同性愛に関する研究論文リスト・国内
(まだまだ不完全ですが、とりあえずアップします)

 
●堀田香織(1998):男性同性愛者のアイデンティティ形成.
 学生相談研究 第19巻1号
 論文が手許に見当たらなくて紹介が書けませんが、著者の堀田さんには、一度AGPの集まりに来ていただいて、話をうかがいました。その時、堀田さんが話してくれたのですが、堀田さんがこの論文を書いた一つの動機は、こんなことだそうです。
「異性愛のカウンセラーは、同性愛者のクライエントが来談すると、すぐにその人の生育歴の中に何らかの歪み・病理を見つけようとする。そんなカウンセラーが多い。そうではなくて、同性愛者が同性愛者として自分らしく生きることの手助けをするのが、カウンセラーの役目である。そんなことを、一般のカウンセラーたちにわかってもらうために書いた。」
 読んでみる価値が充分にある論文だと思います。
 
 

●稲場雅紀・Douglas C. Kimmel(1995) :精神疾患単位としての同性愛:歴史的展望.
  季刊 精神科診断学, 6; 157-170.  
 まがりなりにも精神医学の雑誌に載った、同性愛を取り扱った論文としては、画期的な内容である。稲場氏は「動くゲイとレズビアンの会」という同性愛者の団体のメンバーで、Kimmel氏は City University of New York の心理学科に所属している 。
 本論文は二つの部分に分かれ、最初の部分で、欧米において同性愛がどのように扱われてきたか、特に精神医学における取り扱いについて述べられている。欧米における同性愛についての代表的な研究が概観でき、興味深い。次の部分では、日本において同性愛がどのように扱われてきたかが書かれている。多少、掘り下げ方が浅い気がするが、元々、日本では、等身大の同性愛についての研究が皆無といえる状況なので、仕方がないのだろう。
 著者は日本の全医学論文を検索した結果、同性愛をテーマにしたのものは、わずか十点しかなかったと述べている (後ほどその十点を紹介する) 。そしてそのほとんど全てが、偏った少数の症例を、古典的な理論と結び付け、同性愛の病理性について考察するという典型的なパターンを踏んでいる。著者はこれらの論文に共通する問題点を簡潔にまとめてくれているのでありがたい。
 
 

                       
●稲場雅紀(1994) :日本の精神医学は同性愛をどのように扱ってきたか.
    社会臨床雑誌,第2巻第2号;34-42.    
  この論文では、「動くゲイとレズビアンの会」が日本精神神経学会に対して同性愛に対する捉え方を変えるようにはたらきかけてきた経緯、日本の精神医学の教科書一般における同性愛についての記述、米国のDSMVやDSMW、ICD-10 における同性愛の記述の変更、などについて述べられ、日本の精神医学界が、欧米に比べいかに遅れているかが明らかにされている。
 別のところにも書くつもりだが、この動くゲイとレズビアンの会のはたらきかけを発端として米国精神医学会 American Psychiatric Association からも日本の精神神経学会に対し「同性愛は異常ではない」旨の文書が送られ、実際、精神神経学会は、現在改変中の日本の疾病分類の基準において同性愛に関してはICD-10 の記述をそのまま採用すること、すなわち同性愛を異常とする記述は採らないこと、を明らかにしている。DSMやICDから同性愛の項目が削除された経緯について知りたい人はこの論文を読んでみると良い。                                                     
 
 

●鍋田恭孝(1992) :性における「異常」と「正常」 同性愛者への対応について.
 セクシャル・サイエンス;33-36.                       
●鍋田恭孝・高橋進(1992) :同性愛をめぐる精神医学的な問題.臨床精神医学,
  21(10);1573-1579. 
 鍋田氏によって書かれた論文は、日本の異性愛の精神科医が書いたものとしては、従来のものとは比較にならぬほど同性愛を公正さをもって捉えているが、同時に、欧米の成書の記述から比べるとまだ異性愛中心主義の見方から抜け出せていないとも言える。上に挙げた二つの論文のうち、前者の内容は概ね後者の論文に含まれている。
 鍋田氏は、精神科を自ら訪れた同性愛者をもとに作り上げた臨床像は、一般の健康な同性愛者を代表しないという至極当たり前の事実に初めて言及した日本の精神科医であるいう点で、従来の専門家とは一線を画す。欧米の最近の研究結果もふまえて書かれている。気になるのは、
(1)精神病者の症状としての同性愛的妄想と、一般の健康人の性的指向としての
 同性愛を同レベルで論じている点、
(2)Masters & Johnson の行動療法による同性愛の「治療」の成功率を鵜呑みにしている点、
(3)同性愛を防衛機制の一種であるかのように捉えている点
(4)社会からの圧力によって同性愛を「治したい」と思う同性愛者についての認識が甘い点、
等である。
 以上のような気になる点はいくつかあるが、従来の精神科医にはない、自らの先入観や準拠枠を脇へ置いて、現象をありのままに見ようと努める現象学的な姿勢が感じ取られ、信頼に値する医者だという印象を受ける。

