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 ストロンチウムより陽子が2個多い原子は、原子番号40のジルコニウム(Zr)です。ストロンチウムも中性子1個が陽子になって、原子番号が1多い39番のイットリウム(Y〕という原子になりますが、質量数90のイットリウムは放射能を持っているので、すぐに中性子1個が陽子に変わってジルコニウムになります。質量数90のジルコニウムは放射能を持たないので、この先の変化は起こりません。


 中性子の重さ

 ウラン-235の核分裂でできた放射能を持った原子では、中性子が陽子と電子になる変化が起きます。それでは、中性子の重さはいくらあると思いますか?予想を立ててみて下さい。
  予 想
   ア. 陽子と電子の重さの和(1.673 x 10の24乗グラム)になる。
   イ. 陽子と電子の重さの和より重くなる。
   ウ. 陽子と電子の重さの和より軽くなる。

 中性子の重さは、1.675 x 10の24乗グラムです。陽子と電子の重さの和1.673 x 10の24乗グラムよりも、0.002 x 10の24乗グラム重いのです。

 私たちの身の回りにあるものは、何か変化が起きても全体の重さは変わりません。重さが増えたり減ったりするのは、他のものが付け加わったり、そのものの一部が取り除かれるときだけです。
 ところが、陽子と電子が結合するときには、陽子の重さと電子の重さを足しあわせたものよりも重くなるのです。
 陽子と電子の結合で出来た中性子は、分解すると陽子と電子に戻ります。中性子の分解では、重さが減ってしまいます。この変化に伴う重さの減少はわずかですが、測定誤差ではありません。確かに重さの減少があるのです。
 重さが減るときには、大きなエネルギーが放出されます。電気のエネルギーが光や熱のエネルギーに変わるように、ものの重さ〔質量)も熱や光のエネルギーに変わります。


電子とβ線

 原子炉の中では、ウラン-235が核分裂しているわけですが、ウラン-235の原子は2つに分裂して、2個の原子が出来ます。たとえば、陽子数が55のセシウム(Cs)ができたとすると、残りの半分は陽子数が、37(=92 − 55)のルビジウム(Rb)という原子になります。いろいろな陽子数の組み合わせの核分裂が起きるので、ウラン原子から10種類以上の原子ができます。

 ウランの核分裂で出来る原子は、自然界にある放射能を持たない原子に比べると、いずれも中性子の数が多い原子です。中性子の数が多い原子核は不安定で、中性子の数を減らして安定な原子核になろうとする性質を持っています。このような原子核では、「中性子が陽子と電子に分かれる」変化が起こり、電子が飛び出します。この電子は、非常に大きなエネルギーを持っています。この電子の流れをβ線といいます。また、このような原子核の変化を、ベーター崩壊といいます。

 ウラン(U)原子の核分裂で出来る原子は、すべてβ崩壊をして、β線を出します。β線が放射線の1つです。原子核で変化が起きてβ線などの「放射線を出す原子を放射能がある」といいます。放射能をもつ原子を含む物質も「放射能をもつ」というのが普通です。

 中性子の分解で放出される大きなエネルギーを電子〔β線)が、外部に運び出すのですが、それでもエネルギーが残ることが多いです。残りのエネルギーは、電磁波(γ線)として放出されます。(電波やX線も電磁波ですが、γ線は電波やX線よりも大きなエネルギーをもつものです)
 β崩壊する原子からは、β線とγ線がでます。

 電子といえば、原子核の周りを回っている電子もあります。この電子に比べると、中性子の分解で出来た電子は桁外れに大きなエネルギーを持っています。それで、この電子が人体に当たると様々な障害を引き起こすのです。ただし、この電子はものの中を通り抜ける力(透過力)はあまり大きくなく、数mmのアルミニウムの板で止められます。ところがγ線の方は透過力が大きくて、数cmの鉛の板でやっと止ります。



[問題 5] 放射線の強さを比べるときに、半減期というものを使います。

 ヨウ素-131の半減期は8日、セシウム-134 は747 日です。半減期というのは、放射線の強さがはじめの半分になるまでの時間です。

 原子の数が同じ場合、ヨウ素-131からでる放射線の強さは、セシウム-134の何倍くらいあると思いますか?(1時間測定することにします)
  予 想
   ア. 100分の1くらい
   イ. 同じくらい
   ウ. 100倍くらい
   エ. その他


