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TOP mook 動物ジャーナル バックナンバー動物ジャーナル51・『中国の毛皮産業レポート』要約

■動物ジャーナル51 2005 秋

  『中国の毛皮産業レポート』要約


[編集部注]
 昨秋「ストップ アニマルテスト! キャンペーン」のピースウォークに参加した(『動物ジャーナル48』に報告)際、同会のメンバーともお知合になりましたが、先日その中のお一人より標記リポートの日本語版を送られました。

 このリポートは「台湾動物社会研究会」と「スイス動物保護協会」により作成されました。(日本語版は「特定非営利活動法人アニマルライツセンター」「倫理的消費活動を求める会」制作)

 中国の毛皮動物養殖場内部についての初めてのリポートで、河北省にある複数の養殖場を対象とし、二〇〇四年から二〇〇五年一月にかけて調査されました。
以下はこのリポートの要約紹介です。

中国の毛皮養殖

 現在、中国が毛皮生産と加工において、世界最大の拠点であることは間違いない。
 中国のほとんどの養殖場はここ十年の間に設立された。養殖される動物は、アカギツネ、北極ギツネ、タヌキ、ミンク、ウサギなど。低賃金と、動物の福祉に関する細かい規程がないことにより、効率的に利益を上げることが出来るので、貿易商・加工業者・ファッションデザイナーが中国に拠点を移している。
 中国毛皮産業協会の統計によると、25%〜30%が野生動物、70%〜75%が飼育された動物から採られている。生産・加工関連事業は増加の一途を辿り、或る大きな市場では二〇〇〇年一年間で百八十万着のコート、百五十万枚の生皮、二百万点の装飾用毛皮が取引された。
 中国での商業的キツネ養殖の開始は一八六〇年とされ、同じ事業が西洋諸国で盛んになった為、一九五〇年半ばまでには中国も後を追うようになり、80年〜90年にかけて本格的に世界へ輸出するようになる。自治体運営の従来の養殖場に、個人・家族経営の養殖場も加わり、海外からの投資も呼び込み、今日では中国全土に百五十万匹のキツネと、ほぼ同数のタヌキが飼育されている。

養殖場の実態
 キツネ・タヌキの檻は長さ90p、幅70p、高さ60p、側面上下面とも金網(マス目は約3.5cm×4cm)で作られ、地上40〜50cmの高さに設置されている。
 各個の檻に一〜二匹ずつ入れられ、繁殖用の雌だけはレンガ製の小さな巣箱につながっているが、それは子殺しや育児放棄を防ぐためである。
 繁殖は人工授精が多く、一〜四月の間に行われ、五〜六月の出産期に平均十〜十五匹を産む。子ギツネは三ヶ月ほどで乳離れするが、それまでの生存率は50%。そして六ヶ月を経て最初の冬毛に生え変った頃、殺されて毛皮となる。
 キツネは生後十〜十一ヶ月で生殖可能となり、繁殖用の雌は五〜七年間使用される。
 動物たちには、強度の恐怖心、後天性の無気力、自傷行為、子殺しなど、福祉基準の低さを示す行動が顕著である。しかし人間は毛皮の品質にしか注目していない。

繁殖業の規模
 家族経営のものから従業員数百人という規模のものまである。山東省や黒龍江省にあるものは規模も収益も大きく、海外からの投資も受けている。最大の養殖場では一万五千匹のキツネと六千匹のミンクを所有、人工授精から加工までの施設を有し、輸出にも力を入れている。
 今回調査対象とした河北省では、ほとんどが個人経営で、百匹未満から数百匹程度。最大の養殖場で二万匹を飼育している。多くの業者は繁殖に力を入れ、卸売業者・屠殺業者に販売する。唐山・楽亭・鮑虚などの都市郊外に店舗を構えている。
 対象とした養殖場は一箇所で五十匹から六千匹まで様々あったが、キツネだけの所、ミンク、タヌキ、ウサギも共に保有する所等、種類も色々だった。

