欧州食品安全機関(EFSA) 2023年4月19日
食品中のビスフェノール A は健康リスクである

情報源:European Food Safety Authority (EFSA), 19 April 2023
Bisphenol A in food is a health risk
https://www.efsa.europa.eu/en/news/bisphenol-food-health-risk

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年5月24日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/edc/EU/
230419_EFSA_Bisphenol_A_in_food_is_a_health_risk.html


 食事によるビスフェノール A (BPA) への暴露は、あらゆる年齢層の消費者にとって健康上の懸念であると、EFSA の科学専門家らは新たな再評価で結論付けた。

 EFSA の専門家らは、科学的証拠の広範な評価とパブリック・コンサルテーションからの情報をもとに、免疫系に対する潜在的に有害な健康影響を特定した。

 欧州委員会と各国当局は、EFSA の勧告に対応するための適切な規制措置を議論する予定である。

 BPA は、特定のプラスチックや樹脂を製造するために他の化学物質と組み合わせて使用される化学物質である。

 BPA は、例えば、ウォーターディスペンサー、食品保存容器、再利用可能な飲料ボトルの製造に使用される透明で硬いタイプのプラスチックであるポリカーボネートプラスチックに使用されている。 この物質は、食品や飲料の缶やバットの保護コーティングやライニングに使用されるエポキシ樹脂の製造にも使用される。

 食品の容器に使用されている BPA などの化学物質類は、含まれる食品や飲料に微量ながら移行する可能性があるため、EFSA の科学者らは新しいデータを考慮しつつ、その安全性を定期的に見直している。

膨大なデータセット

 EFSA の食品接触材料、酵素及び加工助剤に関する委員会委員長のクロード・ランブレ博士は次のように述べている。”2006年にこの物質の最初の完全なリスク評価を行って以来、我々の科学者らは長年にわたって BPA の安全性を詳細に調査してきた”。

 ”この再評価のために、2013 年1月以降に発表された 800以上の新しい研究を含む、膨大な量の科学出版物を精査した。これにより、BPA の毒性に関する重要な不確実性に対処することができた。

 ”研究では、脾臓内のヘルパー T と呼ばれる白血球の一種の割合の増加が観察された。 これらは我々の細胞免疫機構において重要な役割を果たしており、この種の増加はアレルギー性肺炎症や自己免疫疾患の発症につながる可能性がある”と彼は述べた。

 委員会は、リスク評価で特定された、生殖、発達、代謝システムに対する他の潜在的に有害な健康影響も考慮した。

体系的なアプローチ

 EFSA の BPA 再評価作業部会の議長であるヘンク・ヴァン・ローレン博士は、次のように述べている。”我々の先の2015年の評価(訳注:欧州食品安全機関(EFSA) 2015年1月21日 ビスフェノールA 暴露による消費者の健康リスクはない BPAの安全レベルを 50μg/kg bw/day から 4μg/kg bw/day に引き下げ/当研究会ウェブページ)の区切り点であった 2013年以降に発表された大量の研究を評価するために、我々は体系的で透明性のあるアプローチを適用した。 我々は、利害関係者及び加盟国の管轄当局の意見をもとに、すべての証拠を選択及び評価するための手順を事前に開発した。

 ”我々の調査結果は、数年にわたる集中的な評価プロセスの結果であり、2021年12月に開始された 2か月間のパブリック・コンサルテーションから収集した意見を使用して最終的に決定された”と彼は付け加えた。

摂取閾値の下限

 EFSA の専門家委員会は、2015年の前回の評価と比較して、BPAの耐容1日摂取量(TDI)、つまり、重大な健康リスクを引き起こすことなく生涯にわたって毎日摂取できる量を大幅に引き下げた。

 2015年、EFSA の専門家らは、BPA の毒物学的影響に関する追加データの必要性を強調しつつ、証拠の不確実性を理由に暫定的な TDI を設定した。

 この新たな再評価はこれらのギャップのほとんどに対処し、TDI を設定する際には残りの不確実性が考慮された。

 EFSA の科学者らは、1 日あたり体重 1 キログラムあたり 4 マイクログラムという以前の暫定レベルに代わって、1 日あたり体重 1 キログラムあたり 0.2 ナノグラムという TDI を設定した。

 新たに確立された TDI は約 20,000 分の 1 である。

BPAへの暴露

 新しい TDI と BPA への食事暴露の推定値を比較することにより、EFSA の専門家らは、すべての年齢層で BPA への”平均暴露”消費者と”高暴露”消費者の両方が新しいTDIを超えており、健康上の懸念を示していると結論付けた。

 我々の専門家委員会は 2015 年の評価からの暴露推定値を使用したが、2015 年以降に 欧州議員らによりこの物質の一部の使用に関して導入された制限により、食事摂取量が減少した可能性があることを認めている。 これは、シナリオが保守的であることを意味する。

 人体、遺伝学、栄養へのその他のストレス要因など、いくつかの変数が個人の全体的な健康リスクに影響を与える可能性がある。

共同報告書

 EFSA は、科学的評価草案に関する諮問に加え、2017 年に提案された方法論を説明する議定書についても公的に諮問した。

 また、EFSA の科学者らは、健康への悪影響の発現の可能性を示す初期の兆候である”中間エンドポイント”の使用など、明らかになった相違点を明確にする、及び/又は解決するために、他の科学団体と方法論及び調査結果について議論した。

 これに関連して、EFSA は欧州医薬品庁(European Medicines Agency/EMA)及びドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)との議論をまとめた共同報告書を発表した。

 このようなパートナーや利害関係者との議論は、最新の科学的知識と潜在的なリスクの理解を考慮した、安全性評価に使用されるリスク評価手法のさらなる開発に役立つ。

次のステップ

 EU の意思決定者ら、つまり欧州委員会と加盟国の代表者らは、食品包装から食品に移行する可能性のある化学物質の量の制限を設定する責任がある。

 BPA に関する EFSA の科学的アドバイスは、消費者を保護するために取るべき適切な規制措置に関する EU 議員間の議論に役立つことになるであろう。

科学へのリンク

 食品中のビスフェノール A (BPA) の存在に関連する公衆衛生へのリスクの再評価
 平易な言葉での要約科学的見解


訳注:関連情報


化学物質問題市民研究会
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