オーディオ日記 第35章 賢者の導き(その16) 2015年 8月28日


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モーツアルトを居眠りしながら天上気分で聴く、というのが爾来から目指してきた当方のオーディオの目的地である。しかしながら(実際に音楽を聴いているジャンルの統計を取った訳ではないが)女性ボーカルを聴く比率もそこそこ高いと思う。モーツアルトに関しては比較的大人しい(眠たくなるような?)音が好みではあるのだが、この調整・バランスでは女性ボーカルの再生は今ひとつであるとこのところずっと思っている。声については人間の耳はとにかく鋭敏であり、一番再生が難しいのかもしれないが、自然さ、芳醇さ、温かみ、通りの良さ、透明感、ヌケの良さ、肉声感、チャーミングさ、清楚さ、可憐さ、色気、、、などなど求める要素を数え上げればきりない。

パーフェクトにとは行かないまでも、何とか現状をブラッシュアップしたくてあれこれ模索している。一番のポイントとなるのは声の帯域(基音の中心はおよそ200~800Hzくらいだが、倍音を考慮すると2KHzくらいまでだろうか?)を受け持つスピーカーユニットではないだろうか、と思う。もちろんシステムのトータルな構成と質が再生音を支配するのであろうけれど、先に述べたような人間の感性の部分に直接訴えるのはやはりスピーカーだと考えている。ユニットにも個性があることは間違いないが、さてそれではどんなユニットをどのように再生させれば、満足のいく女性ボーカルの再生となるのだろうか。

現状は(4wayは一旦お休み中で)3way構成なのであるが、声の帯域はSONYのウーファーとドライバー両方で受け持っている。このユニットのボーカルの再生に元々は惚れて導入した経緯もあってその質感は非常に自分にぴったりと来るのであるが、それでもいろいろと他のユニットを聴き較べれば、差もあり、敵わないところもある。最近とみに「いいな~」と感じてしまうのは ATC SM75-150 というミッドレンジユニットである。このユニットは75mm口径のファブリックドームで強力な磁気回路を背負い、380~3500Hz前後というボーカル帯域を正に一発でカバーすることができるというもの。そしてその音の浸透力と色気は非常に素晴らしいと聴くたびに感じる。ATC SM75-150にはかってATC SM75-150Sというさらに強力な磁気回路を持つユニットも市販されていたのだが、今はこちらはユニット単体では入手できなくなってしまっている。レギュラーバージョンであるATC SM75-150の方は単体で 調達可能 である。

3way構成の中域部分をこのユニットに任せる構成とすればいいんじゃなかろうか、と何度も思案してみる。それならば時に応じてSONYのホーンドライバーとこのミッドレンジユニットを使い分ければいいのだし、、、と誘惑もひとしきり。

だがしかし一方で、現用のSONYのユニットにも惚れ込んだ弱みがある。彷徨い果てるまでこのユニットで行こうと考えた経緯もある。新たなユニットを買うことは簡単であるが、それ以上に使いこなして自家薬篭中にするのは決してイージーなことではない。あれこれ考えていてもしようがないこともあるので、逆に今の構成、ユニットでどこがどのように鳴ってくれれば理想に近づくのか、改めて整理し、それを実現する手立てがないかチャレンジを行ってみた。

現状のそれぞれのユニットには当然得失がある。
ウーファー:声の芳醇さ、自然さ、質感は問題ないが、大口径故にヌケがやや劣る面があり反応がシャープではない感じがある。
ドライバー:密度感はあるのだが、ホーン故に反応が良すぎて時に耳に付く部分もある。

これらの質感に相当するところの美点を残しつつ欠点をつぶし、かつフラットな特性をなるべく維持しながら実現できないものだろうかと悩む。ぱっと考えただけで出来そうにない、とは思ったが毎日が日曜日の当方にとってやってみない理由はない。ただ、最終的にトータルな音のクオリティは維持したいので、デジタルイコライザーは使わない、デジタル絞りは-3dB以内にする、という条件を自分に課した(デジチャンへのデジタル入力も前提なので、4wayにはせず3way構成のまま)。その上で少しでもATC SM75-150で抱いた女性ボーカルに対する夢のような再生イメージを具現化できないだろうか。

実際の手順として、まずはホーンドライバー単体での計測を、受持ち帯域を変え、測定ポイントを変え、と徹底的に行ってみた。Omni Micを使っての測定であるが、毎度のことながら、測定結果は微妙にバラついてしまい、測定の限界も感じない訳にはいかないのだが、それでも総合的な特性として弄るべき箇所が見えてきた。ホーンドライバーの音圧分布は2K~3KHzあたりに若干の山があり、1KHz以下では平均レスポンスが多少低くなる。この二つの特性がホーンとしての個性なのかもしれないが、ここを残しておいては万全な声の再生には至らないであろうと考えた。従来のクラシック系の再生に重点を置いた設定は2K~3KHzあたりの若干の山の部分が弦の再生などでうるさくならないようにここにレベルを合わせる形で全体のバランスを取ってきた。しかし、逆にボーカル再生で重要な帯域となる800~1600Hz辺りがこれでは弱くなってしまい、声に対する充実感が不足してしまっているのではなかろうと考えた。

