BAN ブリーフィング・ペーパー 5 2009年5月
合法的な難破船
IMO条約は有害船舶の投棄を合法化する

バーゼル条約に逆行する

情報源:BAN briefing paper 5 / May 2009
Legal Shipwreck: IMO Convention Legalizes Toxic Ship Dumping
Running from Basel to Turn Back the Clock
http://archive.ban.org/library/BP05_May_2009.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月1日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/shipbreaking/BAN_May_09_Legal_Shipwreck.html



 非常に危険な船舶解体を”安価”にするために、アスベスト、PCB類、有毒な塗料、殺生物剤、燃料油残渣、その他の有害物質を搭載した外航廃船を金持ちの船会社や国から地球上で最も貧しい社会のある地域に送ることは、まさにバーゼル条約やその後のバーゼル条約修正条項(Basel Ban Amendment)がそのことを阻止するため設計された、恥ずべき搾取そのものである。

 結局、船舶解体の悲劇は、本来、海事の問題ではない。それは、純粋に経済のこととして正当化された悲惨な廃棄物管理、すなわち途上国の疑いを持たぬ社会に産業のコストを外部化することによる結果がもたらした悲劇である。すべての危険が抑制され、リスクが最小化され、すべてのコストが内部化されることを確実にする技術、社会的基盤、及び社会的安全ネットを持つ国において適切にリスクと自身の責任を取ることをせずに、この産業は古い船を解体するという非常に危険な仕事を、安価で文字通り世界で最も貧しい必死に職を求める労働者たちに、単に彼らがそれを引き受けるという理由で押し付けてきた。
 これこそがバーゼル条約が生まれたまさにその理由−そのような形の搾取を終わらせることであり、1995年には、先進国はどのような理由であっても、たとえリサイクルという名目であっても途上国にどのような有害廃棄物も輸出することは許されないと主張した理由である。

 しかし、強力な船舶産業は、彼らの客であるノルウェー、日本、ギリシャによって先導されて、もしバーゼル条約という道義に基づいた考え方が彼らの産業を支配することになると、コストの外部化という不正義によって得られる彼らの利益幅が侵食されると考えた。
 バーゼル条約が世界の船舶解体危機に真剣な目を向け始めると、強力なギャング集団は、バーゼル条約はこの問題に対応するには役に立たないと主張する陰謀を企てた。船主に利用可能な抜け穴をバーゼル加盟国がふさぐことを許す代わりに、彼らは国連のクラブハウス−国際海事機関(IMO)を隠れ蓑として逃げた。産業側の戦略は、ひとつの国連機関(IMO)を使って他の機関(バーゼル)の目的を掘り崩すということであることは明白である。

 IMO船舶解体条約は、この皮肉な戦略の結果である。産業はIMOが弱いからではなくてIMOの下に支配しやすい体制を期待したのである。そしてIMOは産業側が指示したものを忠実に産み出していることは現在、明らかである。そのようにして、彼らは時計を逆回りさせ、バーゼル条約で確立された画期的な原則と義務を捨て去ったのみならず、人権と環境に関連する長い間に培われた多くの原則を保護にしようとしている。

船を解体するために原則を破る

 国際的な政策においてすでに確立されている下記の原則がIMO条約によって無視されたか覆された。

■汚染者負担/製造者責任原則

 リオ宣言第16原則は、環境コストの内部化の促進を主張し、汚染者負担/製造者責任原則を取り入れた。廃船を適切に管理するためのコストは、それらが有害廃棄物を積載しているときに重要である。これらのコストはIMO条約の下に、船主によって都合よく回避された。彼らはこれらのコストを地球上で最も危険な仕事のひとつをしている最も貧しく最も装備の不足している労働者に負わせ続けることができる。

(訳注:リオ宣言第16 原則/環境省仮訳)
 国の機関は、汚染者が原則として汚染による費用を負担するとの方策を考慮しつつ、また、公益に適切に配慮し、国際的な貿易及び投資を歪めることなく、環境費用の内部化と経済的手段の使用の促進に努めるべきである。

