TOP | ■ アピール | ■ 活動報告 | ■ GPCA-FAQ | ■ トピックス | ■ 出版案内 |
mook 動物ジャーナル | ■ Links | ■ 通信販売 | ■
ご連絡窓口 |

TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー 動物ジャーナル76・盲導犬に代るものを

■ 動物ジャーナル76 2011 冬  

盲導犬に代るものを

動物虐待防止会


 当会が『動物ジャーナル』編集を引受けることになってから、次の12年春号で二十年目に入ろうとしている。
 準備号および創刊号に掲げた「発刊にあたって」の中で、対象とする動物を五分野に整理して示した。それは(1)実験動物 (2)伴侶動物 (3)野生動物 (4)展示・使役動物 (5)衣食用動物。[余談ながら、この整理法や分野の名称は、弁舌優先の〈愛護団体〉に即刻流用されて驚いた記憶がある。]
 この中の「展示・使役動物」の説明部分には「動物園、サーカス等、それが「完成」されるまでの過程にも注目します。もちろんこれらがなくなるのが理想です。」としるした。当会の認識では盲導犬もこの分野に含まれる。これについて今まで丁寧に説明する折をもてなかったが、ようやく誌面の余裕を得、述べることにした。

 盲導犬に関する読者の関心は高く、『動物ジャーナル3』には「盲導犬に出会って」他、同じく『6』に「盲導犬を考える」。同じく『8』に視覚障害者からの発言、と続いた。最近では『動物ジャーナル71』に具体的な問題提起がなされた。「報道から」欄にも盲導犬の項が頻出している。しかし積極的な解決の術ももたず、代るものとして道具のいろいろが報道されると手許にとどめ置くことしか出来なかった。今回それを整理して、最近の状況を見ておきたく、二三の例を挙げる。

道具のいろいろ

■ 新型の盲人用つえが開発された。
富山大学工学部の八木教授と富山市内の二つの会社とにより試作品完成。持手部分にバッテリーや超音波センサーを内蔵、超音波で障害物を認識し、その距離は0.5m以内から2.5mまでの五段階を五指に振動で伝える。来春には実用化される見込み。(北日本新聞 90・4・24)【新聞記事内に二社の名前がなく、現状確認できず】

■ はこだて未来大学の岡本教授らのグループが新型「感覚代行器」を開発した。
これは縦12cm・横8cm・幅3cmの機器と腰につなげるワイヤとから成る。機器は超音波送受信機と、ワイヤ巻取り用リールとモーター、これらを制御するマイコンを内蔵し、利用者はこれを手に握り、ワイヤをベルト通しなどに取付ける。障害物との距離を遠近によってワイヤを巻き上げるので手が動き、それによって空間の距離感がつかめる。暗闇を手探りで歩く状態を想像してほしい。「今後企業と共同開発し、数年以内の実用化を目指したい」と岡本教授談。(東京新聞 04・2・21)
【現状確認できず】

■ 通常の白杖は地面の物しか把握できないが、目の高さの障害物も超音波センサーの認識で感知できる「電子白杖」が、秋田県立大学の岡安准教授により開発された。杖のグリップ下部に二つの超音波センサーを付け、前方の障害物を感知した時はグリップ、上方の時はリストバンドが振動して伝える。今まで車のバックミラーにぶつかるなど思いがけないことが起ったが、それは回避できることになる。秋田精工(由利本荘市)がコストダウンに努め、これまでに英・独・韓国などの製品が安い物で八万五千円もするのを、その半額以下で販売する予定。(毎日新聞 11・2・1夕刊)
【最新情報=秋田精工株式会社ホームページより】
 商品名を「スマート白杖」」と決定、11年五月末より注文受付を開始。杖の長さは10cm単位で調整可能。価格はセンサー一個タイプが三万円、二個タイプが四万三千円(送料各千五百円)。
申込先は 電話 0184─33─2143  
【電話で伺いました】おかげさまで昨年内の計画を上回る八十本を出荷した。二個タイプの方が多い。秋田県が県内市町村の障害者に対し、助成制度を始めた。需要が増せば増産は十分可能。

