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■ 動物ジャーナル90 2015 夏

どうして動愛法は機能しないのでしょうか? (前編)

スタンバオ 眞理代

序章
 動物の愛護及び管理に関する法律(以下動愛法)に関連する討論会などで「動愛法が機能していない」「虐待の定義が曖昧なのでダメ」という意見が出ています。
 そのため「もっと強力な法律に改正するべきだ」と主張する方も少なくないようで、自治体によって動愛法の運用状況にバラつきがあり、「法律なのにおかしい」「全国同じになっていない」いう声も珍しくありません。
 確かに最初の動愛法(一九七三年)は色鉛筆に例えれば十二色、でも現在の動愛法は三十六色の如く、動物に対する虐待以外でも守らなければならない決りがあり、これを無視した者への罰則も定められています。十万円以下の過料(刑法の科料と区別するため、あやまちりょうとも呼ぶ)は勿論、判断や適用が難しい虐待事案以外でも、百万円以下の罰金が設定され、もれなく前科も付くことから、相応の抑止が狙えるものになっているとは思います。
 他方、およそ画才とは縁遠い私だけかもしれませんが、「色数が多いほうが、上手く絵が描ける」と思い込み、三十六色の色鉛筆を買ったものの、短くなっていくのは青、緑、黄くらい…。他の色は殆んど使わなかったどころか、何色だかよく見たこともなく、色の名前すら気にしていませんでした。
 もし現在の動愛法が上手く機能していない原因が色鉛筆と同じく、三十六色を使いこなせていない、又は青、緑、黄以外の色は使おうと思っても、直ぐ芯がボキボキ折れてしまったり、高度のコツがないと芯を削ることも出来なかったら、どうでしょうか?
 また、今や酒酔い運転はもちろん、酒気帯びでも一定以上(0.25mg)のアルコール濃度が検知されれば、一発で免許を取消されますが、「今、幾らでも反則金を払いますから、勘弁して下さい」「スミマセンでした。もう一滴でも飲んだら、ハンドルは握りません、お許しを…」と違反者から縋り付かれた警察が「十分反省しているから勘弁してあげましょう、次から気をつけてください」で済ますことは有り得ません。
 しかし、判断が難しい虐待事案を除く、動愛法違反での自治体の対応はどうでしょうか?
 そこで、あまり良い例えではないかもしれませんが、動愛法が指摘を受ける「全国同じになっていない」の対極にあって、「全国どこでも同じ」の代表格でもある、私たちに身近なコンビニエンス・ストアー(以下コンビニ)を通して、どうして動愛法が機能していないかを考えてみたいと思います。
 先人から良い意味で大人気ない大人をめざせ、よく考えない寛容は無責任と紙一重だと口すっぱく言われてきた凡夫である私なりの目線ですから、「動愛法とコンビニとが何の関係があるのか」とお思いかもしれませんが、しばしお時間を頂き、お読みいただければ幸いです。

全国どこでも同じ
 その昔、外出先でコーヒーを飲むとき、多くの方々は喫茶店を利用していました。
 店に入ると何ともいえない良い香りの出迎えを受け、マスターや顔なじみの常連さんとの会話を含めて、単純にコーヒーを飲むだけの場所ではなかったように思います。
 時は流れ、既に死語の肩掛け携帯電話が出だした頃からでしょうか、バブル景気による地価の高騰など、世の中が変っていったためでしょうか、徐々に喫茶店は数が減り、今や一杯ごとに点てることのない外資系コーヒー・チェーン店が当り前になっています。
 外資系コーヒーチェーン店、最大手Sの系列店は看板や内装、ソファー、メニュー、サービスは全国どこも全て同じです。フランチャイズの店舗はなく、全て直営店方式を採用、ブランド・イメージを維持することが直営にこだわる最大の理由のようです。
 因みに近年、チルドカップのコーヒーを百円代で販売するコンビニも、系列店は全国同じ看板、同じ内装、レジ周りのおでんや揚げ物も同じで、日々、多くの市民が利用するなど、既に当り前の存在になっています。
 直営店方式のチェーン店全国展開は本社と店舗〈支店〉は当然、資本も経営者が同じのため、本社から指示・命令が出し易く、その履行や確認もし易いため、ブランド・イメージや「全国どの店でも同じ」、更に本社が掲げる売上げ目標にも挑み易いと言えます。
 他方、フランチャイズ制度のコンビニは、資本も経営者もそれぞれ別の本部と店舗がひとつのチームになって、ブランド・イメージや「全国どの店でも同じ」、更に本部が掲げる売上げ目標に挑んでいます。

