最近見たオペラ 感想など

1999-2000

1997-1998年のページへ
2001-2002年のページへ
「オペラの章」序 へ戻る
→1999. 1.22. 新国立劇場  カルメン
→1999. 3. 5. 藤原歌劇団  ラ・ボエーム
→1999. 9. 1. サイトウ・キネン  ファウストの劫罰
→1999. 9.25. 新国立劇場  仮面舞踏会
→1999.10.19. プラハ国民歌劇場  ルサルカ
→1999.10.22. プラハ国民歌劇場  イエヌーファ
→1999.10.26. プラハ国民歌劇場  カルメン
→2000. 4.17. 新国立劇場  サロメ
→2000. 9.14/24. スカラ座  リゴレット/運命の力


[2000年]

9月14日 スカラ座  『リゴレット』
9月24日 スカラ座  『運命の力』

 オペラが2本しかない今回のスカラ座,『リゴレット』を15日に,『運命の力』を今日24日に見てきました。
 そうですね,81年の初来日はちょっと別格として,ムーティになってからの3度の来日公演の中で,今回がいちばん充実し,「ひきしまった名演」だったと思います。ムーティの強力なドライブは相変わらずですが,前回の『ラ・トラヴィアータ』のときのようなぎすぎすした感じはなく,快い運び具合でした。

 歌手は,細かくはいろいろありましたが,両方とも高水準でした。
 初めて聞いた歌手で印象に残ったのは,例えばリゴレットのアルベルト・ガザーレ。主要な歌手の中でたぶんいちばん若いこの人,ちょっと単調な感じはありましたが,ドラマになる声でこれからが楽しみです。あと30年ぐらいやれるかも。
 それからドン・アルヴァーロのリチートラ(一瞬,リーチ・ドラと読んだ)。最初,いわゆるテノールバカなのかなと思ったのですが,尻上がりに整ってきました。第1幕から第4幕までに物語では十年以上の年月がたっているわけで,結果的にはまあちょうどよかったともいえます。

 『運命の力』は,今年1月にキーロフ・オペラがサンクト・ペテルブルク初演版で上演しました。それはそれで良かったのですが,こうして並べてみると(すみずみまで覚えているわけではないけれど),改訂しただけのことはあるなあ,という感じです。
 あと,初演のイメージを再現したキーロフの舞台装置が徹底的に具象的だったのに対し,今回のは全体としてはかなり大胆で,教会のシーンなど迫力満点でした。

 24日はオペラ公演の最終日(このあと,バレエが各地である)なので,カーテンコールは裏方さんも出てきて恒例のお祭り騒ぎになりました。紙吹雪が舞い,「Grazie Scala」と書いた横断幕が降りてきて,最後にはオーケストラのメンバーも登場。

 休日にしては早起きしてシドニー・オリンピックの女子マラソンを見たし,充実した一日でした。

4月17日 新国立劇場  『サロメ』

 まずシンシア・マークリス――今まで見た中でいちばん少女らしいサロメでした。声もあれはあれでまとまっていたように思います(あの姿で声がすごかったらやっぱりヘンな感じがするかも)。
 「踊り」は,最初カーテンの向こうで始まり,ひょっとしてこれで半分ぐらい行っちゃうのかなと思ったらそうではなくて,間もなくカーテンを開けて登場,以後,上半身中心(!?)のハイペース。(もうひとりのサロメMさんはどんな踊りだったのかなあ。←怖いもの見たさ?(失礼!)。)

 ヘロデのホプファーヴィーザー氏は,まことに立派な学者風の姿で,成り上がりの王様には見えませんでした。歌も同様で,ヘロディアスも含め,まじめな王家でした。

[1999年]