■ また、11年一月、読者示教により視覚代行装置「オーデコ」の存在も知った。英文表記では「AuxDeco」と物々しいが、命名のわけは額=おでこの感覚を使用するからとのこと。
 株式会社アイプラスプラス創業者・菅野米蔵氏は額の感覚が敏感であることに着目、その触覚を網膜の代替手段に利用する手法で03年に特許取得。また東京大学大学院情報理工学の舘教授研究室が、電気刺戟による触覚提示の技術を追求していたことから、共同研究を開始、05年九月ついに実用化モデル「額網膜システム」を開発、商品名をオーデコと決定、09年二月に発売を開始した。
 この装置は、額に付けるヘッドバンドに小型カメラを内蔵し、それが撮影する映像を電気刺戟に変換、おでこで刺戟を感じ取り、白杖の先にあるものをイメージする、という物。この道具に習熟するには一日二時間、十日程度のトレーニングが必要で、また価格も百二十万円と高額であることから、「一般社団法人 視覚障害者自立支援協会」(福岡市)が、オーデコ取得の支援をしている。
問合せ先は  電話 03─5819─1080
【電話で伺いました】この製品はヘッドバンドと本体(小型コンピュータ=画像処理)とバッテリー(電源供給)の連結された三点から成る。本体が百グラム、バッテリーが二百五十グラムと軽量・小型であり、電源を入れ、刺戟を調節した後はかばん等に入れて携行する。現在の使用者は三十人ほど、外国の人も一人いる、言葉の壁がないから。ほとんどが五十代、六十代の中途失明者である。トレーニング(費用十二万円)に二十時間必要だが、日時・場所は自由に設定できる。トレーナーは全国に二十人ほど。 
 高価格は開発・製造に多大な費用がかかったのでやむを得ず、将来需要が増えれば低下させられる。前出福岡の自立支援協会は九州全域をカバーし、他事業との組合せで無料配布もと志して下さる。東京にも最近発足した「一般社団法人 国際全盲者支援協会」が国内外に支部設立をも目指していて、オーデコ普及に尽力、各地での体験会をサポートいただいている。体験者が〈見えた〉!と、表情がかがやくのを見るのは至上のよろこびである。なお体験は随時どなたにも対応できる。

ロボットの状況

 これら道具の情報と並行して、ロボットが重要と考え、その報道にも注目し、できれば応援したいと考えていた。
 ロボット試作が進んでいると知ったのは『ボクらもみんな生きている──親と子で読む動物ものがたり』(福音館 02年十一月刊・03年三月再発刊)を著者・藤原英司氏よりいただいた時である。内容は、第一部 動物と人間─いっしょに生きるために/第二部 嫌われている動物たち/第三部 虐げられている動物たち/の三部構成、全編にあたたかい眼差しがあふれ、例えば「嫌われ者でもちゃんとお仕事を果している」との説明に反省させられる。盲導犬は第三部にあった。まさしく「虐げられている」存在として。
 盲導犬についての説明本文は省く。付記された〈筆者注〉に、経済産業省の産業技術総合研究所では十数年前から盲導犬ロボットの研究開発が進められている/山梨大学工学部でも研究が進められ、この大学の附属病院や成田空港で実用試験が始まろうとしている/とあったのを嬉しく読んだのが忘れられない。
 右の山梨大学の研究は大きな成果を上げていた。
■「インテリジェント車椅子ひとみ」として完成し、ネット上にその探訪記事が書かれたのが08年八月。内容は「盲導犬ロボットを山梨大学に見学に行ってきた。歩道を自動走行できる装置は、車椅子のみが法律で認められているので、このロボットは車椅子のかたちをしていた。すでに実用段階で、数台販売も。」と報告されている。
 この「ひとみ」は改良を重ねた結果、11年六月「newひとみ」と改定、手押し三輪車となって現れた。研究開発者・森英雄山梨大学名誉教授が理事長を務める「NPO法人 歩行ガイドロボット開発普及研究会」(韮崎市)ホームページによると「視覚障害者のための電動式自動走行式の手押し三輪車。電動車椅子を改造して、電子カメラや光電センサーの目と、コンピューターの頭脳を取付けたもの」。大きさはベビーカーほどで、利用者はハンドルにつかまって移動する。日常的な移動目的に応じて経路を記憶させておくと、ふつうに歩く速度で進む。白杖を携帯すれば道路でも利用できる。と説明されている。普及のためのイベントも行っていて、個人試乗も可能(所用時間は二時間、ウィークデーの午後を予約)。
連絡先は  電話 055─220─8637
【電話で伺いました】森先生ご本人とお話しできました。大学退職後も研究室を借りて開発を続けている。一時販売もしたが、研究支援者が二台購入されたのみで、今は中止している。道路交通法(注)が壁となって企業も参入しにくいし、制作費が盲導犬育成の半分位かかるので利益も上げ難いからと思う。この側面だけで考えれば無料でもらえる盲導犬とは勝負できない。
 ロボット研究の具体化した物としては動かせるので、朝の散歩や友人訪問など限定した目的で使用するロボットは完成している。12年三月には岡山でデモンストレーションを行う予定。
 以前支援を申し出られた女性(故人)は盲導犬に詳しく、「盲導犬を利用するには住いや環境が限定される。また訓練を絶え間なく続けなければ、例えば交差点で停止しなかった時、叱らなければそれがそのままになってしまう。つまりただの犬になってしまうから、溺愛者では駄目だ」と話しておられた由。
(注)道路交通法第十四条(目が見えない者、幼児、高齢者等の保護)
目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。