イコライザを使えばこれは簡単に処理できる点でもある。だた、現有のイコライザ機器では自分にとっては許容し難い質感の低下という問題が起きてしまうことは経験済みなので、さてこれをいったいどのように改善させるかあれこれと思案した。マルチアンプ設定の常識的なアプローチではこれを解決できないので、定石を捨てて設定変化させてみた。まずは2K~3KHzあたりの山をどう抑えるかであるが、これはドライバーのクロスオーバー周波数をかなり大胆に動かし2KHz、遮断特性を-6dB/octとすることで山を崩し800~1.6KHz辺りのレスポンスとバランスが取れることが判った。この調整ではホーンドライバーのレベルが相対的に下がるので音量を従来より+3dB程度上げることによって全体の音圧を確保しつつ(ユニット単体での)帯域バランスが整えられるような状態となった。ただし、ツィータをそのままこのクロスオーバー周波数、同じ遮断特性で切って乗せても不思議と特性上はあんまり美味しい状態にはならないのだ。流石に2KHzでは低すぎるだろうとの思いもあり、ツィータのクロスを徐々に上げ、遮断特性を変えつつレスポンスを見ていくと3.5KHz、-12dB/octの時に比較的スムーズにつながる。レベル設定は多少繊細さを要するが結果として1KHz~4KHzが通しで見てフラットに近づいてくる。比較的低次の遮断特性が幸いしているのかもしれない。ただし、この場合ホーンドライバーとツィータの二つのユニットで2KHz~3.5KHzの帯域を相互にカバーすることになるので、タイムアライメントに関しては非常にシビアに調整した。

さて、ウーファとドライバーのクロスであるが、4way構成でミッドバスユニットをいろいろと試した経験をフィードバックし、800Hzで考えた。従来は710Hzが実使用のほぼ上限で800Hzは実験的には使用したことがあるものの恒常的には使っていないのだが、双方を-12dB/octとした状態でクロスさせると声の芳醇さがうまく出ると感じた。一方で15インチウーファーを800Hz、-12dB/octという比較的高めの領域まで使用すると、音の汚れやヌケに対してのマイナス要因となると考えているのだが、流石に優秀なユニットでほぼ問題ないようだ。ただし、、ウーファー単体で測定するとやはり多少低域レスポンスの暴れ(部屋の影響もあるかも)があるのだが、これはこの手の調整では抑えようが無いので今回は放置。その観点からは200~800Hz辺りをミッドバスとして FPS に受け持たせる4way構成をどうしても完成させねばならないと改めて思う、、、(FPSはこの帯域が極めてフラットなのだ)

全体の出力バランス、さらにWavelet Spectrogramによってタイムアライメントを最終確認し、上記の設定の3way構成にて女性ボーカルを聴く。うむ、、、モーツアルトを聴く。うむ、、、何だろうな~今まで多少気になっていたキレの無さが解消し、かつ耳につくような部分も影を潜めて、充実感やしっとり感がある。それでいて反応が悪いとか肉声の感じが変わるとかということはない。試しに中低域のクロスを710Hzに落とすとこれはかえってふくよかさが減少し線が細くなる気がしてしまう。やはり800Hzが良い。この状態で800Hzから下を低域、中低域に分割した4wayを絶対やりたいと改めて強く感じてしまう音だ。ホーンドライーバーとツィータを変則的な設定(ディバイディングネットワークの製作で試行錯誤したことに似ている)で繋げているのであるが違和感はほとんど無い。女性ボーカルがやや音量を上げても繊細さに加え実体感を伴って再生される。好みの女性ボーカルを次々と聴く。今まで多少不満のあった部分がそこそこうまく解消しているようだ。幸せ~。

さて、ATC SM75-150に追いつけたのだろうか。そう簡単に糠喜びしてはいけないだが、自分なりに現状のユニットを追い込んでみようと思わせられる。諦めてもいけないのだ。しかし、声の再生で特に重要となるホーンドライバーの単体での調整が足りていなかったと改めて反省する。全体のバランスをいくら留意しようとしても個々の帯域に課題が残っている状態ではおそらくうまくいかないのだと思う。ATC SM75-150の音が良いと感じた部分を自分のシステムでまずは引き出す努力をしてみることが重要なのかもしれない。

さらにクラシック系、ジャズやロック系を聴く。総合的にはこちらのジャンルもキレや純度感が高くなったようで中高域に及第点は付けられるが、一方で今度は低域~中低域にも改善すべき点があることが明確に判る。最低域の質感(反応の良さ、軽さ)と量感という相反する(多分一番)難しい部分である。課題は尽きることがない、と改めて痛感するが、これを一歩一歩追って行かねば目指すゴールには辿り着けまい。FPSを加えた4wayでこの中低域の課題にもチャレンジしていきたいと思うのだ。


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