エリア・マネージャー
 ひとつのチームといってもフランチャイズ制度の場合、本部と店舗は資本も経営者も別々ですから、商売に対する考え方などが、本部と店舗経営者で異なっても不思議ではなく、ひとつのチームにまとめることは本社と店舗(支店)の資本も経営者が同じの直営店方式に比べて、難儀と言えるかもしれません。
 このため、フランチャイズ制度では、本部と店舗経営者間の意思統一を図るキーマン、つまり橋渡しという重要な仕事を担うエリア・マネージャーが存在します。
 エリア・マネージャーの仕事は店舗を巡回して、商品陳列方法、在庫管理、店員接客指導、売上げ分析を基にした商品構成の提案、売上げ鈍化などの対応、本部からの情報提供(売れ筋商品や同業他社の動向など)を行うと共に、顧客の動向などの最前線情報を店舗経営者や店員から収集して本部に伝達することなどです。
 このエリア・マネージャーによって「全国どこでも系列店は同じ」が維持され、「本部と店舗経営者達がチーム一丸となって掲げた目標に挑む」ことが出来る仕組みですが、当然エリア・マネージャーはコンビニを巡る問題に精通し、担当地域の状況観察や問題解決の為の交渉力など、高い資質を求められることは言うまでもありません。

チーム一丸となって掲げた目標に挑むこと
 この「本部と店舗経営者達がチーム一丸となって掲げた目標に挑む」とは言うことは、本部が営業戦略を練り、それに基づき、最前線の店舗経営者達が売り上げアップに切磋琢磨していくことです。
 当然、営業戦略を練る際に店舗経営者達からの情報、例えば、顧客動向などの最前線の状況はエリア・マネージャーを通して、口頭又はメールで本部にもたらされ、検討されるなど、競争の激しいコンビニ業界ですから、気を抜いたり、だらだらしていたら負けです。
 また、営業戦略を練りに練ったから売り上げアップ間違いなし!などと、本部が安心しきっていることはおそらく無く、逐次の状況観察や、必要があれば営業戦略の修正(見直し)も迫られるかもしれません。

コンビニ経営形式と動愛法の改正・運用とを比べる
 さて、このコンビニの営業戦略と目標達成に於ける取組みを動愛法改正と、その運用に当てはめてみましょう。
 政府又は国会議員が改正法案※を国会へ出し、衆参環境委員会と本会議、それぞれの審議と決議を経て、動愛法は改正され、自治体(都道府県・政令市・中核)が改正された法を運用します。
※動愛法は一九七三年の誕生以来二〇一二年の改正まで全て議員提案の議員立法で成立、政府提案の内閣立法での改正は一度もない。
 つまり、法律を改正する国と法律を運用する自治体という別の組織がチーム一丸となって、掲げた目標(改正法の運用)に挑むことになります。
 しかし、国として動愛法を所管する環境省と動愛法を運用する自治体の動物愛護担当課の間には、コンビニのように本部と店舗経営者の橋渡し役であるエリア・マネージャーが事実上存在しません。
 このため、チーム一丸となって掲げた目標(改正法)が上手く機能しているかの逐次確認や、動愛法を運用する自治体動物愛護担当課への指導、例えば「担当職員は何人配置すること」「チーム一丸となって掲げた目標(改正法)を達成(機能)させる為の予算は毎年○○円確保すること」「市民から本部(環境省)にクレームが来ているから、直ぐ対応しろ!」など、「これはダメ!」「こーしろ!あーしろ!」と一々指示・指導することは基本的に出来ないことになります。
 また出来たとしても、環境省は自治体に対して、あくまで「○○して下さい」などのお願い(助言)であって「○○しろ!」(命令)ではないため、「政府と自治体が一丸になって掲げた目標(改正法)に挑むこと」や「コンビニの様に全国どこでも系列店は同じ」の実現は容易ではありません。
 これは国から運用を任された法の内容が非常に単純かつ労力を要しないものであれば、なんとか多くの自治体はクリアできるでしょう。
 しかし、仮に法の条文(内容)が曖昧でなく、分りやすいとしても、事細かく、運用にテマが掛かれば、自治体ごとの担当職員数や職員の士気などにより、法の運用に差が出ることは十分あり得る事で、ここに自治体ごとの体力(財政、税収)の違いが加われば、更に事は難儀になります。

