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TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー 動物ジャーナル97・ねこ不妊手術費助成は何のためか?

■ 動物ジャーナル97 2017 春

  ねこ不妊手術費助成は何のためか?

   ──「東大阪市議会だより」の文言に疑問──

飯田 史子


 東大阪市に住む市民として、常々行政や市議会に関心をもっていますが、ねこの不妊手術費用の助成が討議されたことを報じた「東大阪市議会だより」175号を読んだ時、動愛法の趣旨である生命を尊重する旨の文言がないことに気付きました。これはおかしい、何故なのかと思って調べてみました。

 全国的に定着してきた地方自治体による「ねこ不妊手術助成制度」は、国の政策の根幹となる「動物の愛護及び管理に関する法律」の基本原則(注1)が生かされたものでなければなりません。
 即ち「動物の生命を尊重する」旨の文言が入っているべきで、環境省動物愛護室もそう言っています。
(注1)「動愛法」第2条(基本原則)
動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

 しかし、全く残念なことに、「東大阪市議会だより175号」に掲載された関係記事(個人質問)の文章にはそのような文言が入っていませんでした。「市議会だより」5ページから引用します。

ねこ不妊手術 助成の目的

問 ねこによる環境被害が多く報告されているのを受け、不妊手術への助成制度が提案されているが、飼いねこによる損害への責任は飼い主が負うべきものであり、不妊手術などを行うことは飼い主の義務ではないのか。
健康部長 これまでも室内飼育など適正飼養の啓発に努めてきたが、本助成制度により不妊手術を一層推進することで解決を図りたい。

 この記録の見出しには「助成の目的」とありますが、質問者の本旨は「手術は飼い主の義務ではないか」であって、目的を論じているのではありません。前置に「環境被害が多いのでそれに対応するため」と言っているので、ようやく「環境被害を防ぐのが目的だ」と読めることになります。
 この質疑において、助成の目的は「環境被害を防止すること」でした。
 ここには環境省が言う「動物の生命を尊重する」文言がありません。
 このことから考えると、ねこの不妊手術助成の目的は、ねこによる環境被害を減らしたいためで、不幸な猫を生み出さないためではなかったことになります。
 これでは折角生れても飼い主が見つからず、死んでいく罪のない猫さんたちが可哀相です。

「東大阪市議会だより」の影響力は?

「東大阪市議会だより」は、地方公共団体東大阪市の広報誌の一つです。
 東大阪市の人口は、今年七月一日現在四九万
八四六五人、世帯数は二二万五七二一世帯です。
 この全世帯に行き渡るように、二十一万部発行されているそうです。
 私がショックだったのは、この「東大阪市議会だより」の二十一万という発行部数の多さでした。各戸に配布されるので、市民への宣伝力は非常に大きいと思います。
 日本は少子高齢化が進んだことで、猫や犬を飼育してみたいという人が増え、ペット関連市場は一兆四千億円を超えています。
 ペットによる?環境被害?の責任は飼い主だけの問題でしょうか? 安易に飼わせる国の施策、供給するペット関連業界も同じ責任を負うべきと私は考えます。
 人が、何の罪もない猫にさせた?環境被害?ですのに、この「市議会だより」の「環境被害を防止するため」という言葉を見た時、猫は害獣ではなく、愛護動物なのに、と思いました。
 風評被害のようになって、猫のイメージが悪くなったらイヤ〜。

 心配になって、「猫についてどう思われますか」というテーマで、一般市民の方、知人、友人の感想をいただきました。
○最近テレビなどで猫の番組をよく見る。猫ブームになっているのか!
○猫はかわいいので、心が癒される♥
○ 生命あるものだから、家族のように大切なもの♥
以上、匿名です。猫を飼っていない人でも、猫の魅力に興味を持たれていましたよ。
 猫も犬も、人間社会に貢献している立派な動物さんたちです。その生命を尊重して、不幸な命を生み出さないために、必要なのが不妊手術です。「不妊手術は動物愛護の第一歩」というスローガンを掲げる団体もあります。
 環境被害防止のためとだけ考える市議会を、情けなく思いました。

なぜ「東大阪市議会だより」に生命尊重の文言がなかったのか

「東大阪市議会だより」は、議会だより編集委員会が編集しています。つまり、行政ではなく立法府=市会議員さんたちが、議会であったことを掲載しています。
 今回の助成金に関して、生命尊重の文言がなかったのは、猫による環境被害が多く報告されているのを受けた市会議員さんが質問に立ったからだと思います。
 市議さんと、私たち動物愛護に関わる者たちとの価値観が異なっていても当然ではありましょうが、それでも動物の生命を尊重しなければならない理由があります。
 それは「動愛法」第三条(普及啓発)です。そこには
 国及び地方公共団体は、動物の愛護と適正な飼養に関し、前条(=基本原則)の趣旨にのつとり、相互に連携を図りつつ、学校、地域、家庭等における教育活動、広報活動等を通じて普及啓発を図るように努めなければならない。
とあります。「生命の尊重」を基本に、「適正な飼養」のためには「繁殖制限も必要」と言っていると思います。
 市議会は「動愛法」が全く念頭になかったか、知っていて無視したかは判りません。ただ、結果として「不妊手術費用助成は害獣防除のためだって?」と、感覚を疑われても仕方ないと思います。

動物の生命を尊重しなければならない理由とは
 私は猫の生命を尊重する社会を実現するための活動を続けていますが、近年増加する忌わしい快楽殺人の報道を見る度、「動愛法」特に基本原則が世の中で重視されなければならないと思うようになりました。
 なぜなら、犯人たちが事件の前段で猫など小動物を殺害していることが多く、それは小さい命を尊重しないことを示しているからです。
 小さくても命であること、その殺害は不道徳であることがきちんと教えられていれば、殺人への芽が摘まれたはずです。
「小動物虐待が重大犯罪に至る」説には異論もあるそうですが、神戸連続児童殺傷事件は実証例として記憶する方も多いと思います。事件の周辺地区で小動物の惨殺死体が発見されていたことが少年Aの逮捕につながりました。
 この事件がきっかけで法律改正が求められ、「動管法」が「動愛法」となるなど大きな動きとなったのです。これが動物殺傷を軽視してはいけない、生命を尊重しなければならない理由です。
 「東大阪市議会だより」の文章によって、「環境被害をもたらす猫」は迫害してもよいとの錯覚を市民にもたらすことになれば、重大犯罪の導火線になりかねないと危惧しています。
(いいだ ふみこ・キャットメイト代表)