オーディオ日記 第34章 ブレークスルー(その11) 2014年10月15日


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何も足さない、何も引かないという言葉がある。Straight Wire with Gainを至高とするアンプの定義もある。一方で高周波歪を活かしたチューブサウンドがあり、オーディオシステムに対する「音楽性」云々という表現もある。音源を正確に表現出来るシステムが良いのか、粗を隠してそれなりに聴かせるシステムが良いのか、これも時と場合により、システムにより、優劣が変わり、その評価自体が一律ではない。

我が家のシステムはデジタルチャネルデバイダーを導入したこと、その設定がほぼ煮詰まったこと、によってマルチアンプシステムとしては格段に進化できたと考えている。しかしながら、デジタル信号を直接デジチャンに入力するという必ずしも一般的なではないアプローチをすることになったため、派生的な課題も生じてしまっている。その課題が音量調節というオーディオの最も基本的なところだというのも何だか情けない気持ちである。

加えて音の純化を目指しデジタルイコライザの使用をやめる目的で、 3way+One方式 と自己流に呼んでいる低域補正の方法を採用したことによって、現状ではデジタルボリューム(ソフトウエアボリューム)に音量調節機能を頼らざるを得なくなってしまっている。結果としてデジタルイコライザを介入させないという音質的なメリット得られたと思うのだが、ここにも別の大きな隘路があった。

マルチアンプシステムの基本的な用法として、ウーファーとドライバーの能率差をデジチャンの出力レベルで調整しているのだが、この能率差が大きく、ドライバーを-14.7dB絞って使用するというのが我が家での設定である。この出力の絞りはデジチャンであるからして当然デジタル領域で行われる。DF-55にはこのような大きな能率差があるユニットを使用する時のために、-10dB分はDF-55内蔵のアナログボリュームでも絞れる機能が備わっている(がメーカーは音質的にはこのアナログボリュームの使用は推奨していない)。

アナログ音源(LP)のインプットの場合は、デジチャンのA/Dコンバータで176.4KHz/24bitへの変換を行い、それをDSP処理で各チャネルへの分割処理と出力レベル調節を行っている。このため、デジタル絞りによるビット落ちの影響は比較的少ない(と聴感上は感じる)。一方で44.1KHz/16bitのデジタル入力の場合は、デジチャン内部でオーバーサンプリングの処理を行ってからその後のDSP処理が行われる。我が家でのデジタル入力はBug HeadとVoyageMPDの二種類の音楽再生ソフトウエアで行っているが、微妙な音量調節はこのソフトウエアによるデジタルボリューム(ソフトウエアボリューム)で行っている。したがって、この段階でデジタル絞りが入る。さらに、その後段のデジチャンでもデジタル絞りが入る。Bug Headの場合は2倍オーバーサンプリングを行っているが、VoyageMPDの場合は44.1KHz/16bitのままで絞られることになる。

この辺りは4way用のマスターボリュームが無いということによる苦肉の策なのだが、どう考えても理論的にも音質の観点から良い方法とは思えない。アナログ再生とデジタル再生を比較するとどうしてもアナログ再生に軍配が上がる、ということともこの辺りと無関係ではないと思う。この点について、あれこれ悩みつつ改善策を考えてきたが、4way用マスターボリューム導入という一気に起死回生となるような見込みはたっていない。(そういう製品があれば速攻でも導入したいと思うのだが、、、)

さりとて、このまま何もせずに指を咥えている訳にはいかない。さればどうするか? デジチャンでのドライバーに対する出力レベルは何とかして±0dBとしたい。そのためには他チャネルとのレベル差(14.7dB)を吸収する仕組みが必要である。現在使用中の3way用の6chプリアンプ(CX-260)には個別ボリュームが備わっているがこれを使用するという手も無くはない。ただし、この個別ボリュームは結構貧弱なもので、正確なレベル設定には不向きである。あれこれ考えて、ひとつ実験したのは、TC ElectoronicのLevel Pilotをデジチャンとパワーアンプの間に入れて独自に音量調節を行わせるという手。この Level Pilot は所謂パッシブにて音量調節を行うもので、PC部屋での音楽再生時に使用しているもの。DACとアクティブスピーカーの間に入れる構成なのだが、これによりPCサイドでのデジタル絞りは不要で、手元で簡単にアクティブスピーカーのアナログレベルの音量調節ができるという、優れものなのだ。

これをドライバー用チャネルの独自の音量調節器として使ってみたらどうだろうか、というアイデアである。デジチャンでの出力は±0dBとして、このLevel Pilotで個別の音量設定を行う訳だ。幸いにもLevel PilotはバランスケーブルによるIN/OUTの仕様である。これは実験するには持って来いではないか? もちろんこの方法では個々のチャネルの音量設定はできても、3way+One全チャネルの一括音量調整はできない。それでも「デジタル絞りを廃する」という方向には近づく。やらねばなるまい。

