△ 不等辺ワークショップ第26回 (2005/03/27)


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写真 写真  不等辺さんかく劇団ワークショップ管理部、略して「フットワーク」の林成彦(はやしなるひこ)です。前回につづいて、いろいろな会場に飛脚する「おでかけシリーズ」。今回は池袋におでかけです。フットワークよろしく、私たちは東京芸術劇場にやって来ましたよ。
 いやー。やっぱりきれいな劇場だなー。はじめての会場だと緊張するなー。まして今回は世田谷区の後援をいただいています。会場が池袋(not世田谷区)だのに、世田谷区は太っ腹ですよ。私は気合が入ります。一日かぎり一回かぎりのワークショップ。今日もいい一日になりますよ。スギ花粉なんてどこ吹く風だぁ。

 ここは芸術劇場の地下1階。噴水の前で参加者のみなさんをお迎えします。公共の場だし、待ち合わせのスポットでもあります。人の目がはずかしいよね。私たちはジャージ姿だし。目印として首にフラワーレイをかけてるし。ね、はずかしいよね。でもアシスタントの池田景は堂々としたものだなぁ。むしろフラワーレイに浮かれている気もする。池田、落ち着け。ここはハワイじゃないぞ。ほら、人が見てるし。と思ったら、参加者の方でした。こんにちは。受け付けはこちらです。いやぁ。会場が変わると、受け付けひとつとっても新鮮です。

 午後1時。それでは移動しましょう。会場は地下2階です。どうぞこちらへ。私は海外旅行の現地ガイドになった気分です。さながら演劇の現地ガイドですね。「フットワーク」の世界へようこそ。はじめての方も、2回目3回目の方もようこそようこそ。今日は思う存分遊んでください。演劇が遊び道具。この会場が遊び場です。


『ジャグリング』〜『バースデイ』

 
写真 写真  前回のワークショップでは、車座の状態で(座ったまま)キャッチボールをはじめました。これがなかなか具合がよかったので、今回も車座でスタートします。立った状態ではじめるのと比べ、コミュニケーションが密なのではないかと思うのですが、どうでしょう。

 恒例のフードネーム。今回はハヤシライス、いちご、マカロニ、りんご、おきゅうと、ハム、ウィンナー、はるまき、ようかん、に決まりました。
 注目はやはり「おきゅうと」ですね。「え、おきゅうと?」「知らないの、私だけ?」みたいな、みんなの不安な感じがスリリングでした。私も知らないです。いまネットで調べてみました。「おきゅうと草」という海草から作られる食べ物なんだそうです。博多の朝食には欠かせない一品だとか。博多かぁ。行きたいなぁ。食べてみたいなぁ。でも、あれだね。おきゅうとさん。知らないものの名前で呼びかけられて、ぴんと来なかったんじゃないかな。ほかに「マカロニ」がスマートでいい名前だとアシスタントに好評。

写真  「バースデイ」です。なんてハッピーなゲームなんだろうとしみじみ思う「3月30日生まれ」の私です。プレゼントはうれしい。もらうのはもちろん。贈るのもうれいしいんですよね。なにを贈れば相手は喜んでくれるかしら。それを考えるのってクリエイティブな作業ですよね。料理に似ている。ここではつぎつぎにプレゼントがやりとりされます。じっくり品選びをしている余裕はない。だからいいのかもしれないな。
 ちっちゃな子供がお母さんに「お母さ〜ん。これ、ボクが作ったお母さんのフィギュア!」。あれが個人的にツボでした。自分がリーダーであることも忘れて爆笑。フィギュアかぁ。もらったお母さんどんな顔するんだろ。

『ライン・アップ』

写真  好評につき、前回につづいて今回も。5つのルールで5本の列を作りました。この「ライン・アップ」と、あとの「算数の鬼」は写真がありませんね。カメラ係の池田もそれだけゲームに夢中になっていたということで。どうぞご容赦を。

 勉強になったのが5本目の列です。私の挙げる「例文」に賛成するか反対するか、その度合いによって並ぶ順番を決めます。例文は「愛することのほうが憎むことよりも難しい」。前回もやりましたね。もちろんこれに正解はないです。不正解もありません。どう考えるかは自由です。いろいろな考えがあるでしょう。それを知るのって貴重な経験だと思います。
 これは黙っていては順番が決まりません。わいわいがやがやと整列する。「愛するっていうのは、僕の場合は…」みたいなコメントを聞きながら、私は気づいたことがあります。
 たしかに人によって考えはちがう。でもそれだけじゃなく、そもそも「ことばの意味」がちがうんですね。語感というのかな。使っている意味が人によってちがう。「愛する」「憎む」「難しい」「簡単」。ぜんぶそうです。使っている意味に、誤差やズレがある。ことばの大きさや色合い、温度、深さ、肌触りなどにちがいがある。「あ。この人の『難しい』と私の『難しい』はちがう!」みたいな。そういうの、私にはとってもおもしろいです。もっといろいろなことばで、それを知りたい。