「○○しろ!」と言えない訳
 なぜ、コンビニの様にエリア・マネージャーが存在せず、法律が上手く機能するように環境省が「○○しろ!」と自治体に言えないのか、その訳は、端的に言いますと動愛法の運用が自治事務に該当するためです。
 今から十五年前には国が地方を支配するために欠かせないといわれた「機関委任事務」というものがあり、これは国が自治体に対して「こーしろ!あーしろ!」などと、特別の関与が可能でした。
 このため、県民が選挙で選んだ知事が県民の方を向かずに国のしもべになり、部下である自治体の職員も国のために働かされているとの指摘もあり、云わば、ピラミッドの上部に国が鎮座し、その下に自治体、最下部に市区町村が位置する仕組みが存在していました。
 GHQは日本の戦後政策に深く関わり、何よりも自主性を重んじる米国人から見て、機関委任事務とはいったい何なの!と思われたようですが、当時、官庁の王様であった内務省(現在の総務省)らの意見により、基本的なしくみは戦後も残り続けました。
 そして時は流れて、国と地方自治体は上下の関係ではなく、対等であるべきと声が高まり、二〇〇〇年に「地方分権一括法」が施行され、「機関委任事務」がなくなり、「法定受託事務」と「自治事務」の二つになりました。
 非常に雑な言い方をすれば、「こーしろ!あーしろ!」系が「法定受託事務」。対して「○○下さい」のお願い助言系が「自治事務」であり、あくまで一部ですが、その区分については図を参照下さい。

 例えば狂犬病予防法では、法の条項などによって「法定受託事務」と「自治事務」があり、狂犬病が発生した場合の緊急時は「こーしろ!あーしろ!」系の「法定受託事務」に該当し、これは人や動物の生命に関わることですから、国が強く介在することは当然かもしれません。
 他方、人や動物の生命を守る狂犬病予防法を運用する上で、自治体として日々確実に経費が必要な犬の抑留施設(現在の動愛センター)の運用は自治事務といった具合で、邪推かもしれませんが、国から見ると上手い仕組みになっていると思います。
 二〇〇〇年当時、動物愛護を所管していた総理府(現在の内閣府)へ狂犬病予防法の一部を自治事務にしようとする理由と影響について、電話で聞いたことがありますが、決して犬猫問題を軽く見ているわけではないの一点張りでした。
 同じように国の介在が薄くなり、全国一律で自治体への負担が高まる可能性を危惧した動物虐待防止会さんも電話問合せをされたそうですが、「何なの!」と思うようなつれない返答だったとのことでした。
 因みに当時は、神戸児童連続殺害事件(97年)を受けて、動愛法の改正議論が始まっていましたが、動愛法における自治事務の意味合いについて、気にする向きは改正論者の中にも殆んどなかったように記憶しています。
 さて、ここで一旦、まとめますと
1.改正された動愛法が自治体で上手く機能しているか、逐次確認する役割を担う者はいない。
2.環境省は自治体に対して、改正された動愛法が上手く機能しているか、指示命令を出すことは出来ない。
3.これらの理由は動愛法の運用が自治体の自治事務であるため。
このようになりますが、次の章では自治事務をおこなう上で欠かせない経費(予算)について、触れていきます。

自治事務と法定受託事務

自治事務

▶団体の処理する事務のうち、法定受託事務を除いたもの
▶原則として、国の関与は是正の要求まで=(○○して下さい)

▶法律・政令により事務処理が義務付けられるもの
(主な例) 介護保険サービス、国民保険給付、児童福祉
      老人福祉、障害者福祉サービス、動物愛護、狂犬病予防

法定委託事務

▶国が本来果たすべき役割に係る事務で、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又は、これに基づく政令に特に定めるもの

▶是正の指示、代執行等、国の強い関与が認められている
           ↓
         (○○しろ!)

