△ 不等辺ワークショップ第23回 (2004/12/23)


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写真  リーダーを務めました、林成彦(はやしなるひこ)です。今回のワークショップは前回のメニューをだいたい踏襲しています。そこで前回とのビミョーなちがいを拾い上げつつ、書き進めていくことにします。おなじゲームでも、ちょこちょこいじってはいるんですよ。
 いま振り返ってみて気づきました。今回のワークショップは「愛」がテーマでしたね。メニューのあちこちに愛が見える。特にねらったわけじゃないのに。まぁクリスマス前だったしなぁ。愛を求めていたのかなぁ。心のどこかで。その「愛」の数々にも注意を払いつつ、レポートしたいと思います。
 オープニングのBGMは(たまたまだけど)小沢健二の「愛し愛されて生きるのさ」。小沢クン、君の言っていることはたぶん正しいよ。

 いつだっておかしいほど誰もが誰か愛し愛されて生きるのさ〜♪
 それだけがただ僕らを悩めるときにも未来の世界へ連れてく〜♪


『ジャグリング』〜『バースデイ』

写真  ジャグリングのルールそのものは変わりありません。前回と変わったのはフードボールの説明ですね。今回は特に自分が好きな食べもの、またはいま食べたいと思う食べものの名前を挙げるように強調しました。ニックネームって「愛称」ですからね。好きな食べものの名前で呼ぶ。自然と愛を感じられるはずだ。
 挙がった食べものは、はまち、なす、いちご、もち、なっとう、まんじゅう、さくらんぼ、うなぎ、おにぎり、なしごれん、いいちこ、おすし、なると、でした。
 これらの「フードネーム」のイラストをね。アシスタントの中澤日菜子が参加者表に描き添えてくれました。いつもは味も素っ気もない参加者表なのに。イラストがあるとちがうなぁ。愛だなぁ。

写真  バースデイは誕生日に3つの贈り物を相手に差し出すというゲーム。今回は第3の贈り物のルールをいじりました。「素の自分が相手に大事なものを贈る」。あえて「素の自分」であることを強調。これは第2の贈り物との対比をあきらかにするためです。
 このゲームは役割あそびをすることがねらいです。第2の贈り物のときはちっちゃな子供になったりお母さんになったりする。素の自分とはちょっとちがう目線でものごとを眺めること。ワークショップの序盤でその感覚に触れること。それによって、以降の「ごみ問題」や「ペンキ屋」などの可能性がひろがるかなぁと期待しました。

 バースデイのあとで1回目の休憩を入れました。冬なので部屋が乾燥します。飲み物でノドを潤してね。次のゲームでいい声が出るように。愛だなぁ。ノドに対する愛。前回はすぐに次のゲームに進んで、私はノドをやってしまったのでした。私は学習している! 休憩のBGMはジョーン・バエズの「ノーウーマン・ノークライ」でした。

『ごみ問題』

写真  オヤの指示に従って、各自がセリフを考える。そのセリフにオヤに対する「愛」をこめるというゲームです。前回はじめて試みて、早くも定番となった感がありますね。
 部屋をななめに使って、はじめは遠い位置に椅子を置く。椅子を徐々に近づける。オヤが目を閉じる。とここまでは前回とおなじ流れ。その先に、今回は目を閉じたオヤをぐるっと取り囲むバージョンまで進みました。輪になって囲む。囲んでセリフを投げかける。
写真  構図的には「黒ひげ危機イッパツ」に似ていますね。樽にナイフを順々に刺していくゲーム。あれはナイフで刺すのだけど、これはセリフでオヤの心を刺すわけです。刺さったら黒ひげは跳ぶ。オヤは花のレイを相手の首にかけてあげます。
 セリフを言う方も一所懸命ですが、聴く方も一所懸命です。目を閉じて、周囲の声を必死に聴く。ひじょうに濃密なやりとりです。思いが通じたらうれしい。通じなかったら虚しい。私の思いはあまり通じない…。
 そうそう。今回はたいへんなツワモノがいましたね〜。うん。あれには勝てないな。勝てないよ。いちころ。というか、いいちこ。無敵のボイス。ボイス・グレイシーだ(古い…)。

『以心伝心ストレッチ』

写真  2回目の休憩をはさんで簡単なストレッチをおこないます。ばらばらに歩き回って目の合った相手とペアになります。ペアごとに、以心伝心でおなじストレッチ運動をします。声は出しません。16カウントでペアを解消。またばらばらに歩き回る。これの繰り返し。
 なるべく多くの人とペアを組むこと。各人が全身満遍なくストレッチ運動をすること。これを両立するのはけっこうたいへんです。むしろアタマのストレッチ。相手をよく観察することも必要です。
 じつはこれ、私のワークショップでは珍しいゲームでした。ペアを組むゲーム。私は苦手なんですよ。初対面の相手とペアを組まされるのは自分だったらキツい。でもこの「以心伝心ストレッチ」のやり方なら抵抗が少ないかな。相手としゃべらないし。すぐにペアを解消するし。そんな考えもあってはじめてやってみました。