屠殺
 毛皮動物は卸売市場と隣接した場所で殺される。そこは養殖業者と仕入れに来る大企業が出会う場所でもある。その現場まで劣悪な状況の下、長距離の移動に耐えさせられ、むごい殺し方をされる。
 〈 記述省略 〉

毛皮製品と価格
 中国産の毛皮は、毛皮単体、コートにとどまらず、スカーフ・帽子などのアクセサリー類、衣類の装飾から玩具や家具に及んで使われる。
 小売店の店員は、製品の価格は毛皮の大きさ、重さ、動物の種類や質に左右されると話した。そしてアメリカかフィンランドからの輸入品であると称していたが、その理由は、国内産は質が悪いと消費者が思い込んでいるからである。それ故、国内産の物に海外メーカーのラベルを付けて、高額にしている。
 キツネ生体は変動もあるが五十〜七十ドルで売買される。中国のデパートでのコートの値段は三千七百五十ドルから五千ドル、最高級のものは一万二千ドルにもなる。小売店・露天商では千二百五十ドルから二千五百ドルほどである。

毛皮の処理
 中国は世界最大の毛皮製品生産国である。国内産の毛皮に加え、毎年五百万枚のミンクと百五十万枚のキツネの毛皮を輸入、合計すると世界中で取引される毛皮全量の40%にもなる。これらの毛皮は中国内で染色され、再び世界の市場へ輸出される。
 二〇〇二年〜二〇〇三年にかけて、フィンランド産のキツネの毛皮八十五万枚弱の40%が中国と香港へ、ミンク百六十三万枚強の38%が中国へ輸出された。しかし二〇〇四年に中国の生産量が飛躍的に増加したため、ヘルシンキやコペンハーゲンの取引場では多くの売残りが出た。中国・香港のバイヤーが買付をしなかったからである。
 莫大な数の動物の屠殺から発生する環境への影響も無視出来ない。血液・死骸から環境汚染物質が発生することは勿論、染色処理に使われるクロミウム他の危険な化学物質が、住民の健康、環境に影響を与えると指摘され、公害問題化しつつある。にもかかわらず、海寧省や浙江省の市場では、毎日十万枚もの生皮が取引され、化学処理が行われている。

輸出
 世界の毛皮産業の仕組は大変複雑である。生皮は複数の国に転売され、様々な処理工程を経て消費者に届く。国際毛皮連盟(IFTF)は中国が最大の輸出国であるとする。その製品の95%以上がアメリカ、日本、韓国、ロシアへ輸出され、香港からは80%以上がヨーロッパ、アメリカ、日本へ輸出されている。
 中国税関の統計によると、二〇〇三年には九億九千七百万ドル分の取引があり、前年比42・5%増、最大の輸出先はアメリカである。因みに二〇〇四年アメリカの輸入した全毛皮製品の40%を中国が占めている。
 しかし中国税関では毛皮そのもの以外=毛皮付衣類・生地、毛皮付革製品=は申告不要のため、毛皮の正確な輸出量を把握するのは困難である。また、販売業者が他国の在庫を輸入し、再び他へ輸出することもあり、統計を余計複雑なものにしている。
 中国の毛皮は、低賃金労働による大量生産というイメージがあるため、多くの小売業者は産出国表示を嫌う。小売店には表示の義務もない。装飾的に使われている場合は動物の種類さえ明らかでない。
 国際的な毛皮販売市場において、いわゆる伝統的な「毛皮専門店」の経済上の割合は、過去十年間に著しく低下している。多くの国で、専門店の売上げは落込み、代りにデパート・ブティック等の販売高は激増している。つまり需要が減少しているということではない。

中国の毛皮養殖場における福祉と健康
 中国の巨大な毛皮産業で日常的に行われている飼育・輸送・屠殺の方法は、獣医学・動物福祉及び道徳的見地から容認できるものではない。
 調査対象の全ての養殖場で、動物は乱暴に扱われ、小さな金網製ケージに押込められていた。病的で極端な行動は至る所で目立ち、幼獣の高死亡率・自傷行為・子殺しも多く見られた。そして、おぞましく非人道的な屠殺法。何百万もの動物は暴力と凄絶な苦しみに満ちた長い道のりを経て、ようやく死に到達する。
 中国は世界最大の毛皮生産・加工国であるが、動物の福祉に関する法的規制はない。最近立法案が出されたが、握り潰されてしまった。その中国へ、毎年想像を絶する数の毛皮用動物が送り込れているのである。
 中国のある業者は次のように述べる。「中国ではそういう法律は何も必要ない。我々は養殖技術を提供してくれたフィンランドのノウハウを信じているし、フィンランドでは千年も前から繁殖させているのだから。」

