(クリックで拡大表示)
GUN-DEC(ガンデック)
機種 ファミリーコンピュータ
発売元 サミー
開発元 エイコム
発売日 1991年4月26日
定価 6,000円(別)
プレイ人数 1人プレイのみ
ステージ数 11面
ライフ制 あり
残機制 あり
コンティニュー 無限
パスワード なし
難易度選択 なし
リンク ステージ&ザコ紹介
ボス攻略
ストーリー1(プロローグ〜St.2)
ストーリー2(St.3〜St.6)
ストーリー3(St.7〜St.9)
ストーリー4(St.10〜St.11)
ストーリー5(ラストボス)
ストーリー6(エンディング)




ストーリー

 時はAD2139年。地球では、すべての国境が廃止され、人類は満ち足りた生活を送っていた。しかし一方では、犯罪の凶悪化・拡大化も世界規模で進んでいた。裏の世界を支配するための組織間の抗争は、止まることを知らず、ますます過激の一途をたどっていた。武器の密造、売春、麻薬、殺人といった犯罪が暗闇にうごめいていた。そんな悪の組織に敢然と立ち向かう命知らずの特捜刑事たちがいた。――その名は“VICE”。
 突然、ハート(VICE)の車にクリス(VICE)から無線連絡が入った。その内容は『ルート246・エリアDの立入禁止区域に進入車がある』というものだった。ハートにとっては進入車の追跡などは、毎日の日課の一つ。一種のショータイムに過ぎない。逃走車を運転していたのは、いつものことながら極度のジャンキーであった。しかし、そこには今までに類を見ない二点の事実が存在していた。まず一点は、ジャンキーの左手が、まるで野獣のような体毛と鋭い爪を持ち備えていたことである。もう一点は車内から発見された特殊な銃である。この銃は今までに確認されているいかなるタイプの密造銃とも異なるタキオン粒子砲であることが、後の分析の結果で判明した。その他は、ジャンキーが使用していた薬物は、100%化学合成のコークで、2・3年まえから市場に出回り始めたものであることが分かった。ハートはコークの出所を確かめるようクリスに頼み別れた。背後に潜む不気味な影。わずかな手掛かりをもとに、ハート(VICE)の捜査が始まった。

消え失せろ……!

 「ルート246、エリアDの立入禁止区域に進入車あり! ただちに、逮捕願います。ハート、よろしくね! 頼んだわよ!!」
 「OK!! ……まったく! どこのどいつか知らないが、なめた真似してくれるもんだぜ……さぁ、ショータイムの始まりだ!」
 電源を入れて、スタートボタンを押すや否や、むやみに熱いこのやり取り。そしていきなり始まるカーチェイス・ステージ。訳も分からぬままとりあえずボスを撃破すると、そこで初めて表示されるタイトル画面――『GUN-DEC(ガンデック)』。ファミコンアクションゲーム史上類を見ない、型破りで、まるで映画のようなオープニング。開始5分でいきなりプレイヤーの心をつかんでしまう、最高の演出である。
 『GUN-DEC』は、基本的にはテクモの『忍者龍剣伝』によく似た横スクロールアクションである。だがこのオープニングのように、ストーリーの展開によって、「カーチェイス」と「3Dガンシューティング」というまったくタイプの異なるゲームに切り替わるのが特徴だ。キャッチコピーは「3モード・アクションのサイバーパンク・バイオレンス」。
 確かにゲームの基本フォーマットは『忍者龍剣伝』に酷似しており、実際かなり意識して作られたのは間違いない。だが、だからといって本作は志の低い、安易なパクリゲーに終わってはいない。少しでもプレイしてみれば、誰もが本作を褒めるだろう。多少荒削りな部分もあるかもしれないが、作品の至るところから開発者の気合いとこだわり、妥協のない姿勢がひしひしと伝わってくる。開発者自身が楽しんで作っているのが感じられるし、同時にプレイヤーを楽しませることを第一に考えているのが分かる。間違いなく本作は、アクションゲームとして一流の完成度を誇る力作であり、ファミコン史上に残る「傑作」のひとつである。