 10万個のヨウ素-131からは、1時間に386個のキセノン原子ができ、386個の電子がβ線として放出されます。10万個のセシウム-134からは、1時間に4個のバリウム134ができ、4個の電子がβ線として放出されます。ヨウ素131から出る放射線の強さは、セシウム134のおよそ100倍です。

 1時間に変化する原子数=原子数x0.693/半減期(時間)



半減期

 ヨウ素-131はβ線を出してキセノン原子に変わりますが、ヨウ素原子すべてが、一斉にキセノン原子に変わるわけではありません。ヨウ素-131の場合、8日で半分の原子がキセノン原子に変わり、残りの半分はヨウ素-131のままです。次の8日間で、残りのヨウ素-131のまた半分がキセノン原子に変化します。放射能をもつヨウ素原子は少しずつ減って数が少なくなりますが、原子が少なくなっても8日ごとに半分に減ることは変わりません。

 半減期が2日の原子について計算してみます。
 はじめに10万個の放射能をもつ原子があったとします。

はじめ:10,0000個
2日後: 5,0000個
4日後: 2,5000個
6日後: 1,2500個
8日後:  6250個
10日後:  3125個

の原子が残ります。ということは、はじめの2日間で5万個、次の2日間で2.5万個、次の2日間で1.25万個・・・の原子が別の原子に変わっているというわけです。

 放射能という言葉は、「原子が放射線を出して他の原子に変わる性質(能力)がある」という意味です。個々の原子についてみると、その放射能は同じで強くなったり弱くなったりすることはありません。ところが、一般的には「この食品には強い放射能がある」とか、「だんだん放射能が弱くなってきた」などと使われることが多いです。このように使われる場合に、放射能が強いというのは、放射線が多量に出ているということです。放射線の量は放射能を持った原子の数とその原子の半減期の長さで変わります。

 放射能をもつ原子がたくさんあっても、半減期が非常に長ければ、少しづつしか変化しないので、短い時間で見ると放射線の量は少ない(放射能は弱い)ということになります。

 放射能をもつ原子の数は少なくても半減期が短かければ、一気に他の原子に変わって放射線を出すので、短い時間の間は「放射能が強い」ということになります。



体内被爆と体外被爆

 私の大学に、食品に含まれるセシウムから出る放射線の測定器があります。この測定器には正しい値を測定しているかどうかを確かめるために、放射能をもつセシウムが付属品として付いています。このセシウムは顕微鏡でやっと見えるくらいの微量なのだそうですが、直径2cm、高さが0.6cmのプラスチックのケースに密閉されています。測定器の使い方を説明してくれた人は「このセシウムから出る放射線はとても弱いのですが、これを取り扱うときには、手で直接持たないでピンセットのようなものではさむほうが安全です。直接手で持つときにも、上下を挟んで持たないで、横をもって下さい」と言っていました。

 上下をはさんで持つと、指はセシウムから0.3cm離れますが、横を持つと1.0cm離れることになります。この程度の距離の違いで、指にセシウムから出る放射線が当たる量は変わるものでしょうか?皆さんはどう思いますか、予想を立ててみて下さい。

  予 想
   ア. 変わらない。
   イ. 3分の1くらいになる。
   ウ. 10分の1くらいになる。
   エ. その他

  

 放射線は四方八方に拡がります。放射線を受ける面積が同じ場合は、距離が2倍になれば、放射線は4分の1に、距離が3倍になれば、放射線は9分の1になります。セシウムの入ったケースでは、横を持ったときに指が受ける放射線は、上下を持ったときのおよそ10分の1になります。ピンセットを使うと、指とセシウムの距離が10cmくらいになります。この時指が受ける放射線は、上下を持ったときの1000分の1に減ります。

 放射線を出しているものに近ければ近いほど、多量の放射線を受けます。

 放射能をもつ原子の中でも、水に溶けやすくて土から植物に吸収されやすいものと、気体物質が特に心配されています。前者は食品として、後者は空気に混じって体内に入るので危険が大きいのです。放射能をもつ原子が体の中に入ると、体を作っているいろいろな分子のすぐそばで放射線を出します。それが微量でも、体の外から放射線をあびるときとくらべて、桁違いに多量の放射線を受けることになります。その結果、体に良くない分子が作られる可能性がとても大きくなります。

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