(02/5/14作成)


 「モーツァルトのレクイエム」のトップページで、「出版されていない改訂版」として名前だけを挙げていたMarius Flothuis(マリウス・フロスワスと発音するのだそうです)の版によって演奏されたCDが発売されました。
MOZART
Requiem
クリックすると、レビューが見られます。 Jos vanVeldhoven/
The Netherland Bach Society
(Recorded:2001/10)
 このCDには、フロスワス自身によるライナーノーツが掲載されています。それを参考にしながら、この版の概要をまとめて見ましょう。

 マリウス・フロスワスは、1914に生まれて、この録音が行われた2001年に亡くなったオランダの音楽学者です。1955年から1974年までは、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の芸術監督(指揮者ではありません)を務めました。1969年には「モーツァルト自身、及び他の作曲家の作品の編曲」という論文でPh.D.を授かります。「新モーツァルト全集」のために数多く作品のの校訂を行い、1980年から1994年までは、ザルツブルクの「Zentralinstitut für Mozartforschung(モーツァルト研究のための中央機関)」の所長も務めました。また、1982年まではユトレヒト大学の音楽学の教授でもあった人です。
 
 この「フロスワス版」は、コンセルトヘボウ管弦楽団の副芸術監督だった1941年に、エドゥアルト・ファン・ベイヌムの要請で作られたものです。ファン・ベイヌムは、ジュスマイヤー版(もちろん、当時はそれしかありませんでしたが)にほぼ満足していたものの、いくつかの点で問題も感じていたのです。そこで、フロスワスは、ファン・ベイヌムと協議しながら、「より純粋」で「よりモーツァルト的」なスコアをめざして校訂作業を行いました。そのポイントは、次の4つです。

(1)少しの訂正
ほんの少し、ジュスマイヤーのオーケストレーションに手を加えています。この楽譜は出版されていないので、音を聴いて判断するしかないのですが、例えば「Dies irae」の冒頭のトランペットのリズムなどははっきり異なっているのが分かります。もっと違いがはっきりしているのが「Lacrimosa」。トランペットとティンパニによる合いの手が、リズムが変わったり、カットされたりしています。
(2)モーツァルトのテキストの修復
ジュスマイヤーによって変更された箇所を元に戻したということですが、それがどの部分なのかは確認できませんでした。
(3)トロンボーンパートの書き直し
ジュスマイヤー版では、当時の慣習に従って声楽部分にトロンボーンを重ねていますが、フロスワスは木管などですでに補強されている部分はカットしました。さらに、「Tuba mirum」のソロの後半や、「Benedictus」の中のパートもカットしています。しかし、1941年の校訂時には一般的ではなかったオリジナル楽器が普通に使われるようになった現代では、その考えにはあまりこだわってはいないようです。
(4)「Osanna」の繰り返しの解決
ジュスマイヤー版では、「Sanctus」のあとにある「Osanna」が「Benedictus」のあとでも繰り返されるのですが、1回目D-Durだったものが、2回目は「Benedictus」の調性に合わせてB-Durになっています。これを、2回目もD-Durにするために、その前に経過的な2小節を挿入しました。このような措置は、ヴァド版にも見られたものです。