オーディオ日記 第39章 扉を叩け、開け(その5)2016年9月26日


TOP Audio Topics DIARY PROFILE LINK 掲示板

現在のシステムは下流となるスピーカー周りの組み直し、チャンデバ、ボリュームという中間部の手当て、そして上流に当たるUSB DDC/DACの更新やパソコン自体の完全ファンレス化、また再生ソフトとしてのJPLAY Dual PC構成へとほぼ全容と云えるほど手を入れてきた。だが、なかなか「納得の音」には至っていなかった。このシステムで再生される音に何らかの不満があるが故に、あれやこれやと改善を図ってきたとも云えるであろう。もちろん、システムですべて解決できるものではなく、部屋の環境も重要なファクターだとも思うのだが。

自分の好みの音、求める音はこうだ、と言葉で表現することは難しくはあるのだが、

「張りがあって豊かな音、また、繊細で透明感があって優しいこと。しかし、凛とした響き、輝きも必要に応じて示されねばならない。ボーカルの表現においては実在感と何より生身の声の色気があること。そして音楽は小さく固まらずに広がりを持ってスカッと飛び散り抜けていくこと」

ということが自分なりに(音源には依存せずに)希求している音のような気がしている。

これに対する現実の音の過不足をどのような基準にて判断していけば良いのか、まだまだ手探りでもある。不足のものが何か、ある程度明確に分からなければ的確な改善のための対策も打てない。暗中模索、偶然頼みでは辿り着けないが、一方で、計測や補正によって音の基本的な部分が把握され、手直しできるという期待値はあるが、効果の確約がある訳ではない。結局はいろいろな対応策の地道な積み上げの中で徐々に理想の音が形づくられていくものなのかもしれない。

現状はそれぞれの機器が理想に対してあまりに役不足というほどの状況ではないので、これを纏め上げるのは一重に当方の力量の問題だとも考えてきた。そしてその結果に対して自分では必ずしも満足はできていないのだ。だが、やっとここに来てひとつの灯りが見えてきたような気がしている。

それは最終的な音の出口となる4wayのスピーカーの調整に関わる部分で少し迷路に入り込んでしまっていたのだと思う。先に述べたような自分の好みの音を実現してくれるスピーカーとしてその音色に惚れ込んでSONYのSUP-L11とSUP-T11というユニットを随分と昔(2002年)にはなるが選んできた。

左:SUP-T11ドライバー 右:SUP-L11ウーファー  
SONY SUP-T11 SONY SUP-L11

ただ、もちろんこの2つのユニットだけでは自分なりの理想には届かないという現実もあって、 ツィーター を足し、 ミッドロー を足しというステップを踏んで4way化を図ってきたという経緯がある。そして、そのツィータとミッドバスの両ユニットがそれぞれに優秀なので、ついついその活躍領域(帯域)を広げるような使い方をしてきた。だがそれによって自分の求める音楽表現や音色からは少しづつ遠ざかってしまっていたのかもしれないと思う。SONYのユニットは基本2wayでも立派に通用するユニットなのだが、それをあえて狭めて使うような設定に変化してしまっていたのだ。

ベリリウムツィータには4KHz以上の倍音成分を中心に受け持たせる心積もりが、優秀なユニットであり2.5KHz辺りからでも全く問題なくストレス無用の高域を再現してくれるため、ついつい欲を出してクロスオーバー周波数を下げるような使い方に変化してきた。だが、SUP-T11は公称では24KHzまでの再現能力(ダイヤフラムはアルミニューム)を持っている。(実際はホーンの形状に応じて8KHz辺りからダラ下がりにはなるが)そのユニットに対して2.8KHz~3.5KHzでベリリウムツィータをクロスさせることによって高域における音色的な違和感が生じてしまうことに実はあまりケアできていなかった。

