#045 FDはまだまだ現役?

1999/01/13

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 以前にハードディスクドライブ(以下HDD)を買うとか買わないとか言う話をしたが、ともかくHDDというものは最近とみに大容量化してきたものである。HDDなるものが出始めた10年ほど前は、10Mbyteだの20Mbyteだの、今ならメモリの容量としても少ないと思うような容量で、しかも故障も多かったものだが、今でははるかに大容量になり、また価格も安くなったものである。

 HDDができて普及する以前は、ともかくフロッピーディスク(以下FD)が全盛であった。と言うよりもそれがほとんど唯一の外部記憶装置であった。FDよりさらに以前では、PC-8801とかMZなんだとかそんな機種で、マシン語をしこしこ打ちこんだゲームプログラムをカセットテープに記憶させ、読み出す時もぎょろぎょろぎょろぎょろなんて言わせながらカセットテープを回して読みだし、しかも機械の調子が悪いとカセットテープが途中で切れて一生懸命徹夜して打ちこんだゲームプログラムが一瞬にしてパーになるという悲劇も全国で5万人くらいは味わっていたものと思われる。

 しかし、日本が誇る発明家ドクター中松がFDを発明してそれが製品化されてのち、その状況は一変した。カセットテープと違ってランダムアクセスが可能であるという点は、データの管理を非常に柔軟にし、当時のパソコンの外部記憶事情に革命をもたらしたと言ってよい。もっともFDも最初の頃は、それこそ私の実家の初代ワープロのような独自フォーマットのものもあったが、パソコンの世界では規格が統一され、その大きさも時代と共に8インチ、5インチ、3.5インチと次第に小さく使いやすいものになってきた。

 FD全盛の時代は、それこそFD1枚もしくは数枚の中にOSもプログラムもデータも入れていた訳で、その限られた容量の中でも数多くの名作と言われるソフトウェアが誕生した。例えば一太郎Ver.3なんて、FDのみでまっとうな日本語が書けて、クオリティこそ今のものとは数段落ちるとは言え、そこそこの文章を印刷出来たのだから、今思うとすごいことである。

 と同時にFDは、ドライブが2つあれば簡単に複製を作ることができたので、ソフトウェアの違法コピーも問題になった。各ソフトウェア会社はあの手この手でコピープロテクトをしかけ、そのたびにハッカーの手によってそれが破られるというイタチごっこを繰り返してきたが、結局コピープロテクトを初めてやめた一太郎が、その後のワープロ市場で最もシェアを拡大させたという事実もあり、いつの間にか違法コピー問題も沙汰止みになってしまった。

 しかしFDもアクセススピードや容量の点で不満が出て来るようになり、やがてHDDという高速大容量のメディアが出ると、OSとプログラムはHDDにインストールして使うと言う方法が一般的になり、ソフトウエアも一気に大型化し始めた。今や一太郎にしろWordにしろ、全体では100Mbyte近い容量になっている。ではそれはFDにすべてが入っていた時代のワープロに比べると100倍すごい機能を備えているのかと言うと、確かにそうなのかも知れないが、実際我々がそれらを使いこなしているのかと言うと、全然そんな気がしない。今のワープロなんて、きっと私が一生使うこともないような機能がてんこ盛りなのであろう。

 しかしそれでも人間の欲求と技術の進歩はとどまることを知らないようで、今やHDDもGbyteの時代になったのは前にも話した通りである。何十Mbyteもするソフトを山ほどインストールしたり、Webから何百枚もの画像をダウンロードして保存する(笑)とかいうのは別にして、一体Gbyteなんて単位のデータを自分で生産することがあるだろうか。私の場合、1時間に打てるテキストの量はせいぜい10kbyteである。一日8時間ひたすら文章ばっかり打っていたとしても、1Gbyte埋めるためには30年以上かかる。ちなみに私が去年打ったメールの総量はせいぜい2Mbyteである。このことからもわかるように、テキスト文章だけでGbyteなどという容量のディスクスペースを埋めるのは容易なことではない。

 しかし、書式情報などを含むワープロの文書ファイルの場合は、テキストファイルに比べてかなりファイルサイズが大きくなる。特にWordの場合、Word97以降はファイルサイズがやけに大きくなった。使っていないのでよくわからないが、ほんのわずかなデータ量でも数百kbyteものファイルを作るらしい。恐らく通常のデータ量の場合、FD1枚に納まりきらないファイルを作るのであろう。なるほど、こんな調子では確かにHDDの空き容量がいくらあっても足りなくなるのは無理もない。

 しかしHDDは、通常は持ち運びの容易な外部記憶装置ではないので、そのような大きなデータの受け渡しをする場合は、光磁気ディスク(MO)、PD、zip、PCMCIA規格のフラッシュメモリなどを使う必要がある。しかしどれもまだ圧倒的に普及したメディアとは言えず、こちらでは使えてもあちらでは使えないということが多くて、データの受け渡しに難渋することがしばしばある。一方FDの場合は、大抵のパソコン(iMacにはないらしいが)にドライブがついているし、メディア単価も数十円と容易に購入できる。価格の面でも普及率の面でも、オフラインでのデータのやりとりでは、やはりFDを介して行う場合が結局は一番確実だったりする。というわけで、FDもまだまだしばらくは現役で使われ続けるであろう。中松先生、あなたは偉大です(笑)。


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