△ 不等辺ワークショップ第28回 (2005/05/29)


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写真  不等辺さんかく劇団ワークショップ管理部、略してフットワークの林成彦(はやしなるひこ)です。2月につづいて松陰コモンズの大広間をお借りするのもこれが2回目。2月と5月。季節が移って、おなじ会場でも雰囲気や印象はやはり異なりますね。日差しの感じがちがうし、木や草や花の感じもちがう。お、もう蚊が飛んでいる。裸足になると畳の感じが心地よい。こういう時期ごとのちがいを体感できるのがいい。この会場の魅力です。すてきだ。今回もよろしくお願いします、とまずは会場にあいさつです。
写真  アシスタントを紹介します。谷口誠くんです。このゴールデンウィークに、彼とは1本芝居を打ったばかり。「菜ノ花狩りに日は続き」の、私たちは月組ラジオリスナーズ。彼は出演者で私は演出者。稽古場でさんざん苦楽を共に(でもないか?)した仲間です。今日もよろしく、と谷口くんにもあいさつ。
 谷口くんと私は11時すぎには大広間に上がらせていただく。打ち合わせ(のような雑談)をしながら、和室ですっかりくつろいでしまう私たちだ。いやぁ、芝居が終わってまだ3週間だもんなぁ。谷口くんの顔を見ていると、「今日も稽古だっけ?」って気がするよ。芝居は、登場人物が2人しかいない作品だったので、俳優ふたりと演出ひとり、いつも3人だけで稽古場に集まっていました。でも今日はがらっと様相が異なる。ひとりまたひとりと参加者の方々が集まりはじめる。すぐに会場は人でいっぱいになる。18名もの方々が集まってくださり、じつににぎやか。人がおおぜい集まるってのはいいなぁ。それだけで元気が出てくる気がします。今日はよろしくお願いします、とみなさんにごあいさつです。

『ジャグリング』

写真  ゲームをはじめる前に、会場をつぶさに観察してもらいます。そのための時間を1分とる。はじめての場所で、いきなりゲームがはじまっちゃうのは危険ですよね。人にも危険だし部屋にも危険。好きに歩き回って、好きに部屋を眺めてもらう。部屋となじむ。18名、いや20名だ、の人たちがてんでに部屋を歩き回る。そうすることで同時に部屋の空気がかき回されるのがいいです。お風呂のお湯をかき混ぜるのに似ています。沸かしたてはお湯が硬い。ワークショップも、どうしても最初は空気が硬いですからね。初対面の方々がおおぜいいて、みんな座っていて。空気が固まっている感じ。かき混ぜて、いい湯加減にしましょう。

写真  最初のボールを投げるときは、相手の名前を「くん付け」で呼ぶ。この「くん付け」というのが初の試み。ワタシ的には必殺のアイデアです。年齢性別にかかわりなく、全員が互いに「くん付け」です。初対面だと「さん付け」で呼ぶのが無難なこの日本社会で、これはちょっと非日常的。ちょっと不慣れな感じ。でもちょっと自由な感じもしませんか。
 2番目のボールは食べ物の名前で。今回はやきいも、みかん、カステラ、鷹の爪、おにぎり、小松菜、こんぶ、アイスクリーム、かりんとう、いも、キムチ、アンパン、やりいか、あめ、コーヒーフロート、さくらんぼ、赤飯、ハイチュー、ハム、たこ焼きに決まりました。さすがにこれだけ数があるとすぐには覚わらん…。「は」からはじまる食べ物で「ハイチュー」が出てきたのには、私は「はっ」としました(シャレじゃなくて)。なるほどなぁ。私じゃ思いつかないです。
 3番目の無言(アイコンタクトのみ)のボールを合わせて、3つのボールを同時に投げあいます。これで「ジャグリング」の状態が完成。それができたら立ち上がって、歩き回りながら「ジャグリング」。そうそう。歩き回って、まずは目を合わせる練習もしましたね。目が合ったら目礼する。なんだかいかにも日本人っぽい行為だなぁ。これが仮にウィンクだったら、気分もちがったものになったかしら。

『バースデイ』〜『ライン・アップ』

写真  20人全員が5月29日生まれだというありえない設定で、お互いの誕生日を祝います。ボールをプレゼントに見立てて、プレゼント交換をする。発想のトレーニングでもあり、ちょっとした役割あそび(ごっこ遊び)の要素もふくみます。やっぱりこれはハッピーなゲームだよなぁ。いちどやったらクセになりそう。最後は、実際の誕生日がいちばん早く来る「みかん」くんにすべてのプレゼントを集中して終了。あとで本人に聞いたら「けっこうぐっと来た」とのことでした。

