市獣医師会は「筋弛緩剤だけを用いることはあまりないと思う。投与した獣医師には麻酔剤を使用するよう注意した」とし、近く役員会を開き、指定獣医師らに周知徹底するとしている。
環境省動物愛護管理室は「指針は具体的殺処分方法を規定していない。苦痛を与えないとは努力規定であり、筋弛緩剤投与が直ちに指針違反に当るとまで言えない」との見解を示した。
一方、横浜市内で猫の不妊手術を進めるボランティア団体関係者は「殺処分自体に反対しているのに苦痛を伴うやり方は以ての外」と憤慨している。(古賀 敬之記者)
記事は以上で、文末別項に「猫引取り業務委託」に関する解説があります。それによると、横浜市は一九七四年四月から市獣医師会に業務を委託、殺処分する「指定獣医師」は現在約八十人。03年度の処分数は四千二百七十二匹だった、とのことです。
右の情報を新聞記事以前に入手なさっていた「横浜市のら猫同盟」代表の高橋玲子氏は、許し難い重大な出来事として、その責を問う手紙を横浜市長あてに用意されました。当編集部はその草稿を、筆者高橋氏の了解を得て、ここに掲げることにしました。(表記の変更は一任していただきました。)
二〇〇四年十月十三日
横浜市長 中田 宏様
筋弛緩剤使用の件
横浜市は一九七四年から委託事業として横浜市獣医師会に猫(引き取り猫・不明猫)の殺処分を委託してきました。衛生局は安楽死の処分と言っております。
安楽死〈広辞苑より〉
助かる見込みのない病人を本人の希望に従って苦痛の少ない方法で人為的に死なせること
病気でもなく元気な猫を人為的に死に至らしめるのは安楽死の定義には入らないので、殺処分と言う方が正しいといえます。衛生局の笹野課長は、殺処分方法について「麻酔剤を多量に注射して、眠ったまま死に至らしめる方法をとっているので、苦痛はない」と言っておりました。
二〇〇三年度の西区の泉井さんの市長への手紙の回答にもそのように書かれています。
ところが、二〇〇四年七月に開かれた西区の「猫に関する話し合い」の席で指定獣医師が「殺処分をする時、麻酔剤は眠らせる時の三倍の量が必要である。経済性から筋弛緩剤を使っている。これは自分だけではなくて、他の先生もやっていることである」との発言があったと聞きました。
殺処分は病院という密室で行われていた為、内部告発でもなければ外部の人間には知り得なかったことです。誤解のないように申し上げておきますが、私自身は動物の殺処分には反対の立場をとっておりますので、筋弛緩剤ではなくて麻酔剤で殺処分をして下さいと言っているのではありません。
この委託事業は強制ではありませんので、良心のある獣医師は今では引き受けていないので、なり手がすくなくなってきているのが現状です。一方でこの制度を最大限に利用して利益を上げている病院も有ります。
この委託事業では処分費として一頭につき約九千円〜一万円の税金が使われています。
生後三十一日以上の(まだおっぱいを飲んでいる)猫は成猫とみなされ(持ち込まれた猫の九十%は子猫ですから)、より多い収入に結びつくシステムになっています。
まさにこの委託事業は、横浜市衛生局から獣医師会への丸投げで行われていて、衛生局は事務作業だけをしています。これは市民の税金を使っている事業ですから、使われていない麻酔剤の金額を獣医師会に払っているのは税金が不正に使われていることになります。
この件を公正な立場の部署で、税金の流れ、委託契約すべてに関して調査をお願いいたします。
生後三十一日以上で成猫とされる根拠も説明して下さい。以前同じ質問を衛生局にした時は「条例です」との回答でした。今回の発言による筋弛緩剤の使用を、別紙総理府告示第40号愛がん動物の処分(致死)の十項目に照らしてどのようにとらえているのか回答をお願いします。このような問題が起きるのは、横浜市が安易に動物を殺処分していることと、その事業を営利を目的にする開業医に委託していることが原因だといえるのではないでしょうか。
ご参考までに薬剤の致死量と価格をしるします。
◎麻酔剤ソムノペンチル 百ml=三千三百円
LD50(致死量)一ml(一kgあたり)
四kgの猫の致死量
4ml 使用×33円=132円
◎筋弛緩剤サクシン2% 5ml=126円
(致死量は不明)
(住所・電話略)高橋玲子
右書簡草稿では「麻酔剤で殺すのを建前にしながら筋弛緩剤を用いた事実」を追求しています。文末に両剤の値段と致死量が示されていますが、サクシンの致死量不明とのこと。当会でその筋の方に調べていただいたところ、猫の場合、体重1kg当り0.06ml。5kgの猫で0.3mlであり、価格は7.56円となりました。10円に満たない価です。1ml使っても25円強、確かに麻酔剤の132円は5倍も高いようです。
この獣医師も認めた「経済性」は右の通りです。
次に、新聞記事にあった「暴れる猫」について。静脈注射ならば暴れる猫には打ちにくいと思いますが、麻酔剤も筋弛緩剤も筋肉注射での致死処分は可能だそうです。ゆえに、麻酔剤が使えないという言訳は成立せず、勘ぐれば、静脈注射の方が分量が少なくて済むので=安く済むので、大量の麻酔薬を筋肉注射するのは高くなる。つまりこれも経済性からの理由かと思われます。
高橋氏同様、私も殺処分を容認する立場にはいませんので、右の論議はあくまで容認人種社会でのことになります。
今回の神奈川新聞の記事で、最も問題と思った点は「飼い主不明の猫」殺処分でした。
飼い主不明の猫は誰がどこへ持ち込むのか?
「不明」と判定するのは誰なのか?
動物の愛護及び管理に関する法律第十八条2項は「所有者不明の犬ねこの引取りをその拾得者その他の者から求められた」場合、引取らねばならないとしていますが、これらの動物を持込む者に関してはいくらでも拡大解釈できる条文になっています。
猫を邪魔として排除したいヒトが多い世の中、横浜市では、もし引取り時の判定を獣医師に任せられているならば、持込み者との「合意」は極めて成立しやすいと懸念されます。この辺りの追求の厳格を求めたいところです。
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