#262 薄型テレビは買いなのか

2006/07/01

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 液晶テレビやプラズマテレビに代表される、薄型テレビの出荷が好調なのだそうだ。特に売れているが液晶テレビで、電子情報技術産業協会(JEITA)がまとめた、2005年の電子機器国内出荷実績によると、液晶テレビの年間出荷台数がブラウン管テレビを上回ったとのことである。また2006年1月から5月までの累計出荷数では、ブラウン管テレビが96万台に対して液晶テレビが190万台と、ほぼ倍の出荷数になっている。

 薄型テレビのいいところは、何と言っても場所を取らないところであろう。ブラウン管テレビは電子線を飛ばす構造上、どうしてもある程度奥行きが必要になるものなので嵩張ってしまう。ある程度大型のテレビとなると、持ち運ぶことすらできなくなるだろうし、スペースに最も金のかかる日本では、省スペースというのはある程度切実な問題であろう。

 加えて最近では、地上デジタル放送への完全移行が、2011年7月24日と、日付入りで周知されるようになり、要するに「今のままだとテレビが見られなくなりますよ、買い換えるなら地上デジタル放送対応のテレビですよ」と、そこまでは言ってないかも知れないが、それを匂わせるような雰囲気で視聴者に訴えてきている。

 そういう情勢に加えて更に、FIFAワールドカップ[TM]ドイツ大会などという巨大スポーツイベントなどがあると、ポンと背中を押されて「ボーナスも出ることだし思い切って買い換えるか」なんて人も大勢いたのかも知れない。だが、それだけの理由で今使っているブラウン管テレビを薄型テレビに買い換えようと言うのであれば、それはちょっと考えた方がいいのではないかと思ってしまう。

 ここで今更ながら、液晶テレビとプラズマテレビの原理と特徴について述べておこう。蛍光体をプラズマで発光させて映像を写すのがプラズマテレビで、カラーフィルタに着色された画像をバックライトで照らして映像を写すのが液晶テレビである。両者を比較すると、液晶の方は明るい部屋での視認性に優れ、階調表現や精細感がプラズマに比べて優位とされている。一方プラズマの方は、暗いところでの黒再現性や色再現性、画面のレスポンスや視野角の広さで、液晶に比べて優位とされている。

 とは言え、今述べたことは液晶とプラズマの両者を比較して、ということであり、画質面で総合的に見れば、これら薄型テレビよりもブラウン管テレビの方がまだまだ優れている。言い換えれば、液晶もプラズマも現段階ではブラウン管に劣らない画質作りを目指している段階である。そもそも、ブラウン管テレビでレスポンスがどうとか視野角がどうとか、明るい部屋暗い部屋での色再現性がどうとか言う議論を聞いたことがないのは、そんなものはブラウン管テレビの場合普通にクリアされている問題だからである。最近はIPS液晶など、レスポンスや視野角の弱点を克服した新技術も出てきているようだが、それでもやっとブラウン管並みになったと言える程度である。

 そして、ブラウン管テレビは薄型テレビに比べて、圧倒的に安い。液晶テレビが1インチ1万円を切ったと大騒ぎしたことがあったが、ブラウン管テレビは1インチ千円くらいの値段で買えてしまう。60インチ以上のサイズの薄型テレビを、金に糸目をつけずに買うというならともかく、20〜30インチ程度のテレビなら、画質で劣る薄型テレビを一桁違う価格で買う理由が「省スペース」だけというのはちょっと考えてしまう。

 また、地上デジタル放送にしても、2006年現在ではまだサービス範囲が都市部に限られているほか、放送内容もアナログ放送とほとんど変わらない。完全移行が2011年ならあと5年はあるのだから、今ブラウン管テレビが使えるのなら、わざわざ今のタイミングで地上デジタル放送対応の薄型テレビに乗り換える必要は無いし、壊れたなどの理由で急ぎ買い換える必要がある場合にしても、もう1サイクルブラウン管テレビで済ませるというのも手である。恐らく5年もたてば、本当にブラウン管テレビと遜色ない画質になった高性能の薄型テレビが、今より安く手に入るはずであるし、逆に今の薄型テレビは、5年後には時代遅れのものになりかねない。いよいよアナログ放送終了という時になったら、地上デジタル対応チューナーを買って済ませるという手もある。

 3年前にテレビを買い換えた際、以上のようなことを考えて、私は敢えてブラウン管テレビを購入したのであるが、残念ながら3年たった2006年現在でも、状況は大きく変わっていないと思われる。これからテレビを買い換えようという方は、メーカーやテレビ局の言うことに安易に流されず、今一度よく考えて商品を選択することを望むものである。


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