3モード・アクションのサイバーパンク・バイオレンス

 「3モード・アクションゲーム」がキャッチコピーの本作ではあるが、ゲームの大部分を占めるのは「バトルアクション」モード。『忍者龍剣伝』のように、押し寄せる敵をビシバシ斬っていく、スピーディーな横スクロールアクションである。とにかく操作感が軽快で、動かしているだけで気持ちがいい。
 そんな軽快さを象徴するような特殊アクションが、「しゃがみダッシュ(仮称)」だ。しゃがんだ状態で十字キーを左右に入れると、ダッキングしたまま通常と同じスピードで走れるのである。弾の下をくぐり抜けつつ敵との間合いを詰めたりと非常に使える技で、見た目も映画のアクションヒーローのようでカッコイイ。地味ではあるが、意外と他のゲームでも見かけないアイデアだ。
 3種類の武器、ライトサーベル、ブラスター、ボムを標準装備し、いつでも自由に切り替えられるのもよい。接近戦向きのライトサーベルは、刀というより電磁ムチのような感じで、自分の頭上や背後まで広範囲に当たり判定が発生するのが爽快。中・長距離向きのブラスターとボムには弾数制限があるが、弾薬は大量に出るのでガンガン使っていける。
 「カーチェイス」モードは、レースゲームというより実際には高速縦スクロールシューティングで、強いて言えばコナミの『シティボンバー』や、ミッドウェイの『スパイハンター』に近い。なかなかスピード感があり、障害物をはね飛ばすことができるのが爽快だ。「3Dガンシューティング」モードは『オペレーションウルフ』などでおなじみのタイプ。ただし、残念ながら光線銃には対応していない。このような、ステージごとにジャンルが切り替わるアクションゲームは、本作以外だとコナミの『マッド・シティ』や、ビック東海の『ゴルゴ13』シリーズなどの前例がある。
 「カーチェイス」と「3Dガンシューティング」は、本作の中で各2回ずつ登場するのだが、ゲーム的にはあくまで「オマケ」レベルと考えるべきだ。単純だし、短いし、まず死ぬことはないほど簡単だし、ボーナスステージのようなものである。だが、デモと合わせた「演出の一部」として見るならば、このシステムはとても成功しているといえるだろう。オープニングのカーチェイスがその最たる例だ。全11ステージの長丁場に変化やメリハリをつけつつ、ストーリーを盛り上げる……そういう意味では非常に効果的だし、意欲的な試みである。

『GUN-DEC』の魅力

●ファミコン最強のハード・ストーリー
 本作のビジュアルデモは、上下が大きくカットされた横長画面に、登場人物のクローズアップが中心。要するに、『忍者龍剣伝』の「シネマディスプレイ」とまったく同じ方式である。だが本作ならではの大きな魅力が、ファミコンゲームとしては他に類を見ないほどハードボイルドなディテクティブ・ストーリーだ。
 近未来を舞台にした、SF的な世界観。初っ端から「ジャンキー」だの「コーク(コカイン)」だのといった物騒な単語がスッと出てくる、退廃的な雰囲気。敵も味方も多くの人間が死に、ラストも「めでたし、めでたし」とはいかない、暗くて重いストーリー。そして、
 「誰だ? 隠れてないで、ご対面といこうじゃないか!?」
 「フンッ! それじゃ、シーズンには少し早いが、リカルドまでバカンスに行くとするか!」
 「あぁ……おかげであんたとのデートに遅れちまいそうになったぜ!!」
 などなど、主人公とは思えないほどガラの悪い――というか、聞いてるこっちが赤面してしまうほどクサくて熱い――セリフを吐きまくるダーティーヒーロー、ハート・ブラバム(27歳)。
 全体に漂う、シリアスなんだけど、そこはかとなく「B級アクション映画的」なノリはご愛敬だが、同時期のファミコンゲームによく見られた「勧善懲悪」、「正調ヒーロー物」といったストーリーとは一味もニ味も違った魅力があり、思わず先を見たくなるような引きの強さを持っている。

●最高級のグラフィック&サウンド
 グラフィックは、本作において最も優れた点のひとつだろう。何といっても素晴らしいのが、芸術的に美しい背景だ。細かく描き込まれているだけでなく、多重スクロール、高速スクロール、ラスタースクロールといった高度な技術、しかもそれらが1つの場面で同時に使用されているのが凄まじい。
 例えば最初のアクションステージ。舞台は鉄骨が縦横に組まれた工事現場、バックには金色の光を放つビル街の夜景、そしてその光が眼下の水面に映り込み、ユラユラとゆらめいている……。また、走る列車上のステージ。列車、草原(3層に分かれている)、山々、雲(4層に分かれている)が高速で、しかもそれぞれ異なるスピードで流れていく。さらに一定時間ごとに雷が落ち、轟音とともに画面全体が激しくフラッシュする……。この美しさは、間違いなくファミコン最高レベルだ。
 そしてサウンド。ハードな世界観にマッチしたBGMのカッコよさもさることながら、曲数の多さにも驚かされる。ステージBGMが10曲、ボスBGMが5曲、デモBGMが6曲、これにゲームオーバーを含めた全22曲。ファミコンのアクションゲームとしてはかなり多いといえるだろう。特に、ボスBGMに5曲も用意されているのは珍しい。シネマチックなアクションゲームらしく、シーンとBGMのシンクロに対するこだわりが感じられる。

