最近見たオペラ 感想など

1997-1998

1999年-2000年 のページへ
2001年-2002年 のページへ
「オペラの章」序 へ戻る
→1997.10.11. 新国立劇場  建・TAKERU
→1997.11.15. ベルリン国立歌劇場  魔笛
→1997.11.21. ベルリン国立歌劇場  ワルキューレ
→1998. 1.28. ベルリン・ドイツオペラ  さまよえるオランダ人
→1998. 2. 8. ベルリン・ドイツオペラ  タンホイザー
→1998. 2.15. ベルリン・ドイツオペラ  ばらの騎士
→1998. 2.23. 藤原歌劇団  椿姫
→1998. 9.20. 新国立劇場+二期会  アラベラ
→1998.10. 3. ボローニャ歌劇場  ジャンニ・スキッキ/カヴァレリア・ルスティカーナ
→1998.10.17. ボローニャ歌劇場  ドン・カルロ

  [1998年]

 10月17日 ボローニャ歌劇場  『ドン・カルロ』 (NHKホール)

◇歌手は――
 いろいろ文句はありますが,総合力では一応の水準。いま,これ以上のメンバーを6人揃えるというのはけっこう難しいのでしょうね。
 スカラ座『椿姫』のジェルモン以来聞くのは2度目のコーニは,確かに声に力がない(友人曰く,力は高2でなく中2だ!)。特に3幕1場の後半の「地球の半分は陛下に従っています」というあたりは短いけれど重要な転換点だと思うのですが,この人何しに出てきたの,という感じでした。でも,近い1階席で聞いたこともあって,「軟派」でよい部分については,けっこううまいなあと思いました。
 クピードは純情一直線,押しの一手。まるで陰影のないカルロ。ロドリーゴとの二重唱は,81年の二期会の小林(一男)・栗林のコンビの正反対でした。
 ギャウロフはやっぱり立派。70過ぎたら,宗教裁判長で80までやれるかもね(アバードのCDでやってます。でも,一喝して反乱を鎮めるのは無理かなあ)。ただ,このフィリポの役は,老いたがんこ親父ではなく,まだ野心がけっこうぎらぎらしている王様という方がいいと思うのですが。
 スカルキは後半やっと全開して良くなりました。上から下までむらのない声で音符を慎重に正確に歌う人で,くせのなさが災いしているのかな。
 デッシーは,ホールオペラのヴィオレッタなどよりはずっと良かった。細かいヴィブラートは相変わらずだけど。
◇演出・装置などは――
 ロイヤル・オペラの『トゥーランドット』以来のシェルバン演出は,むだのない緊張感のあるものでした。右の方の席だったので,人が出入りする右奥の方が見にくかったのが残念。舞台は一貫して黒で,重苦しい悲劇であることを強調。
◇指揮は――
 長くて,主要な歌手だけでも6人のこのオペラの指揮は,ある程度強引に引っぱっていくところがないとつらいですね。どうも基本的なテンポがのんびりしているとみえて,歌手に追いつかない場面が何度かありました。
 来日公演の最終日なので,カーテンコールでは恒例のお祭り騒ぎがありました。再び幕が上がって,集まったキャスト・スタッフの頭上に SAYONARA/Arrivederci の垂れ幕と紙吹雪。3週間以上の滞在,ほんとうにご苦労さまでした。

 

10月 3日 ボローニャ歌劇場  『ジャンニ・スキッキ』『カヴァレリア・ルスティカーナ』 (神奈川県民ホール)


 今回は3日の横浜公演が私の「初日」でした。
 やっぱり,まずバルツァ。今回最後の出演日とあって最初から飛ばし(後半はちょっとしか出ないから当然だが),絶好調。高音はちょっと年を感じさせることもあったけれど,中低音の美しい迫力はむしろ前より良くなっていますね。
 クーラもなかなかいいと思いました。これからが楽しみです。  

9月20日 新国立劇場+二期会 『アラベラ』 (新国立劇場)


