#086 東海村臨界事故に思う

1999/10/16

<前目次次>


 昼休みにNHKの連続テレビ小説を見ていた時、それは知らされた

 東海村の民間のウラン加工施設で臨界事故が起き、作業員3人が被曝、周辺200mの道路で通常の7〜8倍の放射線が観測された、という内容が第1報の臨時ニュースであったように思う。この時はまさか、ここまで大騒ぎになるとは思っていなかった。「通常の7〜8倍の放射線」とか言われても「ラドン温泉に行けば、そのくらいは浴びているよなあ」などと同僚と笑いながら話をしていたくらいである。

 というわけで、あんまり気にもとめずにその日の夜は呑気にテレビで中日の優勝決定戦の中継などを見ていたのだが、そのうちに政府の対策本部が立ち上がり、「半径10km以内の住民に自宅待機勧告」などという事態になっていたのにはさすがに驚いた。

 事が重大になると、茨城県民である私の所にも心配するメールがやってきたりした。心遣いは大変ありがたいが、私の住むつくば市は、同じ茨城県とは言っても東海村からは約60km離れており、少なくとも対策本部発表の情報を信用する限りにおいて、避難したり自宅待機をしたりなどとする必要は全くない。だが東京も含めて現場から離れている人にとっては、東海村も筑波も同じように見えるらしく、概して現場から遠い人ほど、今回の事を余計に心配している傾向が見られるのは興味深いことであった。

 とにもかくにも国内で初めての臨界事故。誰もが一時チェルノブイリやスリーマイルの悪夢を連想したことであろう。そもそも放射能というのは他のものと違って、直接五感に感じるものではないものの、長期的に体内に蓄積されて悪影響を及ぼす可能性があるということで、非常に厄介なものである。しかし考えてみると、この事故が起こるまで、私は放射能や放射線に関してあまりにも無知であった。だいたいナントカが何ミリシーベルトなどと言われたところで、いったいそれがどのくらい強くて、どのくらい人体に影響を及ぼすのかどうかもさっぱり分からない。理科年表などひっぱりだしたり関連するWebPageを見たりして、放射線や放射能や臨界などと言ったキーワードについて、付け焼き刃で学習する始末であった。

 そして恐らくそれは、事故を起こした施設や付近住民や対策本部やマスコミ、そして事故を知った大多数の一般市民にしても同じだったのではないだろうか。正確な知識を持っていなければ的確な対処が取れるわけもなく、事故が起こってから右往左往してしまう。昔から言われていたことながら、今回の事故に大しても、所謂「危機管理能力」の欠如が浮き彫りになっていたように思う。

 私はしばらくWeb上で、この事故に関する掲示板などを野次馬的に見ていたのだが、「政府の言っていることはデタラメ。実際はもっとひどいことになっている」という人もいれば、「今回の事故はたいしたことになっていない」という人もいる。もちろんどちらが真実であるかは断定はできないが、前者の方が概して、正確な知識や情報を持たずに憶測で話しているように見えるのに対し、後者は放射性物質の種類や特徴について正確な知識を持ち、今回の事故の性格などについて客観的に分析し説明してくれるようであった。少なくとも私にとっては、後者の人の言うことの方が真実に近い気がする。大雑把に言えば今回の事故は、臨界状態は続いたものの、建物の破壊を伴うような劇的な爆発による放射性物質の無差別な放出はほとんどなく、従って周囲の環境への影響もほとんどない、と見るのが最も自然であると考える。

 だが、大事にいたらなかったのはもちろん不幸中の幸いでしかなく、今回のような事故が起きること自体極めて憂慮すべき事態であることには間違いない。特に、事故を起こした会社の安全管理は杜撰の一言ではすまされない程ひどいものであったらしく、これが真実であったならば、とうてい許されるべきものではない。

 ただ今回の事件は、一企業の杜撰な安全管理のみに責任を押しつけてすべてを解決したつもりになってはならないと思う。別の時に別の場所で同じ様な過ちが繰り返されないためにも、もっと総合的に、安全管理や危機管理について見直す機会にしていく必要があるように思う。と同時に我々市井の人も、いざというとき自分の身を守るためにも、多くの事について、正確な情報とそれを評価する正しい知識を持たなくてはならないと思う。そんなことを改めて考えさせられる事件であった。


<前目次次>