 5本目の列ではもうひとつ気づいたことがあります。前回と今回と、じつは例文がちがうんです。お気づきですか。前回は「愛することのほうが憎むことよりも簡単である」でした。前回は「簡単である」。今回は「難しい」。言い切りが逆になっています。これ、ねらいがあって変えたわけじゃありません。深く考えずに言いました。これが思わぬ結果を生む。考えるとちょっと怖いです。

写真  どっちかと言えば「愛することは難しい」と答えた人が多かったですね。理由を尋ねたインタビューでは、私の印象では、自信ありげに答えてくれました。「ああ、よかった」みたいな安心した感じですね。それに対して「愛することは簡単である」派の人たちは、自信なさげな不安な感じというか。「私の考えって変なのかな…」的な感じがしました。いや、ちっとも変じゃないですよ。正解も不正解もないんです。それなのに、なぜか自信ありげな側となさげな側とに分かれる。これはなんなのか。
 ここで、例文の言い切りが「簡単である」だった前回はどうだったか。自信ありげとなさげに分かれて、自信ありげな感じだったのは「愛することは簡単である」と答えた人たちでした。本当です。今回とは反対ですね。「愛することは難しい」側のいちばん端っこになってしまった人の、とっても不安そうな様子を覚えています。
 前回も今回も、例文を肯定する側の人は自信がありげ。否定する側の人は自信なさげ。これって偶然なのかしら。そうなのかもしれないけど、そうじゃなさそうな気が私はします。どう思いますか?
 考えると怖いですよね。私にはそんなつもりはなかったのに、操っていますよね。人心を。例文の言い方次第で「世論」を動かせる。ひゃあああ。こういう心理作用を悪用する人がいたら怖いことだ。用心しましょうね。ちなみに私は、できれば操作されたくないし、操作したくもありません。用心と自覚が必要だ。リーダーとしての立場上。(でも用心ってどうすりゃいいんだろう。新聞とかテレビとか、ぜんぶ疑うってことか?)

『ごみ問題』

写真 写真  ある参加者の申し込みメールの文面に「よければ竹内敏晴の呼びかけのレッスン、出会いのレッスンをやりたいです」と書かれていました。おおお、リクエストですね。それははじめてだなぁ。ちょっと考えてみようかな。でもその「レッスン」ってなんだっけ。私は本棚から竹内敏晴の著書をひっぱり出します。読むのは学生のころ以来です。なるほどなるほど。おもしろそうだ。ただこれはにわか勉強で提供できるレッスンじゃなさそうですね。ご期待には添えず残念です。もうちょっと勉強してみますね。
 「ごみ問題」の最後。たまたま私が選ばれて出題者になりました。その場の思いつきで出題を工夫してみます。「寝ている私をことばで起こしてください」。それまでの出題とくらべてぐっと実用的ですね。どうでしょう、趣向が変わっておもしろかったんじゃないかな。この思いつきは、たぶん竹内敏晴のレッスンからヒントをもらったものです。こういう実用的な出題をちょっと深めてみようかな。

『算数の鬼』

 アシスタントの池田の感想がおもしろかったです。池田は「算数の音痴」なので、3+5とか、60−25とか、算式で出題されるとパッと反応できません。脳がフリーズしてしまうんだそうです。答えが偶数なのか奇数なのかをジャッジできない。ところが「左手の指の本数」とか「東京都の区の数」とか、私が出題の仕方を変えたら反応が速くなった。本人曰く、きっと脳の使ってる場所がちがうんだろうね、と。なるほどなるほど。実際そうなんだろうね。それはおもしろいな。でも算数もがんばろうね。

