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■ 動物ジャーナル93 2016 春

  マスターの一周忌 

そして読者の方へのお願い

石川 幸子


 永年にわたって犬や猫のために活動したマスターこと杉本等さんが亡くなって、早くも一年が経ちました。御命日月の五月末、親交のあった人たちが「闘牛苑」に集まるというので、私も末席に加えていただきました。
 彼が大好きだった、焼肉「闘牛苑」はJR中央線日野駅からほど近い場所にあります。店主の「オモニ」とマスターとは、彼の喫茶店「NADA」ができて間もなくからずっと続くお付合いで、毎日通っていた時期もありました。
「杉本さんが毎日焼肉を?」と、いぶかるのも無理はなく、彼は焼肉が好きで通っていたのではなく、「オモニ」が好きで通っていたのです。
 私もマスターや他の常連さんと同じに「オモニ」に会いたくて通っていたクチでした。ビールとキムチだけ、稀にお肉の「金にならない客」一派です。卵焼きや焼鮭まで出させる無茶な面々でした。
 在日二世の「オモニ」から聞かせてもらう幼少期からのいろいろな苦労話や一家の日常に触れて、私は初めて日本に在日の問題があることを知ったのでした。四人いるオモニの子どもの末っ子が、まだ小学生だった頃の出会いです。子どもたちがオモニと呼ぶので、私たちも当り前のように「オモニ」と呼び続けて三十年以上が経ちました。闘牛苑は今年で四十二年目です。

 マスターが亡くなったときも、私たちは闘牛苑で「宴会」をしました。「僕が死んだら闘牛苑で宴会をやって」というのが遺言だったからです。きっと、自分がその中にいるって思っていたはずです。
 その時も今回の「宴会」も、お兄様をはじめとするご遺族が来てくださって、集まるメンバーはだいたい同じでしたが、去年は間に合わなかった人も、今年は来ていました。
 マスターの人生のそれぞれの時期に濃密なお付合いをした方たちだから、必ずしも来た人同士が知り合いなわけでもありません。杉本さんという共通のフィルターを持ってる人たちです。
 どんな人が来ていたかというと、今は大学の先生になった元美大生、新宿ゴールデン街のママになった人、版画作家になった元美大生、音楽家で画家でもある元美大生、猫好きな彫金作家、ライブハウスを経営しながら万華鏡を作ったりしている作家さん…。この辺りの芸術系の方々は、喫茶店「NADA」時代の方がほとんどだけれど、今回が初対面の方もいました。
 ほかは、杉本さんの影響を受けて犬・猫のボランティア団体を作り、杉本さんの遺志を引き継いだ人、動物の殺処分反対の立場で市議会の選挙に立ってトップ当選した市議さん、動物愛護活動で彼と信頼しあって来た人、アムネスティ日野支部を一緒にやった人、キューバ情勢に詳しくて、杉本さんとキューバに旅行した人、杉本さんのお気に入りの可愛い人、ずーっとお友だちで彼にたくさんご飯を食べさせた料理上手な人、今ではおじさんとおばさんの年齢になったオモニの子どもたちなどなど…。
「宴会」ではありますが、誰も仕切ろうとしないので、今回の連絡をくれた人が皆にうながされて「じゃあ始めましょうか」ということになり、そしてお兄様の「献杯」の発声で「宴会」はゆるりと始まりました。焼き肉用の大きなテーブルを三つ使って、お肉は焼かずにオモニが作ってくれたたくさんの朝鮮料理や日本風の煮物にビールやマッコリをいただきます。これが闘牛苑だよね、と嬉しくなる私。
 マスターの遺影はお店の入口の小机の上に祭壇のように置かれていていました。俳優みたいにかっこいいモノクロで、うつむき加減でやや横向き。長めの前髪がさらりとなびいています。ちょっとカッコよすぎます。その前にはお酒が注がれたグラスとタバコ、それと彼が好きだった真っ赤なバラの花。お兄様がご実家の庭から手折ってきてくれました。
 昼過ぎからの「宴会」はなんとなく長く続いていきます。遅れて誰かが来たり、「ではそろそろ」と言って帰ったり。ときどき、遺影のそばに誰彼となく座っては、じっと写真を見ていたり、語りかけているのでした。
 最終の新幹線に乗らなければならない私が席を立つころ、闘牛苑は一般のお客さんで混みあっていました。

 マスターの人柄を感じさせる自由な「宴会」だったと思います。
 けれど私の心の中にはこれで終りじゃないでしょう、という不満の核が芽生えました。その気持は夏が近づくにつれてふつふつと膨らんで来ています。
 そのモヤモヤは、彼が犬や猫のためにやったたくさんのことを記録したいという気持にまとまってきました。「宴会」に来た方たちだけでなく、彼に何かを相談したり、彼と一緒に戦ったり、彼と喧嘩をしたり仲直りをしたり、説教されて腹が立ったり、励まされたり、楽しかったり、笑ったり、悲しかったりした人がたくさんいたはずです。
 動物愛護の活動では、彼がやったことの記録が散逸しているため、埋もれている事実がたくさんあるように思います。それらをまとめ、彼の足跡を辿ることが、これからの私たちの活動の支えになると思うのです。
 そんなことから、来年の三回忌に向けて、マスターこと杉本等さんへの追悼を込めて、文集を作ることにしました。まだ詳細は決っていませんが、杉本さんと親交のあった皆さまからのご寄稿がなければ永遠に完成できません。この場を借りてお願いする次第です。どんな些細な事でも、こんなことを一緒にやったという事実の連絡だけでも、短文でも写真などでもなんでも結構です。
「杉本等追悼文集(仮題)」作りにご興味のある方は、ぜひ左記までご一報お願いいたします。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
 
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