△ 「あげぞこ先生」シーン12


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字幕「職員室」
上底、瀬名に注意を受けている。福来兄弟、畑、内田もいる。

瀬名 「先生はデリカシーがなさ過ぎます。子ども達の中には名前にコンプレックスを持っている子もいます。連休に楽しい予定が無い子も、将来の夢を聞かれると心を閉ざしてしまう子もいます。荒療法が悪いとは思いません。でもそれはあの子達一人一人の事を知った上でやるべきです。」
上底 「面目ねえ…」写真
瀬名 「あなたと服部先生にクラスをまかせるのは、正直不安です。」
上底 「あの、質問いいっすか?」
瀬名 「何でしょう?」
上底 「さっきの服部ちゃんのあれは、一体なんすか?超怖かったっす。いろはす。」
瀬名 「(ため息)服部先生は嘘が嫌いなんです。かなり極端に。」
上底 「極端過ぎるでしょありゃ。あんな冗談にガンギレなんて。」
瀬名 「あれは私もキレかけました。」
上底 「あ、すんませんす…」
福来 「嘘が嫌いなのに、自分は大ボラ吹き。」
上底 「大ボラ吹き?」
福来 「大概昔の生徒の話ですが、地域最悪の不良少女を更生させてその子が医者になったとか。自分が勧めた教科で学者になった子が何人もいるとか。」
上底 「ほう。でも別にホラかどうかは…」
「末期がんを克服した子がいたとか。」
上底 「え?」
直也 「守護霊と話せる子がいたとか。」
上底 「守護霊?」
「あと…何かなかったっけウッちゃん?」
内田 「妖怪、妖怪。」
上底 「よ、妖怪?!」
「そう!教え子に妖怪がいたって言ってたよね。」
上底 「ないわそりゃ。」
直也 「でも昔は相当良い先生だったらしいですよ。ね、瀬名先生?」
瀬名 「ええまあ。」
上底 「昔からお知り合いなんすか?」
瀬名 「私が中学の時の担任でした。」
上底 「なんとまあ。」
瀬名 「人気も実力もありましたよ。生徒からも教師からも保護者からも信頼されてました。私にとってはうざくておせっかいな先生でしたけど。」
上底 「おせっかいねぇ。」
瀬名 「会う度に「手話を覚えろ」ってうるさくて。」
上底 「手話?」
瀬名 「あ、私生まれつき耳が聞こえないんです。でね、服部先生は…」
上底 「ちょちょちょ、今、耳が聞こえないって言った?」
瀬名 「ええ、グラス脳障害って知ってます?」
上底 「え?ええ、生まれつき聞こえない喋れないっていう難病で…」
瀬名 「それです。でね、とにかくあの先生…」
上底 「ちょちょちょ!治ったの?」
瀬名 「いえ。でね…」
上底 「ちょちょ!待って、わかんないわかんない。」
瀬名 「何が?」
上底 「だって今、聞いて、喋ってますですよね?」
瀬名 「ええ。え?」
福来 「この人、資料全く読んでないみたいです。」
瀬名 「あ〜。なるほど。」
「瀬名先生は鼓膜じゃなくて全身で音を聞ける能力を持ってるの。」
上底 「全身が耳?」
瀬名 「ええ。」
上底 「でも、しゃべるほうは?声帯もほとんど機能しないんじゃ。」
瀬名 「そうですよ。声は出していませんから。あなたが聞いてる声は直接脳に送ってます。」
上底 「え?じゃテレパシー?」
瀬名 「そう。それに口を合わせてるだけ。誰にもバレなかったのに服部先生はすぐ気がついて「能力がなくなった時のために手話を覚えておけ」って、もぉしつこくて。」
「そんな熱い先生が今じゃあれだもんね。」

副校長が入って来る。

副校長 「みなさんも評判の良い先生でしたじゃないですか。」
瀬名 「副校長。」
副校長 「なのに、みんな誰かに陥れられて、社会的に殺されたも同然にされて。」
「校長と副校長に拾って頂けなければ、ほんとに死んでましたよ。」
副校長 「服部先生もひどい目に遭われています。そこにご家庭の事情もかさなって…。」
福来 「事情はあるでしょうが、嘘ついただけであの切れ方はね。」写真
直也 「本当に副担任は適任なんでしょうか?」
副校長 「校長のお考えですから。みなさんも信じマショウ。」
瀬名 「それと先程のホームルームですが、色々と…」
副校長 「ああ、そうでした。」
瀬名 「すみません。引き継ぎの方が上手くいっていなくて…」
副校長 「好評でしたよ。」
瀬名 「はい?」
副校長 「今子ども達の心の様子を見て来ましたが、ここ数年で一番安定しています。」
全員 「えっ?!」
副校長 「見事なお手並みでしたね上底先生。」
上底 「あざーす!」
副校長 「瀬名先生もありがとうございました。」
瀬名 「あ、いえ…」
副校長 「あ、そろそろ時間ですね。」
瀬名 「え?もうそんな時間ですか?」
「事情聴取か。」
瀬名 「あぁ。テンション下がる…」
直也 「でも先生、カレーライス。」
瀬名 「あ、それがあった!少し持ち直した。」
副校長 「それでは皆さん。後は宜しく。」
瀬名 「ほんとに宜しく。」

瀬名、副校長去る。照明が変わり、みんなハケる。

(作:松本仁也/写真:はらでぃ)

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