写真  ただ一列に並ぶというだけのゲームがどうしてこんなに楽しいのかしら。これもクセになりそう。手のあたたかさの順が、今回はなかなか動きがあっておもしろい。私はかなり順位が上昇しましたよ。最初は前から3番目だったのがうしろから6番目ぐらいまで上りました。谷口くんはもっとすごく、私とおなじぐらいだったのにいつのまにかうしろから2番目になっていました。だんだん手があったまっていったのだ。逆にだんだん落ち着いていく人もいる。おもしろいなぁ。見ていておもしろかったのが「小松菜」くん。全員の温度をチェックしたあと、自分の戻り場所がわからなくなっていたようでした。焦るな焦るな。落ち着け落ち着け。

『神様』

写真  このゲームは久しぶりです。季節柄にも場所柄にも合っているかなぁと期待してのもの。1回目は「神様」を、2回目はあらいぐまの「ラスカル」を手探りで探します。人数が多いがゆえ、あちこちでひんぱんに出会いが起こっていましたね。なんだかごみごみしてしまって、おなじ人と何度も出会ったりね。内心「またアンタかよ」みたいな。
写真  おもしろいものですね。これを広〜い部屋で、少な〜い人数でやると、そもそも出会い自体があまりありません。相手が神様じゃなくても、出会えただけでほっとしたりうれしかったりもするんですよね。ルールはシンプルですが、不思議といろいろな体験ができるゲームです。

 シロツメクサの花が咲いたら さぁ行こうラスカル〜♪
 6月の風がわたる道を ロックリバーへ遠乗りしよう〜♪
 (神様ありがとう 僕にともだちをくれて〜♪)

 「アメ」くんの話がおもしろかったです。「神様ですか!?」と問われて「いいえ、アメです」と何度も答える。そのうち「アメでしかない自分」が意識されて、さびしく思えてきたそうです。なるほどなぁ。おなじ「あ」でも「アボカド」とか「アップルパイ」とかだったら堂々と名乗れそう。話を聞いて笑ってしまったけれど、申し訳ない気持ちにさせてしまって申し訳なかったです。私はアメ、好きですけどね。

『リラクゼーション』

写真 写真  これも季節柄と場所柄を考えて。せっかくの畳の部屋ですから、ごろんと寝転がりましょう。灯りを消してみたら、部屋がいい具合にうす暗くなりました。心身にやさしい具合の光の具合。心を落ち着かせて、身体をラク〜にしていきます。
 深〜く、身体の奥の方まで息を吸い込んで、ゆっくりと吐く。足先から順に、身体の部位に意識を向けて、筋肉のこわばりを解いていく。たっぷりと時間をかけます。頭ではできればことばを使わないこと。ことばの代わりになにかの色で頭を満たすようにお願いしました。

 チカラは入れるものではなく入ってしまうものです。だからどうすれば不要なチカラを抜くことができるか。チカラを抜くことを意識すること。大学生のころ芝居をはじめたばかりの私はよく先輩にそう聞かされました。あのころはこの類の、身体のこわばりを解く訓練をおおげさではなく毎日やっていました。なつかしいなぁ。なつかしい、というのも、こういう訓練はやらなくなってしまうんですよね。アタマでその意義を理解すると、いつしか「もうわかってるよ」と思ってサボってしまう。いかんなぁ。アタマで理解するのと身体で理解するのは、必要な時間がゼンゼン違います。身体は時間がかかる。私はもっと身体で(身体ごと)演劇に取り組まなくては。

写真  これにしてもあとの「呼びかけ」にしても、いままで私のワークショップでは取り上げなかった類のゲーム(というか課題)です。これはつい3週間前まで私が演出家として稽古に取り組んでいたことの影響だろうと思います。演出家っぽい感覚がまだ私のなかに残っていた。ワークショップ・リーダーというよりは、「あ。いまの自分、なんだか演出家っぽい」と、やりながら感じました。逆に「菜ノ花狩りに日は続き」の稽古をスタートしたころは(演出に取り組むのはひさしぶりでしたので)、演出家として稽古を進めながら「あ。この稽古、なんだかワークショップっぽい」と感じたりもしました。ワークショップ・リーダーと演出家とは、私のなかでははっきりと別の仕事です。場に対する働きかけ方というか、接する態度や気構えがちがう。けれどそれぞれが影響しあって、私のなかでウィンウィンの関係ができるようだと、今後の私には朗報ですね。と、これはひとり言です。

