2001年4月

つくしんぼ 2001.4.7.  小さな春

この北の地にも、ようやくぬくもりの季節が来る。
厚い氷に閉じ込められていたエネルギーは
じっとじっと爆発のときを待っていた。
もう少し。まだ。ためて。こらえて。
そうして一気に噴きあがる。
その「とき」は、まだもう少し先だよ。
顔を出したつくしんぼがそっとささやいていた。
黄水仙 2001.4.13.  目覚め

毎年一番に花が咲く場所で、今年も一番の花が咲く。
律儀に、忘れずに、春を告げる花が咲く。
ここ数日の暖かさに、長い眠りからさめ、
今日のとんでもなく冷たい風に体ふるわせながら、
それでも鮮やかな色をふりまいてくれる。
暗い色の上着はもう脱ぎなさい。
明るい服で軽やかに歩いて。
そんなふうに黄水仙が微笑みかけてくる。
カタクリ 2001.4.17  ひっそりと

はじめて見たとき、変わったスミレだなあと思った。
「カタクリの花」というんだよ、と近所の小学生が教えてくれた。
「ほらこうやってね、蜜を吸うと甘いんだよ。」
目の前でおいしそうに蜜を吸って見せた子も、
初めて学校に入って、上級生から教わり、
「お母さん、知ってた?あのね、この花ってね…」
と息せき切って教えてくれた我が子も、
今ではそんなことすっかり忘れ去ったかのように、
大きな図体で道をゆく。
道端の小さな花に目を止めることもなく。
それでもこの花は、今年もこうしてひっそりと花を咲かせる。
そして、今年も、
そっとひとつだけ摘み取って、
大事に蜜を吸う子はちゃんといるのだ。
サクラソウ 2001.4.21.  いっせいに

ここのところの暖かさで、花たちは競うかのようにどんどん開く。
じゅうたんのように広がっていく。
あれほどの雪と氷に閉ざされていたのに、
どれほどの我慢強さで、春を待ったのだろうか。
サクラソウと呼んでいるけど、本当の名前は知らない、
この可憐な花も、いっせいにたくさんの花を咲かせた。
何も手をかけずとも、自らの力で生きている強い花。
どこにでもある、誰も振り向かないけれど、
けして誰にも手折られることなく、命をはぐくんでいる。
そして大きな力をつけていく。
満開の桜 2001.4.24.   花の下にて春死なん

どんなに花に興味のない人でも、桜を知らない人はない。
咲き誇る桜に目を奪われない人はない。
ほんのいっとき、人々を魅了し、さまざまな思いを残し、
そして、鮮やかに散っていく。
あんなにも咲き誇っていたのに、跡形もなく潔く。
でも、誰の心にも、その年の春の記憶とともに、
その年に観た花の姿が刻まれる。
今年もまた、そうして記憶はひとつ積まれるのだろう。

music by Sora Aonami