■ また、日刊工業新聞社ロボナブル(11・10・24)によれば、日本精工株式会社が盲導犬ロボットの新版を開発、20年に実用化を目指しているとのこと。
 同社ホームページ(11・10・27 プレスリリース)によれば「外界を自律認識し、従来困難だった階段昇降を先導できる盲導犬型ロボット(四脚車輪型ロボット)を開発。脚先に駆動車輪を備え、平地や段差での移動能力は高い。画像センサと距離センサで得た外界情報を独自の処理によって自律で階段を把握しながら昇降し、使用者を先導する。使用者はグリップにつかまった状態でボタンを押すと、階段の段数や広さを認識し、音声で伝えながら先導する。グリップは角度や長さが変化して下り階段でも姿勢を安定させられる。この技術は、車椅子、盲導犬・介護犬の代用などへの応用も可能で、今後〈人間の視覚力をアシストする自律移動ロボット〉の技術開発につなげる。
【ホームページの動画を見ました】まさしく犬型の器械、四本の足が互い違いに出、ヒトの片側少し前に寄り添って進む。本体から伸びたグリップは犬さんのハーネスのよう、階段前で片足を交互に曲げながら上るのがいじらしく可愛らしい。声で説明されると安心感が違うと思われる。実用化が予定より早まってほしいと切に思う。
【電話で伺いました】今のところ「20年実用化」が早くなることはないと思う。ロボット展に出したのは開発技術の発表という意味合いが大きく、発売に直結するものではない。展示ロボットの大きさは盲導犬になる大型犬種より大分大きく、重さは40Kg位。外部からの研究協力の申し出もあるが公表はできない。(企業として当然で、訊ねるつもりもなかったが、多方面の助力を断っているのではないのが心強い。ドラえもん氏にお出まし願えないだろうか。)