やってみた。一聴してデジチャンでのデジタル絞りを排除した良さとボリュームそのものの質が追いついていない、という得失が理解できた。う~む、悩ましい。Level Pilotは使用法を活かせばその良さはあるが、メインのシステムの構成メンバーにはなり得ない。これをメリットだけにするにはどうすればいいんだ? 答えは簡単だ。最高のアナログボリュームを持ってくれば良いのだ。我が家ではC-290Vという至高のアナログプリが久しくベンチを暖めている。アナログ再生用のフォノEQとしては使っているが、このプリの最大の特徴であるアナログボリュームは使っていない。このC-290Vのボリュームはあまりのコストの高さに既に絶版となり、Accuphaseであってもこのボリューム部品の在庫が無いためボリューム交換が必要な修理は不能となっているという曰く付きのものだ。これを一番感度の高いホーンドライバー用の音量調節用に使うのだ。それもデジチャンの出力レベルは±0dBとし、デジタル絞りもアナログ絞りも無しで。

やってみた。これは戻れない。直感でそう感じた。奥行き感や透明度、エコー成分が飛び散り消えていく様はこのボリュームでなければ表現できないもので、やはりその魅力がここにはある。それにしても「ボリューム」の質で音楽が変わることは、オーディオの基本たることで今までもいやというほど判っていたはずなのに。そのために、C-290Vも導入したのに、何たることか。デジチャンの各種試行用に6chプリアンプを暫定として導入したにも係わらず、いつの間にかこれを居座らせてしまっている怠惰に反省しきりである。(ただし、この構成にするとLP再生はできなくなってしまうという課題が、、、)

使い勝手は相変わらず何ら改善されていないが、改めて方向性の確認が出来たようにも思う。デジタルチャンデバをシステムの中核とすれば、
・PCM音源はデジタル入力とする。
・(深い)デジタル絞りは使わない。
・デジイコは介在させない。
ということが我が家における音楽再生のためには最良である。これが、このところ呻吟し這い蹲るようにして辿り着いた自分なりの結論でもある。

さりとて、C-290Vをあと3台調達して、我が家の3way+Oneシステム用の音量調節装置とするか? となると、それはスペース的にも経済的にも難しいことだと思う。音質的に吟味されたボリュームあるいはパッシブブリを4way分揃えるという代替策は考えられる。

一方で、アナログインプット時であっても許容できる部分があるので、
・デジチャンの前段でD/A変換してしまう。(できればDSD変換まで行ってから)
という選択肢もやはり残るということになる。ただし、この方法でもデジチャンへのアナログ信号レベルを極力高く(ボリューム一で1時~3時位が望ましい)するために、後段で何らかの音量を制限する仕掛けは必要と思う。

非常に優れたDACを持ってくればデジチャンでの再度のA/D変換、D/A変換も許容可能となるかもしれない。ただし、この場合でもミッドドライバーの出力絞りをデジタルでは行わないという措置は必要。これはパワーアンプの前にパッシブプリ、あるいはスピーカーの前にアッテネータを入れるという案や低ゲインのパワーアンプに交換する、という選択になろう。したがって、こちらの方向もまだまだ消去せずにやってみなければなるまい。

ただいずれの場合でも、ホーンドライバー用の信号を14.7dB分だけ絞る仕組みは必須である。低ゲイン(あるいはゲイン切替付き)のアンプの変更することも早急に考えねばなるまいと思う。おそらく低ゲインアンプ(とパッシブプリ)で後段を組む、ということになろうか。あるいは専用に近いアッテネータが調達可能なら、そういう方向性もあろうか。デジチャン以降の後段の部分についての変更となる。

今更ながら改めて思う。音量調節はオーディオの肝であり、核心である。その良否によって音楽は生きもし、死にもする。オーケストラなどの録音時と同等の音量はまず一般の家庭では出せないし、出したとしてもエアーボリュームの観点からまず破綻するであろう。そこをそれらしく再生するのがオーディオにおける音量の制御である。システムと音源とリスニング環境に見合う音量の適否によって、受ける音楽の印象は大きく変わる。必ずしも爆音が必要な訳ではなく、元の音楽の持つダイナミックレンジのイメージが再現できれば良い。音楽は録音によって書き留められて、さらに受け手にパッケージとして渡される時に加工が行われてしまい、録音時のダイナミックレンジはそのままは持ち得ない。逆にそのままのダイナミックレンジを持ったままでは並みのオーディオシステムでは再生が困難なだけだ。オーディオの難しさは多分この辺りをどう再生させるか、にあるのだと思う。そして重要なことは音量を絞ったとしても音楽の持つ「生気」を失わせないことであろう。

ただ現時点では、構成を変更するために必要な機器が具体的にはリストアップできていない。あれこれと悩み楽しみもあるのだが、何をどのように配置すれば良いのか、明確な道筋がまだ見えていないのだ。ただ方向だけは確信できた。現時点ではまずこの点を良しとしよう。後は具体化とアクションだ。


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