思いのこもる多彩な作品群
滝 いく子

 今年の第三九回詩人会議新人賞には、米国からの一篇を含め宮崎を除く全都道府県から、五六七人の作品と、一〇篇の評論の応募があった。
 応募者数は、九歳以下の三人と一〇代四〇人の、ジュニア賞を目指す子どもたちが頼もしく、また七〇代の三五人も嬉しい。四〇〜六〇代も良く頑張っているが、やはり二〇〜三〇代が圧倒的に多く二六九人を数え、「詩は青春の文学」を納得した。作品数が多く、第一次選考には選考委員の他に、青木みつお、赤木比佐江、荒波剛、美異亜、樋野修、宮本勝夫氏らの協力を得ながら、評論を三篇に、作品を一一二篇に絞り込んだ。この中から期待したジュニア賞は残念ながら該当作品を出せなかったが、広がったのは嬉しい。
 評論は、自ら掲げたテーマに筆者自らが迫り考え論陣を張る、という姿には何れもならず、既にある作品や論や資料などの、紹介や感想などにとどまった感で、積極的な支持がえられず、残念に思う。
 作品の方は書きなれ、挑戦にも慣れた人や、一字一字一生懸命に書いた作品などを読み返しながら、作品が伝えようとしたことを受け取る努力をした。選考が進むに従って心に響く作品が浮き上がり、作者の思いがいとおしく、決定には苦慮したが、最終的には誰からも異論のない結論に達した。
 入選は福井の浅田杏子「蟹」。セイコ蟹は越前の海で獲れる蟹か。いきなりその豪快な食べ方からはいる大胆な切り込みである。働き者の女たち。一人ぼっちのお留守番のいっちゃんの家のボヤ騒ぎ。今は東京で働く彼の、故郷を誇り懐かしむ気持を温かく抱きとめる友達など、やさしさと郷土の誇りが全面に溢れる素晴らしい詩である。
 佳作一席橘上の「屋上」には奇妙な現実感がある。屋上で揺れる野宮さんは、自身の実在あるいは将来への不安感なのかもしれない。〈野宮貯金〉という現実で自分を支えようとする、青年期の揺れが切なく、いとおしい。
 長崎太郎「風呂屋」は、敗戦後の庶民生活を立体的にイメージさせる長崎弁が効果的。高齢者でなければ書けない貴重な体験詩である。ジュニア賞は出ず残念だったが、九歳の星篤志、八歳の山下りょう、七歳のにしおしずこさんらに私は好感を持った。



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