10月26日 プラハ国民歌劇場  『カルメン』 

 あのすばらしい『イエヌーファ』の後なので,おまけみたいな感じで出かけたのですが,いやこれもすばらしい上演でした。
 まずタイトルロールはマリーナ・ドマシェンコというロシア人,たぶん三十そこそこでしょう。見かけはジプシー風でなく北欧風で,白い服での登場ということもあって,上品なカルメンでした。歌は,これがめちゃくちゃにうまい。中低音がなめらかでしかも力があり,音程は正確無比。悪女カルメンを求める人には物足りなかったかもしれませんが,フツーの女が実はおそろしいというのもドラマとしては迫力があります。
 他の歌手(ミカエラは澤畑恵美)も,細かくはいろいろありますが,総じて高水準。例の五重唱もバッチリでした。
 楽譜は,近ごろではめずらしく,レシタティーヴォのついた版でした。

 演出は,全体がホセの回想の形で…,と聞いていたので,それならメリメの原作どおりだなと思っていたのですが,単にそういう「枠」があるというだけでなく,中味と巧みにからみあっていました。表が牢獄,裏が各場面の装置になった大きな2枚のパネルを使った舞台と合わせて,一部よくわからない仕掛けもありましたが,息をもつかせぬおもしろさでした。

 1週間のうちにきわめて高水準のプラハ3連打でした。このあと『カルメン』で南は鹿児島から北は盛岡まで回るようです。

 10月22日 プラハ国民歌劇場  『イエヌーファ』 

 昨夜の新国立劇場での『イエヌーファ』,簡素な舞台で繰り広げられる密度の高いドラマに圧倒されました。
 無条件に本場物がいいとはいえないというのは,昔のプラハのオペラ(どの劇場だったか)が持ってきた『売られた花嫁』など,何度か経験しましたが,今回は,足が地についていることの価値がよくわかりました。たとえば,イタリアものでは何かと問題になるペテル・ドヴォルスキーも,とても自然。
 それにしても,異母兄弟役を実の兄弟が歌うというのもおもしろいものです。無骨なラツァが兄ペテル,一見ちょっとかっこいいシュテヴァがミロスラフで,これはもう地でいっている感じ。開幕前に,ペテルは風邪を押して歌うというあいさつがありましたが,ほとんど気になりませんでした(音程が下がり気味になるのは,風邪の時でなくても…?)。

 当夜はまた,ベニャチコヴァーのイエヌーファ役が1000回目の公演だというアナウンスがありました。19日にロビーで素顔を見て,いや,すてきな美人だけど,あの貫禄で若い娘の役はどうなるのかなと思っていたら,舞台ではこれまた自然で若々しく,立派でした。
 この人,いくつぐらいでしたっけ? 30年やってるとして,1年に33回! でもいまそんなに上演の機会があるとは思えませんし,プログラムでの紹介によると「1981年から国際的に活躍」となっていますから,それまでチェコ国内で年50回というようなペースで歌っていたのでしょうか。とすると,シーズン中は週2回以上? すごいものです。

 ベニャチコヴァーと同じかそれ以上の拍手を受けていたのが,コステルニチカ役の来年老婆(失礼! でもこれで名前を覚えた)じゃなくてライネロヴァー。ドラマの要になる役を熱演・熱唱,息をのんで聞き入りました。

 ヤナーチェク体験は,昔の二期会の『利口な女狐』『カーチャ・カバノヴァ』以来でした。ヤナーチェクのオーケストラの扱いはすこぶる精妙で,劇的なパワーは十分あって,しかも,1階の前の方だったせいもありますが,言葉が非常にはっきり聞こえる(意味はわかりませんが)のは新鮮な驚きでした。

 10月19日 プラハ国民歌劇場  『ルサルカ』 

 プラハ国民歌劇場の来日公演,地方で2回やって,今日は新国立劇場で東京初日の『ルサルカ』でした。
 いとやんごとなききはにはあらねど,かなりやんごとなき背の低いプリンセスがお出ましになり,テレビカメラのライトに照らし出されたりしてから開演になりました。