■環境正義/有害非移動原則

 IMO条約は、そのほとんどを富める先進国で所有する世界の有害廃棄物船の90%以上の危険とリスクをほんの一握りの途上国が対処しているという状況を変えるために何も役立たないであろう。これは危害を他国へ移動しないこと求めるリオ宣言第14原則、及び誰も世界の危害の負荷を不公平に受けるべきではないとする環境正義と正反対である。実際、これはまた、バーゼル条約(4,2,b)に盛り込まれている廃棄物管理の国内処理原則を侮辱するものである。

(訳注:リオ宣言第14 原則/環境省仮訳)
 各国は、深刻な環境悪化を引き起こす、あるいは人間の健康に有害であるとされているいかなる活動及び物質も、他の国への移動及び移転を控えるべく、あるいは防止すべく効果的に協力すべきである。

(訳注:バーゼル条約(4,2,b)/環境省仮訳)
 (b) 有害廃棄物及び他の廃棄物の環境上適正な処理のため、処分の場所のいかんを問わず、可能な限り国内にある適当な処分施設が利用できるようにすることを確保する。

■代替原則/廃棄物防止原則

 廃棄物管理はIMO条約の中心的な機能ではないが、造船にとって今後の船舶は有害物質を含まないことを確実にすることが当然の課題であるのに、IMO条約はその機会を逸している。IMO条約案は、すでに禁止されている(例えばPCB類やアスベスト)以外の有害物質の禁止や段階的廃止をしていない。同条約は前文で代替原則を引用しているが、拘束力のある本文では、船の有害物質を調査し常により安全な代替物を選ぶための定期的な見直しプロセスが実現されていない。

■環境的に健全な管理

 条約案は環境的に健全な管理を支持すると称しているが、IMO はそれを定義し、安全で健全な船舶リサイクルを構成するものに義務的な基準を設定することを拒否した。むしろ彼らはガイドラインを作成し、それを船舶解体国に渡し、何をなすべきかの決定を彼らに任せることを期待しているだけである。しかし、今日まで、船舶解体国は既存のIMO、ILO、バーゼルのガイドラインを実施することに失敗し、義務的な基準なしには、このことが急に変わる理由は存在しない。
 多くの人が言うように、IMO条約は悲惨な船舶解体方法である”ビーチング方式”を非難すらしていないが、この方式は、繊細な海岸地帯や干潟を守ることなく有害廃棄物を扱い、事故時に緊急装置で人を救出したり、重い船の切断片を吊り上げるクレーンを船側に据え付けることが不可能である。廃油と有毒物質を含んだ船のビーチング方式に関するIMO の”中立性”が、彼らの環境安全管理(ESM)に対する約束を悲しくも物語っている。

バーゼル条約の否定:同等の管理レベルではない

 2004年、第7回加盟国会議で、バーゼル条約加盟国は決議VII/26 を採択したが、それはバーゼル条約は廃船(end-of-life ships)に適用すると明確に述べ、さらに、”解体に向けられる船舶の報告システムを含んで、バーゼル条約の下に確立されたものと同等の管理を確実にする義務的な要求の規制を制定することの検討を継続する・・・”ためにIMOを招いた。

バーゼルと IMO:同等か?
バーゼル条約 IMO 条約
全ての船舶を含む。 全てではない。政府の船/小型船は含まない。
廃棄物と有害廃棄物の世界的な定義を確立している。 確立していない。有害廃棄物又は廃棄物の現行バーゼルの定義を認めることを否定。危険性が存在しても特別の貿易管理を行わない。
違法な貿易は犯罪であるとみなす。 犯罪とみなさない。違法は必ずしも犯罪ではない。
港湾国による執行/検査の可能性は無制限。 無制限ではない。積み荷を検査するための港湾国の管理は厳しく制限されており、積み荷リストの確認ができない。
国はより厳格な要求を課すことが許される。国はどのような廃棄物の輸入も禁止することが許される。 許されない。そのような条項はない。
有害廃棄物の、特に途上国への国境を越えた移動を最小化する義務がある。 義務はない。途上国が有害廃棄物の負担を不公平に負わされることを回避するために最終航行の前に事前に汚染を除去するという条項/概念はない。
全ての廃棄物(例えば船舶)の管理のために国の能力を供給する義務がある。 義務はない。地域ベースであっても、国は国内処理を達成することを期待されていない。
輸出国は船舶解体国の環境安全管理(ESM)を確認するまで輸出をしないことを確実にする義務がある。 義務はない。例えESMが確実ではないと信ずる理由があっても、どのような国も船の輸出/最終航行及び入港を妨げる権利はない。
輸出に先立ち、輸出国、輸入国、及び通過国の相互の通知と合意が求められる。 求められない。港湾国、旗国、及び船舶解体国間のコミュニケーション(通知と合意)は求められない。
”環境的に健全な管理”を定義している。 定義していない。ESMを定義しておらず、船舶リサイクルのためのESMを達成するための義務的基準を記述していない。

