同性愛に関する研究論文・海外
(まだまだ不完全ですが、とりあえずアップします)
 (たまたま私の目についたものを紹介しただけなので偏りがあります)



●Sell RL, Wells JA, Wypi D,
  "The Prevalence of Homosexual Behavior and Attraction
    in the United States, the United Kingdom and France:
    Results of National Population-based Samples,"
 Arcives of Sexual Behavior 1995 June; 24(3): 235-48.
同性愛が人口に占める割合(prevalence)を調べたこれまでの研究では、もっぱら同性との性行為に至った人々の割合を調べることが多く、性行為には至らないまでも同性に性的にひかれる人々の割合を考慮に入れることはなかった。今回我々は、性行為だけでなく、「性的にひかれる」という項目も用い、同性愛の人口に占める割合を調べた。米国・英国・フランスそれぞれの国民を代表するサンプルを用いて、調査が行なわれた。"Project HOPE International Survey of AIDS-Risk Behavior"が調査紙として用いられた。15歳以降、「同性に性的にひかれたことがあるが、同性と性行為を行なったことはない」と答えた被検者は、米国男性では8.7%、英国男性では7.9%、フランス男性では8.5%、米国女性では11.1%、英国女性では8.6%、フランス女性では11.7%であった。15歳以降、「同性に性的にひかれたことがある」あるいは「同性と性行為を行なったことがある」という質問のどちらか一方に「はい」と答えた被検者は、米国男性では20.8%、英国男性では16.3%、フランス男性では18.5%、米国女性では17.8%、英国女性では18.6%、フランス女性では18.5%であった。過去5年間に同性との性的接触をもったことがある被検者は、米国男性では6.2%、英国男性では4.5%、フランス男性では10.7%、米国女性では3.6%、英国女性では2.1%、フランス女性では3.3%であった。
Researchers determining the prevalence of homosexuality in nationally representative samples have focused upon determining the prevalence of homosexual behavior, ignoring those individuals whose sexual attraction to the same sex had not resulted in sexual behavior. We examine the use of sexual attraction as well as sexual behavior to estimate the prevalence of homosexuality in the United States, the United Kingdom, and France using the Project HOPE International Survey of AIDS-Risk Behaviors. We find that 8.7, 7.9, and 8.5% of males and 11.1, 8.6, and 11.7% of females in the United States, the United Kingdom, and France, respectively, report some homosexual attraction but no homosexual behavior since age 15. Further, considering homosexual behavior and homosexual attraction as different but overlapping dimensions of homosexuality, we find 20.8, 16.3, and 18.5% of males, and 17.8, 18.6, and 18.5% of females in the United States, the United Kingdom, and France report either homosexual behavior or homosexual attraction since age 15. Examination of homosexual behavior separately finds that 6.2, 4.5, and 10.7% of males and 3.6, 2.1, and 3.3% of females in the United States, the United Kingdom, and France, respectively, report having had sexual contact with someone of the same sex in the previous 5 years. Our findings highlight the importance of using more than just homosexual behavior to examine the prevalence of homosexuality.
 
 
 

●Evelyn Hooker, "The Adjustment of the Male Overt Homosexual,"
 Journal of Projective Techniques 21(1957):18-31.
 米国では早くも1957年に Evelyn Hooker という異性愛者の女性の心理学者が、公の資金援助を受けてロールシャッハやTATなどを使って、同性愛者と異性愛者が、心理的に何ら変わりがないことを明らかにしている。同性愛者集団は異性愛者集団と同じように、多種多様なパーソナリティを持った個人から成り、同性愛を単一の疾患単位として捉えることは不可能であると、彼女は結論づけた。彼女の研究は、同性愛が病理ではないことを裏付ける根拠として、以後何度も引用されることになる画期的な研究であった。

 充分なサンプル数を得にくい同性愛者集団についてある程度信頼できる結果を得るために、Hooker が取った方法は、マッチングの方法であった。すなわち、年齢、学歴、知能においてほぼ同等な同性愛者と異性愛者のペアを30組つくり、全ての被験者(計60名) に三種類の心理テスト(ロールシャッハ、TAT、MAPS)とライフ・ヒストリーを尋ねるための個人面接を Hooker 自身が行った。

 Hooker によって記録されたデータ(プロトコル)は、これらの心理テストに精通した臨床家二名(このうちの一人は Klopfer 〜河合隼雄がこの人のもとでロールシャッハを学ぶためにロサンゼルスへ留学しユング心理学と出会うきっかけとなった〜である)に渡され、彼らは、どれが同性愛者でどれが異性愛者のデータか知らされずに、それぞれについて社会適応度(人格の成熟度)について判定した。さらに、マッチングされた各ペアについてどちらが同性愛者のデータでどちらが異性愛者のデータか判別するように求められた。結果は、同性愛者と異性愛者の適応度に有意な差は見出されず(どのプロトコルにも病的な徴候は認められず)、二人の心理テストの権威は、同性愛者と異性愛者を全く識別することができなかった。
 