 まず報告すべきは,美しい舞台装置。写実的なきちんとしたもので,特に第2幕の幕が開いて舞踏会場が現れたときは,拍手が起こりました。ケーキみたいで,ちょっと軽薄ではありましたが。それから,2幕から3幕(休みなし)の転換が見事でした。
 歌手は,例えば第1幕の何人かの演技など,文句はいろいろありますが,水準がかなりのレベルで統一されて,いい感じでした。特にズデンカ(ATOK11 君は最初「図電化」と変換した)の澤畑さんは,役に似合った声・姿で,一番人気でした。澤畑さんは,前に二期会の『フィデリオ』でデビュー,あと演奏会形式の『ばらの騎士』のゾフィーを歌って,とても気になる存在でした。(なお,ピットでは夫君がコンマスだったとのこと。)  あとは,伯爵の池田直樹氏――こんなにフケ役が似合うようになったかと,感慨にふけりました。
 企画力抜群の指揮者のおかげで,楽しむことができました。この点は素直に感謝いたします。その上で,足りないものといえば,昔から言われていたのかもしれませんが,ひとつは「軽み」「しなやかさ」「即興性」のようなものをを実現する余裕,もうひとつは「退廃」「爛熟」という不健康な部分,ではないかと思います。
 『アラベラ』の実演を見るのは,77年7月,ロンドンでシーズンの最終日に見た(若きテ・カナワが匂うように美しかった)のと,88年のバイエルンの来日公演に続き,3回目です。次はまた10年後,かなあ。
 家では,うちのアラベラとズデンカがおなかをすかせて,喧嘩をしながら待っていました。  


2月23日 藤原歌劇団 『椿姫』 (新国立劇場)


 初めて見たガッラルド=ドマス,とても素晴らしい「一人舞台」でした。1階の前の方の席だったので,演技がよく見えたせいもあるかもしれません。1幕はちょっとキンキンした成分が混じっていましたが,やがて落ち着き,容姿・演技と合わせて名演でした。(終幕では,すすり泣きも客席のそこここで聞こえました。) 声は去年見たロストより素直で安定していたと思います。
 アルフレードのアローニカという人はアローコトカということはありませんでしたがドーニカという感じで,いい声を出すのですが,その裏にいつもがさつな声がつきまとっているのですね。遠い席で聞いたらもっと良かったのかもしれません。
 父ジェルモンのセルヴィレは,これもいい声だが,年が若いことが見えてしまう感じ。10年後を期待しましょう。
 演出(デ・トマージ)は,そんなに変わったことはありませんが,よく工夫されたものでした。最後のところでバックの鏡に客席を写し出したりしました。(これについては,開演前の解説でも言及されていたそうです。)
 指揮はベニーニという初めての人。速いところのあおり方など,職人的にすぐれた人なのかなと思いましたが,ゆっくりのところはどうもしまらず,正直いって,判断がつきません。
 なかなか難しい『椿姫』ですが,やっぱりヴィオレッタ次第か。  


2月15日 ベルリン・ドイツオペラ 『ばらの騎士』 (神奈川県民ホール)


 いろいろな想いはありますが,そこそこ面白く見ました。
 74年のクライバー=バイエルンの『ばらの騎士』をオペラ原体験とする私にとって,オットー・シェンクの演出(ウィーン2回とバイエルン)は重要な基準であり,他にどういう『ばらの騎士』が可能なのかというのが,今回の興味の中心でした。(考えてみると他にドレスデンのとベルリン国立のを見ているのですが,印象希薄。)
 その点,両大戦間(装置や服装からそう察せられるだけですが)に時期をずらしたのは,適度なはぐらかしで,ひとつのやり方だと思いました。服装は緑が基調,特に1幕は全員緑,装置もやや緑がかった青(シェンクの白と対照的)。2幕のオクタヴィアンは銀の服という指定に逆らわず,3幕でまた緑系統の服・舞台。
 歌は,まずマルシャリンのアームストロングは,意外とおちついた声で,覚悟していたよりは良かった。前の方の席だったので,急に老けたなあという感じで見てしまいましたが。  初めて見るオクタヴィアンのヴィートシュトルックは,声・顔ともはっきりしない人で,特に2幕は,演出のせいか,ずうっとおどおどしていて,冴えず。オックス男爵のカンネンは,去年の『ヴォツェック』の医者に続いての登場。貴族の品を維持した役作りでした。ゾフィーは,好みではないけれど,田舎娘風ということでまあいいか。
 というわけで,不満はほかにもいろいろありますし,何度も見たいとは思いませんが,見て損したとは思いませんでした。
 日本公演最終日だったので,カーテンコールでは恒例の紙吹雪が舞いました。  


