスクプロファイルに関する情報の要件)に関する情報の提出
 ・附属書F (社会経済上の検討に関する情報)に関する情報の提出



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