▶必ず法律・政令により事務処理が義務付けられる
(主な例) 衆議総選挙と参議通常選挙、戸籍事務、生活保護、
      旅券の交付、国の指針統計(国勢調査、家計調査等)、
      狂犬病予防

法律・政令に、基づかずに任意で行うもの

(主な例) 各種助成等
 出産・敬老等の祝い金、公共交通利用助成の敬老パス
 各種医療費(中学・高校卒業まで無料、一部助成等)
 飼い犬等の不妊手術、迷い犬等検索用マイクロチップ挿入費
  公共施設の管理
  文化会館、生涯学習センター、スポーツセンター等

狂犬病予防法に於ける区分け

自治事務

▶ 犬の登録の申請・登録・鑑札の交付
▶ 鑑札の再交付の申請・再交付
▶ 犬の登録の消除及び犬の登録変更
▶ 注射済票の交付に係る提示・交付
▶ 注射済票の再交付の申請・再交付
▶ 犬の抑留等
▶ 犬の抑留所(動愛センター等)の設置
▶ 通常時の犬の処分前評価
(狂犬病予防法第4条第1項)
(狂犬病予防法施行令第1条第2項)
(狂犬病予防法施行令第2条第2項)
(狂犬病予防法第5条第2項)
(狂犬病予防法施行令第3条)
(狂犬病予防法第6条)
(狂犬病予防法第21条)
(狂犬病予防法施行令第5条)

法定委託事務

▶ 係留されていない犬の抑留
▶ 係留されていない犬の薬殺
▶ 巡視及び毒えさの回収
(狂犬病予防法第18条)
(狂犬病予防法第18条第2項)
(狂犬病予防法施行令第7条)
▶ 犬以外の動物について
  準用の必要性に関する報告
(狂犬病予防法第2条)
▶ 発生時の届出の受理
(狂犬病予防法第8条第1項)
▶ 発生時の都道府県への報告
  発生時の報告受理、国への報告
  隣接都道府県への通報
▶ 報告の経由
▶ 発生時の犬の処分前の評価
▶ 隔離についての必要な指示
▶ 発生時の公示、犬のけい留命令等
▶ 犬殺害の許可 ※
▶ 死体引渡が必要ない旨の許可
▶ 犬の一斉検診等
▶ 犬の死体解剖等
▶ 犬又はその死体の移動の制限等
▶ 交通の遮断等
▶ 犬の集合施設の禁止命令

(狂犬病予防法第8条第2項、3項)