                                      
                                      
●「特集:同性愛」:セクシャル・サイエンス, (1994) Vol.3, No.6.  
 この「セクシャル・サイエンス」という雑誌は、この特集号を出した半年後ぐらいに廃刊になってしまったのだが、この号では一冊ほとんど全部が同性愛について書かれており、その大半は「動くゲイとレズビアンの会」のメンバーが執筆している。動くゲイとレズビアンの会が長年行っている電話相談についての報告が載っていたり、都立松沢病院の精神科医が同性愛に対して共感的な文章を書いていたり、都立駒込病院の医師が「ゲイのエイズ患者との出会い」という文章を寄せていたり、また何より興味深いのは、動くゲイとレズビアンの会のメンバー二名(ゲイとレズビアン)と精神科医の鍋田氏と千葉大の臨床心理学助教授の保坂亨氏の四人による座談会が収録された部分である。アカデミックな雑誌というよりは一般向けの雑誌に近いので、このようなことができたのだろうが、内容は非常に面白い。  読んでみたい方は、出版社に問い合わせると入手できるかもしれない。
 日本アクセル・シュプリンガー出版株式会社
 〒102 東京都千代田区二番町2-1 二番町TSビル
 電話03-3239-7219
 

                          

■他に、心理学系の大衆雑誌「現代のエスプリ」「イマーゴ」などでも「性倒錯」「同性愛」などをテーマにした特集号で、同性愛について書かれている。

●「特集:異常性欲」: 現代のエスプリ, (1972) No.61
●「特集:ゲイの心理学」:イマーゴ, (1991) Vol.2-2.
●「特集: <性> に燃えない症候群」:イマーゴ, (1993) Vol.4-12. 
 この特集号には、及川卓氏の「二丁目病」という文章が載っている。
●「特集:ゲイ・リベレーション」:イマーゴ, (1995) Vol.5-12.
 

 

■以下の論文は、同性愛をキーワードに検索した場合にリストアップされてくるものだが  いずれも同性愛を病理・異常・倒錯などとしてとらえる傾向がみられる。

●加藤正明(1960) :男性同性愛の臨床的研究.精神衛生研究.
●高橋進・他(1960) :男子同性愛の臨床的研究.精神分析研究.
●村上敏雄・他(1963) :男性同性愛の精神医学的考察.精神神経学雑誌.
●高橋進(1973) :精神医学としての性的倒錯.心と社会.
●大熊文男(1977) :同性愛の精神病理.臨床精神医学.
●福島章(1977) :異常性欲.臨床精神医学.
●岡堂哲雄(1977) :性愛の発達心理学.臨床精神医学.
●懸田克躬(1977) :精神医学とSexology.臨床精神医学.
●高橋三郎・他(1981) :性心理病. 臨床精神医学.
●高橋進(1981) :同性愛とトランスセクシュアリズム.臨床精神医学.
●加藤正明(1981) :異常性欲と精神疾患.臨床精神医学.
●及川卓(1986) :同性愛.臨床精神医学.
 
 
 

■心理テスト(特にロールシャッハ)と同性愛との関連について述べた論文を、以下に挙げる。前者二つは、やはり同性愛を異常として捉えている。三つめの論文は、精神科を訪れた同性愛者ではなく、ゲイバーなどで被検者を募って調査がなされた。

●片口安史(1958):ロールシャッハ同性愛指標(RHI). ロールシャッハ研究T; 86-94.
●片口安史:新・心理診断法,第24章「同性愛」; 345-358.
●八尋華那雄・岩渕修(1981):同性愛者のロールシャッハ研究
 〜非葛藤群のロールシャッハ同性愛指標〜.
  中京大学文学部紀要, Vol.15; 20-29.

これら日本の研究に対して、米国では早くも1957年に Evelyn Hooker という異性愛者の女性の心理学者が、公の資金援助を受けてロールシャッハやTATなどを使って、同性愛者と異性愛者が、心理的に何ら変わりがないことを明らかにしている。同性愛者集団は異性愛者集団と同じように、多種多様なパーソナリティを持った個人から成り、同性愛を単一の疾患単位として捉えることは不可能であると、彼女は結論づけた。彼女の研究は、同性愛が病理ではないことを裏付ける根拠として、以後何度も引用されることになる画期的な研究であった。最後に、このHooker の論文を紹介する。(赤文字をクリックして下さい)
                                     
 
 


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