その他

■ ハイテク道案内システムの実証実験が初めて東京で行われた(東京新聞 10・12・8)。モニターには視覚障害者が協力、場所はJR高田馬場駅と約五百?離れた都盲人福祉センターの間。横断歩道や分岐点ごとの路面にICタグを埋込んであり、利用者は移動ICタグをつないだ読上げ機能付き携帯電話を持って歩くと、固定ICタグが移動ICタグ反応して携帯電話から「ピンポン、ブロックです」などと声が聞えてくる。この音声案内は「NPO法人ことばの道案内」が作成・無償提供する「ことばの地図(ことナビ/ウォーキングナビとも)」を使っていて、利用者は事前に携帯電話に「ことばの地図」をダウンロードしておく。モニターの一人は「ことばの地図」だけで歩くと所在地が判らなくなることもあるが、音で安心できる」と話す。
 今回の実験は都と区、総務省が支援、渋谷区千駄ヶ谷でも行われる。両方で二十ルートの公道に固定ICが約九十個埋込まれた。このシステム開発は渋谷区のエル・エス・アイジャパン、GPSなどより精度が高く、技術的には完成の域に達しているとのこと。ただ都建設局安全施設課によると「都内の都道は約二千キロ、ルートは無限大で大変なことになる。」ハードルは高いが他企業の技術も含め、積極的に支援する意向を都は示した。
■ 前項で紹介された「ことばの地図」(通称ことナビ)について。「NPO法人 ことばの道案内」ホームページによれば「障害者の社会参加と自立のためにも外へ出ることが大切だと考え、地図に代って言葉による案内を制作することを主な活動目的とする。」理事長古矢氏も中途失明者で、運営する視覚障害者向けパソコン教室へどう行けばよいかと訊ねられた時、その情報提供方法を考え始め、成就させた。
 ことばの道案内では主要駅から主要施設までの道順を文字によってインターネット上に無料配信している。利用者は「ウォーキングナビ」にアクセスして目的地を検索し、出てきた文字情報を音声ブラウザに読み上げさせる。モバイル環境(ケータイやスマートフォンなど)があればどこからでも利用できるし、なければ録音して携行すれば外出先でも道を確認できる。音声案内の内容は点字ブロックの有無、坂の傾斜具合、段差、道幅など非常に丁寧で、11年度のアクセス数は月平均三万件を超えた。自治体との協働事業も多い。

 他に、医学の分野で、特に外科的手法による技術もあった。
■「失明患者に希望の光」という見出しの下、眼球に付けた電極で網膜を刺戟し、それを視覚化するという方法で、患者が光の動きを追えるまで回復したとの記事(東京新聞 10・12・6)があった。
 この記事によって説明すると、失明の原因は様々だが、今回この方法の対象となった患者は網膜色素変性症。網膜に異常を来す遺伝性、進行性の難病で、四千人〜八千人に一人と推定されている。遺伝子治療や網膜移植、人口網膜の研究は進んでいるが、進行を確実に止める治療法はまだない。
 大阪大学大学院の不二門教授チームの研究は、網膜の外側を被う強膜に四十九の電極が付いた約七ミリ四方の白金製チップを埋込み、眼球内にも約一ミリの電極を一つ装着。こめかみにも小型装置を埋込み、網膜のチップへ送信できるようにする。額にとり付ける電荷結合素子(CCD)カメラが捉えた映像を体外のコンピュータでモノクロ画像に変換し、こめかみの装置に送信すると電気刺戟となって網膜に届く。それが視神経を通って脳に伝わり、視覚化されるという仕組み。
 05年と08年には四人に、手術中の僅かな時間だけ装着して効果を確認できた。今回、十年以上前に失明した七十代前後二人の女性に約一ヶ月間装着し、効果や安全性を調べたところ、パソコン画面の光を指で追えたし、一人は網膜の神経が活発化し、チップを外した後も?燭の明りが見えるという。将来は眼鏡型のカメラと携行できる体外コンピュータを開発したいとのこと。
■ 視力回復──アメリカのバイオ企業アドバンスト・セル・テクノロジー社が、ES細胞を網膜の治療に使う臨床試験で、二人の患者の視力が回復したと発表した(東京新聞 12・1・24夕刊 共同通信)。それによると、同社とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームは、ほとんど視力を失った七十八歳と五十二歳二人の女性の目に、ES細胞からつくった網膜色素上皮細胞を移植、文字が識別できるなど改善が見られたという。使用したES細胞は他人の受精卵からつくられたが、四ヶ月経過した時点で拒絶反応や腫瘍の形成などの異常は起きていないとしている。チームはさらに参加者を増やし、安全性・有効性を確認する方針。
 今回の二人は加齢黄斑変性とシュタルガルト病の人。網膜中央にあって、物を見るために最も重要な「黄斑部」の働きが、年をとるにつれて見えにくい・ゆがんで見えるなどの異常を起すのが加齢黄斑変性で、中高年の失明原因の一つ。同じく黄斑部に異常が起るが遺伝性であるのがシュタルガルト病である。