 このゲームは「コーディネーション・トレーニング」の応用です。もともとはスポーツ選手のための訓練なんですね。コーディネーションの能力を養う。ひらたく言うと「運動神経」ってやつです。それって俳優にも必要だよなぁと思うのです。
 先日コー・トレの専門家による講習会があり、私は参加してみました。本場はドイツ(旧東ドイツ)だそうで、ドイツ仕込みの本格的なコー・トレを学ぶ集まりです。これがおもしろかったなぁ。受講者は私以外、全員がスポーツの指導者です。ジャージ姿が決まっている。「ご専門は?」「陸上です」とか、そんな会話が会場の体育館にとびかう。ぬぬぬ。大丈夫なのか、私。
写真  講義はわかりやすいしおもしろい。コーディネーションを7つの要素に分けて解説してくださるのがいい。演劇の基礎練習として、よくインプロ(即興)のゲームが用いられますよね。私が思うに、コーディネーションのいくつかの要素は、このインプロの基礎となるものです。つまり演劇の基礎の、そのまた基礎なのだ。これは俳優に必須の能力だと私は確信します。
 講義が終わると、実技講習です。トレーニングを実際に体験する。ぬぬぬ。これがついていけないし。動けないし。反応できないし。周りの人たちと私との、能力差はあきらか。ほほほ。私がインプロが苦手なのはコーディネーション能力(の弱さ)が原因なのだ。池田、私は体育をがんばるよ。
 話が長くなりました。「算数の鬼」とは言いながら、じつは「体育の鬼」であるのがミソ。フェイントです。

『ペンキ屋』

写真  今回はギルバート・オサリバンの「アローン・アゲイン」、尾崎豊の「I LOVE YOU」、そしてマンボ・ベストセレクションから「マンボNO.5」をBGMとして用意しました。3曲。3部屋。時間がぎりぎりでバタバタしましたが、どの部屋も愉快で楽しい部屋になりましたね。3部屋目はペンキ屋さんたちの身体が弾んでいました。マンボは偉大だ。以上。終了〜!

写真  「フットワーク池袋」にご参加くださったみなさん。ありがとうございました。お疲れさまでした。ぜひまた遊びにいらしてくださいね。お待ちしています。お知り合いの方をご紹介くださるのもとってもうれしいです。はじめての方ももちろん大歓迎です。今後もフットワーク(不等辺さんかく劇団ワークショップ管理部)をよろしくお願いいたします。
 次回ワークショップは4月30日(土曜)の午後。3ヶ月ぶりにホームグラウンドの八幡山(世田谷区)に戻ります。外部のリーダーをお迎えする計画も進行中です。詳細がまとまり次第、このホームページでご案内いたします。「フットワーク世田谷」。ぜひ楽しみになさってください。

 演劇で遊ぶ。ま、私もそのひとりなのですが、遊びながら遊んでいるみなさんの様子をリーダーとして眺めていて、これって「サリンジャーじゃん!」と私は思います。ライ麦畑でつかまえて。キャッチャー・イン・ザ・ライ。私の立場ってそれだ。
 主人公のホールデン少年が、妹のフィービー(だっけ?)に将来の夢を語ります。だだっぴろいライ麦畑で、おおぜいの子供たちが遊んでいて、自分は崖っぷちにいて、崖から落ちそうな子供がいたら、落ちないようにキャッチする。そういうものになりたいと少年は語る。私のやっていることも、それに近い気がします。
写真  私はいま演出家として公演のための稽古を進めてもいます。その稽古場での私の立場もほとんどおなじ。ライ麦畑のキャッチャーですね。みなさんが自由に遊んでくださればそれでオッケー。崖から落ちないように見ているのが私。そういうことなんだなぁ。こういうのいいですね。ワークショップのリーダーも演出家も。私はこれ、居心地がいい。「ライ麦畑」のファンでもないのに、いつの間にか「ホールデン少年のその後」をやっている。変な大人だなぁ。私が見ていますので、どうぞのびのびと遊んでくださいませ。

 最後にもうひとつ。私事で恐縮です。いま栄養士の方とのコラボレーション企画を構想中です。食育と演劇教育(大きく出たね!)。栄養士と演出家との「あいのり」。私が担当するのは、ここで行なっているようなワークショップです(たぶん)。ふたつがうまく融合すれば、なかなかステキな時間と空間ができるんじゃないかな。楽しみ楽しみ。これはフットワークとは別の、私の個人活動なのですが、話がまとまればこれもホームページ上でご案内したいと思います。フットワークと併せて、どちらもよろしくお願いいたします。

 新年度もフットワークよろしく。多くの方のおでかけをお待ちしています。またお会いしましょう。ありがとうございました。


★アンケートより

○みなさんほのぼのとした雰囲気でやりやすかったと思う。写真
○「ライン・アップ」の最後の質問はちょっとむずかしくて重かったな。
○「算数の鬼」がおもしろかったです。
○ゲームの「勝敗」がもっと明瞭で、ときに簡単な罰ゲームがあった方が盛り上がるような気がします。
○もうちょっと深められればもっとおもしろくなったかなと思う部分もあって残念。
○ゲームはどれもよくできていて、自ら「伝道師」「預言者」となって広めていきたくなるようなものばかりでした。勉強になりました。
○前回今回のように、ちがった場所でやるのはその場所への好奇心もわいてきて楽しいです。
○1時〜5時というのは、もっと長いと思っていたけれど案外時間がないものですね

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