1−B 北海道国際航空(エア・ドゥ)の教訓と将来

北海道国際航空(エア・ドゥ)の教訓と将来


平成14年も押しつまった12月20日、北海道国際航空株式会社(以下エア・ドゥ)は民事再生法の適用を受けての再建のための20億円の第三者割当増資の払込が完了したと発表した。

これで、一応エア・ドゥの再建のめどが立ったと言えるが、それでは将来の発展は約束されたと見て良いのだろうか。 また、「道民の翼」としての性格は維持できるのか。 全日空の支援はエア・ドゥについて何を意味するのか。 72億円強の高い授業料を払ったエア・ドウは、それに見合う教訓を得たのであろうか。それらを、この報告で纏めてみたい。

エア・ドゥの再建の仕組

今回のエア・ドゥの破綻による教訓は、わが国の新規参入航空会社がいかにずさんな計画と準備で事業を開始したのかが明白になり、いわゆるベンチャーとしての航空運送事業の将来性は会社を設立し、経営する人材にあると言うことである。 筆者はエア・ドゥの失敗の根本原因は、売り物とするビジネス・モデルなしに、すなわち既存航空会社に勝てる商品-この場合は低運賃と言ってよいだろう-を開発、提供できる具体的な方法なしで走り出したことにあると考えている。 結局、大手航空会社に対抗できる運賃を提供できるビジネス・モデルは出来ず、多分その必要性すら理解しないうちに、またそれを出来る人材の必要性も理解しないまま走ったエア・ドゥの歴代の経営陣の責任は大きい。 日本経済新聞社発行の「エア・ドゥ 夢はなぜ破れたか」を読んでも、それが伺える。 その結果約72億円の資本金は100%減資となり、また債権は90%を切り捨てられることになった。 今回の第三者割当増資により新たな20億円の資本金を得ての再出発になったが、今度はうまく行くのであろうか。 再建の仕組は、日本政策投資銀行が設立する「北海道国際航空株式会社企業再建ファンド信託」から20億円が出資され、この資本金を運営資金に当て、全日空とのコードシェアの活用と航空機整備の委託などによる経費削減により、経営再建する計画である。 

日本政策投資銀行が設立する投資ファンドには、銀行自身が9億9千万円出資するほか、全日空が3億円、北洋銀行など道内企業17社が計4億6千万円、インターネットモールの楽天ほか8社の道外企業が計3億5千5百万円を信託している。 報道による信託金額を合計すると21億5百万円になるが、そのうちの20億円を出資したのであろう。 再建の可否は大きく全日空とのコードシェアにかかっており、これがうまく行けば財政的には歓迎すべきであるが、一方エア・ドゥとしての独自性がどこまで維持できるかと言う問題がでてくる。 今までの報道によれば、全日空はエア・ドウの座席の半分は買い取るが、運賃や割引制度は別に設定できるとしていて、エア・ドウの独自性は維持できるとしている。 これまでに発表されている計画では、全日空からの人材派遣も考えられているようだが、いまの段階では具体的な内容は分からない。

しかし、全日空からの人材派遣は、先に述べた人材の不足問題を解決できるのであろうか。 全日空が人材派遣によりエア・ドゥを強化すればするほど、エア・ドゥはミニ・全日空になる危険性をはらんでいる。

今までのエア・ドゥは巷では日航OBによるミニ日航と言われていたが、それが日航から全日空に代るだけになる可能性は極めて大きい。 まして、以前の日航OBは日航から直接指導・監督されることはなかったはずだが、これからは派遣社員を通じての全日空の締め付けがないと考えるのは、あまりにも楽観的すぎると思う。 

エア・ドウの将来と独自性の維持

今回の再建計画により、事業量-提供座席数の半分は全日空に保証されたので、それだけで座席利用率は50%になるから、自社分の半分を売っただけで座席利用率は75%に達する。 エア・ドゥの固定客もいることであろうから、年間70%以上の座席利用率-実際のと言うより収入上の達成は多分可能であろう。 

加えて航空機整備の日航から全日空への変更、予約・販売業務や空港ハンドリングの全日空委託により15億円程度の経費削減が見込めるとしている。 エア・ドゥ破綻までの凡そ3年間で75億円の累積赤字だから、年間20億円くらいの赤字だったと見れば、経費節減の15億円に5億円の売上増を見込めば、収支トントンくらいにはなりそうである。 そこで残る問題は独自性の維持である。 