「代るもの」のまとめ

 正直なところ、こんなに多種多様であるとは思わなかった。また、着々と実用化されている物も多く、希望をもてると痛感した。「盲人には盲導犬」「待っている人が何千人」「育成費が何千万円」と刷り込まれ、店先の募金箱に威圧されてしまう、という風になるのはやはり動物に傾き過ぎているからかもしれない。これだけの分野で研究・開発が進んでいるのは、盲導犬という虐待に反抗しているのでなく、純粋にもしくは単純に「盲人のため」の努力、献身であろうと考えられる。
 見てきたように、利用者の身近に備える物から、外界、環境の整備、さては医学的手法(これは前段に動物実験がありそうで居心地悪い)まで、着実に進歩し、洗練されてきている。しかし、法律の壁があり、開発・制作費用の高い敷居があり、はたまた縦割り行政の塀まであって、なかなかスムーズには進展しかねているように感じた。
 研究開発者と企業との連携は頼もしく、完成した物への自治体の助成や省庁の協力も散見するので、これからの充実を期待したい。そういう中で、法の不備が洗い出されて、ひろく示されれば、一般市民も黙っていることはないと思う。
 今回このリポートのために電話でお尋ねし、ここには入りきれない豊かな説明を受けたが、一様に伝わってきたのは「すがすがしさ」だった。日ごろ動物がらみの場面で、ともするとやりきれなさのみ残るという事も多い。そこからぬけ出して、しばし別世界を散歩した感じ。戻って余韻に浸りつつ、すがすがしさはひた向きさからであろうと思い至り、信頼・期待の念が一段と強くなった。
盲導犬について
 出会うことがあっても知るのは難しいのが盲導犬。手持の『わたしは盲導犬』(西沢聖子著・ほおずき書房・一九八九年刊)の「盲導犬の日常」部分を『動物ジャーナル3』で紹介したので、それを再録する。
○ 食事は一日一回、夕食だけ。ドッグフード二百グラムと肉二百グラムです。間食? 以ての外です。間食などすると体調が崩れて、脳の感度が鈍くなり、盲導犬としての役目にマイナスを来すのです。
○ 用便は大便が三回、小便が四回、時間も決っています。普通の犬たちのように片足上げてするような不作法なことはしません。決められた場所で小用を足し、大便には簡易おまるを使います。つまり丈夫なビニール袋に尻尾を出す穴を開けて通し、袋でおしりを包み、紐で腹部にくくり付けます。済んだらヒトがトイレに捨てます。
○ お水はいつでも飲めるように、バケツに入れてあります。
○ ベッドは、人間のベビーベッドの足を切り、柵を十センチほどの低さにした九十センチ四方位のもの、薄い蒲団が敷いてあります。周りの板敷部分が、寝そべったり、ヒトと遊ぶ場所となります。(引用ここまで)
 二十年以上前の記録なので、また盲導犬を提供する団体が複数あるので、これが現在の唯一無二の日常とも思われないが、感想は、共に暮すのも大変だろうなということ。家屋や家族の状況がととのっていて、規則正しく世話をしなければならない。犬から慰めを得られるであろうけれど、理性的に管理しなければならない。精神的な勁さが求められる暮し方なのだと当時思った。

 02年のこと、日常的に犬猫の保護・縁付けをなさる女性からお手紙をいただき、盲導犬に関する事情の一端を教えられた。要約して引用する。
 市内のスーパーで盲導犬を見かけた。私は特殊犬には係らないがその時は思わず近寄って話しかけてしまった。あばら骨が浮き出て、顔も心なしか辛そうに見えた。その犬は、四年目で二頭目とのこと、付添っていた中年の女性は、あと十年ははたらいてもらわなければと言っていた。
 その後、気になって問合せて分ったことは、盲導犬協会は九団体ある/中の八団体が一つの基金をつくっている/協会で繁殖させた犬以外は公認できない/犬が嫌いな人でも家族にでも貸し出す/など。そして次のように思った。貸与する側も利用する側も、根底に、厳しい訓練に耐えた犬たちに対する愛情と、人間同等のプライドを与えてあげる深い思いやりが必要。協会等へ寄付する人も同じ気持を持つべきこと、寄付金使途の公開にも関心をもつべきである。(要約引用ここまで)
 右は、簡にして要を得たご教示だったとありがたく思う。

