2001年7月

飛行機雲 2001.7.5.  切りとって

暑いなあ
と空を見上げると飛行機雲
向こうの森のそのまた向こうへ
空をふたつに切りとって
空気をふたつに切り裂いて
ごおっと森を震わせる
切りとった空が落ちてくるかもしれません
そんな妄想も空気の熱のせい
アザミ 2001.7.6.  アザミ

林道で、ひときわ目を引くきれいな紫。
まっすぐに姿勢よく、しゃんとして立っている。
道行く人もなく、車からは気づかれない。
その際だつ立ち姿は誰が見る?
手折ればすぐに萎れてしまう、
静かな林でこそ美しい、アザミ。
その生をまっとうして。
人にも、そんな風にふさわしい場所があるのだろうに、
アザミほどに、自分の立つ場所を知らない…。
木苺 2001.7.8.   宝石箱からこぼれて

ずっと前に通りかかった山道で、白い輝く花を見た。
枝いちめんにびっしりと、可憐な花を咲かせてた。
しばらくすると花は枯れ、一度は醜くしぼみ行き、
ある日、オレンジ色の実をつけた。
日に日に鮮やかな色に染まり、
緑色の宝石箱からあふれるように、ころりころ。
手にとって見たら透き通ってきらきら光った。
お母さん、これ甘いよ、食べてごらん。
思い切りよく口に入れる子に、これが木苺と教わった。
ニッコウキスゲ 2001.7.17.   ニッコウキスゲ

少女の頃に、
信州の高原でいちめんに咲いているのを見た。
忘れていた思い出の中の風景。
高原の花だと思ってた。
ここでは、海岸線で咲き乱れる。
山を眺めていたニッコウキスゲ。
海を眺めているニッコウキスゲ。
もの言わぬ花々は、山の路をゆく人にも、
海の路をゆく人にも、変わらず優しい。
種差海岸芝生より 2001.7.20.  うみはひろいなおおきいな

種差海岸は海のそばに広い芝生が広がり、珍しい植物が自生する素晴らしい場所です。
芝生に寝転んで海を眺めてウミネコの声を聞いていると、生活の中のどんなことも小さく思えて、スーッと心が深呼吸できます。
そんな場所が身近にある幸せ。
誰もがそんなふうに深呼吸する場所を持っていられるといいね。
流木を見下ろして 2001.7.24.  流木

松林の遊歩道から見え隠れする岩場に
きちんと削られた丸木が一本。
どこから流れてきて、どうやってあそこに乗り上げたのか。
何かになるはずだったあの木は、何ものにもなれず、ただ孤独に耐え、いつの日かまた帰れる日を夢見ているかもしれない。
元々はどこの山で生まれたのだろうか。
こんな風に見知らぬ浜にうち捨てられて、
海岸の松たちに慰められ、
夜にはさめざめと泣くのだろうか。


music by Sora Aonami