 IMO条約は、基本的な原則のみならず、実際の管理メカニズムと義務においても明らかに逸脱しているので、バーゼル加盟国はIMO条約が”同等の管理”を達成すると結論付けることは不可能である。しかし、たとえIMO条約自身の条件と期待されることに目を向けることだけに限定したとしても、管理メカニズムと実施がそのような管理を行うことにほとんど自己利益がない(下記に述べるような)当局に頼っているので、同条約は結局失敗すべきものである。

IMO はキツネをトリ小屋に入れるようなものだ
(人や環境を守るどころか、むしろそれらを害する)


旗国:多くの旗国政権は、彼らが新たな条約の下に持つことになるどの様な責任も果たすことを嫌がる又は果たすことができないということはよく知られている。このことは、いわゆる”置籍船(flags of convenience / FOC]”国のケースが特に問題である。置籍船は、税、手数料、規制を軽くすることにより低コストを約束する。例え、置籍船国のいくつかががIMO条約を批准しても、彼らはしばしば、それらを実施するためのリソース又は意志に欠ける。置籍船の公開登録の市場は事実上、最小の説明責任、最小の責任を求める入札ゲームである。このことは、条約の批准の問題に、また、もし批准が受け入れられたとしても、その順守に関連するので、明らかに悲惨な前兆である。

港湾国:あるIMO体制に関して、港湾国管理は上述した旗国にかかわる問題の改善に利用できる。しかし、港湾国当局にとって自己利益がない場合には、このモデルは揺らぐ。この要求は港湾国の環境に現在も将来も影響を与えないので、船が目録の有害物質を運んでいるかどうか調べることに港湾国が関心を持つはずがあるであろうか?

船舶解体国:長年の世界的な懸念にもかかわらず、主要な船舶解体国は、金持ちで影響力のある船舶解体場の所有者に彼らの船舶リサイクル現場の条件を著しく改善するための措置を取るよう圧力をかけることにまだ消極的である。彼らは、干潟における安全で健全な管理を実施せず、また、することができず、解体現場を認可し続けている。旗国と同様に、船舶リサイクル産業は最も安いリサイクル・コストに基づく競争である。新たな条約がそのどれをも求めない、ビーチング方式の禁止、義務的要求、及び第三者の審査がなければ、船舶リサイクル国は意味のある真の改革を回避することができるということ長年、知っているので、新たな条約を批准するよう説得される結果となるであろう。



海岸から離れる:残念ながらIMO最後のチャンス

 条約案は、悲惨な現状を単にグリーンに見せかけるよう設計された、船舶産業によって船舶産業のために作られた”ゴム印”条約である。もし、このまま採択されるなら、この条約は、長い間確立されてきた世界の原則を逆行させ、バーゼル条約と”同等の管理レベル”を提供できず、責任ある組織が非常に儲かり道徳に反する船舶投棄ビジネスモデルを変える動機をほとんど与えない。現在に至るまで長年、市民社会は、ノルウェー、日本、ギリシャのような海運大国に意味のある条約にするよう要請してきたが、今日まで彼らは全くそのようにしなかった。合法的な難破船とだけ見られる様なことを防ぐIMO最後のチャンスは、危険で持続可能ではない海岸での船舶解体方法を断罪することである。5月に香港でIMOは我々に加わり、”海岸を離れろ!”と言わなければならない。


The Basel Action Network
122 S. Jackson St., Suite 320
Seattle, WA, 98104
USA Phone: 1.206.652.5555
 Fax: 1.206.652.5750
E-mail: inform@ban.org
Website: www.ban.org


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