 これ以降も盲導犬を見かけた方から心配の声が届くことがあったが、近年驚くような出来事がネットにより知らされることになった。それは、盲導犬虐待というもの。近隣の目撃者が問題ではないかと発信し、ブログなどに書かれて広まり、いわゆる騒ぎになったケースがある。また、最近(12年一月下旬)長崎市で、七十代男性の盲導犬アトムさんが行方不明になったと、新聞記事になり、通報依頼のチラシも配られたことから、日常的な虐待があったという目撃者の証言や、愛護団体の追求などあり、現在も「2ちゃんねる」で論議されている。
 以前「2ちゃんねるの視点」というタイトルで、東日本大震災直後の犬さん映像放送から発し、熱心な書込みが続いたことをお伝えした際、「まっとうな意見が多い/確実なものへの熱心な追求/情報が早い/冷静に目的に到達させようという大人の存在」つまり複数の眼の強さを評価すべきかと述べた。
 この度のアトム虐待疑惑のスレッドにおいても、その特質は失われていないように思う。行方を心配し、平生の仕打ちに激怒し罵倒し、もしかしたら殺されている?「生きていてくれ!」と祈る。誰かが連れ去ったのでは、保護されているのではとの希望的観測も。そして「盲導犬とは?」も議論され、育成に税金がつぎ込まれていること、盲導犬協会のあり方批判。もう寄付はしない、知合いにもそう勧める、と走る一方で、現実の状態を語ってくれる人もいる。例えば(適宜省略して引用)
● 盲導犬は最初の一年は本当に大変だと聞くよ。訓練所では訓練士さんもいるし、慣れた場所だからそれなりに言うことも聞くけど、ユーザーの所へ行ったら、何から何まで「どうしてこんなに出来なくなっちゃったの?」という状態になるみたい。
 どんな犬だって人間だって、環境が変ったら慣れるまで時間がかかるだろうし、それは仕方ない。でもそこで愛情を持って根気強く付き合っていくことで、本当のパートナーになれるんだよね。
「犬が言うことをきかない」じゃなくて、不安なことがあったら、ちょくちょく協会に連絡を入れて 質問するなり、来てもらうなりしなきゃいけないし、協会も、その時にユーザーの言動から精神状態をチェックしないとだめだよ。犬も人もストレスでボロボロになってるケースもあるんだよ。
(この長崎ケースの)気の短い爺さんには、やっぱり無理なんだと思う。無理だと思ったら返す人もいるけど、負けを認めるようでそう言えずに、ストレスが盲導犬に向っているような人も、実際にいるよ。
 四週間の合宿訓練で落第する人はほとんどいないと言うけれど、協会側は心を鬼にして「あなたには盲導犬は貸与できません」という事も必要だと思う。そして、そういう人には盲導犬無しでも安全に暮せるようなサポートに繋げてあげてほしい。(引用ここまで)
 この発言は感動的。こういう情報は私たちに届くことがなかった。盲導犬を街で見かけた人々の心配や危惧は思い過しでなく、直観的に捉えていたのだと今にして思う。インターネットの発達、普及あればこそ。かなり事情に詳しい方の書込みのようだが、情報と知識にもとづいてきちんと穏やかに提案する。それが盲導犬協会の機能や方針に不備のあることを、読者に判らせてしまう。こういう方が協会内部に存在すれば、事情はずいぶん好転する筈である。

