△ 不等辺ワークショップ第31回 (2005/09/24)


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写真  名古屋への帰り方にはいろいろな方法があります。私も東京に出て長いので、いろいろな方法を試しました。オーソドックスなのはJR東海道線。急ぎのときは新幹線。お金がないときは高速バス。私は東海道を歩いたこともあるし、ヒッチハイクで帰ったこともあります。なかでも私がいちばん好きなのは、JR中央線で帰ることです。各駅停車の電車を乗り継ぐ。新宿駅を早朝に発つ電車に乗れば、夕方すぎには名古屋に着きます。あるいはのんびりと午後に東京を発ち、松本辺りで一泊するのもステキなチョイス。松本にはおいしいカレー屋があるんですよね。時間さえあればなぁ。

写真  長野県の山あいを、中央線は木曽川沿いに走ります。この風景は見ものです。前々回のレポートに書いた木曽御嶽山もこの沿線。私はたっぷりと長野県の空気を吸いこむ。やがて電車は岐阜県に入ります。中津川駅でさいごの電車に乗り継ぐころから、もう私は帰ってきた気分になっている。山梨県も長野県も、あの車窓の雰囲気が私は大好きです。だけど岐阜県まで来ると、もうなにやら空気がちがうのだ。ついに「成層圏に突入した!」という感じです。恵那、瑞浪、土岐、多治見と走って、じきに愛知県。定光寺の辺りの渓谷を抜ければ、もう残りはわずかだ。この辺りからの車窓は、私にはとりわけ愛しい。新守山、大曽根、千種、鶴舞、金山と、市内の中心部をぐるっと回り込む。赤い名鉄電車と併走するように、電車はゆっくりと名古屋駅にすべりこみます。無事にホーム・イン! いやぁ、ただいま帰ってきました!

写真  名古屋出身の私にとって名古屋はホームです。同時にいつもは世田谷でワークショップ活動をしている私にとって、名古屋はアウェーでもある。じっさい東京以外のマチでワークショップをやる「アウェー戦」は今回がはじめて。なのですが、はじめてなんだという気があまりしませんね。名古屋のみなさん、はじめまして。という感じじゃないんですが、どうぞよろしくお願いします。

 主なゲームを振り返ります。まず『ウォーキング』から。歩きながら、部屋や人の観察をします。尋ねてみたところ、アクテノン(名古屋市演劇練習館)の稽古場に足を踏み入れたのは今日がはじめて、だなんて人はひとりもいない。そんなの、私だけだった。私がいちばん観察しなきゃ。うんうんうん。この稽古場はいいですね。天井が高いし、大きな鏡もある。部屋の隅にはコインロッカーまである。CDラジカセも、はじめから置いてある。使わなかったけど、折りたたみ式のツイタテも置かれている。建物が円筒形なので、壁がゆるやかにカーブしているのもいい。心が落ち着く気がする。こういったひとつひとつを観察して、クイズ形式で楽しみました。

 『ジャグリング』の2つ目のボール。前回とおなじく、好きな有名人の名前を挙げてもらいました。そこから呼び名を決める。朝青龍。拓哉。堅。裕二。菜々子。耕太郎。苗字は書きませんが、おわかりですよね。ちなみに耕太郎というのは私で、もちろん沢木耕太郎(「深夜特急」とかの)にちなんだ呼び名です。ほかではちがった名前で呼ばれていたことを思うと、名前ってなんだろうみたいなことをちらっと思います。

写真  恒例の『バースデイ』。これは「誕生日おめでとう」と言ってプレゼントを渡すゲーム。いつもの3バージョンのルールに加え、今回は新ルールを設けました。言うなれば「素直バージョン」と「素直になれないバージョン」です。
 まずは大好きな人をひとり選んでその人にプレゼントを渡す。その繰り返し。それが「素直バージョン」です。じつにストレート。それをやった次に、こんどは「素直になれないバージョン」を試します。これは、大好きな人がいるのだけど、その人にはプレゼントを渡せないので、ほかの人に渡す。ただし渡しに行く途中で1回だけちらっと大好きな人を見る、というもの。こっちは変化球ですね。それを次々に繰り返す。
 これはね、やってみたらとんでもなくおもしろかったですね。とたんに甘酸っぱいような、いやったらしいような、きわめてリアルな世界が出現しました。「素直バージョン」とは感じ方がずいぶんちがう。古くて恐縮だが、私は自分が「あすなろ白書」の登場人物になったような気がしました。また女性メンバーが流し目をくれる機会が何回かあり、そんなことっていつ以来だろう。そもそも私にはそんな経験があったろうか、みたいなことも考えました。シンプルなゲームなのに、なかなか手ごわいものである。

写真  『マルマルマル』ははじめてですね。これは世田谷パブリックシアターでおそわったもの。「マルマルマル」というタイトルの歌がある。歌詞はカタカナで書かれた意味不明の外国語(たぶん意味はあります。私が知らないだけだ)。すでに1番から3番まで、3種類の振りがついています。歌詞と振りとメロディを覚えて、みんなで車座になって歌って踊る。慣れたら、こんどは創作の課題に取り組みます。各自でオリジナルの振りを作って披露。さいごは1番から8番(4番以降が創作)まで全員でフルコーラスを歌って踊ってフィナーレ。みんないい表情をしていて、みんないい声が出ていて、私はとっても満腹感。ごちそうさまでした。