同様に、SUP-L11というウーファーは声の表現に卓越した能力があるのだが、ミッドローユニット(FPS)とのクロスオーバーは200Hzを中心に180~250Hz辺りで使うことを考えてきた。2wayにおいては500~800Hz辺りでクロスオーバーさせ、声の帯域をカバーさせる使い方によってそのアドバンテージが生きるのにも係わらず、である。なお、SUP-L11とSUP-T11を一例として630Hzのクロスオーバー周波数で使用とすると、SUP-T11自体は1.2KHzより下のレスポンスがその上の1.5~2.5KHzの帯域と較べると弱いので、必然的にSUP-L11を比較的なだらかなスロープ特性(-12dB/octなど)として使う方法が望ましくなり、それはそれでボーカルなどの再生に存分に魅力を発揮してくれる。その分、15インチ口径のウーファーなので、どうしても高域方向の音の切れが悪くなってしまう。これを何とか改善しようという目的がミッドローユニットの導入であった訳だ。そして、このミッドローユニット(FPS)は非常にフラットな性格の音を聴かせてくれ、周波数レスポンスも同様にフラット。受け持ち帯域は広げても全く問題ない。ダイポールタイプのユニットで後面解放というエンクロージャの使い方なので、あまり低いところまでは使えないが、160~180Hzくらいからであれば設定可能なので、計測によってフラットネスを探れば、どうしてもSUP-L11ウーファーとのクロスオーバーを低く設定してしまう。また、口径の大きいウーファはなるべく低く使うべしというような思い込みもあって、結果SUP-L11の「美味しいところ」を引き出せず、逆にスポイルしてしまうような使い方になってしまっていた。

今般、-48dB/octというスロープ特性を試行する中でその問題にはっきりと気付かされた。音の溶け合いが低次のスロープ特性より減る分、個々のユニットの性格が浮かび上がってくるのだ。従って、今までの4way(スロープは-12dB/octと-24dB/octの混合)のクロスオーバーでは周波数特性を整えても音楽そのものや音色の再現性がどうも塩梅が悪いように感じてしまう。ここをすっきりとさせるべくいろいろとクロスオーバー周波数の設定を変えながら最適なところ(ユニットとしての美味しいところ)を探ってみた。現時点の結果としては4wayのクロスオーバー周波数を400Hz、900Hz、5,600Hz(スロープ特性は一律に-48dB/oct)とした時に自分なりの理想に近づくように感じた。このクロスオーバーの設定ではベリリウムツィータは基音はほぼ再生せず、SUP-T11がいわゆる「楽器の高音領域」全体をカバーすることとなる。またSUP-L11は400Hzまでなので、男性ボーカルの声の帯域、女性ボーカルでも低い声の帯域には相当関わってくることになる。ミッドローユニット(FPS)は900Hzまでの受け持ちであるが、SUP-T11は800Hzからのクロスオーバー周波数として、ここでは若干のオーバーラップをさせて、SUP-T11の下の帯域のレスポンスの弱さを補っている。

結局のところ、この設定では4wayであってもSUP-L11、SUP-T11という両ユニットが音楽と音色面での主役であり、ベリリウムツィータは倍音成分を中心に受け持つこととなり、ミッドローユニットは15インチウーファならびに4インチダイヤフラムを持つホーンドライバーの「繋がり」の弱点を補うような使い方となっている。-48dB/octというスロープ特性によるユニットの駆動の影響もあって音が溶け合う、という感じにはならないのだが、それぞれのユニットが役割に徹するということもあってか、(当方にとっては)音楽全体が闊達になった気がする。また声の持つ魅力もよりうまく再現してくれるようになったのでは、と感じている。

この辺り、従来のスロープ特性やクロスオーバー周波数の設定と大分変わってしまっているので、「目新しさ」に心惹かれているだけでは?とまだ自問する部分が無くはない。だが、いままでの音より自分にとっては確かに求める音に近づいたと思えるのだ。この設定を模索するに際しては、本来の2wayでの音、ツィータのみを加えた3wayの音とも随分比較した。3wayの場合と4wayの場合の音のバランスの差は小さくなっていると思う。一方で音の広がりや抜けという観点ではやはり4wayに軍配が上がる。贔屓目でみれば、2wayに近い音の質感を維持しつつ、4way化によってその弱点を補った上で、さらに新たな魅力を引き出している(自画自賛すぎるが)、ようにも感じる。
(注記)比較試聴においては為念JPLAY Dual PC構成で全て実施した。

これは僥倖であろうか。はたまた砂上の楼閣のような淡い夢に終わるのであろうか、、、、とにかくこれで音楽を堪能できるかどうかしばらく聴き続けてみようと思う。

Dante Audio NetworkのテストからFIRのMPP,DSPというデジチャンソフトウエアに感銘を受け、さらに急峻なスロープ特性を試して改めてそのメリットを実感し、まずは現行機器でその可能性を何とかできぬものかと追求してみた、というまさに泥縄というか芋蔓的なアクションの結果のようなものなので多分に恥ずかしい部分がある。だが、しかし僅かでも理想に近づくためには今までを否定することも含めて、躊躇してはいられない。


next index back top