多彩な資質の光を求めて   磐城 葦彦

 
  このたびの「新人賞」へ寄せられた詩は六六四篇という数となり、この七年間の比較でも一番多く、評論はほぼ同数でした。全国各地の小学生から八十歳を超えた高齢者まで、年齢、性別、職業も多様な人々の応募があり、描かれた作品は今日のさまざまな困難な時代を背景に、混迷した状況のなかでけんめいに生き、生きようと自己体験を通じたものが多く、作品もおろそかに見過ごされませんでした。
 選考にあたって留意したのは、一つは新しい創造のエネルギーを見出すこと、二つは新たな詩の書き手を発掘することでした。全般的に作品で取扱っている題材が暗い感じもしたので、可能なかぎり多彩な資質に希望の光を得たいとも思いました。最終選考に残った詩部門と評論部門の二つの部門について慎重審議、長時間検討した結果、表記のように詩部門、評論部門の入選が決定しました。
 それぞれの作品に少しだけふれますと、末永逸さんの「とおいまひる」は病の母と遊園地の迷子の私とをないまぜた感性豊かな異色作でしたし、水月りらさんの「エジソンのシンバル」は母たちの慈愛に満ちたまなざしの先の明るい語感がよく、倉臼ヒロさんの「肉塊」は酪農従事者らしい生活の思いが託された作品、福島雄一郎さんの「石」は主題をよく生かし、イメージ溢れた佳品として選ばれました。田中茂二郎さんの「有馬敲論 ことばの穴を掘りつづける」は全詩集を対象として整った論点が評価され、宮下誠さんの「上政治の青春」は農民詩人の虚と実を探って詩の原理を論じたところに特色があるとして選ばれました。詩作品も評論も最終選考では難航しましたが、選考委員の忌憚のない意見集約で結論を得ました。
 詩部門の第五次選考まで上った小学五年生の岩崎淳志さんの作品「力強く」が注目されたのは収穫でした。その他、選にもれたとはいえ最後まで競い合った作品もあるので今後に期待をして総評とします。


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新人賞
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詩部門
末永  逸 水月 りら 倉臼 ヒロ 福島雄一郎
評論部門
田中茂二郎 宮下  誠