『タングル』〜『呼びかけ』

 人間知恵の輪。タングルは写真がないかな。全員が両手がふさがってしまいますからね。今回は「神様」もそうでしたし、手をつなぐゲームが多かったですね。タングルの、最初のごちゃごちゃとこんがらがっている状態は、「神様」の神様がごちゃごちゃこんがらがってしまったみたいな気がして、ちょっとおもしろかったです。神様、アンタたちなにやってんの、みたいな。

 声を相手にぶつけること。背中に声がぶつかって感じられるかどうか。自分がぶつけたつもりの声を、相手は感じてくれるか。それをひとりひとりトライしてみました。ゲームの進行のさせ方が洗練されていなかった点、ゲームのルールにもっとバリエーションをもたせられたはずである点、反省会で谷口くんからダメ出しを受けました。もうまったく谷口くんの言うとおり。次回以降の私の宿題です。

『アフター・トーク』

写真  演出家の感覚が残っていたことがすべての原因だとは言いませんが、今回の私はワークショップ・リーダーとして至らない点がいつも以上に多かったなぁと思います。申し訳ない思いでいっぱいです。「呼びかけ」で、声をぶつけ終わった時点ですでに午後6時8分。予定を38分もオーバーだ。あとの用事があった方には心からごめんなさい。しかも38分オーバーしていながら、メニューが終わっていない。やむを得ずここまでとして、このあと予定していたゲームの内容をお話しておしまいとします。

 まずは「呼びかけ」の後半について(つまり前半しかやっていない)。声だけではなく、こんどはことばで相手に働きかけるという課題です。呼びかけた相手が、呼びかけられたことによって行動を起こすように。相手の行動を促すような働きかけをすること。そのためには単にことばを発するのみならず、アイコンタクトや表情や身振りや、さまざまな方法で身体ごと相手に呼びかける必要があるはずです。
 この「身体ごと」というのが大事です。演劇の経験のある方ほど(というか、経験のある方には多いのですが)陥りがちな落とし穴があります。それは「気持ちを作ればリアルな演技になる」という迷信です。それは錯覚です。気持ちを作っただけでは足りません。それが伝わるような働きかけをしなければだめです。気持ちを作ったから伝わったはずだ、というのは自己満足にすぎません。(なんだかすっかり「演出家」の感覚ですね)。

写真  テキストとして、つい先日上演した「菜ノ花狩りに日は続き」からセリフを抜粋します。登場人物の「かりこり君」のセリフを2行。菜の花畑を見つけた「かりこり君」が「トモトモさん」に呼びかけるもの。これは谷口くんの見せ場でしたね。なにせ彼は「かりこり君」役で、私の演出を受けて、つい3週間前に舞台でこれを演じたばかりです。お手本を示してもらうのに、谷口くんほどふさわしい人物はいない。谷口くん、君の見せ場を作ってあげられなくてごめん。18名もの方々が次々と「かりこり君」のセリフを演じるのを見るのは、谷口くんにとってもおもしろい経験だったろうとも思います。こういった機会を本番前に設けていたら、いい稽古になったかもしれないね。これももったいないことをしたな。
 以上のようなお話を、テキストのコピーをお配りしつつしたところ、この課題に興味をもってくださった方が多かったようで、アンケートにこれをやってみたかったと書いてくださった方がひじょうに多かったです。たいへんたいへん恐縮です。

 もうひとつは「ペンキ屋」です。これは私のワークショップの定番であり、看板でもあるゲームです。これをやらずに終わるのは3年ぶりでした。なんだかやらなきゃ終われない気がして、ついメニューの最後にもってきてしまいました。ゲームのルールや様子についてはレポートの、ほかのページにたくさん書いています。どうぞご覧ください。実施できなくてごめんなさい。

写真  次回は7月3日(日曜)。午前11時より午後4時まで。会場は下北沢の「北沢タウンホール」です。3月につづいて次回も世田谷区の後援をいただいておこないます。なにせ広い広い会場です。天井もとっても高いです。ロビーもあるし、楽屋まであります。今回の松陰コモンズとはがらっと環境が変わりますね。会場ごとにその会場の特徴を活かしたワークショップを。広い北沢タウンホールでは、その広さを活かしたワークショップを。知恵をしぼります。ぜひお楽しみに。