 
 

●Bernard J. Gallagler, Joseph A. McFalls & Carolyn N. Vreeland,
 "Preliminary Results from a National Survey of Psychiatrists
  Concerning the Etiology of Male Homosexuality"
 「精神科医は男性同性愛の原因についてどう考えているか 〜全国調査の中間結果〜」
 Psychology A Journal of Human Behavior, 1993,  Vol.30(3-4), 1-3.
 この論文は、男性同性愛の原因とその性質に対する精神科医 (N=508)の態度について量的に分析を行った一連の調査結果を報告する第一回目の論文である。同性愛の性的指向の原因について、現在の精神科医たちはどのように考えているかを測定した。米国精神医学会 American Psychiatric Association (APA) の会員を無作為に抽出して調べた結果、心理学的要因よりも生物学的要因に対してより多くの支持が集まった。中でも、遺伝的要因に対する支持が最も多く、次いで出生前のホルモンの影響に対する支持が多かった。支配的な母親と弱い父親に同性愛が起因するという理論は、心理学的要因の中では、最も多くの支持がみられたが、評価された12の理論全てにおいては、それぞれ5番目と6番目に支持の多い理論であった。
                         
 
 

●Mollie M. Wallick, Karl M. Cambre & Mark H. Townsend,
 "How the Topic of Homosexuality is Taught at U.S. Medical Schools."
 「米国のメディカルスクールではどのように同性愛についての教育が行われているか」        Academic Medicine 1992,  Sep. Vol.67(9),  601-603.
 米国の82校のメディカルスクールについて、同性愛についての教育に割り当てられるカリキュラム時間数とその際の教育方法についての調査を行った。回答は同性愛についての教育を担当する教員によってなされた (その大部分が、精神医学教室の学生教育の部長  directors of medical student education in psyciatry からであった) 。カリキュラム時間数の平均は3時間20分であり、地域による格差が非常に著しかった。最も頻繁に報告された教育方法は、ヒューマンセクシュアリティの講義の中で行うやり方であり、その後にパネルディスカッションや、実際にゲイやレズビアン (医療関係者または全く関係のない者) を招き話をするという回答もあった。
 

                                    
●Douglas C. Haldeman,
 "The Practice and Ethics of Sexual Orientation Conversion Therapy"    
 「性的指向を転換する療法の実際とその倫理」
 Journal of Consulting and  Clinical Psychology, 1994, Vol.62; No.2, 221-227.
 
(※この論文は全文を入手できたので詳しく紹介します。)    
 本論文は、同性愛の性的指向を異性愛に転換しようと試みた数々の療法 therapy のうち (著者はそのような「性的指向転換療法 Sexual Orientation Conversion Therapy」の例として、精神分析療法、宗教者や宗教団体による祈祷・説教・諭し、電気ショック、嘔吐感をもよおす薬物による条件づけ、ホルモン療法、外科的処置、マスターベーション時の条件づけ、売春婦の訪問、その他(Murphy, 1992)を挙げている) 、特に心理療法と宗教的介入による療法について、過去の研究の研究方法や結論づけられた効果の問題点を指摘しながら、論じている。

 著者が強調している問題点は、過去の研究の多くが、「性的指向」の定義を曖昧にしたまま、あるいは誤った定義のもとに、転換療法の効果が結論づけられていることである。すなわち多くの研究が、クライエントの同性愛の性的行動が消失したこと、あるいはそれプラス異性愛の行動がみられたこと (異性愛結婚も含む) を、性的指向転換の成功とみなしたことである。著者は、性的指向を性的行動だけから推し量ることはできない、個人の性的指向は、ファンタジーやアイデンティティの感覚、社会文化的価値観や政治信条に至るまで様々な諸要因によって影響されたり構成されたりすると述べている。

 心理療法による性的指向転換の試みとして、著者は精神分析と行動療法を挙げている。
 ここではそのうち行動療法について触れる。

 行動療法による性的指向変換の療法は、同性に対する性的感情は誤った行動学習によって起こるという前提のもとに組み立てられている。
 その方法は、「学習」された同性に対する性的反応を不快な刺激により拮抗的に条件づけて消滅させ、さらに異性に対する性的反応を強化し、同性に対する反応に取って替わらせるというものである。
 具体的にいえば、同性愛の性的な内容の写真やビデオを見せられながら、電気ショックや痙攣・吐き気を引き起こすような薬物が不快刺激として同性愛者に与られるのである(Sansweet, 1975)。そのようなストレスに満ちた状況下では、どのような性的な反応も(同性愛でも異性愛でも)起こり得なくなると思われるが、「同性に対する性的反応の抑圧に成功した」として 58% の治癒率が報告されている。
 Cautela  (1986)は、被験者に直接不快刺激を体験させるのではなく、不快刺激をイメージするように教示する「構造的不快ファンタジー structured aversive fantasy」なるものを考案した。その内容は、極度に不快な状況の下で、不快な同性との性的接触を被験者にイメージさせることによって、同性に対する性的反応性を消失させようとするものである。
(チョーきたない コウシュウトイレで、チョーぶさいくな おとこに いたぶられるってかんじかしら?)