●誰もが楽しめる“好”難易度
 本作はとっつきやすいシステムに加え、ゲーム自体の難度もかなり低めに抑えられており、ストレスなくサクサク進める。初心者でも根気よくチャレンジすれば、ドラマチックなストーリーを最後まで楽しむことができるはずだ。ライフに余裕があるので、道中における死因のほとんどは攻撃で後ろに弾かれ、そのまま転落死するパターンだろう。それを狙って敵が配置されている場所もあるので気は抜けないが、そこさえ気を付ければ、割と力押しでも何とかなってしまう。
 逆にボスについては、ライフ任せの力押しではほぼ絶対に倒せない。だが、それぞれの攻略パターンさえ発見してしまえば、ノーダメージであっけなく倒せるようにできている。このあたりのバランスも秀逸だ。ここで素晴らしいのは、それらの攻略パターンが「瞬殺パターン」や「安全地帯」のように安易なものではなく、「しゃがみダッシュ」や「ライトサーベルの上判定」など、本作独自の仕様をうまく活用した、合理的で美しいパターンである点だ。まさに「攻略した!」という気持ちにさせてくれるのである。

●エイコム開発作品
 『GUN-DEC』の開発には、エイコムのスタッフが携わっている。ステージ3(チャイナタウン)の背景に漢字の看板があるが、そこに書かれた4文字は「回・以・己・矛」……音読みすると「エ・イ・コ・ム」である。エイコムは元テクモ社員が興した会社で、サミーの出資で社名が日本エイコムとなった後、一度サミーに吸収合併された。その後エイコムは、同じ社長のもと、同じ名前の別会社として復活。さらにタカラとSNKの出資を受けて、夢工房に改編されるという経緯をたどり、SNKの消滅の後、解散している。
 エイコムの作品には『ビューポイント』(発売はサミー)、『パルスター』という傑作があるが、両作品の作者である“NENKO”西村年幸が、本作『GUN-DEC』のディレクターを務めている。西村はタイトーの名作『奇々怪界』や『ラスタンサーガ』、『スーパーマン』、ジャレコの『ザ・ロード・オブ・キング』(いずれもアーケード版)の作者でもある。また、『GUN-DEC』のサブプランナーを担当した佐藤三智夫は、セガの『ABコップ』(エイコムが開発)でデビューし、本作の後、西村と同じく『ビューポイント』の開発を経て、夢工房の名作『ブレイジングスター』でディレクターを務めている。
 それ以外にも、『GUN-DEC』を手がけたエイコムのスタッフは、外注としてビック東海の『突然!マッチョマン』や『ゴルゴ13 第二章 イカロスの謎』、ジャレコの『燃えろ!!ジュニアバスケット Two On Two』などの開発に携わっていた。作曲者の横山清は、ビック東海の『突然!マッチョマン』、『まじかるキッズどろぴー』、ジャレコの『燃えろ!!ジュニアバスケット Two On Two』、『破兆』、『ザ・ロード・オブ・キング』、『64番街』、『ビッグストライカー』、『キメラビースト』(発売中止となった怪作)、エイコムの『USAプロバスケットボール』などを手がけている。
 エイコムはあまり表舞台に名前が出ることのない会社だったが、PCエンジンの秀作『魔境伝説』や、ジャレコの『マジックジョン』なども開発していた。ちなみに、『GUN-DEC』の前年に発売されたサミーのファミコン参入第1弾『忍者クルセイダーズ龍牙』は、エイコムではなくNMKの開発である。同時期かつ同ジャンルでありながら、作品の質に大きな違いがあるのはこのためだ。

ファミコンアクション、ひとつの到達点

 確かに本作は「どこかで見たようなゲーム」である。スピーディーな横スクロールアクションと、シネマチックなビジュアルデモの融合……という『忍者龍剣伝』が確立したスタイルに、本作は多分にインスパイアされており、パクリと呼ばれても仕方ない面もある。だが、本作は本作ならではの独自のカラー、独自のアイデアも、しっかりと備えている。そしてそれらは『GUN-DEC』というゲームに十分な存在感――存在価値と言っていい――を与えるだけの、魅力的なものだ。
 それに、仮に「『忍者龍剣伝』をお手本にした」という事実があったとしても、そのことは本作の高い技術力、高い完成度、それ自体を否定する理由にはまったくならない。ひとつの独立したゲームとして見れば、本作のボリューム、グラフィック、BGM、操作性、ゲームバランスが、いずれもファミコン最高レベルのクオリティーであることは紛れもない事実である。「パクリであっても、オリジナルに負けないパクリならよい」という言葉もある……というか単純にこのゲーム、やっててスゲー面白いし。
 いずれにせよ本作『GUN-DEC』が、ファミコン晩期の1991年発売にふさわしい、ファミコンアクションの到達した水準を十二分に示す力作であることは間違いない。そしてアクションゲームファンならば、絶対に見過ごせない逸品であるということも。
 「……さぁ、ショータイムの始まりだ!」



Main