 ルサルカのアリアは聞いたことがありますが,全体としては初めて見る・聞く曲で,第1幕はちょっと長すぎる(今日の上演では55分)けれど,第2・第3幕は充実した音楽でした。もう少し素直に美しいメロディを歌えばいいのに,と思うところもありましたが,作曲されたのはヴェルディ没後で,初演は今世紀に入ってから,という時代を考えると,そう大らかにはなれない,というところでしょうか。
 オーケストラの各楽器の扱いのうまさが印象的でした。例えば,水の精の(最初「美津濃製の」と変換された)場面の弦のハーモニーとハープ,管ではコールアングレ,バスクラリネット,ホルンなど。特にコールアングレが出てくると,いかにもドヴォルザークという感じですね。

 歌手は,細かくはいろいろありますが,それぞれ好演。
 指揮は,おなじみのビエロフラーヴェク,ただし,オペラを振るのを見るのは私は初めて。オーケストラを鳴らし過ぎのところもありましたが,それもまた気持がいい。

 休憩のときに,ホワイエで人だかりがしていたのでよく見たら,ドヴォルスキー兄弟とベニャチコヴァーがサインに応じていました。

 9月25日 新国立劇場  『仮面舞踏会』 

 この日,グレギーナとクピードが出ないのは知っていたのですが,他の外人さんたちがみな出るとは知らず,オスカルとウルリカを見てすごく西洋人みたいだなと思ってプログラムを見直した次第。今回,組み合わせが複雑です。

 グエルフィ(レナート),市原(リッカルド),ベンチェーヴァ(ウルリカ),ルキアネッツ(オスカル),それぞれ良かったですね。
 市原氏のリッカルドは86年の藤原以来2回目でした。すばらしい安定感。もう少し冒険して「一回り上」を狙ってほしい気もしますが。それと,今はやりの高いぽっくりをこっそり履いてほしい。
 アメリアの立野さんは,かなりうまいけれど,声自体につやがなく,真価を知るには至らず。ルキアネッツは,名前はきいていましたが,実演に接するのは初めてでした。この人が出てくると,舞台が華やかになります。
 ベンチェーヴァはなかなかの貫禄。これならアズチェーナも良さそうだな,と思ったら,ちゃんと藤原で96年にやっていたのですね。

 指揮は,うーん,合わせるのはとてもうまいけれど…。

 ところで,この曲でいつも思うのですが――
ボストンの総督の館というのは,どの程度の立派なものだったのでしょうか。もともと舞台をスウェーデンから移したものなので,リアリティに欠けるのは仕方がないとは思いますが,たかが植民地の開拓小屋+αにしては,舞台ではいつも立派ですね。
 それから,これは台本の問題ですが,第1幕の終わりで,ウルリカの庵になぜあんなに民衆がやってくるのでしょうか。リッカルドは身分を隠して行ったはずでしたよね。
 さらに,暗殺グループが黒マントの「制服」を着て目立っているのも,妙なものです。

 9月1日 サイトウ・キネン・フェスティバル  『ファウストの劫罰』 (松本市文化会館)

 ザルツブルクもバイロイトもパスして(?),松本のサイトウ・キネン・フェスティバルの『ファウストの劫罰』の初日を見てきました。

 フェスティバルの大きな催しはこの日が初めてなので,実質的に全体の初日ということで,広い公園の一角にある文化会館は音楽祭らしい華やかな雰囲気でした。それにここは,山を見ながら野外でビールが飲めるというのがいい!

 1階8列目という切符だったのですが,入ってみたら7列目まではピットで,なんと最前列でした。

 演出は,奥行きは浅く,上下左右はプロセニアムいっぱいの舞台装置を使って,次々と新しいものが飛び出し,まったく退屈する暇がありませんでした。非常に手間(と金)のかかった舞台です(パリ・オペラ座と共同制作)。
 歌手は,サッバティーニ,初めてナマで聞くファン・ダム,スーザン・グレアムとも好調でした。サッバティーニは前より冷たい感じがなくなってよくなったみたい。LDなどではおなじみのファン・ダムは,けっこう年のはずだけど声はしっかりしていました。
 音楽は,やはり小沢さん向きなのかな。なにしろオケがうまいので,ひたすら美しく,堪能しました。