『ボイ・トレ』〜『テキスト・リーディング』

写真  相手の声の高さと自分の声の高さを合わせるというもの。楽器の調律のようなものですね。1音のバージョンと2音のバージョン。ひとり対ひとりのバージョンとひとり対全員のバージョン。これを組み合わせます。次回はもうすこしゲーム性を高めてみようかな。前回は目を閉じてやったりもしましたね。
 自分の理想の声(いちばんいい声)ではなく、相手から指示された声を出すというのがこの方法のおもしろいところです。たぶん無理なくいろんな声が出るようになるはず。
写真  リーディングのテキストには「深夜特急」を選びました。沢木耕太郎。私の趣味です。旅も終わりに近づいたスペイン。バルセロナでの老人や少年とのエピソード。これに大胆な外科手術を施します。メスじゃなくてペンで、テキストを切り刻む(耕太郎さん、ごめんなさい)。「、」「。」「?」「!」などをバンバン書き足して、記号ごとにアクションをつけて群読します。
 ただ今回はちょっともたついちゃいました。私の段取りがよくなかったです。ごめんなさい。アンケートではこのゲームについてのコメントがいちばん多かったです。愛だなぁ。ありがとうございます。
 もたついた原因を考えました。たぶん稽古で普段やっているやり方をそのままやったためです。ワークショップと稽古とではちがう工夫が必要なのに。リーディングは次回もやるつもりです。テキスト選びや進め方など、また練り直して臨みます。ご期待ください。

『ペンキ屋』

写真 写真  休憩をはさんで、定番中の定番メニュー。今回は3部屋を塗っています。2部屋目と3部屋目はいわゆる「曲先」。曲がまずかかり、その曲から受けるイメージを共有して会話をすすめます。このやり方ははじめてでした。1曲目はさだまさしの「北の国から」。2曲目はジョン・レノンの「ハッピー・クリスマス」。かけっぱなしにしていたら「イマジン」になっていました。いいなぁ。片や家族愛。片や人類愛。いい会話、いい雰囲気の部屋になりました。塗っていて気持ちよかったんじゃないかな。

『ドミノ』

写真  リラックスをはかるゲームをラストに用意。タテに並んでヨコになる(?)。だんだん寝転がっていって、全員が寝て、こんどは逆の動きで、だんだん起きていく。それだけ。あれって日常生活では経験しない動きですよね。新鮮だったんじゃないかしら。ボイ・トレでは全員の声を合わせました。ドミノでは全員の身体の動きを合わせてみました。以上。おしまい。

 ご参加ご協力くださったみなさん。ありがとうございました。MVPはうなぎ、特別賞はいいちこでした。おめでとうございます。お疲れさまでした。
 来年もがんがんワークショップを実施します。ぜひまた遊びにいらしてください。お知り合いの方をご紹介くださるのも、とってもうれしいです。ぜひ多くの方と稽古場で遊びたいと思っています。このホームページ上で、おって参加者募集のご案内をいたします。ぜひお見逃しなく。みなさん、よいお年をお迎えください。来年もよろしくお願いいたします!


写真 ☆ジャグリングは結構ほかでも使えるというか、俳優にとって必要な要素が隠れているなぁと思いました。
★はい、私もそう思います。じつはあのゲームがいちばん難易度が高いんじゃないかな。あ、最後にジャグリングをやるの忘れていた! 前回のレポートで約束したのに…。

☆すごく良い雰囲気でリラックスして楽しくできました。特にごみ問題が楽しかったです。
★ありがとうございます。ごみ問題は私のなかで日々ルールが進化(?)しています。個人戦だけじゃなくて団体戦にするとかね。ぜひお楽しみに。

写真 ☆ごみ問題、輪になってますます心にくる感じが良かったです。
★輪になるバージョンを劇団内の稽古でやったとき「いじめているみたい」という感想が出ました。「世の中にはこんないじめ方も!」と私は妙に感心しました。愛を伝えるにせよ、いじめるにせよ、輪になってぐるっと囲むというのはきっと効果的なやり方なんでしょうね。輪になって、真ん中の人をよってたかって「笑わせる」ってのはどうだろう。

写真 ☆ペンキ屋、すごく無理のないペース・雰囲気で、「ん」まであっという間だった気がします。
★はい、見ていた私もあっという間だと感じました。個々のセリフに味がありましたね。たぶん身体の、姿勢やら動きやらもスムーズだったはずで、全体の見た感じもよかったです。セリフのスムーズさと身体のスムーズさと、やはり連動するものなのでしょうね。

