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背後に時代の重さを沈めて |
今年も「詩部門」「評論部門」に、幅広い年齢層の方々から多くの作品が寄せられました。例年同様、人が持ちえる豊かな感情、思考が、ここには満ちていたと思います。 いまの時代にあって、詩を書くことは、自己と自己、自己と他者、自己と世界の関わりをもう一度確認したい、変えていきたい、という思いの表われなのではないでしょうか。それゆえにテーマや表現方法は異なっていても、一つ一つの作品は、どれも背後に時代の重さを沈めていて、胸を打たれるものがありました。 今回は、すぐれた作品が多く集まったことも印象的でした。表現として、詩でしか表わせないものがあり、それを言葉に定着する営みがよくなされていると感じられたからです。何を書くにしても、言葉と丁寧に向き合うことが、人の荒廃に抗う第一歩なのだと思わせてくれたのでした。 結果は発表のとおりですが、「詩部門」の、四次選考に残った十二編の力は拮抗していて、各委員が入選作に推した作品も多岐にわたり、それぞれ独自の魅力を湛えていました。「評論部門」は受賞作が出ませんでしたが、前川幸士さんの「わたしはまちがひだった」は、作者独自の批評がもう少し書き込まれていればと残念でした。 入選の加藤万知さんは十六歳。佳作の方々も、十九歳、二十八歳、三十一歳と、若い人たちとなりました。これは選考委員が作者の年齢を意識したわけではなく、あくまでも作品の力によって導かれた結果です。 とりわけ加藤さんは、自分の生きる現実を的確な言葉で表現したことが評価されました。他者の痛みを自らの痛みへと転化する想像力。外側からではなく、内側からのリアリティとして痛みが差し出されているからこそ、読む者に届き、心を打ったのでした。 葛原りょうさんは、言葉に込められた熱気が孤独な生を新たなものにしていきます。りょう城さんは、身体の有限性からはみ出ようとする心をうまく捉えています。森美沙さんは、心象的な情景と文体が気持ちよく溶け合っていました。 |
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