 1日は小沢さんの誕生日で,カーテンコールのときにお祝いがありました。

 そんなわけで,まことに贅沢で充実した一夜でしたが,振り返って,では例えば東京でもう一度見る気がするかといわれると,うーん…,よっぽど暇だったらね,という感じです。そもそも厳密にいうと元々オペラではないものだし,この曲の音楽の力の限界かなと思います。

 3月5日 藤原歌劇団  『ラ・ボエーム』 (新国立劇場)

 フレー二,衰えず――去年の『フェドーラ』のときもそう思ったけれど,今度のミミの方がさらに立派でした。(私は,『ラ・ボエーム』は,親しんでいる割にナマで見るのは5回目なのですが(ほかにホールオペラあり),そのうち3回はフレー二でした。)
 ギャウロフもコッリーネで出演,70過ぎだがちゃんと若作り(あたりまえだが)で,歩き方なんか,ちょっとのそのそしているミミより若々しいくらいです。
 この2人については,オペラグラスでなるべく顔を見ないようにしました。
 ロドルフォは,去年アルフレードを1階前の方で聞いたアローニカでした。去年「もっと遠くの席で聞いた方がいいかも」と書いた予言が当たって,今回の方が良かった(今回は2階の比較的遠いところでした)。いい声だけど,いい声の出る音域が狭く,長いフレーズはもたないので,ロドルフォの方がアラが出なかったのかも。マルチェッロは前にマクベスを歌った堀内康雄氏で,最初固かったけれど,すぐ調子が出て好演,ロドルフォ,コッリーネと立派にからみあっていました。
 ムゼッタがちょっと…。いや,姿はいいのですが…。この役は,物語を一時止めて美しいワルツを歌う「儲け役」だと思うのですが,儲け損ないました。(最後に「外套の歌」を歌うコッリーネも儲け役ですね)。
 2幕の装置,カフェを大きくしたのはいいアイディアだなと思いました。なるほど,物語はカフェの中で進行するのですからね。カフェの中に小さな舞台があって,そこでマジックショーがあったり,カンカン踊りがあったり,その他いろいろなサービスがあり,手がこんでいました。ちょっと目にうるさい感じもありましたが,ナマで見る楽しさを味わいました。


 1月22日 新国立劇場  『カルメン』 (新国立劇場)

 良かったのは,ナディア・ミヒャエルという初来日の人のカルメン。いろいろなタイプのカルメンがありますが,この人は比較的上品な感じ。それからパロンビのホセ。こちらは声にまかせて愚かな男を好演。
 良くなかったのはエスカミーリョ。しゃがれ声とも違うけれど若さのない声で,「老いたる闘牛士」。(帰って記録を見たら,いつかサントリーホールのホールオペラの『リゴレット』でモンテローネをやっていて,そのときの公爵がパロンビだったようです。よく覚えていませんが。)
 あとミカエラも,下手じゃないことはわかるが,すっきりしない声。近くの席の事情通らしい人の話し声によると風邪をひいていたとか。ミカエラは得な役のはずなのに。
 五重唱の人々も歌はなかなか良くて,おかげで2幕と3幕1場(という言い方をしていた)はけっこうシマっていました。ただ,男2人のカタカナ・フランス語がねェ…。
 指揮者が演出もするというのは初めて経験しました。「意図不明」ということはなく,おもしろいところもありましたが,珍妙なところもありました。ウェットスーツみたいな衣装のバレエとかね。
 いちばん不満だったのは群衆の扱いでした。人がたくさん出てくるとそれだけでナマの舞台を見る興奮の大きな要素となるはずなのですが,座ったまままとまってセリで上がってきて,終わると下がっていくなど,劇に参加していない感じでした。
 でもまあ,カルメンが良かったから,後味は悪くなく帰りました。


    →このページの始めへ/→1997-1998年のページへ/→2001-2002年のページへ
  →「オペラの章」の序へ