先に述べたようにエア・ドゥは自社分については独自の運賃が設定できるとなっているが、実際にそれが出来るのかと言うことがある。 エア・ドゥの設立の経緯からすれば、エアメドゥの独自運賃とは、大手より安い運賃の設定である。 いままでは原価はそうでないのに、安い運賃を売り出したために破綻した。 

この二の舞を踏まぬためには、原価に見合った運賃を設定することであり、それは具体的には全日空より安い原価が達成できるのかと言うことである。 全日空の支援により相当の経費削減はできる見込みがあるが、報道に触れられていない経費節減策がある。 それは航空燃料の全日空グループとの一括購入であり、航空保険の全日空グループとの一括加入である。 両者で経費的に相当な割合、多分運航費全体の十数%にも達しているはずである。 具体的な数字は分からないが燃料の購入単価はエアドゥは全日空のそれより数十%高いことは容易に想像できる。 再建後、費用科目の内訳は公租公課は変化なく、航空機リース料や全日空への委託業務についての経費単価水準は全日空と同等になる見られるが、もし航空燃料と航空保険を自社独自調達とすればエアドゥの方の単価が高く、人件費単価だけがエア・ドゥが安いと見られる。 しかし、空港ハンドリング等を全日空に委託すればその分の人数は削減されるはずで、総額的には安い人件費単価のメリットはそれほど大きくないと見られる。 通常でも運航費に対する人件費比率は20%強程度であり、人件費単価が20%安いとしても運航費全体では2〜3%程度の削減にしかならない。 故に現在まで公表されているエア・ドウの収支や全日空の支援内容から推測すれば、エア・ドゥが全日空より安いコストを達成できる見込みはないと言っても良いであろう。 さらに全日空より各部署に人材が派遣されるようになれば、業務方式は全日空式になるのは必然であり、その面からも全日空とは違うやり方で安いコストを達成する見込みはないと断言しても良いであろう。 したがって、エア・ドゥが全日空より安い独自運賃を定常的に提供できる可能性はないと見た方が自然である。 うがった見方をすれば、エア・ドゥが全日空の脅威となる独自運賃を提供できる見込みがないから、コードシェアによる同一便のなかですら独自運賃の設定を認めたとも考えられる。

今回の再建の仕組は、どう見てもエア・ドゥの独自性を保証するものにはならないと見ている。

全日空の支援の目的

結局のところ、エア・ドゥの再建計画は全日空のブラス6便のメリットの方がはるかに大きいと考えられる。 全日空はエア・ドゥの株主ではないことも注目しなければならない。 投資ファンドを通じて出資したけれども株主としての直接責任を負う立場にはない。 しかし、コードシェアや人材派遣等により実効的にエア・ドゥの運営を支配できることは間違いない。 わずか3億円で東京-札幌線、B767-300による6便を支配すると言う、まことに割の良い取り引きをしたとも言える。 業務委託料などの加減によりエア・ドゥをこれ以上発展しないように、しかし破綻しないように支援して行けば、今回の取り引きの目的は達成されることになろう。 全日空以外に投資ファンドに信託する顔触れも、政策投資銀行は以前の日本開発銀行のステイタスを守るための参加と見られるし、道内企業はやむを得ないおつきあい、道外企業の参加はむしろ全日空への関しんと見た方が妥当であろう。 道内企業を除けば、以前のエア・ドゥの株主、京セラやレイケイの顔が見えないのも、ベンチャー・ビジネスとしてのエア・ドゥが変質すると見られていることの表れと思う。

外部の目もこれからもエア・ドゥが独立企業であると見るよりも、全日空の関連会社として見ているのではないか。

結論

結論を言えば、エア・ドゥはこれからも運航を継続できるであろうが、それはもう北海道民の熱い期待を背負って飛び立ったエア・ドゥではない。 実質的に東京〜札幌線の全日空便の一部を受託運航する運航請け負い会社であって、独立した航空運送事業会社として見ないほうが実態に即している。

全日空もあえて子会社にしなくても実効的支配ができるなら、この形態の不具合が表面化しない限り、この形のままを続けると思う。 形の上では独立した会社であっても、実態としては「道民の翼」としての期待に対応できる形にはならないと見ている。 今回の再建はこれまでの教訓を糧として新たな「道民の翼」としての再出発と言うより、形の上での存続により過去の失敗を取り繕うものと見た方が、現実的であろう。

そのようになったとしても、「北海道の翼」として応援するかどうかは、ひとえに道民の意思にかかっている。

以上