2月8日 ベルリン・ドイツオペラ 『タンホイザー』 (NHKホール)


 いやあ,立派。一昨年のハンブルクのときのルネ・コロ(同じくタンホイザー)は,全体に悪くはないけれど,声につやが乏しく,ずり上げもかなりあって,やっぱり年だなあと思ったのですが,今日は快調。ローマ語りに向けて調子をあげていくようなセコいことはせず,最初からビンビン飛ばしていました。本当に引退? あとのヘルデンテノール界はどうなるのでしょうか。
 エリーザベトはベニャチコヴァー,私はオペラで聞くのは初めてでした。適度に柔らかみがあって適役。一方のヴェーヌスはF氏夫人のカラン・アームストロングで,声は色気より腕力という感じ。(色気の方はカーテンコールでスカートをわざとらしく翻して補っていました。)
 あとは,サルミネン(領主ヘルマン),ヴァイクル(ヴォルフラム)も,よくわからない音程もわずかにあったけれど,それぞれ立派でした。ヴァイクルの品のある声は,偽悪者風だったオランダ人よりも,この役に合っていますね。
 93年のこのオペラの来日のとき,オケがいちばんいい音していたのは,イルジ・コウトが振った『トリスタン』でした(NHKホールだったにもかかわらず)。今回も,期待に違わず,要所をしっかり押さえて締まった演奏でした。深く下げて何も見えないボックスから聞こえる音は,あまり厚みはないけれど,なかなかつややかでした。
 2幕のトランペットなど,何度か出てくるバンダは,すべて音が遠すぎてほとんど聞こえませんでした。
 演出は,序曲からヴェヌスベルクのあたりは,いろいろなことをやりすぎてごちゃごちゃしていました。でも全体には比較的おとなしく,音楽に対するじゃまがあまりないので,まあいいとしましょう。
 2幕の終わりの方で,タンホイザーが椅子をならべるのは何なんですかね。  あと,3幕で,ヴォルフラムと羊飼いが仲よさそうにしていたのがちょっと変わった点か。
 『タンホイザー』はワグナーの中でいちばん多く見ている曲で,今日で7回目になりますが,タイトルロールの歌唱を始め,多くの点で今日が最高の上演でした。  


1月28日 ベルリン・ドイツオペラ 『さまよえるオランダ人』 (東京文化会館)


 このところ来日オペラは「出遅れシリーズ」だったのですが,久しぶりに初日に行きました。
 どういうところが「初日だから」なのかはよくわかりませんが,全体にテンポが遅くのんびりしていて,演出のせいもあっておどろおどろしいところがなく,おだやかな『オランダ人』といったところ。演出自体は,好みませんが,そうじゃまな感じはしませんでした。
 ブラックジャック風のオランダ人=ヴァイクルは,(私の席では)意外と大きな声も出るのだなと思いました。事前には,ダーラントにまるでかなわないのではないかと思っていたのですが。
 エリック(シルヴィスティ)とゼンタ(ヴォイト)は,歌はまあともかく,視覚的にがっかり。
 オケは途中からやっと調子が出てきた感じ。あとで聞けば,3幕ではオケピットのチェロパートの譜面台の電気が消えてしまったそうです。
 カーテンコールには,フリードリヒ氏も出てきましたが,全体に醒めた雰囲気でした。  


  [1997年]

11月21日 ベルリン国立歌劇場 『ワルキューレ』 (NHKホール)

狂歌集『ワルキューレ』

 平日の5時はきついよ『ワルキューレ』
  予鈴とともにやっと到着

 フンディング 歌うは先のザラストロ
  パミーナ変じてジークリンデに

 風邪ひきのジークムントは美声にて
  冬の嵐は去らず息切れ

 充実の夫婦喧嘩は30分
  恐ろしげなるフリッカ適役

 フリッカはヴァルトラウテに変身し
  戦士8人活躍縦横

 途中まで意外とフツーのクプファー氏
  やたら転がす歌手床の上

 「火を放て!」 ローゲ命受けチカチカと
  格子のネオン赤く輝く

 往年の巨匠をしのぐ遅さにて
  B氏悠然 歌手は大変

 遅すぎてややダレ気味の「告別」も
  やはり感動 ナマの充実

 終演後オケメンバーもステージへ
  深いピットを出て晴れやかに

 連投のオケはほんとにご苦労さん
  あとは短い(!)『ヴォツェック』がんばれ

 [拾遺]
  はからずも同じ曲(*)やる演奏会
   今日はゲネプロ,明日は本番
        *『ワルキューレ』1幕(演奏会形式)を23日に演奏

11月15日 ベルリン国立歌劇場 『魔笛』 (東京文化会館)

