#158 高速回線への道険し

2001/03/08

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 この春、7年住んでいた街を去ることになった。人事異動で勤務地が東京になるためである。1年半前に結婚のために新居を構えたばかりであり、また引っ越すのかと思うと、煩わしいなあという気が先に立ってしまう。

 しかし煩わしいばかりでもない。新しい住所が東京近辺なら、インターネットの利用環境は格段に改善される可能性があるからだ。具体的には今までの数10kbpsレベルのアナログ回線やISDNよりも桁違いに速いADSLやCATVによる、高速・常時接続のインターネット環境を手に入れられる可能性があるということだ。

 ADSLとは、Asymmetric Digital Subscriber Line(非対称デジタル加入者回線)の略である。これは現在普及しているアナログ回線を、電話とは別の帯域を使い、また上りと下りの通信速度を違える(非対照にする)ことで、下りなら最大640kbyte以上の高速度でデータ通信が行えるサービスである。お隣の韓国で急速に普及した規格であり、このためパソコンによるインターネット普及率では、韓国は瞬く間に日本を追い抜いてしまった。

 日本のNTTははじめISDNの普及にご執心であったのだが、次々とADSLサービスを提供する会社がサービスを展開しはじめた現在、アナログ回線とたいして速度が変わらないISDNでは太刀打ちできないと感じたのだろうか、昨年暮れにコロっと方針を転換しADSLサービスを始めることになった。サービスエリアは東京23区内から始まり、2001年現在は全国県庁所在地などの都市部をはじめ、徐々に拡大している最中である。それにしても、ADSLは既存のアナログ回線を生かした技術であるため、ISDNに切換えた人はアナログ回線に戻さなくてはADSLのサービスを受けられない。ISDNを使ってきた人にとっては裏切られた気分ではないだろうか。

 一方のCATVも地元密着型の放送を提供してきた高速線を生かし、多くの会社が次々にインターネット接続事業を展開している。利用者数や設備によって差はあるものの、こちらも最大で512kbps程の通信速度が出る。更に高速回線を利用して電話事業を展開している会社も多く、割安な値段によるサービス提供で既存の電話会社のシェアを切り崩しつつある。

 私の場合、結婚を機に転居した際に、それまで使っていたCATVの高速回線の環境から離れてしまっていた。しかし一度「速さ」に馴れてしまうと、もはやアナログモデムやISDNの遅さには耐えられず、自宅では必要な時以外はほとんどインターネットに接続しなくなってしまっていた。今度の転居先が都内、もしくはその近隣であれば、再び高速回線の恩恵に浴することができるかも知れないため、転居するのもそれはそれで楽しみなのである。

 果たして、新しい住まいは都内に決定。都内なら楽勝でADSLのサービス範囲に入っている。そして地元CATVもインターネット接続サービスをやっているようだ。折りしもそのCATV会社は先日転居した友人が加入したところと同じ会社である。彼はそのCATVの電話・テレビ・インターネットのセット契約をし、通信環境が格段に良くなったと言っていた。

 しかし調べてみると、私が入居予定にしている集合住宅には、CATVのインターネットに対応した双方向通信用の保安機がまだ設置されていない。尋ねてみると、住居者の総意があれば保安機の更新は行うが、今の所その目処が立っていないとのことである。そうなのだ。集合住宅の場合はいくら個人で加入したいと思っても、共用設備が整っていないと加入できないのである。

 となると頼みの綱はADSLしかない。ADSLの場合、NTTが始めたフレッツ・ADSLサービスに加入し、その後プロバイダのADSL対応のコースを選択する方法と、プロバイダに依頼し、そのプロバイダが提携している会社を通じてADSLサービスを受ける方法とがある。私の場合、将来的には別のプロバイダで接続する可能性もあると考え、前者のNTTのフレッツ・ADSLサービスを申込むことにした。早速、転居に伴う電話の移設依頼とともにフレッツ・ADSLをNTTに申込んだのだが、現在申込が殺到している状態で、サービスを利用できるのは早くとも5月中旬になると言われてしまった。

 高速回線は近くまで来ているのに、もう少しのところで手が届かない。これが日本のIT社会の現状なのだろうか。新居に高速回線が入り、快適な接続環境を手にするのはいつになることやら


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