<カリウム-40の自然放射能>
[問題 1]
原子番号19のカリウム(K)は、すべての生物の細胞に含まれている原子で、刺激の伝達に大切な役割を果たしています。窒素、リンとともに植物が大量に必要とするもので、カリ肥料として広く使われています。
自然界にあるカリウム原子の大部分は、放射能を持っていませんが、カリウム原子の0.012%は放射能を持っています。この原子の質量数は40なので、カリウム-40といいます。
カリウム-40が放射線を出すと別の原子に変わりますが、なんという原子に変わると思いますか? (放射能を持たないカリウム原子は、質量数39のものが93%、41のものが7%存在しています。)
予 想
ア. β崩壊して、原子番号20のカルシウム-40になる。
イ. β崩壊とは違う変化をする。
ウ. その他
カリウム-40は、放射線を出して他の原子に変わりますが、その変わり方には2種類あります。1つはβ崩壊でカルシウム-40に変わります。もう1つは、「電子捕獲」といって陽子が原子核のすぐ外側を回っている電子をとらえて結合して、中性子になる変化です。この「電子捕獲」が起きると、陽子が1こ減り中性子が1個増えます。陽子が1個少ない原子に変わるわけです。陽子が19個のカリウム-40が「電子捕獲」をすると、陽子が18個のアルゴンという原子に変わります。カリウム-40の89%は、β崩壊をしてカルシウム原子になりますが、残りの11%は「電子捕獲」でアルゴン原子になります。
空気中には、1%ほどのアルゴン原子が含まれていますが、その中にはカリウム原子からできたものもあるわけです。
カリウム-40のβ崩壊では、β線しか出ませんが、「電子捕獲」では電磁波の1種であるγ線がでます。
カリウム-40の半減期は、13億年です。
半減期から、地球ができたとされる約50億年前に、カリウム-40の存在割合がどのくらいだったかを計算できます。カリウム-40の場合、半減期の13億年経つと半分になるのですから、13億年前には今の2倍ありました。さらにその13億年前はその2倍、今の4倍ありました。13×4=52億年前には、今の2×2×2×2=16倍、%では0.012×16=0.192(%)となります。
地球ができたころ、カリウム-40は0.2%ほどだったことがわかります。(ただし、新しくカリウム-40ができないとします。〕
人の体には、体重の約0.2%のカリウムが含まれています。体重60kgの人では、約120gのカリウムが含まれています。体の中にあるカリウムでも、その0.012%は放射能をもつカリウム-40で、0.014gあります。
体重60kgの人の体の中にあるカリウム-40から出る放射線はどのくらいの量だと思いますか?
食品では1kg当たり1秒間に370個以上の原子がβ崩壊をして放射線を出すものの輸入が禁止されています。この値と比べてどうでしょうか?
予 想
ア. 輸入禁止の1kgの食品よりずっと少ない。
イ. 同じくらい。
ウ. かなり多い。
1秒間に放射能をもつ原子が崩壊する数は、次の式で計算できます。
0.693 ÷ 半減期(秒)× 原子数
体重60kgの人について計算してみます。
半減期の13億年は、4.1×10の16乗(秒)になります。
0.014gのカリウム-40の原子数は、2.2×10の20乗個になります。
これらの値を上の式に入れて計算すると、約3700個/秒になります。
体重60kgの人の体の中で、毎秒約3700個のカリウム-40がβ線やγ線を出しながら他の原子に変化していることになります。
1秒間に1個の原子が崩壊したときの放射線の強さを、1ベクレル(Bq)といいます。
「自然界にもともとあるカリウム-40のような原子の放射線を、人類は地球上に生まれたときからずっと受けているのだから、人はこの程度の放射線を受けても大丈夫なのだ」という意見があります。
「セシウム-137や、ヨウ素-131のように人工的につくられた原子の崩壊で生じる放射線も、カリウム-40からの放射線とあまり変わりはないのだから、体内にあるカリウム-40からの放射線の量くらいなら心配しなくてもよい」という考えもあります。
一方、「人工的に作られた放射能をもつ原子は、人の体の特別の場所にたまって重大な障害を与えるかもしれないし、そういうことは人類が今までに経験したことがないのだから、安全と言いきることはできない」という人もいます。
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