BAN 有害廃棄物ニュース 2006年10月17日
コートジボアールの悲劇は有害廃棄物取引の増大に光を当てる
(事件の経緯と背景の要約)


情報源:Toxic Trade News / 17 October 2006
From rich to poor: Ivory Coast tragedy highlights hazardous waste trade on rise
http://www.ban.org/ban_news/2006/061017_rich_to_poor.html

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年10月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/BAN/06_10_17_Ivory_tragedy.html

(訳注:事件の経緯と背景について要約し、バーゼル条約について解説を少し加えました。)

事件の経緯
  • 2006年6月2日、韓国で建造、ギリシャが船主、パナマ船籍、オランダの大商社トラフィグラ・ビヒールBVにチャーターされたタンカー、”プロボ・コアラ号”はアムステルダム港に入港した。
  • 同船は、未精製のガソリンの輸送船で、いつもの通り苛性ソーダでタンク内洗浄を行った後の洗浄残渣廃棄物を同港で処分しようとした。
  • アムステルダム港湾当局は、当初その廃棄物の処理を15,000ドル(約170万円)で合意したが、その後、予想したより量が多く困難そうであったので値段をつり上げた。
  • トラフィグラ社はそれを拒絶して出港し、まずエストニアに、次にアフリカに向かい、コートジボアールのアビジャン(コートジボワールの最大都市)でトミーという会社を見つけ、同社が当初の値段で処理をすることとなった。
  • しかし、トミー社はその廃棄物を処理する施設を持っておらず、コートジボアールでそのような施設を持っている会社も他にはなかった。
  • コートジボアール当局と目撃者によれば、8月19日の真夜中、トミーの契約した12台以上のトラックが528トンの廃棄物をアビジャン周辺の沼地にある市のゴミ捨て場、刑務所に面した道路沿いの空き地、排水溝など、17か所の公共の場所に捨てた。
  • 人々は激しい異臭で目が覚めた。腐った卵と焼いたにんにくと玉ねぎの混ざった臭いで、朝までに目はチカチカ痛み、鼻血が出て、胃、胸、耳が痛んだ。
  • 後に分析すると、そのスラッジはメルカプタン(訳注:アルコールの酸素原子の変わりに硫黄原子がついたものでスカンクのにおいなど悪臭の元)と硫化水素を含んでいた。
  • オランダ、エストニア、及びコートジボアールは捜査に着手した。トラフィグラ社は法を犯していないと主張した。
  • コートジボアール当局は、コートジボアール担当官4人、トミー社のナイジェリア人の社長、及びトラフィグラ社の二人のフランス人役員の計7人を逮捕した。
  • 多くのコートジボアールの住民が廃棄物の投棄を許した彼らの政府に向けられ、港湾当局高官の家が焼き討ちにあい、罷免された運輸大臣は車から引きずり出されて殴られた。
  • 10,000人以上のアビジャン治療を受けたと見られ、69人が入院し、10人が死んだが、その正確な原因は未だに分らない。
  • (訳注:コートジボアール首相チャールス・コナン・バニーはこの事件のために内閣を解散した。)
  • 9月8日に派遣されたフランスの廃棄物処理会社トゥレディ・イアンターナショナル(Tredi International)社の作業員は、2ヵ月後の現在も防毒マスクをつけ白い防護服を着てブルトーザのそばで浄化作業を行っている。
  • ブルトーザは汚染されたスラッジをすくい、大きなスティール製のコンテナーに入れる。コンテナーは封入され薬品処理されて、最終的にはヨーロッパのどこかに送り返されるが、その行く先はまだ合意されていない。
  • (訳注:10月27日ロイターによれば、140箱のコンテナーに収納された汚染物質は、10月28日にフランスに向けて出港し、フランスの廃棄物処理センター、フランス・エコロジー(French Ecology)が最終処理する。アビジャンからの搬送は4回行われる予定で、今回のものはその第1船である。)
事件の背景
  • 1987年にイタリアの会社が化学廃棄物のドラム缶8,000本をナイジェリアの海岸に投棄するなど有害廃棄物投棄の不法行為は1980年代に多発し、これらの事件が国際的な有害廃棄物輸出の規制を行うことのきっかけとなり、有害廃棄物の国境を越える移動を管理するバーゼル条約が1989年に採択された。
  • (訳注:しかしこのバーゼル条約も有害廃棄物の輸出を禁止するものではなく、必ずしも有効に機能しなかったので、OECD 加盟国(訳注:現在30カ国)からそれ以外の国へ、たとえリサイクリング用であっても有害廃棄物の輸出を禁じる1994年の決議 II/12及び1995年の決議 III/1)が採択された。
  • (訳注:この禁止令は、欧州連合では実施されているが、世界的には発効されていない。アメリカ、カナダ、オーストラリア、日本などこの禁止令に反対する多くの国がこの条約に批准していない。インド、パキスタン、バングラディシュ、フィリピン、そしてコートジボワールもまたこの禁止令を承認していない)。
  • (訳注:条約改定を法的に発効させるためにはバーゼル条約加盟国(168か国)の4分の3が批准する必要がある。現在の批准国はバーゼル条約事務局のリストが示すように 62 カ国である。)
  • バーゼル条約の修正案は先進国からそれ以外の国への有害廃棄物の輸出を禁止するものであり、これにより先進国からアジア、アフリカへの有害廃棄物の流れが少しは食い止められた。
  • しかし、コンピュータやテレビなど電子廃棄物(e-waste)として知られる先進国からの廃棄物が増大しており、大きな懸念となっている。
  • 国連によれば、毎年世界中で2,000万〜5,000万トンの電子廃棄物が生成されている。
  • このような電子廃棄物には、埋められれば水系を汚染し、焼却すれば大気を汚染する鉛、水銀、その他の化学物質など有害物質を含んでいる。
  • ”有害電子廃棄物はコンテナーに詰められて毎日アフリカに運ばれており、コートジボアールで起きたように劇的ではないが、長期的にはもっと大きな有害影響を環境に与えている。それらの大部分は先進国で作られており、たいした抵抗もなく貧しい国に流れ込んでいる”とバーゼルアクションネットワークのジム・パケットは述べた。


化学物質問題市民研究会
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