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■ 動物ジャーナル 58 2007 秋 より

  イヨマンテ禁止通達撤回について

青島 啓子


北海道知事あての手紙/中田 日出子

このお手紙がなにとぞ知事に届くことを切に願っております。

「イヨマンテ禁止通達五十年ぶりに撤回」について
  通達以前のイヨマンテを見た観客側としての感想

 イヨマンテの儀式を語るアイヌの古老もすでに亡くなられ、唯一残る一九一〇年の映像を基に儀式を再現するそうですが、四十年前に亡くなりました私の父が当時の儀式を見ており、折に触れ観客側としての心情を語っておりましたのでご報告いたます。
 私の父は登山家として二度の海外遠征隊長を務め、死後四十年になる今もその画文集は再版をかさねております。
 戦前の登山は当時としては特殊な趣味であったらしく、ガイド、歩荷を雇い、例えば立山連峰では芦峅寺の方達がガイドとして同行いたしました。そのようなことから、北海道ではアイヌの方に山の案内をお願いし、山へ入ったようです。娘の私から見ても、リベラルでヒューマニズム溢れる人間であったと思います。

 そのような気質の父が、イヨマンテでの小熊殺傷の一部始終を「何とも無惨で不快なこと」と感じておりました。
 矢が射かけられた小熊は片手を上げてその矢を防ごうとしたそうです。
 その殺傷は祭りのクライマックスとなるため、ゆっくりと行われ、父の言葉によると「小熊は尋常ではない苦しみかた」をして、絶命に至ったそうです。
 イヨマンテでの小熊殺傷禁止の通達を出された当時の知事も、その一部始終をご覧になっていたのだと想像いたします。

 ウタリ協会は政治色の強い団体のようですが、現在の世界情勢を見て、捕鯨禁止、英国ではキツネ狩の禁止が議会を通っている昨今、五十二年前に、動物愛護が叫ばれていない時点での「公衆の面前での小熊殺傷の残酷な行為として禁止されていた通達」が「動物虐待にはあたらない」という環境省の見解のズレに驚いております。

 現在、「犬ねこ、小動物を虐待すれば罪になる」法律の下で、ネット上には公然と、小熊が殺される一部始終のショウが見られるという期待の文ものっております。
 ウタリ協会長の唱える「イヨマンテの儀式を通して、民族の結束を計る」という意見は、結束を計るという手段であり、森に生き狩猟を生計とするアイヌの方がいない現在、儀式とは考えられません。
 七月に北海道を訪れ、独自での聞き取りをしてきましたが、どの方からも「観光目的」という答でした。

 数年に一回行われてきた節度あるかたちでのイヨマンテ、マラットオプニカなどとは違い、小熊殺傷を伴うイヨマンテが観光となるならば、サミットを控え世界の目が北海道に向けられている昨今、動物愛護先進国からの非難も出てくる事と思われます。

 現在、西日本では絶滅の虞れにつき鳥取以外はクマ狩猟を禁止、クマ狩猟自粛県は七県、兵庫県では知事はじめ環境省からの狩猟禁止が出ております。
 また、イヨマンテに使用する小熊を捕るための穴熊捕りは、岩手大の研究者の方から「個体数を不明にする危険性」のため、再度にわたり「穴熊捕り禁止」を要望するレポートが環境省に提出されております。

 このところ不祥事続きの北海道、知事のご心労も多いこととは存じますが、現在クマ捕獲殺傷は各自治体にまかされているため、昭和三十年時の道知事の通達をふまえ、なにとぞ現知事の小熊に対するお慈悲心にお頼りし、「イヨマンテ小熊殺傷の禁止通達の撤廃」を止めるご英断をお願いいたします。
 なお、亡き父からはアイヌの方達への差別、蔑視の言葉は一度たりとも語られていなかった事を付け加えます。又、亡くなりました私の姉には、父が愛して已まなかった北海道の地より「美瑛」と名付けられておりました。

知事宛の要望嘆願の手紙も多数とは思いますが、係の方のお力で、この手紙が知事のお目に留まる事を再度ねがってやみません。

中田日出子(署名)

北海道知事への質問書簡/動物虐待防止会

前略  前掲・中田日出子氏の北海道知事あてお手紙が当会に送られてきたのは八月二十二日のことでした。
添状には、中田氏父君のイヨマンテ実見の感想および七月にご自身で北海道で聞取りをなさった結果(知事宛書簡の記述と同内容)が記され、禁止撤回の要請は個人名では限界があるので、団体からも出してほしい、他の団体へも呼びかけてほしい、と書かれていました。

当会は新聞報道により既に禁止撤回を承知していましたが(東京新聞 四月二十九日、毎日新聞 五月二日)、イヨマンテについては大まかな知識しかなく、この中田氏書簡により、熊送りの事実を知り、愕然とした次第です。
中田氏は又、[北海道にイヨマンテを見に行く]というサイトのコピーも同封して下さいました。それには熊送りの実態も述べられ、殺し方は大同小異ながら一種ではないことも判りました。これは、一般人には、なぶり殺しとしか思えません。
申し添えますが、当会は、偏見も差別観もない人間の集りと自負しています。ふみ込みますと、アイヌ民族の自然畏敬に共感していますし、他の種々の差別に対しても、それを反道徳的と捉えています。しかしながら、このイヨマンテにおける熊殺しには反対せざるを得ません。「それとこれとは話が別」なのです。
アイヌ民族とその伝統儀式は尊重する、しかし、熊を殺すことは容認できない、ということです。

