暗い時代にこそ詩の力を  田上悦子

       
 今年度の詩人会議新人賞は第四二回目を迎えます。詩部門六四五篇、評論部門一一篇、昨年を越える応募数でしたが、質の高さはやや低迷気味。読み手の心に迫る作品が多くなかったのを不思議に思います。若い世代の職業はフリーターと記されたものも多く、深刻な閉塞状況が深まるばかりの世相も反映されているのでしょうか。常連の方たちも本来の力が出し切れておらず、選外になったのは意外でした。しかしながら選者各位によって推したい作品が数十篇あった事をお伝えします。また幼いからこそ描ける自由な発想と純粋な感性、やさしさ、率直な眼差しを感じさせるジュニアの詩篇も数篇あり、次代を担う、子どもの力が詩の中に見え、頼もしく思いました。
 結果前掲の詩部門三名と評論部門一名の入選及び佳作者が決定となった次第です。
 入選の鮮一孝さん「竹の声を聴く」は、季節と屋敷の情景を背景に、切り出されてから燃やされるまでの竹と、それに係わる爺の様子が読み進めるに従って次々と五感に染み通り、生命の営みと深い思惟を竹の声に収斂させた叙情豊かな描写でした。
 佳作一席の玄原冬子さん「こんぺいとう」は、心寄せ合って暮らした姉妹の幼い日々を共有する喜びと喪失感をやさしいひらがな表記で呟くようにうたいあげています。厳しい現実が見え隠れしており読み手の心に迫るものがありました。
 佳作二席の青木美保子さん「母の繭」は、一定のリズムに言葉が寄り添ってしまう危うさが少しありますが、情に流れる事なく、生の終焉を繭作りに形象化させた表現見事でした。
 佳作とはいえ評論部門受賞者出現は久々の喜び。小野絵里華さんの「詩に見る〈日本身体〉の変容」です。字数制限と内容の深さとその展開が折り合わずやや尻搾りに終りましたが、一つの時代に生きる詩人の言葉を「日本身体」というテーマに絞り込んで論ずる着目点は興味深く読み応えがありました。今後の活躍が期待される評論です。


下記へリンクしています。

新人賞
TOPページへ
総評へ 選評へ
作品紹介は受賞者名をクリックしてください
詩部門
 鮮 一孝 玄原 冬子 青木 美保子
評論部門
小野 絵里華 詩にみる〈日本身体〉の変容
   ―萩原朔太郎を中心に