問題行動と拘束
 中国における毛皮動物養殖用ケージはヨーロッパの基準に比して、床面積で30%、高さで14%小さい。またヨーロッパで勧告されている巣箱設置も中国では無視されている。
 他国でも養殖場のキツネは激しい恐怖心に苦しむことが知られているが、中国ではこの小さなケージがむき出しのまま並べられ、他のキツネと一緒に押込められたり人間が接近したりすることにより、恐怖は大きいものになり、ストレスを生じ、異常行動を起す。
 育児放棄や子殺しは自分の体を傷付ける行動と共にどこの養殖場でも見られた。
 また常同行動とよばれる繰返し行動のパターンも、今回の調査で観察・撮影されたキツネには、慢性の激しいものが確認された。
 常同行動は拘束された動物への福祉の欠落と関連があり、ストレスに満ちた状況から抜け出せないために起るということは科学的に検証されている。今回の調査で把握された「キツネの慢性の激しい常同行動」は、不適切飼育=福祉の欠落を示すものである。
 なお、多くのキツネに無行動・無反応やケージの奥にうずくまったままの状態が見られた。これは自身に起っているコントロール不可能の状況に対する「慣れ」と混同されがちだが、どうにもならないと悟った果の「あきらめ」という心理反応で、これも著しい福祉の欠如を示している。

毛皮の品質
 毛皮業界は「品質の良さは動物を大切に扱っている証拠」と主張するが、長年にわたって良質の毛皮を作る動物を選別繁殖しているのだし、キツネとミンクは最上のタイミング即ち冬毛が生え揃った最初の年に殺されるのでその理屈は通らない。

幼獣の死亡率
 乳離れするまでの子ギツネ死亡率は平均50%だとある養殖場のオーナーは語った。スウェーデンでは15〜30%、フィンランド一九九〇年の計算では30%、ノルウェーの報告によると銀ギツネが16.8%、アカギツネ22%となっている。中国のは異常に高い。

人工授精
 中国を含め毛皮繁殖場で一般的に行われている人工授精は、そのほとんどが自然界では繁殖期の重ならないアオギツネとアカギツネの交配に用いられる。発情期を把握する熱感知器の誤用によって発作を起させる、人工授精器の使用が早すぎて、メスを傷付ける。不潔な環境や粘膜の損傷により何千匹も死ぬ。精液採取もオスにとって苦痛極まりないものである。

結論
 中国の毛皮動物養殖場では、最小限の福祉基準さえ満たしていない。途方もない数の動物たちがファッションの名のために苦しみ、尊厳・基本的要求を無視され、生きさせられ、殺されている。
 業界筋によると、毛皮はファッション界で息を吹き返したそうだ。三百五十名以上の国際的トップデザイナーがコレクションに加えている。国際毛皮連盟は「必須材料」と宣伝して巧みに販売、大量生産のお手頃商品になった。しかし、その犠牲は?
「人道的に作られた毛皮など、存在しない」(キャサリン・アガ・カーン氏)をかみしめるべきである。

[要約者付記]
 このリポートは最後に、日本が最大の毛皮消費国の一つであると明示し、毛皮製品を用いることは毛皮動物の状況を黙認することであり、日本の「動物愛護法」の理念を否定することになる、と強く訴えています。そして十カ条の要望を掲げていますが、紙幅の都合上、消費者への要望毛皮を用いた全ての製品を買わないことのみをお伝えします。
 なお、日本語版同リポートに添えて、中国から日本に輸入されている毛皮類の統計とその解説(A4一枚)あり、その一部をここに付けておきます。