トップページ | おしらせ | 警察見張番だより | 会員募集 | リンク | メール






(2002年11月11日発行)



他の頁へはこの数字をクリック





神奈川県警の組織的隠蔽は
なぜ起こったか

日弁連人権擁護大会−−基調報告として


横浜弁護士会  山田 泰



◇99年9月、厚木署警邏隊の集団暴行事件が発覚しました。一連の神奈川県警「不祥事」の開始です。以降連日のようにメディアを賑わすことになりました。

 市民として何かできないか、単発の刑事告発運動というのではなく、継続的な市民運動に発展させることはできないか。そんな思いを持つ市民オンブズマンのメンバーや弁護士などが中心となって、「警察見張番」が発足しました。活動としては、情報公開制度を通じ公安委員会や県警を監視していくことを主な目的としています。もっとも逆に本職の県警にバッチリ監視されているようです。今日お見えの佐久間哲雄弁護士に代表を務めていただいています。
 いくたの「不祥事」のなかでも、組織性、職務関連性、隠蔽性を兼ね備えるのが渡辺元本部長等の犯人隠避・証拠隠滅事件であることははっきりしています。私たちはこの刑事事件が確定したことから、この記録閲覧を中心において活動を開始することにしました。
 横浜地検は確定記録の閲覧を許可してくれ、マスキングも限定的でした。

◇私に与えられたお題は「神奈川県警の組織的隠蔽はなぜ起こったか」という大層立派なものですが、これに的確に答えられるくらいであれば、ウチが本部長やったると言いたい。そこでここではこの記録を通じて見えてきたものを4点ほど申し述べてお茶を濁すことにします。資料をお持ちの方は、29ページ、63ページあたりご覧になりながらどうぞ。 第1は、酒寄元警部補が幻覚症状を示し、腕には注射痕もあって愛人と出頭してきたのに、本部長に報告が届くまで12時間以上、誰ひとり尿検査など捜査をしていません。これは裁判において、渡辺元本部長の弁護人も指摘しておられるところですが、県警の組織的体質、病弊があった、これは、神奈川県警に限らず、警察組織の長年にわたる組織的病弊であるということを示している、更に本部長のもみ消し方針がさしたる抵抗もなく受け入れられたのもこの組織的病弊によるもの、としています。

 関係者の調書を見ると、薬物捜査を所掌する生活安全部長が汚れ役の一端を押し付けられることに多少の抵抗を示したものの、外の幹部は、監察室長を含め、もみ消し方針に異論を示していません。ただ愛人を帰してしまったためにそこからバレる、特に警視庁あたりに逮捕されたら一層組織的にダメージを受ける、そこで若干様子を見て退職にもっていったほうがよいという、時期の判断についてのみ疑問を示しました。もっともこれも間もなく本部長から一喝されてしまいました。

 警部昇任試験問題と解答というのが、3年ほど前まで警察関係の日刊紙に載っていました。自分のところの署員が他の地域で飲酒運転のうえ交通事故を起こしたと、事故現場を管轄する警察から通報があった、幹部としてどうすべきか、といった問題です。模範解答によれば、通報受理にあたって「報道関係者の事案察知の有無を確認し、察知されていなければ広報を控えるよう(事故現場の警察に)依頼する」。被害者対策も「加害者が警察官であることは隠せないので、正直に身分を明かすとともに秘密の保持について協力をお願いする」、報道対策として「組織に対するダメージを最小限にとどめるのが、この種事案処理の目的でもある。事案処理にあたる幹部を最小限にするなど秘密の保持に細心の注意を払わなければならない。また、報道関係が察知した場合の対策についてもあらかじめ対応を考えておく」としています。お集まりの方の中で「正解」がわかる、警部になれそうな人はどのくらいいるでしょうか。

 神奈川県警のもみ消し事件でも、当然のこととは言え、この趣旨が徹底されました。監察官がその部下に「マスコミに発覚したときに備えて、早めに想定問答集を用意しておいてくれ」と指示すると、手慣れたもので、依頼免職の場合、依頼免職後女性から発覚した場合、発覚している場合の3種類に分けたものが速やかに準備されます。よく報道される官僚的なものですが、それぞれ違いがあるのです。

 第2は、渡辺本部長がもみ消しに動いた動機が、県警のイメージダウンを避けるためなのかということです。生活安全部長(ノンキャリア)は、「そのころ渡辺の前任の本部長で、警察庁警備局長に栄転していた杉田和博が内閣情報調査室長に栄転するという新聞報道がなされていて、警察庁幹部の人事が取り沙汰されており、不祥事が発覚して自分の経歴に傷が付くのを避けたいと考えたに違いない」と検察官に述べています。自分が警察庁の幹部になる順番だ、それをはずされてたまるか、ということが本音ではないかと。

 第3は酒寄警部補が外事課であることもあって、秘密保持を徹底しながら警備公安部門が迅速に動き出します。女性の行動確認や素性調査(特に暴力団との繋がりの有無)では直ちにローテーションが組まれ、実家まで写真に収めます。酒寄の自宅を「任意ガサ」して、件の女性の写真を回収するなど、将来の正式捜索・差押に備えます。酒寄をホテルに軟禁しますが、そこは警察OBが勤務しているところです。監視員2名がついて、ドア前と窓側のベッドを押さえて自殺・逃亡防止を図るのです。酒寄の父親にも接触し「利用できる」とも判断します。女性に対する「手切れ金」の準備も相談しています。

 第4は一連のもみ消し工作の中で、キャリアの幹部である警備部長、外事課長は汚れ役から遠ざけられます。幹部防衛でしょうか。発覚前ですが、外事課長代理以下は本部長注意の処分を受けます。監察官はノンキャリアの課長代理に対し「今回の件で課長は処分になっていない。酒寄は表向き不倫を理由に諭示免職にしているから、通例にしたがって代理以下を処分することになった。言いたいことはあるだろうが、納得してくれ」と伝えます。これに対し課長代理は「酒寄の所属長である課長が処分を受けずにどうして自分が処分を受けるのか内心納得いかず、課長がいわゆるキャリア出あり、若くて将来もあることから、経歴に傷がつかないよう配慮したのだろうと思いました」と検察官に述べています。

◇その後警察法が改正され、神奈川県や奈良県では公安委員会の指示によって県警の監察実施結果が報告されました。神奈川県警の報告書では「一昨年以降県警察で発生した不祥事案の中には、証拠品の悪用、情報の漏えい、捜査書類の虚偽記入、証拠品・捜査書類の廃棄、被留置者に対する暴行、捜査対象者からの収賄等、職権を悪用して引き起こされたものも多い。この種事案は、県民の警察に対する信頼を最も裏切るものであり、徹底した根絶対策が必要である」と指摘されています。しかしその後、泉署において合鍵を使って女性留置場に入り込んだり廊下に連れ出したりして計7回性交渉等をもった事件が発覚し、この8月、懲役3年の実刑判決が言い渡されました。まさに「県民の警察に対する信頼を最も裏切る事件」が再び発生しました。他方この監察実施結果には、本部行事、会議、報告資料等の削減を求める声が一線に強いことなども紹介しています。幹部はどこを見て仕事をしているのか気になるところです。

◇警察改革の道は、市民が市民の目線で物を言っていく、そのために情報公開を積極的に求めていく、このようなことから始まるのではないかと思われてなりません。

トップページ | おしらせ | 警察見張番だより | 会員募集 | リンク | メール