(狂犬病予防法施行令第6条)
(狂犬病予防法施行令第5条)
(狂犬病予防法第9条)
(狂犬病予防法第10条)
(狂犬病予防法第11条)
(狂犬病予防法第12条)
(狂犬病予防法第13条)
(狂犬病予防法第14条)
(狂犬病予防法第15条)
(狂犬病予防法第16条)
(狂犬病予防法第17条)
  ※狂犬病にかかった若しくはその疑いがある犬
自治事務と予算
 昔「同情するなら金をくれ」という衝撃的な台詞が話題となったテレビドラマがありましたが、「こーしろ!あーしろ!というなら予算をくれ!」という声が自治体から出ても不思議ではないかもしれません。
 ポエムやデマだけで動物保護活動が成り立たないことと同じに、現実として、自治体が動愛法を運用するにも相応の経費が必要になります。敢えて雑多な言い方をしますと、行う仕事の項目が増えて、密度が濃くなるほど、労力も経費も増大していき、これに対応するべく、自治体は何らかの形で経費を工面しなければなりません。
 この問題は、動物ジャーナルさんの「先進国って何」制作に携わる有志の方々と、これまで散々議論してきたことでもあり、時には猛烈な意見の応酬になることもありましたが、結局のところ、毎回毎回、頭をもたげるのが、動愛法が区分けされた自治事務の意味合いをどう考えるかです。
 先程説明した99年の地方分権一括法は国と地方自治体は対等であるべきとの声を受けて施行されました。
 これによって、自治体は以前に比べて自由度が増し、当時、素人目線で見ていると、まるで親元の束縛から解放され、希望溢れる一人暮しを始めた子供のようでしたが、自由を謳歌したのも束の間、自由と同様に増えた悩ましい問題(財源の確保)に困惑し始めていたようにも感じました。
 自由を得た自治体の管轄内に多数の富裕層が住み、多数の有名大企業が事業所を構え、国民誰もが知っている有名特産物や有名観光地があれば、税収をバリバリ集め易いですから、国からの「こーしろ!あーしろ!」がなくなり、自由が増えて良かったかもしれません。
 しかし、こんな小さな島国の日本でも自治体の事情は様々で、止むに止まれぬ歴史かつ地理的事情もあり、全ての自治体が税収をバリバリ集めることができるわけではありません。
 そのため、以前に比べて自由は増えたけれども、しんどい部分はもっと増えたと思う自治体が出ても不思議ではなく、色々な意見があるでしょうが、これに対して、もっと稼げ、努力が足りないと単純に一喝するのはあまりに殺生です。
 但し、現実問題として、信じ難いことに我が国でも長短半ばする移民政策を検討しはじめているなど、地方自治体にとって、もう国は頼りになる親でも姉貴でもなくってしまいました。
 そのため、自由を得た自治体やその議会所属議員は問題意識を持ち、何らかの政策を模索し、実行を迫られていますが、事は簡単ではなく、一気に解決出来る問題でもありません。仮に自治体に問題意識や意欲があっても、現実問題として改善や対応が難しいことは有り得る事で、自治体による動愛法の運用もバラつきをなくし、コンビニのような「全国どこでも同じ」を実現することは実はかなり難儀で、実現には相応の仕組みや過程が必要な筈です。
 また当然、自治体や私たちに一番身近な犬の登録を申請する市区町村役所の仕事は動物以外にもあり、例えば、犬猫はもちろん、うさぎやハムさんにも優しい政策だったとしても、兄弟別々でも仕方ないと思って認可保育園に申し込んだのに残念ですがの「不承諾通知」や、固定資産税なしで年収家族構成が同じな隣町のママ友に比べて、何で保育料が二倍なの!だったり、年老いた両親・家族に対して切ない高齢者政策だったら、動物好きの方とて、とても納得できないと思います。
 これらを一旦まとめると、
1.99年の地方分権一括法により、自治体の自由が増えたが、自ら財源を考える度合も増えた。
2.自治体が動愛法を運用するには相応の経費が必要。
3.動愛法に基づく自治体の仕事は、項目が増えたり、密度が濃くなるほど、労力も経費も増大。
4.これに対応するべく、自治体自らが何らかの形で経費〈予算〉を工面しなければならない。
5.自治体それぞれで財政事情が異なり、動愛法の運用で全国どこでも同じは容易ではない。
6.仮に自治体に問題意識や意欲があっても、現実として改善や対応が難しい場合も有り得る。

ぐうたら
 この1〜6は全て予算、すなわち動愛法の運用について、お金の視点だけから見たもので、あくまで問題意識や意欲がある誠実な自治体の立場として考えた場合ですが、当然、問題意識ゼロ、気力に欠け、職務に専念しない、怠け者の「ぐうたら」が動物愛護担当として鎮座する自治体が存在している事も見逃せません。
 先程より、動愛法の運用は自治事務で、動愛法が上手く機能しているか、随時本部(環境省)が確認するコンビニのエリアマネージャーような仕事を担う者が事実上存在しないと説明してきましたが、これは本部(環境省)が、動愛法の趣旨に泥を塗るような妥当性のない振舞いをする、自治体のぐうたら動物愛護担当職員の矯正や排除が出来ないことも意味します。
 当然、「ぐうたら」を発揮しない方が良いに決まっていますが、「ぐうたらモード」にスイッチが入るか否かは、人それぞれの品性ゆえに、組織の長が云々注意しても完全に是正することはムリかもしれません。
 例に挙げたコンビニに於けるフランチャイズ制度を核にしたチェーン店展開や、全て直営方式を採る大手コーヒーチェーン店Sは、店舗経営者や社員、アルバイトが勝手なことをしない、つまり「ぐうたら」を排することも「全国どこでも同じ」を実現している要因で、気を抜いて「ぐうたら」を放置し、増殖すれば、ライバルに出し抜かれるなど、企業の存亡にも関わるからです。
 他方「国と自治体の存亡」と言われても、国や自治体が倒産するの?と誰もが身を持ってピンとくることもイメージとして抱くことも少なく、国と自治体の関係や自治事務の意味合いから見ても、動愛法に於ける「全国どこでも同じ」の実現は保育園や老人ホーム問題と同じように容易ではなく、そもそもムリと言っても過言ではないかもしれません。