今後イヨマンテ復活の動向がどのように推移するか見守りたいと思いますが、当会は、この件に関する北海道知事のご見解を知りたく、以下の点につき質問させていただきます。

1、知事は、中田氏書簡の「父君の感想」をどのように感じられましたか。また、この「父君の感想」に述べられた証言内容を、これ以前にご存じでしたか。

2、一九五五年の通達後も、現実にはイヨマンテは開催されていました。新聞によれば、数年に一度ほど、近年は胆振管内白老町、日高管内平取町、旭川市などで行われているとのこと。五十二年間の禁止期間中、数年に一度ということは、十回くらい行われたことになります。やはり新聞によれば「学術研究や観光目的」ということです。
これらの開催は、どのようにして実現出来たのかを知りたく思います。届出制あるいは許可制であったのか、自由に開催できたのか、いかがでしょう。

3、そして、十回くらいの開催において、熊送りの内容はどういうものだったのでしょうか。中田氏「父君の感想」と同様か、差異があったか、あったとすれば、どういう差異か。

4、学術研究で行われた場合、その報告書はどこに保管されていますか。

5、観光目的の場合、通達下の状況では、主催者が限られると思いますが、この期間の開催主催者を教えてください。

6、今回通達撤回により、開催は自由になったと考えますが、動物愛護法・基本指針「正当な理由で適正に行われる限り」との制約もあります。伝統儀式という正当な理由は当然であるとして、「適正に」の具体的内容につき、環境省から知らせがありましたか。なかった場合、貴道庁から問合せをされましたか。された場合、その返事の内容を教えてください。

以上、当会が気にかけていることをお訊ねしました。ご返事くださるようお願いいたします。

この度、イヨマンテをきっかけに、種々勉強しました。和人の侵略、松前藩・幕府の収奪の歴史を見、明治政府以降の施策も大転換とならなかった実情を、言葉にできない思いで受けとめています。
当会は、これまでの不平等を「非」とする立場に立ち、アイヌ民族の独自性を尊重することにおいて人後におちるものではありません。しかしながら、従前の熊送りが継続されるならば、それを非難し、道庁の禁止撤回を指弾します。

一九六四年、川村カ子ト(カネト)氏主催・旭川市後援の「全道アイヌ祭」でのイヨマンテは、熊を殺すことなく行われたそうです。この方式であっても、アイヌ民族の自然畏敬の念は充分発揚され、再認識されたものと考えられます。いかなる「伝統」も、時代により、伝承者の創造により、変化していることは多くの分野において明らかです。イヨマンテも、時代の感覚に合せた方式に変化したとしても、それが「民族の結束」に支障をきたすことになるとは考えられません。
道庁は、旧時代の侵略・差別、今なお続く不平等に、深く思いを至され、従前の方法による熊送り実行が、むしろ、あると言われる偏見を助長する危険をはらむことに留意され、北海道としての施策を慎重に遂行されるよう希望します。 以上


読者の皆さまへ/青島 啓子
 前述の通り、四月末に新聞報道があり、五月十五日には朝日新聞「声」欄に札幌市住の主婦の投書が載り、イヨマンテ復活への危惧が広まりました。当会へも、行動を起すようメールその他で要請がありまし
たが、今に至りましたこと、ご覧の通りです。頂いたメールの中には、自分の所属する団体は「アイヌに配慮して、抗議はしない」と言われたので個人でやっているが、そちらでも、と焦りを滲ませた訴えもあり、これが動物保護団体なのかと、その皮相な見解に、憤りを通り越し絶望を感じたものです。
 それはともかく、当会はいかにすべきか、有志と相談を重ね、知事宛書簡を第一段とすることにしました。ありがちなヒステリックな抗議行動は望ましくありません。電話攻勢などで先方が殻に閉じこもっては、話が通じなくなります。私たちが希望する着地点へ向って、相互理解を深めて行くことが重要と思います。
 幸い、ウタリ協会事務局は「今年は行わない」と発言ありとの情報もあり、時間的余裕もできました。
 それで皆さまにお願いしたいのは、「イヨマンテ禁止通達撤回」に関する疑問を、環境省・北海道庁へ問合せて頂きたいということ。できれば往復葉書で、返送先も記入し、回答をもらえるよう促してください。そして、回答を得られましたら、当会へもお聞かせください。次の段階に役立たせたく思います。
 イヨマンテ復活だけがアイヌ民族尊重の証しではありません。「先住民族の権利に関する国連宣言」も踏まえ、個々に、深い歴史的傷跡を思いみて、全生命の重んじられる世の中をつくりあげる努力をいたしましょう。