 アトムさんのことから過去の虐待疑惑事件にも話題が及び、あの件(松戸市のジョニー)どうなった?との方向に対して、やはり事情に詳しい方からのコメントがあった。(引用同前)
● あの当時はまだ盲導犬虐待などありえないと世間一般が信じていたし、告発した人は盲導犬育成にも関っていて、ユーザーや協会との関係もあるので個人名を出したり突っ込んだことを言えなかった。育成や老犬介護のボランティアたちだからこそ、普通の人が知らない悲劇をたくさん知ってたんだよ。
 でも、全部を話してしまうと、幸せに暮している盲導犬やユーザーに迷惑がかかる。ここで「盲導犬全廃論」みたいになるのも恐れていた。それで、ブレーキがかかってしまった。結局ガセネタ説にされてお終い。今「あの時もっと積極的に行動していれば」と歎いてるよ。
 今回の事は氷山の一角。他の協会でも同じような事は起きている。街で見かけたり近所にユーザーがいたら、今までよりちょっと注意して様子を見ていてほしい。(引用ここまで)
 なんともやりきれないこと。関係者が「全廃論」に突き進むことはあり得ないとは思うが、犬本にんの苦しみや悲しみを除外した決着のつけ方だったとは。

 2ちゃんねるではあちこちにテーマが飛び散りながらも、盲導犬協会とはどういうもの?と発展し、盲導犬貸与のあり方、貸与後の関り方など情報が書込まれ、それに意見が述べられ、犬さん直接の話題に転じてゆく。(引用同前)

● 厳しい訓練積んでユーザーのとこに行った後も、そんなにもいろんな壁を乗り越えなきゃならんのなら犬にとっては永遠に地獄が続くようなもんだな。
 やっぱり盲導犬ていう概念自体が間違ってる気がするよ。 もう廃止してほしい。
● 盲導犬は発祥の百年前ならともかく、今の時代に合っているとは思わない。 盲導犬の育成にかかる費用でガイドロボットを開発するとかした方が有意義だと思う。
● だけどこの事業に関わるいろんな人間の思惑が絡んでるから 、そうそう簡単には潰せない。
 こんなにも効率悪くて残酷なシステムなのに 、集金だけはできる、年金みたいな腐った事業。
● この爺さんも悪いけど、こんな事業を未だに美談とともに 国民に押し付けようとしている巨悪が存在するってことが よくわかった。
● こんなに盲導犬システムに問題がある……とは恥ずかしながら知らなかったわ。盲導犬は廃止した方が良いね。でないと犬が可哀想。目が見えない人はガイドヘルパーで良いと思うわ。

 こういう風にひた押しに率直に述べられると、いささかたじろぎさえ覚えるが、「真実を知った今、こう考える」強さは何物にも換えがたい。他の発言
● 真実を明らかに!
は、疑問疑惑にたち向う時の最強の武器。諺「隠くすより露(あら)わるる」の通り、いずれ露見する。盲導犬育成過程から利用の現状まで全てを明らかにして、世の判断を仰ぐべき時期に来ているのではないか。今のままでは利用者全員まで疑いの目で見られるし、偏見を助長しかねない。
 すでに「代るもの」が続々と開発されている現状がある。少なくとも盲導犬が来るのを待つよりも道具を活用する方が、時間の無駄がない。道具を使いこなすのに多少の煩わしさがあったとしても、盲導犬との合宿訓練に一ヶ月という束縛から見れば何ほどのものでもないであろう。
 最後に、日本盲導犬協会・多和田悟氏の講演(06年九月)から一部を要約して紹介する。
「盲導犬の使用経験があり、現在使用していない理由をわかる範囲で調査したことがある。予想では高齢化が最多と考えたが、体調不良・盲導犬のパフォーマンスに不満・状況の変化などが同程度。それから生き物の宿命である死を、ペットロスという表現でかなりの数の方が理由に挙げていた。また、使用をやめると決めた年齢は、高齢かと予想したが、五十代六十代が最も多かった。」
(日本ロービジョン学会学術総会・視覚障害リハビリテーション研究発表大会合同会の資料より)

 以上でつたない報告を終る。つけ加えるのを許されるならば、2ちゃんねる風に「拡散希望!」
(文責 青島)