 今回のワークショップでは開始前や休憩中に「さくらんぼ」くんのCDをBGMとして使いました。「さくらんぼ」くんは本名、というか本当の名前をEmmeさんと言って、ミュージシャン、シンガーとして活躍なさっています。縁あって、このワークショップに遊びに来てくださいました。曲まで使わせていただいてありがとうございました。ここではEmmeさんのウェブサイトを紹介させていただきます。

 https://www.emmevoice.com/

写真  今回のワークショップは18名もの方々がご参加くださいました。とりわけ私がうれしいのは、いろいろな世代の方が参加してくださったことです。18名のなかには私より目上の方ももちろん何名もいらっしゃいましたし、10代の方も数名。最年少は14歳です。本当にありがとうございます。その勇気にエールを送ります。初対面の人がおおぜいいれば緊張するのは何歳であろうとおなじです(リーダーの私だって緊張します)。けれど10代のうちは、私がそうでしたが、自分の同世代や親、学校の先生以外の人たちと接する機会が、あまり多くはないと思います。その分プレッシャーが強かったろうと想像すると、「よく来たね。がんばったね」と声をかけたい気持ちになります。2月のレポートにも書きましたが、さまざまな世代の方がまざることでワークショップの値打ちは高まります。ますます多くの方が、私のリーダーシップを信頼して、安心して遊びに来てくださるように、精進します。

写真  ワタクシ事ですが、秋から桜美林大学のオープンカレッジで演劇の講座を受け持つことになりました。どんな内容にするか、いま計画を練っているところです。一回かぎりのこのワークショップとちがって、あちらは連続のコース(180分×5回)です。連続だからこそできること、をやはりやりたいですね。「菜ノ花狩りに日は続き」の稽古がそうだったように、テキストがあって、それを掘り下げて、完成度を高めつつ同時に可能性も広げていく。そんな「模索」を楽しむ余裕が、5回のコースであればありそうです。ないかな。どうかな。ま、そんなことは自分の劇団でやれと言われてしまうかもしれないけれど。
 ひょっとしたら、というかほっとくと私は「はやし先生」と呼ばれてしまうでしょう。それは面映いぞ。避けたいぞ。できればあちらでも「はやしくん」「○▲くん」「◆○くん」と、全員が互いに「くん付け」で呼び合えるような、フラットでシャープな関係を作りたいものです。

 今後も不等辺さんかく劇団ワークショップ管理部、略してフットワークをよろしくお願いいたします。


★アンケートより

◆雰囲気&内容について

写真 ○とてもよい雰囲気でプレッシャーを感じることなくできました。
○皆楽しそうに参加していたし、強制的な感じはまったくなかったので、よい雰囲気だったと思います。
○すっごい楽しかったですぅ!! 和室やし、落ち着いた感じの雰囲気でなごみながらできてよかった。
○最初(待っているとき)は雰囲気が重かったと思うのですが、人と触れ合うようなゲームでどんどんなごんでいって、居心地がよくなっていきました。
○とても楽しくできました。知らない人たちだらけでもたくさん笑えました。
○「ライン・アップ」が楽しかったです(手の温度順のが…)。
○「神様」というゲームはおもしろかったです。
○「神様」と「リラクゼーション」が新鮮でした。
○「リラクゼーション」を本格的にやってほしいです。
○「リラクゼーション」はちょっと中途半端だったかな。
○「タングル」というゲームは初めてやったのでおもしろかったです。
○「呼びかけ」は人それぞれ声の力や言い方で感じ方も違うんやと気づいておもしろかった。

◆リーダーについて

写真 ○みんな平等に扱ってとてもよかったです。
○努力が見えてよいです。
○人数が多くたいへんそうでした。
○感じがよく礼儀正しい方ですね。
○「呼びかけ」のとき一回ずつ理由を聞いていたのがよかった。
○ちゃんとひとりずつすべてを経験できるのはよいことだと思います。
○林さんは甥の寛ちゃん(千葉に住んでいる)に似ています。

◆その他

写真 ○子供のころに戻ったようで楽しく遊べました。
○場所がすばらしいです。人間の感性とか表現は場所でずいぶんと刺激されると思うのです。美術館とも庭園ともつかない家屋。とても私の好きな場所だと思いました。
○最初の方のゲームが少し長かったかな。最後のゲームができなかったので少し残念でした。
○リーディング、やってみたかったです。でもそういうのが残っているのもいいかもと思います。
○「ペンキ屋」ができなかったのが残念です。
○せっかくなので、参加者の名前だけでなく、どうして参加したとか普段なにをやっているとか知りたかったです。
○年齢層幅広くてびっくりでした。そんな方々と一緒に劇で遊ぶ時間を過ごせてよかったです

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