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TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー 動物ジャーナル98・娘が猫六匹と中国から帰国

■ 動物ジャーナル98 終刊直前号

  娘が猫六匹と中国から帰国

広上 久江


 二年前の冬、中国で十年働いていた娘が「そろそろ日本に帰ろうかな。」と言ってきた。
「それはいいけど、猫達はどうするの? まさか六匹も連れて帰れないでしょう。せめて何匹か、友達や知合いにもらってもらえないの?」と私。
 実は娘は、上海の一人暮しのアパートで猫を六匹飼っていました。捨て猫だったり迷い猫だったり、ペットショップの売れ残りだったりした猫達で、いつのまにか六匹に増えていて。
 中国の猫と言っても、見た目は白黒、さば猫、茶トラ、真白など、日本のその辺にいる猫達と何ら変りはないのですが。
 なぜか皆ひどい人見知りで、私がたずねたときも、狭い部屋にもかかわらず全く姿を見せず、人が寝静まった頃にようやく、コソっと隅の方から出て来るというような猫達なので、果して飛行機に乗せて帰れるものだろうか…という思いでした。
 そして一ヶ月後、電話で「良く良く考えたけど、どの子も同じ位に可愛くて、だれをもらってもらうか選べないから、全員つれて帰るよ。」と言われた時には、私の頭の中はパニックに。それからの丸一年は、その事を考えるだけで心臓がドキドキする日々でした。
 インターネットで調べると、猫をつれて帰るとは動物の輸入に当ることがわかり、「動物の輸入だなんて?」と今さらながらに驚きました。そして、動物を輸入するには大変な手間とお金が掛かる事がわかりました。
 春になって、「まず一匹を獣医さんにつれて行ったよ。」とメールが来た。
 更に、猫達は皆大きいし重いし、毎回タクシーというのも面倒なので、電気自転車を買って、「エサを食べて油断しているスキにつかまえてケージに入れ、一匹ずつ獣医につれて行ってるよ」と、少しずつ準備を始めたようでした。
 病院では、マイクロチップを体内に入れ(個体識別のために。人間ならさしずめパスポートでしょうか)、各種の予防接種と、一番大事なのは狂犬病(猫の場合でも)の予防接種をやってもらう。
 その後、狂犬病の抗体検査のために、又一匹ずつ血清を取りに病院につれて行き自宅の冷蔵庫に保管して置いて、ようやく六匹分の血清がそろったのを持って、八月に一旦日本に帰って来ました。そして急ぎ、神奈川県にある動物の検疫所にクール宅急便で血清を送りました。
 十日後に、六匹とも抗体が充分であるという検査結果が届き、ホッとしました。
 これで、つれて帰れるというメドがついたので、勤めている会社に三月いっぱいで仕事を辞める事を告げたそうです。

 あとは、来春に予約した飛行機に二匹をつかまえて(一パスポートにつき二匹までなので)、ケージに入れて、飛行場につれて行き、出発便に乗れるのか? 何しろ中国では予告なく飛行機がキャンセルされるし、受付の人の判断次第で乗せてもらえるかどうかが決るなど、実際に乗るまでは安心できない。無事日本に着いても、空港の検疫所で書類がパスしないと、新潟空港には動物を留め置く施設がないため、即刻帰されるとの事、等々聞かされると、考えるだけで血圧が上がってしまいます。
 四月の初め、「予定どおりの便に乗れるよ。」のメールを受けて、胸をなでおろしながら、主人と二人で新潟空港を目指し、車で出発しました。
 飛行機の到着からも長い時間を待って、空港の検疫所から二匹の入ったケージをカートに乗せて、娘が現れた時は、ああと、身体中の力が抜ける思いがしました。

 肝心の長岡での住いは、空き家になっていた私の実家という段取りになっていました。
 というのは、すでにうちにも二匹の猫がいて、そんな所に六匹の新しい猫達が来たら、必ず問題が起きると目に見えていましたので。
 しばらく空き家だった家を、あちらこちら手直しし、迎える準備をせっせとやっておりました。
 幸い、猫達と娘は気に入ったようです。
 そして三日間、娘は長岡で過すと、次の便で(新潟〜上海は週二便しかありません)上海にもどり、また二週間後に二匹をつれて帰るをくり返し、ようやく、六匹の猫と娘が日本におちついたのは六月でした。
 その間、二匹、四匹、六匹と増える猫達の面倒を見に実家に通いましたが、とにかく皆怖がりなので、私の玄関を開ける音が聞えると一斉に隠れてしまい、ちらばった猫砂やうんち、空っぽのえさ箱を見て、元気にしているらしいなと思う毎日でした。

 あれからちょうど一年が経ちまして、上海育ちの猫達にはこちらの冬は寒かったでしょうが、皆元気にしています。
 何度もの恐怖の病院通い、飛行機の荷物室での轟音と寒さ、見知らぬ土地での暮し、等々にもめげず、落ちついた日々を猫達は迎えており、あの時の苦労も心労も、いい経験だったなあと思っております。

(ひろかみ ひさえ・元長岡ねこの会 代表)

[青島注]
校正のついでに、後日談補充?とお写真拝借をとお願いしましたところ、「特になし」とのお手紙をいただきました。が、それが期せずして後日談になっていますので、一部分をご紹介します。
 あれから、六匹とも、病気もせず元気に過しておりまして、好みのペットフードもうちの猫達と同じなので、買い出しに助かっています。
 ただマンション暮しから一軒家暮しになって、特にオス猫の三匹は、隙を見ては出たがるようになり、近所のボス猫に追いかけられ、悲鳴をあげて逃げ帰って来るんだそうですが、外の魅力には勝てないらしく、ちょこちょこ脱走しているらしいです。
 素敵な写真があればと探しましたが、例によって、みんなシャイなので、どれもこれも、うしろ姿ばっかりで、使えそうなものが有りませんでした。残念です。(後略)