☆お菓子とか景品とか場所代とか、もとはとれるのでしょうか…。
★う。痛いところを突かれた。前回から100円のカンパをいただいていますが、それだけではとても…。それでもいまの会場を使っている間はいいのです。利用料の高い会場を使う場合は、相応の参加費(数百円ほど?)を払っていただくことになるかも…。恐縮です。お金をいただくことに罪悪感を感じている間が花なのかしら。


写真 アシスタントを務めました中澤です。
今回のアシスタント業は、スタッフ側としてお迎えするヨロコビ・参加者側として創造するタノシミのふたつを味わうことのできた、もしかすると一番得な役割だったかもしれません。
個人的には『ペンキ屋』が大好きです。
毎回、どんな部屋になるんだろ、とどきどきしながら塗っています。

そして愛、ですか、リーダー。
愛。愛ねぇ…。

世の中には、いろんな種類の愛があると思いますが、
ワークショップにご参加くださった皆さんに共通するもの、
それはやはり芝居への愛、でしょうね。
報われぬこと多き愛ですが。
灯し続けてゆきましょう。

よいお年を。


写真  もういちど林成彦です。冒頭の小沢健二の歌詞をふまえて、未来の話をもうすこしだけ。ワークショップの未来。未来の世界。これを年末のご挨拶に代えます。さぁ、プカプカ吹きますよ。

 「ペンキ屋」って、あれ気持ちいいなぁと思うのです。自分がセリフを言ったら、ゲームが一歩先に進みますよね。全体に貢献している感覚。または受け入れられている感覚。仲間入り感。それがうれしいというのも、あのゲームの魅力なんじゃないかな。
 私が気になるのは、それをうれしいと感じるのは日本人的な感覚なのかなぁということです。私たちに特有のことなのか。別の文化の、諸外国の人たちはちがう受けとめ方をするのか。それが知りたい。ぜひ諸外国に出向いて、「ペンキ屋」ワークショップをやりたいものです。
写真  まずは韓国がいいなぁ。韓国版ペンキ屋。なにせ韓国語には母音が21個、子音が19個あるそうです。21×19で399音! 日本語の50音とは尺がちがう。じっくりと語り合うゲームになりそうだ。いいなぁ。楽しみ楽しみ。

 「ペンキ屋」にはほかにも可能性がありそうです。たとえばテーマを決めて臨むやり方。今年おもしろかった映画についてとか。来年の営業方針を決める会議とか。それもおもしろいし、さらにはもっと固いテーマにも使えそうです。このゲームがきっと本領を発揮します。
 なかなか真面目に語れない話題ってあるものです。例は挙げません。いろいろです。学校でも職場でも家庭でもどんな現場でも、それぞれあるはずです。劇団にもあります。カドが立ったらいやだなと思うような、お茶をにごしたい話題。テレビの「しゃべりば」みたいには、誰もがしゃべれるわけじゃないですね。黙っている。けれど意見がないわけではない。
写真  このゲームを利用するとどうでしょう。背中越しに会話をします。面と向かうよりはラクかもしれない。ゲームだから仕方なく言う、というポーズもとれます。誰かがなにか言わないと先に進まないゲームですからね。BGMで雰囲気を和らげることもできます。演出が可能。さらには究極の隠れ蓑。「素の自分を離れる」というテクニックも許されます。演劇ゲームならではの技ですね。なにより50音順というルールが、きっと笑いを呼ぶでしょう。
 もちろん不等辺さんかく劇団の演劇ワークショップでは固いテーマは取り上げません。気楽さが売りですから。ただこの「ペンキ屋」には、演劇の現場を離れてもさまざまな使い道があるだろうと思うのです。固い話題も笑いつつ楽しく扱う装置として。

 演劇ワークショップの方法を携えて、演劇以外の現場にもぴょ〜んと跳ぶ。日本以外の国にもぴょ〜んと跳ぶ。樽から黒ひげが跳びだすみたいに。ぴょ〜んと境い目を跳びこえる。それが私の思い描く「未来の世界」ですね。アカルイミライ。夜空ノムコウ。愛し愛されて生きるのさ。
 いまは場数をどんどん踏みたいと思っています。ワークショップのご用命、承ります。どちらへでも伺いますよ。腰の低いリーダーが参ります。いつものトランクを抱えて。カローラIIに乗って(?)。全国津々浦々に。犬は吠えるがキャラバンは進む。ご一報を心よりお待ちしています。

 なぁんにも見えない夜空仰向けで見てた〜♪
 そっと手をのばせば僕らは手をつなげたさ〜♪
 けどそんな時はすぎて大人になりずいぶん経つ〜♪

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