 8日から始まっていた今回のベルリン国立歌劇場の公演ですが,15日の『魔笛』が,私の「初日」でした。『魔笛』は今までにもっとも多く見ているオペラで,これで11回目になります。
 指揮は今日はバレンボイムではなく,ヴァイグレという人。どの程度,音楽監督バレンボイムの音楽だったのかはよくわかりません。ただし,序曲の序奏がやたら遅かったのはバレンボイム流かも。今どきモーツァルトのAdagio をこんなに遅くやるのは珍しいですからね。
 でも,以後,特に重いと感じることはありませんでした。ときどきアンサンブルが乱れることはありましたが,シュターツカペレの伴奏のうまさは健在という感じがしました。
 歌手はそれぞれちゃんとしていました。
 シュライヤーのタミーノは,79年の二期会と80年のこのオペラの来日公演以来久しぶり。声・姿とも若い王子というわけにはいきませんが,歌としては立派なものです。白っぽいコートをずっと着ていて,見た目は刑事コロンボふう。それにしても,タミーノとパミーナというのは,パパゲーノとパパゲーナに比べると非人間的な役で,どんなにうまく歌っても聞き映えがしない損な役ですね。
 夜の女王はステファネスクというルーマニア生まれの若い人。若いけれど,マリア・カラスを思わせる立派な顔で,女王の貫禄があります。歌も上のFはきちんと決めていました(ほかの音は少しはずしていたけれど)。
 ベルリンのシュターツオーパーの来日は,77年の第1回以来6回目になります。私が見るのは今日が16回目,来日アンサンブルとしてはウィーンのシュターツオーパーに次ぐ回数です。私の印象の中心にあるのはスイトナーの端正な指揮ですが,「統一」直後の90年のときにはもう姿がありませんでした。


10月11日 新国立劇場  團伊玖磨 『建・TAKERU』

 新国立劇場(と打つと最初は「申告率劇場」と変換された)のこけら落とし公演の2日目に行ってきました。
[音楽] 予想どおりで,作曲技法は古風,大仕掛けで,確信犯的時代錯誤。ちょっとうるさいのは指揮者&オケのせいもあるか。それだけに,群衆場面はオペラティックに仕上がっていました。正味3時間半は長い。
[演出] 舞台機構をいろいろ見せてやろうというサービス精神に満ちていました(特に第1幕の最後なんて,沈んでいく必然性はまったくなかったのですが)。
 最後は現代の洋服で合唱が登場し,現代につながっていることを言いたかったのでしょうが,白けて言葉なし。あれって,どこまで台本にあるのでしょうか。合唱で盛大に終わりたかったということかもしれないが,「まほろば」でバックコーラスもあったことだし,あそこで終わりにしておけばいいのに。
 演出家はカーテンコールに現れず。
[台本] 作曲者の台本というのはうまくいかないものなのでしょうね。古事記の有名場面を集めてあって,つながりがいまひとつ。
[歌手] 総じてよくやっていて,特にタイトルロールの稲垣俊也氏は出ずっぱりでたいへんでしたが,好演。しのぶサンの弟橘姫,西洋の衣裳と違って(!?),とっても似合ってました。例外は倭姫(名前を見たときからあきらめていましたが)。
[劇場] 立派にできています(当たり前か)。入り口には生花がずらりと並び,パチンコ屋状態。
 私は3階Rで見ました。高さは2階の後ろより低いくらいで,舞台に近く,座席は舞台に向いていて見やすい席でした。B席ですからコストパフォーマンスはいい方でしょう。ボックス状になっていて,2列分6〜7人のための専用ドアで入るようになっていて,ちょっとびっくりしました。
 休憩のときは,池を見下ろすバルコニーに出られるようになっていました。

    →このページの始めへ/→1999-2000年 のページへ/→2001-2002年 のページへ
  →「オペラの章」の序へ