こちらは職務専念義務を遂行中?・・・ 
もうひとつの厳罰
 動愛法が機能していない!という話で、何時も引合いに出されるのが、動物に対する虐待罪の適用です。
『動物ジャーナル』で前号から紹介されているBBCの番組でも明らかな通り、我が国に比べ、法の規定が曖昧でなく、過去より我が国多くの専門家らしき者が賞賛してきた英国でも、実は虐待罪の適用は難しく、厳罰にたどり着くことは容易ではありません。
 他方、我が国の動愛法に関する討論会などで殆んど話題になることがありませんが、動愛法における厳罰は適用が難しい虐待罪だけではなく、極めて単純明快な不法行為にも厳罰が適用されることになっており、それが動物取扱業に関する規定です。
 平成十八年(二〇〇六年)六月一日から、動愛法第十条に基づき、動物を業として取扱う場合、動物取扱業としての登録が定められ、その後、該当する業種や罰金が増えたり、動物取扱業が第一種と第二種の二種類になるなど、改正により変化していますが、ここでは犬と動物取扱業(第一種)を例にして考察していきます。
 犬の繁殖や販売を行う場合はもちろん、シャンプー、トリミング、ホテル、預託訓練などで、飼い主から犬を一定時間預かる商売をする場合、第一種動物取扱業(保管業)の登録を都道府県・政令市・中核市などへおこなうことが、動愛法で定められています。
 これを無視して、これらの商売を未登録で行った場合、動愛法第十条非遵守となり、罰則を定めた同法第四十六条に基づき、愛護動物の遺棄罪と同じく、百万円以下の罰金が科せられることになっています。(因みにひき逃げによる傷害事故は五年以下の懲役または五十万円以下の罰金、死亡事故は十年以下の懲役又は百万円以下の罰金)
 また今年、京都市で話題になり、来年二月に和歌山県議会で審議される予定の不適切な餌やり禁止(和歌山県動物の愛護及び管理に関する条例の一部改正)で設定される過料とは異なる罰金であるため、前科も付き、単純に最高罰金額を比較すれば、英国で無ライセンスで生体販売をした罰金二千五百ポンド(約四十八万四千円=2015/8/2日付レート)より厳しいものになっています。
 この厳罰(百万円以下の罰金)が適用される要件は、動愛法で定めた動物を扱う商売をする場合の定めである「都道府県などへ第一種動物取扱業の登録をしたかしないか」で、虐待罪の要件に比べて極めてシンプルです。そこで、図を参考に未登録で犬のホテル営業を行った場合の罰則適用までの流れを考えてみます。

未登録で犬のホテル営業を行った場合の罰則適用までの流れ

2012年、自治体動物愛護担当者(以下担当者)へ犬のホテルXについて
市民から未登録ではないかとの情報が入った

担当者は登録台帳を確認したが、Xの登録はなく
動愛法第十条を遵守していない疑いがあることを認知した

実際にXが営業しているか、市民から情報をもとに
Xのホームページやブログをチェックしたが、本日付の予約状況や料金表の記載もあり
担当者は犬のホテルXが実際に営業していることを確認した

担当者は登録がない、犬のホテルXが実際に営業しているため
動愛法第十条非遵守であり、同法第四十六条の適用(罰則)を勘案
Xに電話で事情を聞いた

担当者の問いに対してXの経営者は
「6年前から犬のホテルをしているが、うちの料金は他より良心的だ」と回答
 ↓更に
「この6年間、保健所から何も言われたことはないので問題ないと思った」
「そもそもそんな法律があることを知らなかったし
アンタら(担当者)の周知が足らないのが悪い!!」と主張した

担当者は状況を上司に報告、上司は所属自治体の法務担当に相談した結果
所轄警察に相談、Xを動愛法第十条非遵守で告発した
告発に至った根拠
① 2006年6月に登録制度が法制化されていること
② Xが6年間、動愛法第十条非遵守の間、同法を遵守している動物取扱業もおり、法を守らない者と法を守る者を自治体として同一に扱うことは出来ない
③ 担当者(地方公務員)として、無視出来ない刑事訴訟法第239条第2項を遵守するため


