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TOP 活動報告 2007年7月 クマの行方

■ 動物ジャーナル 58 2007 夏 より

  クマの行方

青島 啓子


 『動物ジャーナル56』に「クマは絶滅する」と題して、環境省報道発表資料の数字により、ヒグマ(北海道のみ)とツキノワグマ(北海道以外)の状況を考察し、「クマは絶滅したがっている。」と推測の言を記しました。
 この悲観的な推量を言葉にしてみつつ、挙げられた数字の中の「非捕 殺」数を、何か明るい見通しにつながる兆しではないか、そうでなくても、希望のもてる将来につなげることはできないかと考え、「非捕殺」数を挙げた二十一府県に、そのクマたちの処遇を聞いてみることにしました。

 二十一府県は『動物ジャーナル56』13ページの図表右端、二〇〇六年十一月末までの「非捕殺」数がゼロでない府県。この府 県に対し「二〇〇六年中に捕獲され「非捕殺」となったクマについてのお尋ね」という文書を六月二十六日に発送、七月十三日までに十七府県から回答をいただきました。(本書発刊の都合で、この時点で一応まとめてみます。)
 各府県ご担当各位には、早速のお返事をありがとうございました。 『動物ジャーナル56』の時点では、諸種の数字が十一月末まで のものでしたので、年末までに「非捕殺」増加も考えられたため、先ずその数字を尋ね、それを一覧表にしました。


非捕殺数
処  遇
備考

00年
11月まで

06年中

放獣

動物園

クマ牧場

個人施設

その他

青森

1

1

1

※1

岩手

22

22

22

宮城

10

11

11

秋田

4

4

2

2

※1

福島

5

5

5

※1

栃木

11

12

12

群馬

5

5

4

1

神奈川

1

1

1

新潟

9

15

15

富山

22

23

22

1

石川

5

6

6

福井

144

144

145

1

※2

山梨

1

回答未着

長野

144

146

144

2

岐阜

23

26

23

2

1

滋賀

25

45

45

京都

17

17

17

兵庫

21

21

21

鳥取

2

2

2

広島

10

10

10

山口

1

1

1

合 計

519

509

4

4

1

1

集計は7月31日現在 ※1 非捕殺はすべて子グマ

※2 クマ牧場へ予定していたが衰弱死


そして次の「お尋ね」= 「殺さなかったクマの処遇」内容をその右に付けました。「放獣」が圧倒的多数であることご覧の通りです。
 次に、放獣された個体の再出現の有無については、「あり」七例(あると推定・子グマだったので再放獣・交通事故死各一例・成獣だったので殺害四例)。「なし」の場合、個体識別票(標識・マーキング・タグ など)を装着したものは再出現なしだが、全てに装着してないので不明 という回答が二例、単純に「なし」が四例。「個体識別ができてないから不明」とするのが四例。この件に関連して、テレメーターを装着して行動追跡調査実施中・今後はタグ装着を予定などのコメントもありまし
た。放獣の時には何かの印を付けるものと思っていたのは早合点でした。
 放獣の際、クマに学習させる方法を尋ねたのに対し、とうがらしスプレーが圧倒的多数の十三例、爆竹・花火が四例。他には、ドラム缶製罠を叩いて怯えさせる・ヒトやイヌの声などで脅す・クマレンジャー(猟友会)が追払うなど。これらを組み合せることもあり。また、学習放獣はしない・子グマにはしない・罠にかかっただけで効果あり、との回答もありました。
 これらの学習法の効果については、大部分の府県が、ありと判断しています。検証中・個体差がありそう・あると確定できない、などもありました。
 最後の質問は「悩みごと」でした。回答無しが六県、他からの内容は多岐にわたり、悩みの深さが察せられました。が、今はおおまかに整理しておきます。

一、クマが人里に近づくこと──人的被害が発生する。農林業・養蜂業にも被害が出る。

二、クマの出没防止策の不備──生息環境への取組みが不十分。未然に防ぐ方法の選択肢が少ない。
  特定鳥獣保護管理計画の策定に取組み中だが、個体数の詳しいデータがない。

三、放獣にまつわる困難──放獣場所の確保が難しい。放す土地の所有者の同意が得にくい。

四、被害対策とクマ保護とのバランス──放獣に関し、地元の理解が得られない。
  同じく、県民の合意形成が難しい。
五、「地域の実情を理解しない県外の人からの、心ない非難が、地域のやる気を損うケースが多い。」

 以上でまとめを終ります。最後(五)は括弧に入れて、敢えて原文に近いかたちでお目にかけました。こんなことがあるとは驚きです。どういう人たちなのか、変に興味をもってしまいそうですが、それはさて置き、自治体のこういう発言は表に出にくく、貴重なものでした。同時に、僭越ながら私どもがこの種の悩みの受皿となり、事態を好転させられればなどとも思ったことです。
 二〇〇六年中クマの非捕殺は殺害数の一割弱でした。そして、山へ帰されても再び現れれば殆どが殺される。子グマはヒト手に渡り養われても最上の環境が恵まれるわけではない。山へ帰ったクマたちが賢明に命を全うしてくれるよう祈るばかりです。
 ヒト側の問題として、この小さなアンケートでも課題は出尽したと思われます。貴重な提言と関係諸機関は受止めてほしいものです。ヒト同士の対立が他の生きものの命を左右することのないよう、智慧を出し合いましょう。
 野生動物による被害の対策は現在殆ど殺すことで解決されています。が、例えば「被害」個々にヒト側が連帯して〈穴埋め〉をする、多くの場合お金でとなるでしょうが、クマ・サル・シカその他その他、地域地域に宛ててカンパを募るのはいかが。ドングリを集めて送るよりも(クマのケースにありました)簡単に、広くから、達成できると思うのです。ご批判お待ちいたします。