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読書記録2003年9月


『ヒミズ』(全四巻)
古谷実(講談社・ヤンマガKC)2002.7/★★★★★

今までこの読書記録で雑誌の小論やマンガを扱ったことはないしこれからも
ないだろうが、これはあまりに深刻で衝撃的な問題作であり、様々な意味で
強い印象が残ったので記録をつける。

−あらすじ−

舞台は現代の日本、東京の郊外。主人公の住田は貸しボート屋のセガレ、
中学三年生。自宅は廃屋寸前のプレハブのボロ屋、風呂は銭湯で三日に一度。
父親は家族を放り出していていわゆる母子家庭、しかもその父親はときおり
金の無心に立ち寄る。経済的、社会的に最底辺の立場にある主人公といって
よい。

住田のモラルは他人に迷惑をかけないこと、
将来の夢はあえて語れば普通の善人として一生を送る、ということ。
だから、自分には才能があるとか特別な人間だなどと思っている人間が許せず、
またそうなるべく夢を追う人間が癪に障る。

ドラム缶で風呂を作った夏の近いある日、母親は住田を捨てて情夫と家出
してしまう。そのこと自体やそれによる生活上の雑事、その他の悶着事で
心身ともにくたびれ果ててしまう住田。そんな折にフラリと現れた父親を、
彼は衝動的に殺してしまう。

それまで自分が大切に守ってきたモラルを逸脱し、夢を台無しにして
しまった彼は、生きるに値しない悪人を殺して自分も自殺する、という、
新たなモラルを自分に与える。特別な人間であることを求め、
殺すに値する対象を求めて街を彷徨い歩く…。

−感想−

−『ニッポン問題。』宮台真司×宮崎哲弥の対談に触れながら−
無力感、閉塞感、虚無感…底なしの絶望とその処理について。

作者はドストエフスキーの著作を読み込んでいるようで、特に『罪と罰』
を意識して、それへのアンチテーゼとして物語が組み立てられている。
ドストエフスキーの思想の現代における無効性が宣言されているというわけだ。
作者が示した<どうにもならない絶望→自殺>へは反論を上で記してみたが、
いずれ『罪と罰』を再読し、また何か書いてみようと思う。


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