#087 なぜそんな名前なのか

1999/10/22

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 以前にコンピュータ用語の読み方などについて見てきたが、それにしてもコンピュータのプログラムやソフトには、変な由来や経緯によって命名されたものが多い。

 先にも少し触れたが、UNIXというOSは、もともとMulticsというOSの反省から生まれたもので、「一つのプログラムは一つの仕事をするべき」つまり、Multi-ではなくUni-を目指して作られたということは有名な話である。

 従って、その設計思想は非常にシンプルであり、ついでに言えば、コマンド名もとてもシンプルである。というより、シンプル過ぎて時には意味不明なことになっている。例えば、ファイルをコピーするコマンド「cp」は、「copy」というわずか4文字の単語を更に略して「cp」としている。同様にファイルの移動などを行う「mv」は「move」の略、ファイルの削除などを行う「rm」は「remove」の略、ファイル名一覧を表示する「ls」は「list」の略である。またファイルの画面への出力などによく用いる「cat」というのは、もともとは複数あるファイルを連結するという意味、つまり「ConcAtenaTe」の略だそうだ。確かに「concatenate」は打込むのには長過ぎるにしても、なんでそう略すかな、という気がする。他に想像がつきにくいものとして「pwd」は「Print Working Directory」、「vi」は「VIsual editor」の略だそうである。また、パターンを含む行を検索する「grep」はedというストリームエディタのコマンドの用法「g/RE/p (REは正規表現)」が語源になっているそうだ。

 また、スクリプト言語の名前も、その由来を調べると面白いものがいろいろとある。sedが「Stream EDitor」の略なのはいいとして、「AWK」というのは、開発者の3人(Aho, Weinberger, Kernighan)の頭文字を並べたものだそうである。またPerlは「Practical Extraction and Report Language (抽出/報告用実用的言語)」または「Pathologically Eclectic Rubbish Lister(病理学的折衷主義くずリスター)」の略であると、Perlの開発者であるLarry Wall自らが説明している。

 プログラミング言語も、たいていは何かの略語ということに(一応)なっている。とは言え、BASICが「Beginners All-purpose Symbolic Instruction Code (初心者用万能記号命令規約)」の略だ、なんてのは、どうみても「後から言葉をあてはめだけとちゃうんかい」と突っ込みたくなるくらいである。なお、FORTRANは「FORmula TRANslation (数式翻訳)」の略、「COBOL」は「COmmon Business Oriented Language (共通事務用言語)」の略、「PL/I」に至っては「Programming Language I」という、全く「そのままやないか」と突っ込みたくなるような安直な命名である。

 また、プログラミング言語の歴史の中でも最も重要な言語と考えられる「C」の起源となった言語は「B」だそうで、じゃあなんで「B」という名前だったのかと言うと、開発者の奥さんのイニシャルが「B」だったから、というのが真相だ、という話もある。ちなみに「C」の拡張の一つである「C++」は、「C」の演算子の一つ「インクリメント」を使って「Cを発展させた」という意味を表してる、というのも有名な話である。

 商品としてのアプリケーションソフトともなると、そこには商標権などもからんでくるので命名は結構やっかいである。日本語ワープロの代名詞であったJUSTSYSTEM社の「一太郎」は、もともとは「太郎」と名付けるつもりが、商標の関係だかなんだかで「一太郎」となったという話である。同様に「三四郎」というソフトも、何時の間にか「三四六」というよくわからない名前になってしまっている。どっちにしてもおかしな名前ではある。

 考えてみればMicrosoftのソフト名も、まさに「そのままやないか」という名前が多い。ワープロなら「Word」、データベースなら「Access」、スケジュールなら「Schedule+」などなど、捻りも何もない。と言うより、こんな一般的な名詞を商標なんかにされたのでは、英語圏の人にとってはやりづらくて仕方がないだろう。考えてみれば、同社のOS「Windows」も実に安直な名前である。

 そう言えば、Windows3.1の時代は、同梱のビジュアルシェルは「ファイルマネージャー (File Manager)」という名前であったのに、Windows95になってからは「エクスプローラ (Explorer)」になってしまった。確かに、Windowsが3.1だった頃は、まだファイルを「管理する」ことはできたが、Windows95以降は、システムが複雑怪奇を窮め、ファイルは管理するものではなく「探検して探す」ものになってしまったらしい。

 ちなみに、同社の最高経営責任者である Bill Gates 氏は、自分の名前をも登録商標にしているらしい。変な人である。


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