 この『マルマルマル』でも、大切なのはじつはアイ・コンタクトです。ここまでのほかのゲームとおなじです。はじめは自分の手元ばかりを見てしまうもの。けれどやがて全員の顔が上がって、目でやりとりができるようになる。あれは紛れもない、ひとつのライブ・セッション。がぜん音楽性が高まりましたね。ちょっと興奮。

写真  アイ・コンタクトはとっても重要。かつ効果的です。目と目や手と手などを通して、思いを伝えること。あるいはあの手この手で伝えようと努力すること。しかし伝わらないかもしれないこと。伝わらないからこそ伝えようとすること。みたいなことを、今回のワークショップではいろいろと体験しましたね。『ごみ問題』もそうでした。さいごの『クレヨン』も、その流れのいちばん下流にありました。すべてがここに流れ込む。当初はここで『ペンキ屋』をやる予定でした。家を出て会場に向かう途中で気が変わって、プログラムを変えたのです。変えてよかったです。みなさんにお配りしたプログラムに『クレヨン』の名前がないのは、急に変えたためです。来る途中でダイソーを見つけて、画用紙とクレヨンを買えたのは大きい。

写真  グループ・ワークはやはり難しいものだと思います。思いが通じるとはかぎらない。自分としては納得のいかないアイデアに、不承不承乗らざるをえないようなこともあるかもしれません。そんななかでも、できればより建設的で、メンバーがおなじ方向を向いて話を進められるようにもっていきたいものです。そんな関係を相手と作りたいもの。『マルマルマル』『ごみ問題』を経験したあとだと、それが実現しやすいかな、と私は期待したのですが、どうだったでしょう。まだ仕掛けが足りない、策が足りない、というのであれば、その部分を検討するのが今後の私の課題です。

写真  ワークショップにご参加くださったみなさん、お疲れさまでした。ありがとうございました。アクテノンの職員のみなさんにも、たいへんお世話になりました。今後もよろしくお願いします。参加メンバーが少なかったのが、残念でもありますし、申し訳ないような気もします。名古屋でのワークショップはこれが第1回です。これが私の第一歩。これから二歩目、三歩目を踏み出すたび、すこしずつ大きくなっていきたいです。私は名古屋の出身ですが、寂しいことにもう中学・高校のころの付き合いは名古屋には残っていません。これを機に、ワークショップを通じて、また新たな「縁」を名古屋で作っていきたいと願っています。どうぞいいご縁がありますように。

写真  10年以上も前に、私は沢木耕太郎の講演を聴きに行きました。この沢木ってのが、これがまたよくしゃべる男でねぇ。しゃべるのが楽しくて仕方がないといった様子でした。その頃の彼がその魅力のトリコになっていた、鳥のハヤブサの話がおよそ60分。ジョージ・フォアマンというヘビー級ボクサーの話がおよそ30分。フォアマンの取材でアメリカに行った折、ラス・ベガスでハマッってしまったという賭博の話がおよそ30分。自分がおもしろいと思っていることの話だけをベラベラとしゃべり尽くして、講演は時間切れ。彼は当時40代の半ばでしたが、説教めいたことはなにも言わず。「努力はかならず報われます。がんばってください」とか「人生、耐えることが大事です。がんばってください」みたいな締めのことばもない。ただ「次にお会いするときは、そのとき興味をもっていることについてお話したいと思います」と言って、颯爽と去って行きました。あれはカッコよかったなぁ。著書も嫌いじゃないですが、私はあのときの講演のファンなのです。

写真  私もあのときの沢木耕太郎のように。次のワークショップのときは、そのとき私が興味をもっていることをワークショップを通して、名古屋のみなさんにお伝えしたいと思います。お伝えできるようなチカラを養います。できれば半年以内には次の一歩を名古屋に踏み出したい。どうぞお楽しみに。それをいちばん楽しみにしているのは、もちろん私自身です。

 不等辺さんかく劇団ワークショップ管理部 林成彦(はやしなるひこ)


★アンケートより

☆雰囲気&内容について

○演劇ワークショップに参加することが初めてで、何をするのか不安な面もあったのですが、常に笑っていられてよかったです。写真
○林さんのほのぼのとした雰囲気がそのままワークショップに出ていて、とても無理なく楽しめました。
○ゲーム感覚でたいへん楽しかったです。
○「ごみ問題」では、ボキャブラリーの少なさ、表現・伝えることの難しさを感じました。
○「ごみ問題」は、愛を込めようとすればするほどズレていくような気がしたりして、難しかった。
○「マルマルマル」はリズム感や適応力の弱さを痛感しました…。でも楽しかったです。
○各ゲームが興味をひく題名でおもしろい。
○私は自己紹介が苦手なので、最初にそれがなかったこともすんなり溶け込めた理由のひとつかも!?

☆リーダーについて

○参加者全員に語りかける姿勢がよいと思います。写真
○温かい雰囲気でおだやかでとてもよかったです。
○とても丁寧に、親切に教えてくださったので、親しみやすかったです。
○声の響きが心地いいので、その場の雰囲気に溶け込めました。

☆その他

○みんなが一斉にアクションを起こすので、他の方の演技を見ることができなかったのが少し残念でした。
○参加者が少数でしたが、リーダーの意志が伝わりやすかったと思う。
○参加メンバーが少なかったので緊張しましたが、逆にちゃんとやらなきゃ!と肝が据わりました!

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