ベリリウムユニットの行く末:
ちょっと悲しい情報なのだが、Scanspeakが全てのベリリウムユニットの製造を中止してしまっていた。
23年9月
の段階でMaterion社からのベリリウム箔の供給が停止して生産が影響を受ける旨の
アナウンス
はあったのだが、製造中止の正式アナウンスは同社からの公式ニュースを見ている限りでは無かった。しかし、現在のツィータの
ユニットカタログ
上はすべてのベリリウムユニットがディスコンとなってしまっている。
「Discontinued」の文字が強調されているD2908-714000:(素晴らしいユニットなので何だか切ない)
後継と思われるユニットにはTPCD(Thin-Ply Carbon Diaphragm)を採用したものが新ラインアップにて登場(D2908-7160000)している。TPCDというスピーカーユニットの振動板は、「Carbon Textreme」という素材の商品名称を冠しSB Acoustics社がいち早く採用したもの。現在はTPCDという表現に統一されている。このカーボン振動板を持つユニットがベリリウムとほぼ同格のものとして扱われている。
(左)Scanspeakの後継機となるTPCDツィータ(右)TPCDの市松模様が特徴的なSB Acousticsのミッドユニット:
このTPCDを採用したユニットはSB Acoustics、Scanspeak以外でもすでにちらほらと見かける(OEMかもしれないが)のだが、今後所謂ピュアベリリウムと呼ばれるような振動板を持つユニットは他社も追随して生産縮小、希少なものとなっていき、いずれは消えてしまうのだろうか、、、
Bliesma社においても
Bliesma M142B
という142mm口径のベリリウム振動板を持つミッドレンジユニットは試作品だけで幻に終わってしまい、現在は
Bliesma M142T
というTPCDを採用したものが量産ユニットとして誕生している、という経緯もある。
ベリリウムは全世界の生産量300トン未満と非常に少ないにも係わらず多くの工業用途にも使われる貴重な金属なので、資源の奪い合いが起こっていることは確かなのだが、今後継続してスピーカーユニットに採用できたとしてもかなり高価なものとなってしまう可能性がある。もちろん、全く無くなってしまう程の事には至らない、と多少楽観的には見ているけれど。
ベリリウム箔をベースにしたユニットはMagico、TADなども搭載しており、中でもParadigmはミッドレンジに大きな口径のベリリウム振動板を採用していることもあって、今後更にスピーカーシステム自体の価格が上昇するという可能性もあるかもしれない。なお、Focalもベリリウムツィータが有名なのだが、こちらはCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長、一般に蒸着法とも呼ぶ)で自社生産しているものと思われるので、影響は少ないかも、と推測している。
ベリリウムを代替する振動板として既に多くのユニットでTPCDの採用に至っていること自体は、カーボンファイバーがその特性も含めて評価されている(TPCD以前はファイバーを固める為のレジンによる重さの欠点があった)訳なので「良き」と思う。けれど、当方としてはやはりベリリウムの音に魅了されていることもあり、このような状況に進んで行くことは若干の寂寥感も伴う。逆に云えば現時点で「ベリリウム三兄弟」と自ら勝手に呼んでいるユニット達を我が家に構えることができたことは何とも幸運であった、と素直に受け取るべきものなのかもしれない。
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