 ご覧いただいた図の流れで最も重要なのは、法を守らない者と法を守る者を自治体として同一に扱うことが出来ない点です。
 また、担当者(地方公務員)として無視出来ない刑事訴訟法第239条第2項とは、「官吏(国家公務員)又は公吏〈地方公務員〉は、その職務を行うことにより、犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない」と規定する条文のことです。
 ここでいう「その職務」とは自治体動物愛護担当者として、動愛法に基づき、動物取扱業の登録及び指導を行う職務を指し、「犯罪がある」とは未登録で営業する犬のホテルXが動愛法第十条を守っていないことを指します。
 それゆえ、刑事訴訟法第239条第2項では、Xのような事案の場合、告発して警察にバトンタッチせよとなっており、その後、警察が捜査し、検察に送検。罰金が百万円以下のため、裁判なしで判決が下る略式手続きにするか裁判を行うかは、司法に委ねることになります。
 まどろっこしいかもしれませんし、このケースの場合、Xの登録が自治体になく、X本人が「この六年間、保健所から何も言われたことはないので問題ないと思った」と主張していることから、Xが動愛法第十条を守っていないことは明白で、いわば真っ黒けです。
 しかし、仮に真っ黒けであったとしても、Xが法を犯しているか、更に罰則を科すか否かは検事、裁判所、Xの弁護士を交えて決定されることで、独裁者がワガママで国を治める人治国家でなく、我が国が法治国家であり続ける以上、仕方ないことです。
 それゆえ「アイツは悪だからさっさと罰を加えろ!」とか「とぼけるのもいい加減にしろぃ!」
「この桜吹雪に見覚えがないとは言わさねーぞ」の遠山の金さんのように、刑事・検察官・裁判官の役目を一人で行使することも有り得ない筈ですが…。

これにて一件落着?(遠山の金さん登場)
 前章では未登録で営業を行う犬のホテルXが告発される理由と過程について説明しましたが、これは動愛法第十条を守らない者に罰則を適用する基本的な流れであり、刑事訴訟法第239条第2項に基づいた例です。
 刑事訴訟法第239条第2項の解釈については色々な意見があるようですが、自治体がXを告発することで自治体の本来業務が圧迫されるとは言い難く、告発の趣旨も自治体が所管する動愛法の適正運用のためであり、告発自体が自治体の本来業務とかけ離れてもいません。
 また、Xのケースは、動愛法に動物取扱業の規定が加わって六年も経過する中、法令を守っておらず、他方、その間、他の動物取扱業者は法を守り、登録を行い、自治体主催の講習会に強制参加していることを考えれば、法の公平性からも自治体として、Xに通常の指導をおこなうことには疑問が残ります。
 従って、Xのようなケースでの告発には合理的理由があり、何より、このような事案で告発を行わないことは、罰則にたどり着けないことは勿論、動愛法第四十六条の適用(罰則)自体を否定することにもなりかねない筈です。
 しかし、あまり問題視されませんが、現実として、このようなケースでも「再犯の可能性はない」などと告発をせず、ご丁寧に登録までさせて、何事もなかったように処理してしまうケースが殆んどと言わざるを得ません。
 確かに動物取扱業登録をさせるわけですから、再犯の可能性はありませんが、このような事務処理をする自治体担当職員らが異口同音述べることは「私が担当で、きちんと状況を調べ、微罪と判断した」「既に反省して改心している」とか「罪を憎んで人を憎まず」とかの主張…。
 その上驚くのが「自治体には捜査権や調査権がない」「自治体は告発するために仕事をしているわけでない」と主張する一方で、「微罪と判断した」とか「既に反省して改心している」などと明らかに司法の権限を行使し、裁定していることで、そもそも自治体職員にも知事にもそんな権限はありません。
 そのため、この現状は、まるで刑事・検察官・裁判官の権限を持ち、捜査から裁判まで一人でこなす「これにて一件落着!」のキメ台詞で知られる遠山の金さんそのものですし、このような勝手な行為は、法を守らない者と法を守る者を自治体として同一に扱うことになり、本来絶対にあってはならないことで、常識的に見ても理解し難いことですが、調べてみると、そこに相応の歴史があるようです。