 このような行動療法による性的指向転換の効果については、同性に対する性的反応は消失するが異性愛の性的指向を生み出すことはできなかったとほとんどの報告が述べている。 Masters and Johnson (1979) は、同性愛は、異性愛の行為を試みたがそれに失敗したり馬鹿にされたりした結果、生じるものだと仮説づけた。彼らは一つのあからさまな事実にに気づいていない、と著者は指摘する。すなわち、同性愛者にみられる異性愛的行為の「失敗」は当然予想されてしかるべきものである、なぜなら、同性愛者の正常な性的反応パターンの中に異性愛的行為は含まれていないだから。

    さらに、ここではあまり触れないでおくが、著者は宗教による性的指向転換の試みについて述べている。米国には、同性愛者を異性愛者に転換させるためのプログラムを持つ宗教団体がいくつか存在するようである。名前を聞いても筆者にはわからないが、Homosex-ual Anonymous, Metanoia Ministries, Love In Action, Exodus International, EXIT of Melodyland  などのキリスト教原理主義の団体が、そのようなプログラムを持つ宗教団体として挙げられている。プログラムの内容は、そのような「罪深い」同性愛的感情を取り除き、異性愛者としてのライフスタイルや禁欲生活を追求するよう同性愛者に求めるというものである。著者はこれら各団体のプログラムの内情をさらに具体的に紹介してくれているが、公には転換の成功を約束するこれらの団体も、内輪では現実に同性愛者に望める到達目標はせいぜい「禁欲」生活だと認識していると指摘している(Blair, 1982) 。

 過去においては性的指向転換療法の効果のみが、研究の焦点としてとり上げられるだけだったが、今後は性的指向転換療法の持つ有害性についての研究も行われていくべきだと著者は主張する。1973年の米国精神医学会 American Psychiatric Association の同性愛を精神障害の項目から除去するという決定に引き続き、米国心理学会 American Psycho- logical Association は、1975年の声明で「..... 米国心理学会は、すべてのメンタルヘルスの専門家が、同性愛の性的指向に対して向けられてきた偏見と差別を取り除くために先導的役割を果たすことを強く望むものである」と述べている(APA, 1975) 。さらに米国心理学会が出した「転換療法に関する提言書  Fact Sheet on Reparative Therapy」の出だしは「性的指向を変えようと試みるいかなる転換療法も、その効果を支持する科学的証拠は存在していない」という一文で始まっている。
     
 州レベルの心理学会でも、性的指向転換療法の問題について言及し、クライエントとセラピストの双方に適当なガイドラインを提供し始めているところがある。1991年にはワシントン州心理学会において、性的指向に関する勧告が採択された。その一部を紹介すると

 心理学者は、疾病ではないと既に判断されているものについて、それに対する治療を
 提供したり認可すべきものではない。同性愛それ自体は全く心理的適応を阻害するす
 ることはないという一貫した科学的実証から鑑みるに、性的指向の転換を求めようと
 する個人は、内在化された偏見・差別やホモフォビアからそうするのである。故に、   
 我々心理学者の目的とするところは、非寛容な社会を教育し変えることであって、社
 会の犠牲者である個人を変えることではない。性的指向の転換治療は、そのような治
 療の存在するそのこと自体が、ホモフォビアをさらに助長し、そのホモフォビアこそ
 心理学者が立ち向かわねばならぬものなのである。

  (ここまで同性愛に対して支持的な声明が、異性愛者を含む公的機関によって採り上げられたことに驚嘆するが) 最後に著者は、セラピストにしろ同性愛者自身にしろ、同性愛を転換しようという発想を持つのは、同性愛を何か劣ったもの・価値の低いもの・否定的なもの・病気・障害・異常として受けとめているからに他ならないと強調し、そのような認識をセラピストや同性愛者自身やそして社会全体が改めることが何よりも必須だと述べ論文を終えている。

 (文中に登場した参考文献を挙げておく)
●American Psychological Association. (1975).  Minutes of the Council of Representatives. American  Psychologist,  30,  633.
●Blair, R. (1982).  Ex-gay.  New York: Homosexual Counseling Center.
●Cautela, J., & Kearney, A. (1986).  The covert conditioning handbook.  New York:
  Springer.                                  
●Hadelman, D. (1991).  Sexual orientation conversion therapy: A scientific examination. In J. Gonsiorek & J. Weinrich(Eds.),  Homosexuality: Research implications for public policy (pp.149-160).  Newbury Park,  CA: Sage.
●Murphy, T. (1992).  Redirecting sexual orientation:  Techniques and justifications.   Journal of Sex Research,  29,  501-523.
●Sansweet, R.J. (1975).  The punishment cure.  New York:  Mason/Charter.
 
 


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