キムチ焼き飯─食品衛生法で考えてみる
 私たちが外食する際、飲食店を利用しますが、飲食店を営む場合、都道府県の許可が必要です。
 これは食品衛生法第52条の1で定められ、動愛法の動物取扱業登録と同じく、許可なく営業した場合は同法第72条の1により、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金が科されることになっています。
 当然、これを守らず飲食店営業を行い、自治体が食品衛生法違反を認知した場合、警察に告発され、捜査→検察→裁判を経て、営業停止はもちろん、罰金、懲役を受ける可能性も否定出来ません。
 ところが、先程の告発なしで済ます、自治体動愛担当職員と同様に、通常、食品衛生担当職員も食品衛生法違反を認知していながら、指導と称して口頭で注意をした後、新規に飲食店営業許可を与えて済ませており、罰則を規定した第72条の1に基づく告発がされるケースは殆んどありません。
 以前、その理由を幾つかの自治体食品衛生職員幹部に聞いたことがありますが、一番多かったのが、「昔からそうしている(口頭注意→新規飲食店営業許可)」「今年度は○○件、指導して許可を取らせた」という誇らしげな回答です。
 そこで「無許可営業していた期間が一ヶ月程の短いケースと年単位のケースとで異なる対応をしているのか」と尋ねたところ、「特段意識していないし、あくまで公平中立だ」と訳の分からないことを述べ、凡そ日本語での会話が難しい有様です。
 更に、食品衛生法を守り十年営業している者と、そうでない者との区別をどの様に考えているのかと聞くと「口頭指導はうちの管内だけではない」の一点張りで、なんとも理解し難いことですが、「うちの管内だけでない」は嘘偽りない紛れもない事実でした。
 二〇一二年四月、阪神大震災の二年前からコーヒーや朝ごはんの「モーニング」〈200円〉、キムチ焼き飯(300円〉などを提供してきた無許可営業の喫茶店に対し、神戸市は告発せず、口頭注意と新規に飲食店営業許可を与えて済ましており、無許可飲食店営業期間は何と十九年にも及びます。
 この喫茶店は交通労働組合が市バス営業所内で営業していたもので、同年四月十一日の市長会見によると、元々営業所内に食堂があったが、採算が合わずに撤退、その代りとして営業されていたようで、仮に事情があったとしても、十九年間食品衛生法を守ってきた者とそうでない者を、公である神戸市が同一に扱ったことになります。
 当時、食品衛生を所管する厚労省近畿厚生局の食品衛生課に問い合せたところ、本省に聞いてほしいとのこと。
 そこで霞ヶ関、厚労省食品衛生課に、食品衛生法第72条の1の罰則適用までの流れと、法の所管省としてどのように食品衛生法が運用されることが望ましいと考えているかと聞いたところ、「長期に渉る無許可飲食店営業者に許可を与えて事務処理することを食品衛生法では想定していない」との見解。
 更に「飲食店営業許可については自治事務のため、各自治体に於いて適時適切な判断がされていると思科している」とのことでした。
 誰だ!青臭い主張をしているのはと思われるかもしれませんが、このように食の安全を司る食品衛生法ですら動愛法と同じく「?」と言わざるを得ない運用状況ですが、これが紛れもない現実です。
 また、自治体によって異なりますが、動物愛護の仕事は衛生関連の仕事を行う部局に組み込まれていることが多く、動愛法より二十年近い先輩である食品衛生法の「?」な運用が常態化し、結果として動愛法の運用に影響を与えたと考えても暴論ではないと思います。
 尚、刑事訴訟法第239条の第1項では、誰でも犯罪があると思う時は告発が可能となっていますが、実際に民事・刑事で告発をした私の経験から言えば、告発には相応の労力と最後まで成し遂げる気持が必要です。
 その点から言えば、自治体の職員が告発に対して尻込みすることは或る程度理解できなくは有りませんが、往々にして、「警察は簡単に受理してくれない」と主張する職員に突っ込んで話を聞くと、過去より一度も告発をしたことがないのはもちろん、その検討すらしたことがないケースが殆んどです。
 さて、後編では動愛法を運用する自治体の現状から見た動愛法改正の意義と動愛法を所管する環境省の資質について考えていきたいと思います。

(すたんばお まりよ・動物ハート倶楽部 代表)